火星探険完全復刻版 |
晶文社 |
1980(昭和55)年8月10日 |
1980(昭和55)年8月10日発行 |
1980(昭和55)年8月10日発行 |
火星探險 |
中村書店 |
1940(昭和15)年5月30日 |
[目次]
星野博士(ほしのはかせ)
火星(くわせい)への通信(つうしん)
火星(くわせい)の運河(うんが)
火星(くわせい)に人間(にんげん)が住(す)んでゐるか
空中飛行(くうちうひかう)
火星(くわせい)の首都(みやこ)ミルチス?マヂョル市(し)
大歓迎会(だいくわんげいくわい)
腹痛(はらいた)
トマト騒動(さうどう)
火星(くわせい)の看護婦(かんごふ)さん
地球(ちきう)に向(むか)つて
テン太郎(たらう)の報告(はうこく)
人間(にんげん)のヒゲと猫(ねこ)のヒゲ
コオロギと蛙(かへる)
[#改ページ]
星野博士(ほしのはかせ)
○
テン太郎や お昼(ひる)のおべんとうを 天文台(もんだい)のお父(とう)さんに とどけておくれ
ハイ 行つてきます
○
ニヤン子とピチクン 僕(ぼく)についてきたまへ
天文台をみせてくれる?
テン太郎さん ぼくもついてゆきますよ
○
さあ みんなでそろつて でかけやう
足(あし)なみ そろへて
一二 一二
○
ピチクン あんまり鼻(はな)をくつつけては いけないよ
だつて いい匂(にほ)ひがするんだもの
あら ほんとだ 匂ひだけかぐのは つらいわね
○
あれが天文台(もんだい)だ あそこでお父(とう)さんは 星の世界(せかい)の研究(けんきう)をなさつてゐるのだ
月や星を見る望遠鏡(ばうゑんきやう)は あのまあるい屋根(やね)の やうな所にあるのよ
ニヤン君(くん) よくしつてゐるね
○
小使さんがゐるかしら
きれいな建物(たてもの)ね
屋根(やね)の上で なんだかくるくる まはつてゐるね
○
小使さん お父(とう)さんの所へ おべんとうをもつてきました
わたしも おともしたんだわ
これは これは 星野(の)博士(はかせ)のぼつちやんですか 博士は研究室(けんきうしつ)の方です
○
ぢや ぼくたち 中に入つてもいゝですね
あゝ ええですとも その長いらうかを通つて 突(つ)きあたりの丸(まる)い建物です
○
あそこだな
あらまあ
ずゐぶん長いらうかだなあ
○
ここがね お父(とう)さんがゐらつしやる 火星研究室(くわせいけんきうしつ)だよ
火星といふのは 人間(げん)がすんでゐるといふ 星のことだわね
さうだよ
○
あら 向ふにつづいてる丸(まる)い円筒(ゑんとう)のやうな建物(たてもの)はなにかしら
あの建物は、火星へ飛(と)んでゆく、ロケットの格納庫(かくなふこ)なんだ
ちよつとのぞいてみたいわね
○
テン太郎さん ちよつと、まつて なんだか中の様子(やうす)がへんですよ
ほんとにへんだわ
さうかしら ぢや、ニヤンちやん調(しら)べてくれ給(たま)へ
○
あらまあ おどろいた 大変(へん)だわ
○
(ドタバタ ドタバタ)
なかで 何か起(おこ)つたの
早く 降(お)りてくれ、何があつたか、しらしてくれ
○
どうしたんだ ニャンちやん
研究室の中では、ヒゲの引(ひ)つ張(ぱ)り合ひよ
それぢや、喧嘩(けんくわ)を、してゐるの
○
さうなのよ テン太郎さんのお父(とう)さんと月野(の)博士(はかせ)とが
それは大変だ のぞいてみやう
それがいい
○
この窓(まど)からのぞいてみやう シーッしづかにしづかに
あらまあ
へんな喧嘩(けんくわ)だな
○
わしは、どうしても 火星(くわせい)には人間(げん)が をらんと思ひますのぢや
いや、ちがふ 火星には人間がをりますよ
○
これはけしからん わしのヒゲを引(ひ)つぱつて
わしのヒゲも あなたに引ッぱられてをりますのぢや
○
ヒゲがぬけてしまつても わしはわしの考(かんが)へを変(か)へません
わしは首がぬけても さう信(しん)じてをりますわい
○
これではいつまでたつてもケリがつかん 研究(けんきう)をつづけませう
さやう 研究がだいいちです 月野(の)さん、わしのヒゲを離(はな)して下さい
○
これは失礼(しつれい)
わしこそ 失礼しました
○
星野(の)さん あなたはたいへんヒゲが御自慢(ごじまん)のやうですな
あなたのこそ美事(みごと)ですよ わしが、ひつぱつて台(だい)なしにしましたわい どれ櫛(くし)をもつてをりますよ
○
これは恐縮(きようしゆく)の至(いた)りです
いや、どうも お互(たが)ひさまで
○
ヒゲを引(ひ)つぱつてゐるときは どうなるかと思ひましたよ
そつと降(を)りやう いや、おどろいてしまつた
ほんとに心配(しんぱい)したわ でも仲直(なかなほ)りしてよかつたわ
○
お父(とう)さん お昼(ひる)のお弁当(べんたう)をもつてきました
○
おお テン太郎か
おや ニャン子にピチも御苦労(くろう) 入り給(たま)へ
○
これは坊(ぼつ)ちやん やあ、いらつしやい いま貴方(あなた)のお父さんと床屋(とこや)ごつこをやつてゐましたわい
全(まつた)くその通り アハハ
ウフフ
ウフフ
ウフフ
○
けふのお弁当は何んぢや これはノリで包(つつ)んだおにぎりぢやなあ
何ぢや君たちは なにがそんなにおかしいのぢや
ウフフ クス クス
○
月野(の)さん ひとついかが
ほほう これはわしの大好物(かうぶつ)でして ひとつちやうだい致(いた)しませう
○
ええと これが火星(くわせい)だとしますと
○
火星の運河(うんが)の問題(もんだい)ですかな
左様(さやう) 望遠鏡(ばうゑんきやう)でみますと 河(かは)はみんなまつすぐに見えますね
○
火星人(じん)が造(つく)つたものだといふんですな
その通り 火星の運河は 洪水(こうずゐ)とか噴火(ふんくわ)とかの自然(しぜん)の力で出来たとは思へませんね
○
それはちがひますよ、あまり地球(ちきう)から遠いので 直線(ちよくせん)にみえるだけですよ
それは ちがひますな
○
現(げん)に写真(しやしん)にも まつすぐにうつりますからね
写真や望遠鏡は まだ完全(くわんぜん)ではありませんな
あら、また始(はじ)まりさうだぞ
いまにどつちかがヒゲをひッぱつてよ
これは天候(てんこう)険悪(けんあく)だぞ
○
星野さん あなたはどうも強情(ごうじやう)でよろしくない
貴方(あなた)こそ強情ですわい
あらあら
とうとう ヒゲををひつぱつたい
アハハ おかしい おかしい
○
あつ これはとんだ失敗(しつぱい)だ あなたのお父(とう)さんの大事なヒゲを 引(ひ)つぱつてしまつたわい
いや かまわんですよ ハハハ
アハハ ハハ ハ
○
いかがです 月野(の)さん おにぎりを半分(はんぶん)さしあげませう
これはどうも
おや また仲直(なかなほ)りだ
仲が良(よ)いんだか悪(わる)いんだか わからないなあ
○
ぼく達(たち)も おにぎりをたべたいなあ
さうだつたね これは気がつかなかつた さあ君たちもおあがり
火星(くわせい)の話も面(おも)白いけれど
おにぎりもうまいわね
その通りぢやアハハ
[#改ページ]
火星(くわせい)への通信(つうしん)
○
坊(ぼつ)ちやん、わしが研究室(けんきうしつ)を案内(あんない)してあげやう
やあ、うれしいなあ
みせて もらはう
○
わたし 火星へ行つてみたくなつたわ
○
これは、わしが研究(けんきう)をうけもつてゐる機械(きかい)ですよ
大きなものだなあ
何んだらう
何んの機械だらう
○
いま機械の覆(をほ)ひをとりますから 離(はな)れて見てゐてごらん
アッ わかつた いつかお父(とう)さんが話してくれた 火星信号器(くわせいしんがうき)だ
○
さうです、この機械は 地球(ちきう)から火星へ信号するのです
すごいなあ
ずゐぶん光るわね
まるで鏡(かがみ)のやうだ
○
さうです これは鏡(かがみ)です ピッカリングといふ天文学者(もんがくしや)が考(かんが)へ出した 火星(くわせい)への信号(しんがふ)の仕方(しかた)です
これで火星へ 信号してゐるのかしら
○
いやこれは実験模型(じつけんもけい)です ほんとうに信号するときは 半哩(はんまいる)四方ほどの大きな鏡にするのです
半哩四方とは すごい大きな鏡を使ふんだな
○
ほをら あそこの山へ光線(くわうせん)を反射(はんしや)させましたよ
あら、山へ映(うつ)つてきれいだわ
やあ 光る光る
○
太陽(やう)の面(めん)の百万分(ひやくまんぶん)の一の大きさの鏡をつくると 丁度(ちやうど)半哩平(へい)方程(ほど)の鏡がいることになります
その大きな鏡に 太陽の光をうけさせて光らすと 火星の側(がは)から見ると第(だい)五等級(とうきふ)の星の光ほどに光つてみえる……
○
しかしいくら信号をしても 火星に智慧(ちゑ)のある生物(いきもの)がゐなければ 我(われ)々の信号を受取(うけと)ることができない
やあ あんなに遠くの方の森が照(て)らされて 明(あか)るくなつた
○
さあ こんどは鏡の反射を街(まち)の方へ移(うつ)してみやう
○
やあ いま光つた所は水道(すゐだう)タンクだ
○
でも火星(くわせい)に生物(いきもの)がゐなかつたら かういふ研究(けんきう)は無駄(むだ)になるわね
いやいや さうではない、学者(がくしや)の研究に無駄はない 研究さへして置(お)けば他(ほか)のことにも応用(おうよう)できる
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