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文七元結(ぶんしちもとゆい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-12 9:30:51  点击:  切换到繁體中文


        五

 男「御親切に有難うございます、私も身を投げる気はございませんが、迚(とて)も行立ちません、もう思案も分別も仕尽しました暁(あかつき)に覚悟を極(きわ)めたので、中々容易な事ではございませんから、お構いなく往らしって下さいまし」
 長「お構いなくったって、お構いなく往(い)かれるかえ、人情としてお前(めえ)の飛び込むのを見て、アヽ然(そ)うかといって往かれねえじゃアねえか何(な)んで死ぬんだよ、店者(たなもの)だから大方女郎のつかい込みで、金が足らなくって主人に済まねえって………極ってらア、然うだろう」
 男「いえなに然(そ)んな訳じゃアないが、なに宜しゅうございます」
 長「宜しくねえよ、冗談じゃアねえぜ、え、おう」
 男「御親切は有難う存じます、私は白銀町(しろかねちょう)三丁目の近卯(きんう)と申します鼈甲問屋(べっこうどんや)の若い者ですが、小梅(こうめ)の水戸様へ参ってお払いを百金戴き、首へ掛けて枕橋(まくらばし)まで参りますると、ポカリと胡散(うさん)な奴が突き当りましたから、はっと思ってると、私(わたくし)の懐へ手を入れて逃げて行(ゆ)きましたから、何を為(し)やアがると云って、後(あと)で見ますと金が有りませんから、小僧の使(つかい)ではなし、金を泥坊に奪(とら)れたといって帰られもせず、と云って何処(どこ)へ往って相談致すという処もございませんから、身を投げるんで、大金の事でございますから何(ど)んな処(とこ)へ参りまして相談を致しても無駄でございますから身を投げるのでございます、何(ど)うぞお構いなく往らしって」
 長「百両奪られちまッたのかえ、何うも為(し)ょうがねえなア、冗談じゃアねえぜ、大店(おおとこ)なんてえもなアおおまかだなア、己(おら)ッちの身の上では百両の金で借金を残らず払って、好(い)い正月が出来るんだが、本当に、大金を奪られるような者に払いを取りに遣るとはおおまかなもんだなア、お前(めえ)もまた間抜じゃアねえか、胴巻へ入れて確(しっか)り懐へ入れて置けば宜(い)いのに、百両といえば重(おめ)え金額(かね)だ、本当に冗談じゃアねえぜ、だがの……金で生命(いのち)は買えねえや、え、おう、何処(どっか)へ相談しに往きねえな、旦那に逢って然(そ)う云いねえ、泥坊に奪られて誠に面目次第(しでえ)もござえやせん、全く奪られたに違(ちげ)え有りやせんて、え、おう何処(どっか)へ往って相談して見ねえな」
 男「へえ、相談したくも親も兄弟も無い身の上で、主人も手前ばかりは身寄頼りのない身の上だから、辛抱次第で行々(ゆく/\)は暖簾(のれん)を分けて遣る、其の代り辛抱をしろ、苟(かりそめ)にも曲った心を出すなと熟々(つく/″\)御意見下すって、余(あんま)り私を贔屓(ひいき)になすって下さいますもんだから、番頭さんが嫉(そね)んで忌(いや)な事を致しますから、相談も出来ませんが、何うしても私(わたくし)が女郎(じょうろ)買でも為(し)て使い込んだとしきゃア思われませんから、面目なくって旦那さまに合(あわ)す顔はございません、なに宜しゅうございますからお構いなく往らしって」
 長「いけねえなア、何うしてもお前(めえ)死(しな)なくッちゃアいけねえのか………じゃア仕方がねえ、金ずくで人の命は買えねえ、己も無くッちゃアならねえ金だが、お前に出会(でっくわ)したのが此方(こっち)の災難(せえなん)だから、これをお前に………だが、何うか死なねえようにしてくんなナ、え、おう」
 男「ヘエ、死なないように致しますから、お構いなく往らしって下さいまし」
 長「お構(かめ)えなくッたって……じゃア往くから屹度(きっと)死なねえとはっきり極りをつけてくんなよ」
 男「宜しゅうございます、死にません、/\、へえ」
 長「冗談じゃアねえぜ、往くよ宜(い)いか」
 と云いながらバタ/\/\と二十歩ばかり駈けて来たが、何うも気に成るから振り返(かえ)て見ると、其の若い者がバタ/\/\と下手(しもて)の欄干の側へ参り、又片足を踏掛(ふんが)けて飛び込もうとする様子ゆえ、驚いて引返(ひっかえ)して抱き留め、
 長「まア待ちなよ、待ちなてえに……それじゃア何うしても金が無けりゃア生きて居られねえのか、仕様がねえなア、さア己がこれを……だが何(ど)うか死なねえような工夫はねえかなア……じゃアまア仕方がねえ……困るなア」
 男「お構いなく往らッして、御親切は解りましたから」
 長「じゃア往くよ」
 とバラ/\/\と往きに掛ったが、又飛び込もうとするから、
 長「仕様がねえなア此の人は、冗談じゃアねえぜ、金が無くッちゃア何うしてもいけねえのか」
 男「へえ、有難う存じますが」
 とさめ/″\と泣き沈み、涙声で、
 男「私(わたくし)だッて死に度(たく)はございませんけれども、よんどころない訳でございますから、何うぞお構いなく往らしって、もう宜しゅうございます」
 長「お構いなくったって往けねえやな、仕方がねえ、じゃア己が此の金を遣ろう」

        六

 長「実は此処(こゝ)に百両持ってるが、これはお前(めえ)のを奪(と)ったんじゃアねえぜ、己は斯(こ)んな嬶(かゝあ)の着物を着て歩く位(くれえ)の貧乏世帯(じょてえ)の者が百両なんてえ大金(てえきん)を持ってる気遣(きづけえ)はねえけれど、己に親孝行な娘が一人有っての、今年十七になるお久てえ者(もん)だが、今日吉原の角海老へ駆込(かっこ)んでって、親父が行立ちませんから何うか私の身体を買っておくんなさい、親父への意見にもなりましょうからって、娘が身を売って呉れた金が此処に在(あ)るんだが、其の身の代をそっくりお前に遣るんだ、己ん処(とこ)の娘は、泥水へ沈んだッて死ぬんじゃアねえが、お前は此処から飛び込んで本当に死ぬんだから、此れを遣っちまうんだ、其の代り己は仕事を為(し)て、段々借金を返(けえ)して往った処(とこ)が、三年かゝるか、五年掛るか知れねえが、悉皆(すっか)り借金を返(けえ)し切って又三年でも五年でも稼がなけりゃア、百両の金を持って、娘の身請を為(し)に往く事が出来ねえ、あゝ何(な)んでも斯(か)んでも娘を女郎(じょうろ)にするのだ、仕方がねえ、其の代り己の娘が悪い病(やめえ)を引受けませんよう、朝晩凶事なく達者で年期の明くまで勤めますようにと、お前心に掛けて、ふだん信心する不動様でも、お祖師様でも、何様へでも一生懸命に信心して遣っておくれ」
 男「何う致しまして左様な金子は要りません」
 長「己だってさ遣りたくも無(ね)えけれどお前(めえ)が死ぬというから遣るてえのに、人の親切を無にするのけえ」
 と云いながら放り付けて往きました。
 男「やい何を為(し)やアがるんだ、斯(こ)んなものを打附(ぶっつ)けやアがって、畜生め、財布の中へ礫(いしころ)か何か入れて置いて、人の頭へ叩き附けて、ざまア見やアがれ、彼様(あん)な汚ない形(なり)を為(し)ていながら、百両なんてえ金を持ってる気遣(きづけ)えはねえ、彼様な奴が盗賊(どろぼう)だか何(な)んだか知れやアしない、此様(こん)な大きな石を入れて置きやアがって」
 と撫(なで)て見ると訝(おか)しな手障(てざわり)だから財布の中へ手を入れて引出して見ると、封金(ふうきん)で百両有りましたから恟(びっく)りして橋の袂(たもと)まで追駆(おっか)けて参り、
 男「もしお前さん、今のお方もし……アヽもう見えなくなっちまった……有難う存じます、此の御恩は死んでも忘れやア致しません、左様なお方とも存じませんで悪口(あっこう)を吐(つ)きまして済みません、誠に有難う存じます、必ず一度は此の御恩をお返し申します、有難う存じます」
 と生返ったような心持になりましたから、取急いで白銀町三丁目の店へ帰って参りましたが、御主人は使いの帰りが遅いから心配でございます。
 主人「平助(へいすけ)どん、未だ帰りませんか文七は」
 平「へえ、まだ帰りません、使いに出すと永いのが彼(あれ)の癖で、お払い金などを取りにお遣りなさるのは宜しくない事で、誠に困りましたな」
 主「帰ったら能く小言をいいましょう」
 と心配して居る処へ表の戸をトン/\/\、
 文「番頭さんトン/\/\……番頭さん文七でございます、只今帰りました」
 平「旦那、文七が帰りました」
 主「よく然(そ)ういってくんな」
 平「今開けるよ……何(ど)う云うもんだなア、余(あんま)り遅いじゃアないか掛廻(かけまわ)りに往った時などは早く帰って来てくれないと、旦那のお小言が私(わし)の方へ来るから本当に迷惑だ、冗談じゃアないぜ」
 文「誠に遅くなりました、つい高橋様のお相手を為(し)て居りまして、御機嫌を取り/\種々(いろ/\)お話しになりましたので、大きに遅くなりまして誠に相済みません」
 平「旦那文七が帰りました」
 主「さア/\此方(こっち)へ遣(よこ)しておくれ、実に困ります」
 文「旦那只今、高橋様で種々世の中のお話が有りまして、又碁のお相手を致したものですから大きに遅くなりました、えゝそれから高橋様が此方(こちら)から持って参りました革の財布を御覧なさいまして、商人(あきんど)は妙な財布を持つ、少し借り度(た)い、其の代り此方の縞の財布を貸して遣ると仰しゃって、是を拝借致しまして、金子は慥(たしか)に百両受取って参りましたから、お改めなすってお受け取り下さいますように」
 主「なに金を……何を云うんだな、変な人だな、実に、文七は使(つかい)に出せないね、本当に」

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