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貧書生(ひんしょせい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 16:09:25  点击:  切换到繁體中文


「何笑ひおる、」と伊勢武熊は真摯まじめ力味りきみ返つて、「功名こうみやうばなしをするやうぢやがナ、此前このぜん牛飼君が内閣の椅子を占められた時、警部長の内命を受けたが、大丈夫あに田舎侍を甘んぜんや。おれは首をつて受けなかつた。牛飼君も大いに心配してナ、それから警保局長ならとぼ相談が纏まつた処が、内閣は俄然瓦解しおつた……」
おや/\ッ!」
「機一髪を仕損じたが、区々たる俗吏は丈夫の望む処で無い。官を棄つる事弊履の如しで……」
「尚だ官に就かんのぢやないか。」
「能くぜ返す奴ぢや。小説家志願だけに口の減らぬ男ぢやナ。併し汝が瘠肱を張つて力んでも小説家ぢやア銭が儲からんぞ。」
「政治家でも銭が儲からんぞ。」
「馬鹿を云へ。衆議院議員は追付おつゝけ歳費三千円になる、大臣の年俸は一万二千円になる筈ぢや。」
「其時は小説の原稿料が一部一万円位になる。」
「懸賞小説は矢張十円ぢやらう。」
「壮士の日当は一円だ。」
「はッはッはッ、新聞配達が何云ひくさる……」
「ごろつき壮士が……。」
「何ぢやと……。」
と鉄拳将に飛ばんとする時、隅の方にうづくまつた抱巻かひまきムク/\と持上つて、面長な薄髯の生へた愛嬌のある顔が大欠伸をした。
「両君、相変らず詰らない喧嘩をしますナ……」
のびをした手で腕をさずりながら、「銭が儲かるの儲からんのと政治家や文学者を気取る先生方が俗な事をおつしやる。銭が儲けたいなら僕の所為まねをし給へ。君達は理窟を云ふが失敬ながら猶だ社会を知つておらんやうだ。先ア僕の説を聞給へ。斯う見えて僕は故郷くにた時分は秀才と云はれて度々新聞雑誌に投書をして褒美を貰つた事もある。四五年前の雑誌を見給へ、駿州有渡郡うどごほり田子の浦ざい駿河不二郎の名がチヨク/\見えるよ。それだから故郷を出る時は矢張やつぱり人並に学若し成らずんば死すとも帰らずと力んだが、さア東京へ来て見るととても満足な学費が無くては碌な学問は出来ない。新聞や牛乳の配達をして相間あひまに勉強しやうてのは、(亀井君は現にやつておるが)、実は中々忙がしくて、片手間の勉強で成効しやうてのは百年黄河の澄むをまつやうなもんだ。所で僕は発身ほつしんして商人あきんどと宗旨を換え、初めは資本もとでが無いから河渫ひの人足に傭はれた事もある。点灯会社に住込んで脚達きやたつかついで飛んだ事もある、一杯五厘のアイスクリームを売つた事もある。西瓜の切売をした事もある、とゞの結局つまりが縁日商人となつて九星きうせいひとり判断はんだん、英語独稽古から初めて此頃では瞞着まやかしの化粧品と小間物を売つてマゴ/\しておるが君、金を儲けるのは商人だよ。殊に縁日商人位泡沫あぶく銭の儲かる者は無い。僅か二両か三両の資本もとで十両位浮く事がある。尤も雨降のアブレもある。品物のロウズも出るから儲かるほどに金は残らんが、なにしろ独立の商人でお客様の外は頭を下げずに太平楽を云つて、きまつた給金と違つて不意の所得まうけの入る処が面白い。君だから内幕を話すが二銭に三箇みつゝ石鹸シヤボンナ。あれは一百いつそく一貫の品だ。一と晩に一百売ると五貫余儲かる、夏向になると二百や三百は瞬く間に売れる。一番高い六銭の石鹸ナ、あれは一グロス二両と四貫だ。あの品が躰裁がおつに出来てるんで素人しろうとが惚込んで三ダースや四ダースは直ぐ売れる。それから歯磨ナ、あれはになつてる歯磨をますで買つて来て竜脳りゆうなうちつとばかり交ぜて箱詰にして一と晩置くとプンと好い香がする、そいつをオンタケ散とか豚印とか好い加減な名を付けた袋へ入れて一と袋一銭五厘に売るんだ。奈何だい、商人の楽屋は驚いたもんだらう。尤も僕の商売は夏向で冬は閑な方だが、こゝ君達に一つ秘策を授けやうかナ。懸賞小説を書いたり政治家の尻馬に乗るより余程よつぽど気楽に儲けることが出来る。斯ういふ商売だ。牛込や神田には向かんが本所、下谷、小石川の場末、千住せんじゆ、板橋あたりで滅法売れる、ひゞあかぎれ霜傷しもやけの妙薬鶴の脂、膃肭臍おつとせいの脂、此奴こいつが馬鹿に儲かるんだ。なアに鶴や膃肭臍が滅多に取れるものか。豚の脂や仙台まぐら脂肪肉あぶらみで好いのだ。脂でさへあれば胼あかぎれには確に効く。此奴を一貝ひとかひ一銭に売るんだが二貫か三貫か資本もとで一晩二両三両の商売あきなひになる。詐偽も糞もあるもんか。商人は儲けさへすりやア些と位人に迷惑を掛けてもかまはんのだ。今の大頭株あほあたまかぶを見給へ、紳商面をして澄ましてやがるが、成立なりたち悉皆みんな僕等と仝じ事だ。今でも猶だ其根性が失せないから大きな詐偽や賭博ばくち欺瞞いかさまをやつて実業家だと仰しやいますヮ……」と滔々たう/\と縁日の口上口調で饒舌しやべり立てる大気焔に政治家君も文学者君も呆気あつけに取られて眼ばかりパチクリさせてゐた。処へ案内もなく障子をガラリと開けて、方面はうめん無髯むぜん毬栗いがぐり頭がぬうッと顔を出した。
「やア、片岡、奈何どちじやい?」と政治家は第一に口を切つた。
「ふゥむ、」と得意らしく小鼻をうごめかしながら毬栗頭はチヨロケた黒木綿の紋付羽織をリウとしごいて無図むづと座つた。
「首尾よく落第かナ?」
「勿論及第しおつた、」と毬栗君は大得意で有つた。
「君、及第しましたか?」と新聞配達の小説家は眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)つた。
「諸君、う馬鹿にし給ふな、片岡禅吉は最早托鉢坊主ぢやないよ、明日辞令を請取うけとれば台湾総督府の巡査片岡禅吉ぢや。大いに新領土の経営をして日本国家に報ゆる覚悟ぢや。」
「壮快々々。一番片岡君のめ祝宴を開いて万歳まんざいを称へやう、」と伊勢武熊は傲然として命令するやうに、「そこで会場は横町の牛店として駿河君は実業家ぢやから会費の半分を負担し、亀井君は懸賞小説が当選るさうぢやから登用人材の片岡君と共に残る半額を負担すべし。処で俺は当分志を得んから諸君の御馳走になるのぢや。あッはッはッ……。」





底本:「日本の名随筆85 貧」作品社
   1989(平成元)年11月25日第1刷発行
   1991(平成3)年9月1日第3刷発行
底本の親本:「社会・百面相」岩波文庫、岩波書店
   1953(昭和28)年2月
入力:渡邉 つよし
校正:門田 裕志
2001年9月20日公開
2006年7月5日修正
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●表記について
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  • 「くの字点」は「/\」で表しました。
  • 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。
  • 傍点や圏点、傍線の付いた文字は、強調表示にしました。

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