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武装せる市街(ぶそうせるしがい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-4 6:24:35  点击:  切换到繁體中文


     二八

 軍隊と戦争には、殺戮さつりくと掠奪はつきものである。
 戦争が起れば、必ず、掠奪が行われ、徴発が行われ、殺人が行われる。
 これが、利害に応じて、誇大に報道される。又、利害に応じて、反対に黙殺され終る。
 この日の、虐殺された邦人は、二日後に土の中から発見した九人をも合わして十四名だった。
 内地のブル新聞には、それが、二百八十名と報道された。
 新聞は、婦人を裸体にして云うに忍びざる惨酷ななぶり方の後、虐殺した、と書いた。娘は局所に棒を突きこまれ、腕の骨を棍棒で叩き折られ、両眼をくりぬかれた。と書いた。
 特派員の眼前には頭蓋骨を叩き割られた死体の脳味噌が塵の路上にこぼれていると知らせた。
 掠奪についても、同様な報道がせられた。
 貴重品や被服は勿論、床板、畳、天井板をひっぺがし、小学生の教科書をまでかっぱらった。そして、金鎖、金時計、大洋タヤン二百四十元、紙幣三百八十元を強奪された。その遭難者の談が載せられた。
 それを読んで、南軍を憎まない人間は、どうかしている。暴兵を全滅せしめるのが当然だと憤らない人間はどうかしている。
 それほど誇大な報道の力は強かった。
 国民の輿論、敵がい心、兵士達の向う見ずの勇気、憤激などは、こういう報道から不可避的に作り出されて行くのだった。
 山崎は、これを理解していた。そして、利用した。
 三日目に、彼は、津浦線ガードの東北の畑地で、新しく盛られた土饅頭の下から、埋められた惨殺体を発見した。
 新らしい鍬のあとが明らかな土饅頭は、何となくあやしげだった。
 掘りかえした。
 一人の女と、二人の男がなまなましい、酸ッぱい匂いを放ちながら横たわっていた。更に、そこから僅かばかり隔った亜細亜タンクの附近にも六名の死体がかくされてあった。左右の耳が斬りそがれ、ある者の腹は石をつめこまれてふくらんでかたくなっていた。
 十王殿も、館駅街も、多くの家が掠奪と破壊のために、ごたごたにひっくりかえされて見るかげもなくなっていた。
 支那服の山崎は、そこを見てまわった。――これを知らしてやらなければならない。と、彼は考えた。兵士たちにも、邦人にも、内地へも。
 職業的な感覚から、彼は、これを知らせば何が起るか、それはよくわかった。十名内外を二百八十名と云いふらす偉大な効果を、この男はよく知っていた。戦争は、国民を興奮と熱狂の状態に誘導しなければやり得るものではない。敵を極悪ごくあくに宣伝しなければならない。第三者の同情を引かなければならない! 彼はこれをよく知っていた。……
 彼の友達の中津が、まッさきに、侵入して掠奪した家は、十王殿に、バラバラの空骸となって残っていた。これがきッかけとなったのは、彼にとって、もッけの幸いだった。乞食がそこへ這入っていた。第一回の掠奪の後、放りさがされて散らばっている、壊れ椅子や、アンペラや、柄が折れた娘の洋傘を盗み出していた。全く俺はこのきッかけをうまうまと利用したものだ。
「そうだ、これが猪川の家だっけ。」と彼は他人事のように呟いた。
「ここを南軍の奴等が掠奪したのが、戦争のもとになったんだ! そうだ。非は南軍にあるんだ!」
 この得手勝手な男はその前に立ち止った。壊れた厚い壁のかげで、乞食はこそこそやっていた。
「おい山崎さん!」
 耳に不快な記憶のある声が背後でした。
「ああ、陳先生チンセンショ!」
 ドキリとしたものを、山崎は取りつくろった。
 S大学へ学生に化けてしのびこんだ。それ以来、酬いを約束しながら、幾度かはぐらかして一元も渡さずにいる陳長財チンチャンツァイだった。
「どうです。景気はどうです?」
 ――陳は複雑な笑い方で山崎を見た。
「あゝ、そいつか、――そいつは、また今度だよ、このどさくさに、そこどころじゃねえんだ。」
「また今度? また今度?」陳は繰りかえした。「……何回でもそんなことが云えた義理じゃあるめえ!」一歩を山崎に詰めよった。誰の力で、アメリカの秘密を具体的に掴むことが出来たんだ! 誰の力で貴様が手柄を立てたんだ! その眼はそう云っているようだった。
「厄介な奴がついて来やがった!」と、山崎は考えた。
「いっそのこと、この、どさくさまぎれに、片つけッちまおうか。」
 彼は、歩き出した。
 陳はあとからついて来た。
 どこまでも、尾行のように、あとについてきた。館駅コアンイチエ街に出た。ウイへ曲る角にきた。山崎の右の手は、前後左右に眼をやったかと思うと、大褂児タアコアルのポケットに行った。
 次の瞬間、豆がはじけるような、ピストルの響きが巷に起った。殆んど同時に、陳長財の手元にもニッケル鍍金のものがピカッと光った。
 しかし陳は、引鉄ひきがねを引くひまがなかった。ピストルを持った手を壊れた屋根の方へさしあげビリビリッと胴慄いをして、がらくたものが散らばっている街上に重くドシンと倒れた。
「くたばりやがった!」
 山崎は歩いた。このピストル一発で、陳に渡す三百元が、自分の懐へころげこんだのだ。それを思うとぞくぞくした。
 彼は、邦人の家が掠奪された有様や、両耳を斬られた女の屍体、腹に石を詰められた男の屍体、それを、兵士達や、避難民や、内地の大衆に知らしてやる必要があった。そのことを考えた。世界中に知らしてやる必要がある!……
 司令部の前に来た。
「止まれッ!」
 歩哨の声は彼の耳に入らなかった。
「止まれッ!」
 やはり彼は、何事か考えながら歩いていた。
 そこは、北軍退却の以前から厳重な服装検査と警戒のあるところだった。孫伝芳の自動車もそこで停止を命じられたりした。
 自動車の主は引きずりおろされた。ポケットはさぐられた。
「俺は、孫伝芳だぞ!」
 金モールの額のはげ上ったおやじは、じだんだを踏んで口惜しがった。
「俺は、孫伝芳だぞ! 無礼者め!」
 けれども、歩哨には、直魯連合軍司令もヘッタクレもあったもんじゃなかった。すべてが同じだった。任務をはたすだけだ。
「チェッ! 孫伝芳ッて何だい! ごつげな、いい金モール服を着てやがって、どこの馬の骨だい!」
 山崎が通りかゝったのはこの歩哨線である。歩哨は、支那服の、支那くさい男を咎めた。
「止まれッ!」
 山崎は、自分の支那服を忘れて、すっかり日本人のいい気持になっていた。惨酷な情報で、群衆の熱情をあおり立てる、その沸騰する有様を、夢中に想像していた。話してやる! 知らしてやる!……そして、誰何されるのは、ほかの支那人だと感じた。そんなつもりだった。
「止まれッ!」
 まだ、彼は気がつかなかった。
 つゞいて銃声がした。
 五挺のピストルと、八千円の預金通帳を肌身につけて離さなかった山崎は、ぱたりひっくりかえった。
 くたばっちゃった。とうとう!

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