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世界怪談名作集(せかいかいだんめいさくしゅう)三

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-27 10:13:25  点击:  切换到繁體中文


       四

 リザヴェッタ・イヴァノヴナは夜会服を着たままで、自分の部屋に坐って、深い物思いに沈んでいた。やしきへ帰ると、彼女はいやいやながら自分の用をうけたまわりに来た部屋付きの召使いにむかって、着物はわたし一人で脱ぐからといって、そうそうにそこを立ち去らせてしまった。そうして、ヘルマンが来ていることを期待しながら、また一面には来ていてくれないようにと望みながら、胸をおどらせて自分の部屋へ昇って行った。ひと目見ると、彼女は彼がいないことをさとった。そうして、彼に約束を守らないようにさせてくれた自分の運命に感謝した。彼女は着物も着かえずに腰をかけたままで、ちょっとの間に自分をこんなにも深入りさせてしまった今までの経過を考えた。
 彼女が窓から初めて青年士官を見たときから三週間を過ぎなかった。――それにもかかわらず、彼女はすでに彼と文通し、男に夜の会見を許すようになった。彼女は男の手紙の終わりに書いてあったので、初めてその名を知ったぐらいで、まだその男と言葉をかわしたこともなければ、男の声も――今夜までは、その噂さえも聞いたことはなかった。ところが不思議なことには、今夜の舞踏会の席上で、ポーリン・N公爵の令嬢がいつになく自分と踊らなかったので、すっかり気を悪くしてしまったトムスキイが、おまえばかりが女ではないぞといった復讐的の態度で、リザヴェッタに相手を申し込んで、始めからしまいまで彼女とマズルカを踊りつづけた。その間、彼は絶えずリザヴェッタが工兵士官ばかりを贔屓ひいきにしていることをからかった挙げ句、彼女が想像している以上に、自分は深く立ち入って万事を知っているとまことしやかに言った。実際彼女は自分の秘密を彼に知られてしまったのかといくたびか疑ったほどに、彼の冗談のあるものはうまくあたった。
「どなたからそんなことをお聞きになりました」と、ほほえみながら彼女はいた。
「君の親しい人の友達からさ」と、トムスキイは答えた。「ある非常に有名な人からさ」
「では、その有名なかたというのは……」
「その人の名はヘルマンというのだ」
 リザヴェッタは黙っていた。彼女の手足はまったく感覚がなくなった。
「そのヘルマンという男はね」と、トムスキイは言葉をつづけた。「ローマンチックの人物でね。ちょっと横顔がナポレオンに似ていて、たましいはメフィストフェレスだね。まあ、僕の信じているところだけでも、彼の良心には三つの罪悪がある……。おい、どうした。ひどくあおい顔をしているじゃないか」
「わたくし、少し頭痛がしますので……。そこで、そのヘルマンとかおっしゃるかたは、どんなことをなさいましたの。お話をして下さいませんか」
「ヘルマンはね、自分のあるお友達に非常な不平をいだいているのだ。彼はいつも、自分がそのお友達の地位であったら、もっと違ったことをすると言っているが……。僕はどうもヘルマン自身が君におぼしめしがあると思うのだ。少なくとも、彼はその友達が君のことを話すときには、眼の色を変えて耳を傾けているからね」
「では、どこでそのかたはわたくしをご覧なすったのでしょう」
「たぶん教会だろう。それとも観兵式かな。……さあ、どこで見そめたかは神様よりほかには知るまいな。ひょっとしたら君の部屋で、君がねむっている間かもしれないぞ。とにかく、あの男ときたら……」
 ちょうどその時に、三人の婦人が彼のところへ近づいて来て、「お忘れになって。それとも、覚えていらしった……」と、フランス語で問いかけたので、この会話はリザヴェッタをさんざんらしたままで、それなりになってしまった。
 トムスキイが選んだ婦人はポーリン公爵令嬢その人であった。公爵令嬢はいくたびもトムスキイと踊っているうちに、彼とすっかり仲直りをして、踊りが済んだのちに彼は公爵令嬢を彼女の椅子に連れて行った。そうして自分の席へ戻ると、彼はもうヘルマンのことも、リザヴェッタのこともまったく忘れていた。リザヴェッタは中止された会話を再びつづけたく思ったが、マズルカもやがて終わって、そのうちに老伯爵夫人は帰ることになった。
 トムスキイの言葉は、舞踏中によくあるならいの軽い無駄話に過ぎなかったが、この若い夢想家のリザヴェッタの心に深く沁み込んだ。トムスキイによってえがかれた半身像は、彼女自身の心のうちに描いていたものと一致していたのみならず、このいろいろのでたらめの話のお蔭で、彼女の崇拝者の顔に才能があらわれていることを知ると同時に、彼女の空想をうっとりとさせるような特長がさらに加わって来たのであった。彼女は今、露出むきだした腕を組み、花の髪飾りを付けたままの頭を素肌の胸のあたりに垂れて坐っていた。
 突然にドアがあいて、ヘルマンが現われたので、彼女ははっとした。
「どこにおいでなさいました」と、彼女はおどおどしながら声を忍ばせて訊いた。
「老伯爵夫人の寝室に……」と、ヘルマンは答えた。「わたしは今、伯爵夫人のところから来たばかりです。夫人は死んでいます」
「え。なんですって……」
「それですから、わたしは伯爵夫人の死の原因となるのを恐れているのです」と、ヘルマンは付け足した。
 リザヴェッタは彼をながめていた。そうして、トムスキイの言葉が彼女の心の中でこう反響しているのに気がついた。「この男は少なくとも良心に三つの罪悪を持っているぞ!」
 ヘルマンは彼女のそばの窓に腰をかけて、一部始終を物語った。
 リザヴェッタは恐ろしさにふるえながら彼の話に耳をかたむけていた。今までの感傷的な手紙、熱烈な愛情、大胆な執拗な愛慾の要求――それらのものはすべて愛ではなかった。金――彼のたましいがあこがれていたのは金であった。貧しい彼女には彼の愛慾を満足させ、愛する男を幸福にすることは出来なかった。このあわれな娘は、盗人であり、かつは彼女の老いたる恩人の殺害者である男の盲目的玩具にほかならなかったのではないか。彼女は後悔のもだえににがい涙をながした。
 ヘルマンは沈黙のうちに彼女を見つめていると、彼の心もまたはげしい感動に打たれて来た。しかも、このあわれなる娘の涙も、悲哀のためにいっそう美しく見えてきた彼女の魅力も、彼のひややかなる心情を動かすことは出来なかった。彼は老伯爵夫人の死についても別に良心の呵責かしゃくなどを感じなかった。ただ彼を悲しませたのは、一攫千金を夢みていた大切な秘密を失って、取り返しのつかないことをしたという後悔だけであった。
「あなたは人非人ひとでなしです」と、リザヴェッタはついに叫んだ。
「わたしだって夫人の死を望んではいなかった」と、ヘルマンは答えた。「私のピストルには装填たまごめをしていなかったのですからね」
 二人は黙ってしまった。

 夜は明けかかった。リザヴェッタが蝋燭の火を消すと、青白い光りが部屋へさし込んで来た。彼女は泣きはらした眼をふくと、ヘルマンのほうへ向いた。彼は腕組みをしながら、ひたいに残忍ざんにんな八の字をよせて、窓のきわに腰をかけていた。こうしていると、まったく彼はナポレオンに生き写しであった。リザヴェッタもそれを深く感じた。
「どうしてあなたをおやしきからお出し申したらいいでしょう」と、彼女はようように口を開いた。「わたくしはあなたを秘密の階段からお降ろし申そうと思ったのですが、それにはどうしても伯爵夫人の寝室を通らなければならないので、わたくしには恐ろしくって……」
「どうすればその秘密の階段へ行けるか、教えて下さい。……わたしは一人で行きます」
 リザヴェッタはち上がって、抽斗ひきだしから鍵を取り出してヘルマンにわたして、階段へゆく道を教えた。ヘルマンは彼女の冷たい、力のない手を握りしめると、そのうつむいているひたいに接吻して、部屋を出て行った。
 彼は螺旋形の階段を降りて、ふたたび伯爵夫人の寝室へはいった。死んでいる老夫人は化石したように坐っていて、その顔には底知れない静けさがあらわれていた。ヘルマンは彼女の前に立ちどまって、あたかもこの恐ろしい事実を確かめようとするかのように、長い間じっと彼女を見つめていたが、やがて彼は掛毛氈タペストリーのうしろにあるドアをあけて小さい部屋にはいると、強い感動に胸を躍らせながら真っ暗な階段を降りかかった。
「たぶん……」と、彼は考えた。「六十年前にも今時分、縫い取りをした上着を着て、皇帝の鳥ロアゾー・ロアイアーに髪を結った彼女の若い恋人が、三角帽で胸を押さえつけながら、伯爵夫人の寝室から忍び出て、この秘密の階段を降りて行ったことだろう。もうその恋人はとうの昔に墓のなかに朽ち果ててしまっているのに、あの老夫人は今日になってようよう息を引き取ったのだ」
 その階段を降り切ると、ドアがあった。ヘルマンは例の鍵でそこをあけて、廻廊を通って街へ出た。


 

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