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豚群(とんぐん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-4 6:20:28  点击:  切换到繁體中文


     三

 ある朝、町からの往還をすぐ眼下に見おろす郷社の杜へ見張りに忍びこんでいた二人の若者が、息を切らしながら馳せ帰って来た。
「やって来るぞ! 気をつけろ!」
 暫らくたつと、三人の洋服を着た執達吏が何か話し合いながら、村へ這入って来た。彼等は豚小屋に封印をつけて、豚を柵から出して、百姓が勝手に売買することを許さなくするためにやって来たのである。
 百姓達は、それに対して若者が知らして帰ると共に、一勢に豚を小屋から野に放つことに申合せていた。
 健二は、慌てゝ柵を外して、十頭ばかりを小屋の外へ追い出した。中には、外に出るのを恐れて、柵の隅にうずくまっているやつがあった。そういうやつには、彼は一と鞭を呉れてやった。すると、鈍感なセメント樽のような動物は割れるような呻きを発して、そこらにある水桶を倒して馳せ出た。腹の大きい牝豚は仲間の呻きに鼻を動かしながら起き上って、出口までやって来た。柵を開けてやると、彼女は大きな腹を地上に引きずりながら低く呻いてのろのろ外へ出た。
 裏の崖の上から丘の谷間の様子を見ていた留吉が、
「おい、皆目、追い出す者はないが、……宇一の奴、ほんとに裏切りやがったぞ!」
 と、小屋の中の健二に呼びかけた。
「まだ二十匹も出ていないが……。」
「ええ!」健二は自分の豚を出すのを急いだ。
「佐平にも、源六にも、勘兵衛にも出さんが、おい出て見ろ!」留吉はつゞけて形勢が悪いことを知らせた。「これじゃ駄目だ!」
 少くともこういうことは、皆が一勢にやらなければ成功すべきものではない。少数ではやった者がひどいめにあうばかりだ。それだのに村の半数は出していないらしい。
 健二は急いで小屋の外へ出て見た。丘から谷間にかけて、四五匹の豚が、急に広々とした野良へ出たのを喜んで、土や、雑草を蹴って跳ねまわっているばかりだ。
「これじゃいかん!」
「宇一め、裏切りやがったんだ!」留吉は歯切りをした。「畜生! 仕様のない奴だ。」
 今、ぐず/\している訳には行かなかった。執達吏は、もう取っ着きの小屋へ這入りかけていた。健二と留吉とは夢中になって、丘の細道を家ごみの方へ馳せ降りて行った。
 三人の執達吏のうち、一人は、痩せて歩くのも苦しそうな爺さんだった。他の二人はきれいな髭をはやした、疳癪で、威張りたがるような男だった。
 彼等が最初に這入った小屋には、豚は柵の中に入ったまゝだった。彼等は一寸話を中止して、豚小屋の悪臭に鼻をそむけた。
 それまで、汚れた床板の上に寝ころんで物憂そうにしていた豚が、彼等の靴音にびっくりして急に跳ね上った。そして荒々しく床板を蹴りながら柵のところへやって来た。
 豚の鼻さきが一寸あたると柵はがた/\くずれるように倒れてしまった。すると豚は柵の倒れた音で二重に驚いて、なおひどくとび上った。そうしてその拍子にとび/\しながら柵から外へ出た。三人の、大切な洋服を着た男は、糞に汚れた豚に僻易して二三歩あとすざりした。豚は彼等が通らせて呉れるのをいゝことにして外へ出てしまった。
 一匹が跳ね、騒ぎだしたのにつれて、小屋中の豚が悉く、それぞれ呻き騒ぎだした。そうして、柵を突き倒しては、役人の間を走りぬけて外へ出た。きれいな髭の男は、やっと、この豚どもを逃がしてはならないことに気づいて、あとから白い手を振り上げて追っかけた。追っかけられると、豚はなお向うへ馳せ逃げた。
「チェッ! 仕様がない。」洋服の男は、これは百姓に入れさせればいゝつもりで、苦々しい笑いを浮べ乍ら次の小屋へやって行った。
 二軒目の小屋には一頭もいず、がらあきだった。彼等は何気なく三軒目へ這入った。そこにも、十個ばかりの柵が、がらあきでたゞ仔豚をかゝえた牝が一匹横たわっているばかりだった。そこで、二十分ばかりかゝって、初めての封印をして、彼等は外に出た。ところが、その時には、丘にも谷間にも豚群が呻き騒いで、かたい鼻さきで土を掘りかえしたり、無鉄砲に馳せまわったりしていた。豚は一見無神経で、すぐにも池か溝かに落ち込みそうだった。しかし、夢中に馳せまわっていながら、崖端に近づくと、一歩か二歩のところで、安全な方へ引っかえした。
 三人は、思わず驚きの眼を見はって、野の豚群を眺め入った。
 ところが、暫らくするうちに、二人の元気な男は、怒りに頸すじを赤くした。そして腕をぶる/\振わせだした。豚が野に放たれて呻き騒いでいる理由が分ったのであった。

 三十分程たった頃、二人は、上衣を取り、ワイシャツ一つになって、片手に棒を握って、豚群の中へ馳こんでいた。頻りに何か叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)した。尻を殴られた豚は悲鳴を上げ、野良を気狂いのように跳ねまわった。
 二人は、初めのうちは、豚を小屋に追いかえそうと努めているようだった。しかし豚は棒を持った男が近づいて来ると、それまでおとなしくしていたやつまでが、急に頭を無器用に振ってはねとびだした。二人はいつの間にか腹立て怒って大切なズボンやワイシャツが汗と土で汚れるのも忘れて、無暗に豚をぶん殴りだした。
 豚は呻き騒ぎながら、彼等が追いかえそうと努めているのとは反対に、小屋から遠い野良の方へ猛獣の行軍のようになだれよった。
 と、向うの麦畑に近い方でも誰れかが棒を振って、寄せて来る豚を追いかえしていた。
「叱ッ、これゃ! 麦を荒らしちゃいかんが!」
 それは、自分の畑を守っている宇一だった。
「叱ッ、これゃ、あっちへ行けい!」
 どれもこれも自分の豚ではなかったので彼は力いっぱいに、やって来るやつをぶん殴った。豚は彼の猛打を浴びて、またそこからワイシャツの方へ引っかえした。
 裏切った者があるにもかゝわらず、放たれた豚の数はおびただしいものだった。暫らくするうちに、二人のワイシャツはへと/\に疲れ、棒を捨てて、首をぐったり垂れてしまった。……
「そら、爺さんがやって来たぜ。」
 やっと丘の上へ引っかえして、雑草の間で一と息ついていた留吉が老執達吏を見つけた。
「どれ、どこに?」谷間ばかりを見下していた健二がきいた。
「そらその下だ。」留吉は小屋の脇を指さした。
 痩せて、骸骨のような、そして険しい目つきの爺さんが、山高をアミダにかむり、片手に竹の棒を握って崖の下へやって来た。
「おい、こらッ!」
 大きな腹をなげ出して横たわっている牝豚を見つけて、彼は棒でゴツ/\尻を突ついた。
 豚は「ウウ」と、唸って起き上ろうともしなかった。
「おい、こら!」
「ウ、ウウ。」牝豚はやはり寝ていた。
「おい、こら!」爺さんは、又、棒を動かした。
 健二と留吉は草にかくれてくっ/\笑った。
 一日かゝって、三人の役人は、結局、柵に固く栓をして、初めから豚を出さなかった、二三の小屋にのみ封印して、疲れ切って帰って行った。彼等は、それが自分達に降った裏切者の小屋であるとは気づく余裕がなかった。同様に手むかいをする百姓のだと思って、故意に厳重に処置をした。

     四

 二週間ほどたって、或る日、健二が残飯桶をかついで丘の坂路を登っていると、彼の足音を聞きつけて、封印を附けられた宇一の小屋から二十匹ばかりが急に揃って、割れるような呻きを発して、騒ぎだした。え渇して一時に餌を求めている呻きだった。
 彼が桶を置いて小屋に這入って見ると、裏切者の豚は、糞で真黒に汚れ、痩せこけて、眼をうろ/\させながら這っていた。
 どうせ地主に取られることに思って、宇一は餌もやらなければ、ろくに世話もしなかったのである。
 豚は、必死に前肢を柵にかけ、健二をめがけて、とびつくようにがつ/\して何か食物を求めた。小屋のわめきは二三丁さきの村にまで溢れて行って、人々の耳を打った。……
 それから一週間ほど、それ等の汚れた豚は昼夜わめきつづけていたが、ついに、一ツ一ツばた/\斃れだした。
 野に放たれ騒いだ豚は、今、柵の中でおとなしく餌を食っている。
 主謀者がその後どうなったか?
 いや、彼等は、役人に反抗したが、結局、どうにもせられなかった。
 彼等は、やったゞけ、やり得だったのである。

(大正十五年十月)




 



底本:「筑摩現代文学大系 38 小林多喜二 黒島伝治 徳永直集」筑摩書房
   1978(昭和53)年12月20日初版第1刷発行
入力:大野裕
校正:はやしだかずこ
2000年7月3日公開
2006年3月21日修正
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