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真夏の夢(まなつのゆめ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-21 11:30:26  点击:  切换到繁體中文

底本: 一房の葡萄
出版社: 角川文庫、角川書店
初版発行日: 1952(昭和27)年 3月10日発行
入力に使用: 1987(昭和62)年11月10日 改版32刷
校正に使用: 1981(昭和56)年11月10日 改版23版

 

ストリンドベルヒ August Strindberg

有島武郎訳




 北の国も真夏のころは花よめのようなよそおいをこらして、大地は喜びに満ち、小川は走り、牧場の花はまっすぐに延び、小鳥は歌いさえずります。その時一はとが森のおくから飛んで来て、ついたなりで日をくらす九十に余るおばあさんの家のまど近く羽を休めました。
 物の二十年もせったなりのこのおばあさんは、二人ふたりのむすこが耕すささやかな畑地はたちのほかに、窓越まどごしに見るものはありませなんだが、おばあさんの窓のガラスは、にじのようなさまざまな色のをはめてあったから、そこからのぞく人間も世間も、普通のものとは異なっていました。まくらの上でちょっと頭さえ動かせば、目に見える景色けしきが赤、黄、緑、青、鳩羽はとばというように変わりました。冬になって木々のこずえが、銀色の葉でも連ねたようにしもで包まれますと、おばあさんはまくらの上で、ちょっと身動きしたばかりでそれを緑にしました。実際は灰色はいいろでも野は緑に空はあおく、世の中はもう夏のとおりでした。おばあさんはこんなふうで、魔術まじゅつでも使える気でいるとたいくつをしませんでした。そればかりではありません。この窓ガラスにはもう一つ変わった所があって、ガラスのきざみ具合で見るものを大きくも小さくもする事ができるようになっておりました。だからもし大きなむすこがはらをたてて帰って来て、庭先でどなりでもするような事があると、おばあさんは以前のような、小さい、言う事をきく子どもにしようと思っただけで、即座そくざにちっぽけに見る事もできましたし、孫たちがよちよち歩きで庭に出て来るのを見るにつけ、そのおい先を考えると、ワン、ツー、スリー、拡大のガラスからのぞきさえすれば、見るまにの高い、育ち上がったみごとな大男になってしまいました。
 こんなおもしろい窓ではありますが、夏が来るとおばあさんはその窓をあけ放させました。いかな窓でも夏の景色ほどな景色は見せてくれませんから。さて夏の中でもすぐれた美しい聖ヨハネ祭に、そのおばあさんが畑と牧場とを見わたしていますと、ひょっくり鳩が歌い始めました。声も美しくエス・キリスト、さては天国の歓喜をほめたたえて、重荷に苦しむものや、浮き世のつらさの限りをなめたものは、残らず来いとよび立てました。
 おばあさんはそれを聞きましたが、その日はこの世も天国ほどに美しくって、これ以上のものをほしいとも思いませんでしたから、礼を言ってことわってしまいました。
 で鳩は今度は牧場をして、ある百姓ひゃくしょうがしきりと井戸を掘っている山の中の森に来ました。その百姓は深い所にはいって、頭の上に六しゃくも土のある様子ようすはまるで墓のあなの底にでもいるようでした。
 あなの中にいて、大空も海も牧場も見ないこんな人こそは、きっと天国に行きたいにちがいないと思いましたから、鳩は木のえだの上で天国の歓喜を鳩らしく歌い始めました。
 ところが百姓は、
「いやです。私はまず井戸を掘らんければなりません。でないと夏分のお客さんは水にこまるし、あのかわいそうなおくさんと子ども衆もいなくなってしまいますからね」
 と言いました。
 で鳩は今度は海岸に飛んで行きました。そこではさきほどの百姓の兄弟にあたる人があみをしていました。鳩はあしの中にとまって歌いました。
 その男も言いますには、
「いやです。私は何より先に家で食うだけのものを作らねばなりません。でないと子どもらがひもじいってきます。あとの事、あとの事。まだ天国の事なんか考えずともよろしい。死ぬ前には生きるという事があるんだから」
 で鳩はまた百姓の言ったかわいそうな奥さんが夏を過ごしている、大きないなかの住宅にとんで行きました。その時奥さんは縁側えんがわに出て手ミシンで縫物ぬいものをしていました。顔は百合ゆりの花のような血の気のない顔、頭の毛はのベールのような黒いかみ、しかして罌粟けしのような赤い毛の帽子ぼうしをかぶっていました。奥さんは聖ヨハネの祭日にむすめに着せようとして、美しい前掛まえかけを縫っていました。むすめはお母さんの足もとのゆかの上にすわって、布切れのはしを切りこまざいて遊んでいました。
「なぜパパは帰っていらっしゃらないの」
 とその小さい子がたずねます。
 これこそはそのわかいおかあさんにはいちばんつらい問いであるので、答えることができませんかった。おとうさんはおかあさんよりもっと深い悲しみを持って、今は遠い外国に行っているのでした。
 ミシンはすこし損じてはいますが、それでも縫い進みました。――人の心臓しんぞうであったら出血のために動かなくなってしまうほどたくさんはりが布をさし通して、一縫いごとに糸をしめてゆきます――不思議な。
「ママ今日きょう私は村に行って太陽が見たい、ここは暗いんですもの」
 とその小さな子が申しました。
「昼過ぎになったら、太陽を拝みにつれて行ってあげますからね」
 そう言えばここは、この島の海岸の高いがけの間にあって暗い所でした。おまけに住宅はまつ木陰こかげになっていて、海さえ見えぬほどふさがっていました。
「それからたくさんおもちゃを買ってちょうだいなママ」
「でもたくさん買うだけのお金がないんですもの」
 とおかあさんは言いながらひときわあわれにうなだれました。むかしは有り余った財産も今はなけなしになっているのです。
 でも子どもが情けなさそうな顔つきになると、おかあさんはその子をひざにげました。
「さあ私のくびをお抱き」
 子どもはそのとおりにしました。
「ママをキスしてちょうだい」
 しかして小鳥のように半分開いたこの子の口からキスを一つもらいました。しかしてヒヤシンスのように青いこの子の目で見やられると、母の美しい顔は、子どもと同じな心置きのない無邪気むじゃきさに返って、まるで太陽の下に置かれた幼児ようじのように見えました。
「ここで私は天国の事などは歌うまい。しかしできるなら何かこの二人ふたりの役にたちたいものだ」
 と鳩は思いました。
 しかして鳩は、この奥さんがこれから用足しに行く「日の村」へと飛んで行きました。
 そのうちに午後になりましたから、このかわいい奥さんはうでに手かごをかけて、子どもの手を引いて出かける用意をしました。奥さんはまだ一度もその村に行った事はありませんが、島の向こう側で日の落ちる方にあるという事は知っていました。またそこに行く途中にはさくで囲まれた六つの農場と、六つの門とがあるという事を、百姓から聞かされていました。
 でいよいよ出かけました。
 やがて二人は石ころや木株のある険しい坂道さかみちにかかりましたので、おかあさんは子どもを抱きましたが、なかなか重い事でした。
 この子どもの左足はたいへん弱くって、うっかりすると曲がってしまいそうだから、ひどく使わぬようにしなければならぬと、お医者の言った事があるのでした。
 わかいおかあさんはこの大事な重荷のために息を切って、森の中は暑いものだから、あせの玉が顔から流れ下りました。
「のどがかわきました、ママ」
 とおさないむすめは泣きつくのでした。
「いい子だからこらえられるだけこらえてごらんなさい。あちらに着きさえすれば水をあげますからね」
 とおかあさんは言いながら、あかぼうのようなかわいたその子の口をすうてやりますと、子どもはかわきもわすれてほおえみました。
 でも日は照り切って、森の中の空気はそよともしません。
「さあおりてすこし歩いてみるんですよ」
 と言いながらおかあさんはむすめをおろしました。
「もうくたびれてしまったんですもの」
 子どもはく泣くすわりこんでしまいます。
 ところでそこにきれいなきれいな赤薔薇ばらの色をした小さい花がさいて巴旦杏はたんきょうのようなにおいをさせていました。子どもはこれまでそんな小さな花を見た事がなかったものですから、またにこにことほおえみましたので、それに力を得て、おかあさんは子どもを抱き上げて、さらに行く手を急ぎました。
 そのうちに第一の門に来ました。二人はそこを通ってあと※(「饌」の「しょくへん」に代えて「金」、第4水準2-91-37)かきがねをかけておきました。
 するとどこかで馬のいななくような声が聞こえたと思うと、放れ馬が行く手に走り出て道のまん中にたちふさがって鳴きました。その鳴き声に応ずる声がまた森の四方にひびきわたって、大地はゆるぎ、枝はふるい、石は飛びました。しかして途方にくれた母子二人は二十ぴきにも余る野馬の群れに囲まれてしまいました。
 子どもは顔をおかあさんのむねにうずめて、心配で胸の動悸どうき小時計しょうどけいのようにうちました。
「私こわい」
 と小さな声で言います。
「天にします神様――お助けください」
 とおかあさんはいのりました。
 と黒鳥の歌が松の木の間で聞こえるとともに馬どもはてんでんばらばらにどこかに行ってしまって、四囲あたりは元の静けさにかえりました。


 

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