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放生津物語(ほうじょうづものがたり)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-26 15:31:20  点击:  切换到繁體中文

      一

 越中の放生津ほうじょうつの町中に在る松や榎の飛び飛びに生えた草原は、町の小供の遊び場所であった。その草原の中央なかほどの枝の禿びた榎の古木のしたに、お諏訪様と呼ばれている蟇の蹲まったような小さな祠があったが、それは枌葺そぎふきの屋根も朽ちて、木連格子の木目も瓦かなんぞのように黒ずんでいた。
 初夏の風のないむせむせする日の夕方のことであった。その草原から放生湖の方に流れている無名ななし水の蘆の茂った水溜で、沢蟹を追っかけていた五六人の小供の群は、何時の間にか祠の前へ来ていくさごっこをしていたが、それにも飽いたのか皆で草の上に腰をおろした。それはその中の一人が話をはじめたがためであった。その話は神通川のほとりになったあんねん坊の麓に出ると云うぶらり火のことであった。ぶらり火は佐々内蔵介成政が、小百合と云う愛妾と小扈従竹沢某との間を疑って、青江の一刀で竹沢を斬り、広敷へ駈け入って小百合の長い黒髪を掴んで引出し、それを神通川へ持って往ってさげ斬りに斬って、胴体はそのまま水に落し、かしらは柳の枝に結びつけたので、小百合の怨みのぶらり火が出るようになったが、それ以来神通川を渡ってあんねん坊を越えて往く成政の軍は振わず、とうとう小百合のことから家が滅んだと云うそのあたりに残っている伝説であった。
「ぶらり火の出る処には、髪を上から掴まれたような女の首がある、自家うちのお祖父さんが見たと云うよ」
「怕いなあ」
「怕いとも」
「今でも出るじゃろうか」
「出るとも、髪がこんなになった女の首が、ぶらりんと出て来るよ」
 ぶらり火のことを話していた十四五に見える小供は、両手で髪の上を掻きあげるようにしながら、獅子鼻の鼻糞の附いている鼻を前へ突き出すようにした。
「松公、おぬしは放生の亀の話を知っておるか」
 獅子鼻の右横になった松の浮根に竹馬に乗るようにしていた小供が、獅子鼻に向って云った。
「放生のうみには、川の幅が狭って、海へ出られん亀の主がおるよ」
 獅子鼻は何でも知っているぞと云うような得意な顔をした。
「そんな話じゃないよ」
 松の浮根に乗っている小供が獅子鼻を押えつけるように云ったので、獅子鼻は面白くなかった。
「それなら、どんな話じゃ」
「ある人が、夏、放生のうみへ舟を乗りだして、寝ておると、何時の間にかじぶんが魚になって、湖の中で泳いでおる、どうして魚になったろうと思いよると、そこへ他の魚が来て、海の神様が来たから、お前も同伴いっしょに往けと云うから、同伴に踉いて歩きながら己を見ると、己は黄色な大きな鮒になっておる、どうも不思議でたまらんから、理由わけを聞きたいと思うたが、聞くこともできんから、そのまま踉いて往くと、大きな大きな龍宮のような御殿があって、王様のような者がおって、皆の魚がその両脇に並んでおるから、己も其処へ往って坐っておると、黒い素袍を着た大きな大きな魚が王様の前へ出て来た、傍の者に聞くと、あれは赤兄あかえ公じゃと云うてくれた。その赤兄公が王様に、私は王様の処へ往きたいが、体が大きくて川の口が出られませんと云うと、王様は、それは承知で、お前を此処へおいてあるが、このごろ聞くと、村の人達が、うみの泥をあげて田を作ろうとすると、お前が亀に云いつけて、その人を喫い殺さすそうじゃ、不都合じゃ、その罰に毒蛇に云いつけて、鱗の中へ鉄虱をわかして苦しめてやると云うと、赤兄公は、それは違うております、村の人達が湖の泥を採ると、泥の中に住んでおるすっぽんが、子や孫を殺されますから、困って村の人を威して、泥を採ることを止めさせようとすると、村の人は泳ぎが下手でございますから、溺れて死にますと云うと、王様は鼈を呼び出して、赤兄公が云うことが真実ほんとうかと聞いた、鼈はそのとおりでございますが、困ったことには、村の人が亀が人をとるからには、亀を退治しなくてはならんと云うております、もし私達が逃げますと、亀と蛇とはいっしょだからと云うて、城址の桑の木に住んでおる蛇をき殺します、それを、もう、蛇が知って、毎晩泣いております、どうか蛇も殺されず、私達の子や孫も殺されないようにしてくだされ、と云うと、王様が、それでは村の人達に云いつけて、うみの中の島へ亀の宮をこしらえさして、その下へ亀の一族を住わすことにしたらよかろう、それには、今日鮒になった男を、元の人間にして、村の人に云わさすがええと云うて、王様はんでしもうた、鮒になった男は、どうして元の人間になろうかと云うと、漁師の垂れたつりばりに釣られるか、網に採られるかして、人間に料理してもらえば、元の人間になれると教えてくれたから、鉤を探したが、漁師が来んから鉤がない、それなら網に採られようと思うても、網を打つ者がない、そのうちに村の人たちは、亀を祭るなら、亀が人を採らんようになるじゃろうと云うて、島の中へ亀の宮を建ててしもうた、鮒になっておった人は、早く人に採られよう、採られようと思うておるうちに、やっと金沢あたりから遊びに来た人が、網を打ったが、一人の網を打った人は上手で、前へ網を投げたから入れなかったが、一人の人は下手で、網がからみあって舟の下へ落ちたから、その網にかかってあがって、頭を切りはなして料理をしてもらうと、人間になって、元寝ていた舟の中で眼がさめたが、もう亀の宮が出来ておったから、そのことを人に話しても、何人だれもほんとうにするものがなかったと云うよ」
 松の浮根に乗っている小供の話はそれで終った。獅子鼻の小供は何時の間にかその珍らしい話に釣りこまれていた。
「それでは、彼の島の中にあるお宮は、亀の宮か」
「そうとも」
 松の浮根に乗っている小供は、何がおかしいのか笑い顔をした。
「人が鮒になったら面白かろうなあ」
「赤兄公とは何じゃろう」
「城址の桑の木には、どんな蛇がおるのじゃろう」
 他の小供も皆その話に釣りこまれていた。すると松の浮根に乗っている小供は声を出して笑いだした。
「なぜ笑や」
 獅子鼻の小供が不思議そうにその顔を見た。
「なぜ笑やって、その話は嘘じゃよ、これはある学者が、嘘に云うた話じゃそうじゃ、自家うちの伯父さんが話したよ」
「な、あ、んじゃ、嘘の話か」
 獅子鼻の小供をはじめ他の小供も笑いだした。その笑い声のやや納まりかけた時、「あすこへ、江戸から来た小供が来た、小供が来た」と云う者があった。獅子鼻の小供はむこうを見た。
「そうじゃ、彼の子じゃ、だましてやろうか、何人だれぞ呼うで来い」
 松の浮根に乗っている小供が云った。
「俺が知っておる、呼うで来い」
 草原の出外れに見える二三軒の藁屋根のある方から十歳とお位に見える色の白い小供が来ている。と、此方から一人の小供が往って往きあうなり何か云っていたが、直ぐ二人で伴れ立って此方へ来た。小供達はそれを見ると云いあわしたように起きあがった。松の浮根に乗っていた小供は二人の前へ立ち塞がるように出た。
「お前は何と云う名じゃ」
 色の白い小供は足を止めた。
「おいらは源吉と云うのだ」
「そうか源吉か、今日からいっしょに遊うでやるから、彼の神様の前へ往って」松の浮根に乗っていた小供は、祠の方へ指をさして「地べたへ坐って、お諏訪様、お諏訪様、いっしょに遊びましょうと云いな。お諏訪様は小供が好きじゃから、出て来ていっしょに遊うでくれる、なあ、みんな」
 松の浮根に乗っていた小供のことばに続いて皆が返事をした。
「そうじゃ」
「そうじゃ」
「そうじゃ」
 源吉と云った小供ははにかむように眼を伏せながら聞いた。
「お諏訪様ってどんなものだ」
「そうじゃ、白い、白い蛇のような姿をしておるよ」
「白い蛇」
 源吉はちょっと驚いたように云って相手の顔を見た。
「そうじゃ、白い蛇じゃが、神様じゃから怕いことはないよ」
「そう」
「やってみな」
「そう」
 源吉はそう云って邪気の無い眼をくるくるさして対手を見た後に祠の方へ往った。祠の右側に並んだ榎の枝には一条の微陽うすびが射していた。源吉は祠の前へ往くとそのまま短い草の生えた処にちょこなんと坐った。それを見ると松の浮根に乗っていた小供は、獅子鼻の顔をはじめ仲間の顔をつらつらと見たが、悪戯そうな笑いたくてたまらないと云う顔であった。
「さあ、云いな」
 松の浮根に乗っていた小供にうながされて源吉は口を切った
「お諏訪様、お諏訪様、いっしょに遊びましょう」
 それは敬虔な云い方であった。それを聞くと小供達の笑い顔が集まった。松の浮根に乗っていた小供は、手をふってそれを押えるようにした。
「お諏訪様、お諏訪様、いっしょに遊びましょう」
 源吉は後から後からと繰りかえした。松の浮根に乗っていた小供は、源吉がそうして一心になって傍見わきみもしないのを見きわめると、手をあげて皆を招くようにしておいて、先ずじぶんで爪立ちながら跫音のしないようにして歩きだした。それを見ると獅子鼻をはじめ仲間の小供達も、その後からそれと同じような恰好をしながら踉いて往った。そうして置きざりにして逃げて往く小供達の耳に源吉の声がきれぎれに聞えていた。

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