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半七捕物帳(はんしちとりものちょう)51 大森の鶏

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-28 18:52:04  点击:  切换到繁體中文


     三

 その次の日の午頃に庄太が顔を見せると、彼はすぐに半七にひやかされた。
「おい、庄太。おれもぼんやりだが、おめえもよっぽどうっかり者だぜ。例の一件の中年増はおめえの縄張り内の浅草で、しかも眼のさきの吾妻橋に住んでいたのじゃあねえか」
「いや、閉口。すっかり度忘どわすれをしてしまって……」と、庄太はあたまを掻いた。「うちへ帰ってから思い出しましたよ。鳥亀、鳥亀……。いつか一度、親分を案内して行ったことがありましたよ」
「むむ。雪駄せったの皮のような軍鶏を食わせたうちだ。そこで、きのうはどうした。大森へ出かけたか」
「行きましたよ。相変らず道が悪くって……。あの茶屋へ行っていてみると、あれから医者が来て手当てをして、女は駕籠に乗って帰ったそうです。駕籠屋の話を聞くと、送り着けた先は品川の南番場で、海保寺という寺の門前……。それから帰りに覗いて見ましたら、女の家は桂庵けいあんで、おもにあの辺の女郎屋や引手茶屋や料理屋の女の奉公人を出したり入れたりしているようです。女は去年の三月頃から引っ越して来て、二十五六の番頭と二人暮らしだが、その番頭というのが亭主か情夫いろだろうという近所の評判ですよ。そこで、番頭というのはどんな奴だか、つらをあらためてやろうと思ったが、あいにく留守で首実検は出来ませんでした。それからね、親分。鶏は助からねえ。その日の夕方に絞められてしまったそうですよ」
「鳥亀の亭主というのは、矢切の渡し場の近所へ釣りに行って、沈んでしまったというじゃあねえか」
「よく知っていなさるね」と、庄太は眼を丸くした。「実はわっしも今朝けさ調べて来たのですが、鳥亀の亭主の安蔵というのは、去年の春の彼岸に下矢切で土左衛門になったそうで……。こうなると親分のいう通り、ちっと変な事になりそうですね。これから矢切へ行って見たところで、去年のことじゃあ仕様がねえから、いっそ矢口へ行ってみましょうか。大森のかみさんは曖昧なことを云っていましたが、ほかの女中にカマをかけて、鶏を売りに来た奴の居所いどこをちゃんと突き留めて来ました。そいつは矢口の新田にった神社の近所にいる八蔵という奴だそうです」
「矢切で死んだ奴の詮議に矢口へ行く……。矢の字づくしも何かの因縁かも知れねえ。おまけにどっちも渡し場だ」と、半七は笑った。「じゃあ気の毒だが矢口へ行って、あの鶏はどこで買ったのか、調べてくれ。こうなったら、ちっとぐらい手足を働かせても無駄にゃあなるめえ」
「そうです、そうです。こいつは何か引っかかりそうですよ。だが、これから矢口までは行かれねえから、あしたにしましょう」
 なにかの期待をいだいて、庄太は威勢よく帰った。明くる日も寒い風が吹いたので、庄太も定めて弱っているだろうと思っていると、果たしてその日のともし頃に、彼はふるえながら引き上げて来た。
「矢口へ行って、八蔵という奴のうちをさがし当てました。あの鶏はやっぱり海保寺門前の桂庵の家で買ったということですから、鳥亀の女房が売ったに相違ありません」
 八蔵は農家の伜であるが、家には兄弟が多いので、彼は農業の片手間に飼いどり家鴨あひるなどを売り歩いていた。大きい笊に麻縄の網を張ったような鳥籠を天秤棒にかついで、矢口の村から余り遠くない池上いけがみ、大森、品川のあたりを廻っていたのである。去年の五月ごろ、彼は品川方面へ商売に出て、南番場の海保寺門前を通りかかると、桂庵の家から呼びかけられて、ひとつがいの飼い鶏を買ってくれと云われた。八蔵は売るばかりが商売ではない。買って売って其のあいだに利益を見るのであるから、承知して売り値をくと、幾らでもいいから持って行ってくれと云う。その売りぬしは三十二三の婀娜あだっぽい女であった。
 ともかくも其の鶏を見せてくれと云うと、女は裏へまわれと云う。そこには空地同様の小さい庭があって、二羽の鶏が籠に伏せてあった。女はもう姿を見せないで、二十五六の男がまきざっぽうを持って出て来た。彼は八蔵にむかって、この鶏はいっそち殺してしまおうと思うのだが、おかみさんがぐずぐず云うから持って行ってくれと暴々あらあらしく云った。いい加減な値をつけて引き取ることにすると、二羽の鶏はしきりにれ狂って、八蔵の籠に移されるのをこばむので、男も手伝って無理に押し込んだ。男は薪ざっぽうを放さずに掴んで、絶えず何事をか警戒しているように見えた。
 八蔵はその足で大森へまわって、かの茶屋へ二羽の鶏を売ったが、その時には皆おとなしくつばさを収めて、前のように暴れ狂うことは無かった。右から左に鶏を処分して、八蔵は相当の利益を得て帰った。雌鶏はその時から少し弱っているようであったが、ふた月ほどの後に死んだという話を聞いた。
「まあ、そういうわけなんです」と、庄太はひと通りの報告を終った。「八蔵の話の様子じゃあ、あの鶏はお六の家にいる時から、なにかれていたらしいようですから、大森の時も恐らくお六と知って飛びかかったのでしょう。そこでお六のうちの番頭という奴を、きょうは確かに見とどけて来ましたが、小作りの苦味走った男で、顔に見覚えはありませんが、これも唯の町人らしくない奴です。と云って、遊び人にしちゃあ野暮に出来ているし、まあ、屋敷の大部屋にでも転がっていたような奴ですね」
折助おりすけか」と、半七はうなずいた。「折助なんぞは軍鶏屋のお客だ。まんざら縁のねえこともねえ。これでどうにか白と黒の石が揃ったようだ。まあ、おめえの五目ごもくならべをやってみろ」
「わっしの列べ方じゃあ、鳥亀の女房が店の客の折助と出来合って、亭主の釣り好きを幸いに、暗いうちから下矢切へ鮒釣りに出してやる。折助は先廻りをして、芦の間か柳の蔭にでも隠れていて、不意に亭主を突き落とす……。と、まあ、云ったような段取りでしょうね。土地にいちゃあ面倒だから、浅草の店をしめて品川へ引っ越して、桂庵に商売換えをして、その折助が番頭実は亭主になって一緒に暮らしている。そこで、例の鶏の一件だが……。店を仕舞うときにみんな売ってしまいそうなものだが、何かの都合でひとつがいだけ品川まで持って行くと、こいつが変に暴れたりする。二人はなんだか気が咎めて、薄っ気味が悪いような気もするので、ぶち殺すか売り飛ばすか二つに一つということになって、それが八蔵の手を渡って、大森の茶屋に売られて行った。どうでしょう。違いますか」
「誰の眼も違わねえ。まずそこらだろうな。いくら商売でもいやになるぜ」と、半七は溜め息をついた。「その通りであって見ろ、女も男も重罪で、引き廻しの上に磔刑はりつけだ。それを知りながら科人とがにんの種は尽きねえ。どうも困ったものだ。といって、こうなったら打っちゃっても置かれねえ。松吉と手分けをして詮議にかかれ。おめえは浅草の方を受け持って、鳥亀の亭主はどんな人間だったか、女房はどんな事をしていたか、昔のことを洗ってみろ。鳥亀にも何か親類があるだろう。店の奉公人もあった筈だ。そんなのを詮議したら、大抵の見当は付くだろう。松には品川の方を受け持たせて、男の身許みもとを洗わせて見よう」
「ようござんす。浅草の方は引き受けました」
「毎日の遠出とおででくたびれただろうが、これも御用で仕方がねえ。早くうちへ帰って、かみさんを相手に寝酒の一杯も飲め」
 幾らかの小遣いを貰って、庄太はにこにこして帰った。
 それから三日の後、正月二十七日の午後である。品川の方を受け持ちの子分松吉が帰って来て、こんなことを半七に報告した。
「鈴ヶ森の仕置き場のそばで死骸が見付かりました」
「男か、女か」
「二十一二の若い男で、色白の小綺麗な、旗本屋敷の若侍とでも云いそうな風体ふうていで、匕首あいくちか何かで突かれたらしいきずが四カ所……。首に手拭が巻き付けてあるのを見ると、初めに咽喉のどを絞めようとして、それを仕損じて今度は刃物でやったらしいのです。大小は誰か持って行ったらしく、本人は丸腰で、そこらにも落ちていませんでした。死骸は海へでも投げ込むつもりで、浪打ちぎわまで引き摺って行ったらしいが、人が来たのでそのままにして逃げたと見えます。懐中物はなんにも無いので、ちっとも手がかりになりそうな物はありません」
「その死骸はけさ見つけたのか」
「そうです。多分ゆうべのうちにやったのでしょうね。検視の済むのを見とどけて、わっしは急いで帰って来たのですが、どうしましょう」
「鈴ヶ森じゃあ町方まちかたの係り合いじゃあねえが、いずれ頼んで来るだろう。殊に屋敷者だから、まあひと通りは調べて置くがいいな」と、云いかけて半七は思い出したように云った。「それから、品川の桂庵の一件だが、亭主の身許みもとはまだ判らねえか」
「なんでも湯島ゆしまいけはたあたりに中間奉公をしていたらしいのですが、どこの屋敷かまだ突き留められません。なにしろあの辺には屋敷が多いので……。まあ、そのうちに何とかしますから、もう少し待って下さい」
「鈴ヶ森の人殺しは、ひょっとすると鳥亀の一件にからんでいるかも知れねえな」
「なぜです」と、松吉は不思議そうにいた。
「なぜと訊かれちゃあ返事に困るが、多年この商売をしていると、自然に胸に浮かぶことがある。まあ、虫が知らせるとでもいうのかも知れねえが、それが又、奇妙にあたることがあるものだ。今度の一件も何だかそんな気がしてならねえ」
「もしそうならば、いよいよ事が大きくなりますね。なにしろ鈴ヶ森の方を調べてみましょう。案外の手がかりがあるかも知れません」

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