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海神に祈る(かいじんにいのる)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-25 8:48:01  点击:  切换到繁體中文

      一

 普請奉行の一木権兵衛いちきごんべえは、一人の下僚したやくれて普請場を見まわっていた。それは室津港むろつこう開鑿かいさく工事場であった。海岸線が欠けた※(「金+至」、第4水準2-90-75)かまの形をした土佐の東南端、俗にお鼻の名で呼ばれている室戸岬むろとみさきから半里の西の室戸に、古い港があって、寛文かんぶん年間、土佐の経世家として知られている野中兼山のなかけんざんが開修したが、港が小さくて漁船以外に出入することができないので、藩では延宝えんぽう五年になって、其の東隣の室津へ新しく港を開設することになり、権兵衛を挙げて普請奉行にしたのであった。
 野中兼山の開修した室戸港と云うのは、土佐日記に、「十二日、雨ふらず(略)奈良志津ならしずより室戸につきぬ」と在るところで、紀貫之きのつらゆきが十日あまりも舟がかりした港であるが、後にそれが室戸港の名で呼ばれ、今では津呂港つろこうの名で呼ばれている。兼山が其の室戸港を開修した時には、権兵衛は兼山の部下として兼山に代って其の工事監督をしていた。此の権兵衛は、土佐郡とさぐん布師田ぬのしだの生れで、もと兼山の小姓であったが、兼山が藩のために各地に土木事業を興して、不毛の地を開墾したり疏水そすいを通じたりする時には、いつも其の傍にいたので、しぜんと其の技術を習得したものであった。
 権兵衛は新港開設の命を請けると、まず浮津川うきつがわの川尻から海中に向けて堰堤えんていを築き、港の口に当る処には、木材を立て沙俵すなだわらを沈めて、防波工事を施すとともに、内部を掘鑿くっさくして、東西二十七間南北四十二間、満潮時に一丈前後の水深が得られるように計画して、いよいよ工事に着手したところで、沙の細かな海岸へ強いて開設する港のことであるから、思うように工事がはかどらなかった。
 権兵衛は東側の堰堤を伝って突端の方へ往こうとしていた。その時五十二になる権兵衛の面長なきりっとした顔は、南の国の強い陽の光と潮風のために渋紙色に焦げて、胡麻塩ごましおになった髪もり切れてすくなくなり、打裂ぶっさき羽織に義経袴よしつねばかま、それで大小をさしていなかったら、土地の漁師と見さかいのつかないような容貌ようぼうになっていた。
 それは延宝七年の春の二時やつすぎであった。前は一望さえぎる物もない藍碧らんぺきの海で、其の海の彼方かなたから寄せて来る波は、※(「革+堂」、第3水準1-93-80)どんと大きな音をして堰堤に衝突とともに、雪のような飛沫をあげていた。其処は左に室戸岬、右に行当岬ぎょうどうざきの丘陵が突き出て一つの曲浦きょくほをなしていた。堰堤の内の半ば乾あがった赤濁った潮の中には、数百の人夫が散らばって、沙を掘りはえを砕いていたが、其のじゃりじゃりと云う沙を掘る音と、どっかんどかんと云う石を砕く音は、波の音とともに神経を掻きまぜた。また掘りあげた沙や砕いた礁の破片かけらは陸へ運んでいたが、それが堰堤の上にありが物を運ぶように群れ続いていた。
 権兵衛は所有もちまえの烈しい気象を眉にあらわしていた。はかどらなかった難工事も稍緒ややちょに就いて、前年の暮一ぱいに港内の掘りさげが終ったので、最後の工事になっている岩礁を砕きにかかったところで、思いの外に岩質が硬くて思うように砕けなかった。それに当時の工事であるから、岩を砕くにも大小の鉄鎚かなづちで一いち打ち砕くより他に方法がないので、それも岩礁砕破の工事の思うようにならない原因の一つでもあった。
 堰堤の外側にはかもめの群が白い羽を夕陽に染めて飛んでいた。おかの畑には豌豆えんどうの花が咲き麦には穂が出ているが、海の風は寒かった。権兵衛は沙や礁の破片かけらを運ぶ物[#「運ぶ物」はママ]を避け避けして往った。沙を運ぶ者は、ざるに容れておうこで担い、礁の破片を運ぶ者は、大きなあじかに容れて二人で差し担ってくのであった。
「よいしょウ、よいしょウ」
「おもいぞ、おもいぞ」
「いそぐな、いそぐな」
「急いでもわれんぞ、急ぐな急ぐな」
るぞう、居るぞう」
こわいぞ、怕いぞ」
 権兵衛の伴れている下僚したやく武市総之丞たけちそうのじょうと云う男であった。総之丞は簣の一群ひとむれをやりすごしておいて、いみありそうに権兵衛を見た。
「お聞きになりましたか」
「何じゃ」
「今、人足が云った事でございますが」
「何と云った」
「居るとか怖いとか、口ぐちに云っておりましたが」
「あれか、あれは何じゃ」
「あれは、釜礁かまばえの事でございます」
 釜礁は港の口に当る処に横たわった大きな礁で、それを砕きさえすれば工事も落著するのであった。
「釜礁がどうしたのか」
「此の二三日、彼の釜礁は、竜王が大事にしておるから、とてもれない、また破っておいても、翌日になると、元のとおりになっておるとか、いろいろの事を云っております」
「そうか、そんな事を云っておるか」
 これも陽の光と潮風に焦げて渋紙色になった総之丞の顔には嘲笑あざわらいが浮んだ。
「しかし、今の世の中に、神じゃの、仏じゃの、そんな事が在ってたまりますものか、阿呆らしい」
 権兵衛は足を停めた。
「待て待て、さきはま鍛冶屋かじやばんばじゃの、海鬼ふなゆうれいじゃの、七人御崎みさきじゃの、それから皆がよく云う、弘法大師こうぼうだいし石芋いしいもじゃの云う物は、皆仮作つくりごとじゃが、真箇ほんとの神様は在るぞ」
 総之丞は眼を円くした。
「在りますか」
「在るとも」
 総之丞はもう何も云わなかった。総之丞は権兵衛の精神家らしい気もちを知っていた。権兵衛は歩きだした。総之丞も黙っていて往った。

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