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梅若七兵衞(うめわかしちべえ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-12 9:15:27  点击:  切换到繁體中文


内儀「お役替、おゝ/\それはお目出度いところへ入らっしゃいました」
七「どうもね、その、お役替で」
内儀「何うなすったの」
七「むゝゝ……じゃ」
内儀「懐を捜していらっしゃいますが、何うかお落し物ですか」
七「え……これは無い、これは無い」
内儀「何うなすったの」
七「何うしたって(金を受取り押戴き懐へ入れる真似をして考えている)」
内儀「あなた何をなすって入らっしゃいます」
七「お屋敷を駈出して、虎ノ門の堀端でこゞんだ時に懐からすべったに違いない……ちょいと往って来るよ」
 とまた駈出しました。
内儀「傘も差さずに貴方何処へいらっしゃいます」
 七兵衞はどん/″\駈けてまいり、こゝらで嘔いたろう、と思いましたから、堀浚ほりさら[#「浚」は底本では「凌」]いの泥が山盛りになって居ります所を捜すと塩梅あんばいに有りましたから、
七「あゝ有難い」
 と押戴き、幸い雪で人も通らず、懐へ入れてせっせと帰ってまいり、
七「往って来たよ」
内儀「あらまア貴方何うなすったの、笠も被らないで、そゝっかしいお方じゃアありませんか、あなたは石川様で黄金を御拝領なすったの」
七「え……何うしてお前それを知ってるえ」
内儀「何うしたって貴方が、顔色を変えて懐を捜しながらお駈出しなすったので、落し物に違いないと思いまして出て見ますと、路地に小さい紙入にい金物が打ったのが落ちてましたから開けて見ますと黄金が入っていました、何でもこれは石川様に頂戴したに違いないと思い、余り嬉しうございますから神棚へ上げて置きましたところへ、宜い塩梅に酒屋の御用が通りかゝりましたから申付けて御酒おみきを上げてあります、何にも包まずにお置きなさるから落ちるんで、本当に貴方は何ぼ何だってお金を粗末に遊ばすとばちあたりますよ」
七「嘘をおき、黄金はこゝにちゃんと有るんだよ」
内儀「有るたって此処にもございますもの、御覧遊ばせ此の通り……」
七「おや/\こゝにも一枚……一枚の黄金が二枚になったか知ら、これは驚いた、黄金が子を生みやアしめえ。(ポンと手をち)あ分った、二枚拝領したんだ、しかし一枚やろうと仰しゃって二枚出したのを嬉しまぎれに奪取ひったくって二枚一緒に持って来たに違いない、これは済まん、すぐに往って返して来る」
 と云いすてゝせっせと石川様へ来て見ると、お客様がお帰りになったあとで。
殿「何だえ七兵衞、雪だらけになって何うしたんだ」
 七兵衞はせえ/\息を切り、
七「ハアー水ッ一杯……」
殿「これ誰か七兵衞になんかやんな、せえ/\と云っているから……今日は変だな、だまって駈出してしまって、まだ種々いろ/\話もあったに、何うしたえ」
七「殿様、誠にお恥かしい事でございますが、手前は何処からお招きがございましても面倒だから何処へもまいりません、あなた方の我儘を聞くのが厭だから滅多に出ません、ところが今日こんにち家内が米がない、米櫃を払ってお粥を炊いた、これではいかんから石川様へいらっしゃれば、屹度お歳暮を下さると云いましたので参りました」
殿「そう思って来てくれゝば嬉しいじゃアないか」
七「ところが黄金を下さいましたろう、貴方が」
殿「左様」
七「わたくしは余り嬉しいから二枚一緒に奪取ひったくりましたものか、一枚遣ろうと仰しゃったのはたしかに覚えて居ります、それを懐に入れてせっせと駈けてくと、胸がむか/\いたしますから虎ノ門のわき反吐へどきました」
殿「汚ないのう」
七「それから宅へ帰って懐を捜すと無い、定めてこれは反吐の中へ落したんだろうと思いまして、虎ノ門へとって返し、反吐の中を掻廻すと有りましたから悦んで宅へ帰ると、家内の申すには、溝板どぶいたの上へ黄金が落ちてたと申しましたが、大方御前のお出しになった時、二枚奪取ってまいったに違いありませんから、これはお返し申して一枚頂戴……」
殿「いや其の方には一枚しか遣りゃアしない………これに一枚ある」
七「へえ……こゝに二枚あります」
殿「一枚剥がして其方そちへ遣ったんだよ、これに一枚あるだろう」
七「へえ……黄金はだん/″\ふえるかね、妙な事もあるもんですな」
殿「貴様の拾ったのは」
七「堀浚ほりさら[#「浚」は底本では「凌」]いの土の盛ってあるにいた反吐を掻廻して捜し出しましたから、再び返しにまいりましたので」
殿「どれ、見せろ」
 と手に取上げてつく/″\見られ、
殿「これは泥の中へ埋っていたものだ、金色が違っている、書いた文字がれて分らんようになってる、大方これは堀浚[#「浚」は底本では「凌」]いの泥と一緒に出ていたを、其の方がだん/″\掻廻したので泥の中から出たんで、全く天から其の方に授かったところの宝で、図らずたんだの」
七「へえ……それは飛んだ事をしました、彼処あすこへ往って置いて来ましょうか」
殿「いや其の方の手許に置いて宜かろう、授かり物じゃ」
 と早々石川様から御家来をもちまして、書面にしたゝめ、此の段町奉行所へ訴えました。正直のこうべに神宿るとのたとえで、七兵衞は図らず泥の中から一枚の黄金を獲ましたというお目出度いお話でございます。
(拠酒井昇造速記)





底本:「圓朝全集 巻の三」近代文芸・資料複刻叢書、世界文庫
   1963(昭和38)年8月10日発行
底本の親本:「圓朝全集 巻の三」春陽堂
   1927(昭和2)年1月28日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
ただし、話芸の速記を元にした底本の特徴を残すために、繰り返し記号は原則としてそのまま用いました。
また、総ルビの底本から、振り仮名の一部を省きました。
底本中ではばらばらに用いられている、「其の」と「其」、「此の」と「此」、「の」と「あの」は、それぞれ「其の」「此の」「彼の」に統一しました。
また、底本中では改行されていませんが、会話文の前後で段落をあらため、会話文の終わりを示す句読点は、受けのかぎ括弧にかえました。
※底本中「七兵衞」と「七兵衛」が混在しますが、「七兵衞」に統一しました。
※「/″\」の誤用と思われる箇所もありますが、底本通りとしました。
入力:小林繁雄
校正:門田裕志
2003年11月6日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • [#…]は、入力者による注を表す記号です。
  • 「くの字点」は「/\」で、「濁点付きくの字点」は「/″\」で表しました。

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