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蟇の血(がまのち)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-25 8:57:43  点击:  切换到繁體中文


      ※(ローマ数字「V」、1-13-25)

 讓は日本室にほんまのようになった畳を敷き障子しょうじを締めてあった玄関のある方へ往くつもりで、廊下を左の方へ走るように歩いた。間接照明をしたようなぼうとした光が廊下に流れていた。そのぼうとした光の中には鬼魅きみの悪い毒どくしい物の影がしていた。
 讓は底の知れない不安にられながら歩いていた。廊下がへやの壁に往き当ってそれが左右に別れていた。讓はちょっと迷ったが、左の方から来たように思ったので、左の方へ折れて往った。と、急に四方が暗くなってしまった。彼はここは玄関の方へ往く処ではないと思って、後帰あともどりをしようとすると、そこには冷たい壁があって帰れなかった。讓はびっくりして足を止めた。歩いて来た廊下が判らなくなって一処ひとところ明採あかりとりのような窓から黄いろなが光っていた。それは長さが一尺四五寸、縦が七八寸ばかりの小さな光であった。讓はしかたなしにその窓のほうへ歩いて往った。
 窓は讓の首のあたりにあった。讓は窓の硝子ガラス窓に顔をぴったりつけてむこうを見た。その讓の眼はそこで奇怪な光景を見出みいだした。黄いろに見える土間のような処に学生のような少年が椅子に腰をかけさせられて、その上から青い紐でぐるぐると縛られていたが、その傍には道伴みちづれになって来た主婦の妹と云うわかい女と、さっきの小間使のようなじょちゅうが立っていた。二人の女は何かかわるがわるその少年を攻めたてているようであった。少年は眼をつむってぐったりとなっていた。
 讓は釘づけにされたようになってそれを見つめた。婢の方の声が聞えて来た。
「しぶとい人ったらありゃしないよ、何故なぜはいと云わないの、いくらお前さんが強情張ったってだめじゃないの、早くはいと云いなさいよ、いくらいやだと云ったってだめだから、痛い思いをしないうちに、はいと云って、奥様に可愛がられたら好いじゃないの、はいと云いなさいよ」
 讓は少年の顔に注意した。少年はぐったりとしたなりで唇も動かさなければ眼も開けようともしなかった。妹の方の声がやがて聞えて来た。
「強情はってたら、返してくれるとでも思ってるだろう、ばかなかたね、家の姉さんが見込んだ限りは、なんとしたって、この家から帰って往かれはしないよ、お前さんはばかだよ、私達が、こんなに心切しんせつに云ってやっても判らないのだね」
「強情はったら、帰れると思ってるから、おかしいのですよ、ほんとうにばかですよ、また私達にいびられて、にでもなりたいのでしょうよ」
 じょちゅう鬼魅きみの悪い笑いかたをして妹の顔を見た。
「そうなると、私達は好いのだけれど、この人が可哀そうだね、何故なぜこんなに強情をはるだろう、お前、もう一度よっく云ってごらんよ、それでまだ強情をはるようなら、お婆さんを呼んでおいで、お婆さんに薬を飲ませて貰うから」
 婢の少年に向って云う声がまた聞えて来た。
「お前さんも、もう私達の云うことはわかってるだろうから、くどいことは云わないが、いくらお前さんが強情はったって、奥様にこうと思われたら、この家は出られないから、それよりか、はいと云って、奥様のことばに従うが好いのだよ、奥様のお詞に従えば、この大きなおやしきで、殿様のようにして暮せるじゃないかね、なんでもしたいことができて好いじゃないの、悪いことは云わないから、はいとお云いなさいよ、好いでしょう、はいとお云いなさいよ」
 少年はやはり返事もしなければ顔も動かさなかった。
「だめだよ、お婆さんを呼んでおで、とてもだめだよ」
 妹の声がすると婢はそのままへやを出て往った。
 妹はそのあとをじっと見送っていたが、婢の姿が見えなくなると少年のうしろまわって双手りょうてをその肩に軽くかけ、何か小さな声で云いだしたが讓には聞えなかった。
 女は少年の左の頬の処へ白い顔を持って往ったが、やがてあかい唇を差しだしてそれにつけた。少年は死んだ人のように眼も開けなかった。
 二人の人が見えて来た。それは今の婢とうおの眼をした老婆であった。それを見ると少年の頬に唇をつけていた妹は、すばしこく少年から離れて元の処へ立っていた。
「また手数てすうをかけるそうでございますね、顔ににあわないごうつくばりですね」
 老婆は右の手に生きたいぼだらけのがまの両足をつかんでぶらさげていた。
「強情っ張りよ」
 妹が老婆を見て云った。
「なに、この薬を飲ますなら、わけはありません、どれ一つやりましょうかね」
 老婆が蟇の両足を左右の手に別べつに持つとじょちゅうが前へ来た。その手にはコップがあった。女はそのコップを老婆の持った蟇の下へやった。
 老婆は一声ひとこえうなるような声を出して、蟇の足を左右に引いた。蟇の尻尾しっぽの処が二つに裂けてその血が裂口さけぐちつとうてコップの中へしたたり落ちたが、それが底へ微紅うすあかく生なましくたまった。
「お婆さん、もう好いのでしょ、平生いつもくらい出来たのですよ」
 コップを持った婢はコップの血をすかすようにして云った。老婆も上からそれをのぞき込んだ。
「どれ、どれ、ああ、そうだね、それくらいありゃ好いだろう」
 老婆はがま脚下あしもとに投げ捨ててコップを受けった。
「この薬を飲んで利かなけりゃ、もうしかたがない、みんなでいびってから、えさにしましょうよ、ひっ、ひっ、ひっ」
 老婆は歯の抜けた歯茎を見せながらコップを持って少年の傍へ往って、隻手かたて指端ゆびさきをその口の中へさし入れ、軽がると口をすこしひらかしてコップの血をぎ込んだ。少年は大きな吐息をした。
 讓は奇怪な奥底の知れない恐怖にたえられなかった。彼はどうかして逃げ出そうと窓を離れて暗い中を反対の方へ歩いた。そこには依然として冷たい壁があった。しかし、戸も開けずに廊下から続いていたへやであるから、出口のないことはないと思った。彼は壁を探り探り左の方へ歩いて往った。と、壁が切れて穴のような処があった。讓は今通って来た処だと思ってそこを出た。
 ぼんやりした微白うすじろい光がして、そのさきに広い庭が見えた。讓は喜んだ。玄関口でなくとも外へさえ出れば、帰られないことはないと思った。そこには庭へおりる二三段になった階段がついていた。讓はその階段へ足をかけた。
 讓を廊下で抱きすくめたような女と同じぐらいな年恰好かっこうをした年増の女が、隻手かたてに大きなバケツを持って左の方から来た。讓は見つけられてはいけないと思ったので、そっと後戻りをして出口の柱の陰に立っていた。
 肥った女はちょうど讓の前の方へ来てバケツを置き、庭前にわさきの方へ向いて犬かなんかを呼ぶように口笛を吹いた。庭の方には天鳶絨びろうどのような草が青あおと生えていた。肥った女の口笛がむと、その草が一めんに動きだしてその中から小蛇こへび数多たくさん見えだした。それは青い色のもあれば黒い色のもあった。その蛇がにょろにょろといだして来て女の前へ集まって来た。
 女はそれを見るとバケツの中へ手を入れて中の物をつかみ出して投げた。それはなんの肉とも判らない血みどろになった生生なまなましい肉のきれであった。蛇は毛糸をもつらしたように長い体を仲間にもつらし合ってうようよとして見えた。
 讓は眼前めさきが暗むような気がして内へ逃げ込んだ。その讓の体はやわらかな手でまた抱き縮められた。
「どんなに探したか判らないのだよ、どこにいらしたのです」
 讓はふるえながら対手あいてを見た。それはの年増の女であった。

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