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銀の笛と金の毛皮(ぎんのふえときんのけがわ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-13 6:49:30  点击:  切换到繁體中文

    一

 むかし、あるところに、エキモスという羊飼いの少年がいました。父も母もないみなし児で、毎日、羊のむれの番をしてくらしていました。
 青々とした野原に、羊たちはたのしくあそんでいます。野の花のあいだに、うつくしい蝶がとびまわっています。木立こだちのなかや空たかくに、いろんな鳥がさえずっています。日がうららかにてっています。
 エキモスは草の上にねころんで、歌をうたいました。口笛をふきました。草の葉でいろいろな笛をこしらえました。あしくきでも笛をこしらえました。
 ――自分も、あの小鳥のようにうたいたい。けれども、いくらうたっても、笛をふいても、小鳥にはおよびませんでした。
 そのうちに、ある日エキモスは、葦のしげみのなかに、まっ白な葦を一本みつけました。太くてまっすぐにのびて、白く銀のように光っています。エキモスはめずらしさに、しばらくぼんやりながめていましたが、ふと、かんがえました。
 ――あれで、笛をこしらえたら……。
 すぐに、ナイフで、そのあしをきりとって、笛をこしらえました。そしてふいてみました。が、少しもなりません。葦笛はただ銀のようにひかっているだけでした。
 エキモスはがっかりしました。けれども力をおとしませんでした。次のふしでまた笛をこしらえました。がそれもなりませんでした。
 三つ、四つ、五つ……いくら笛をこしらえても、どれ一つとしてなるものはありませんでした。けれど、笛がならなければならないほど、エキモスはなお一生けんめいに、笛をつくりました。今にすばらしいのができる、とそんな気がしました。
 とうとうさいごの一節になりました。それでだめだったら、もうまっ白なめずらしい葦もなくなってしまうのです。
「おう、神さま!」
とエキモスはさけびました。あらんかぎりの心をこめて、さいごの笛をこしらえました。そしてこわごわ、ふいてみますと……。
 エキモスはおどり上がりました。うれしさに涙ぐみました。なります、なります。なんともたとえようのない美しいがします。
 エキモスは涙をながしながら、銀色に光るその葦笛をながめました。そしてまた口にあてました。ふきならしました。なんという美しい音でしょう。小鳥のさえずりにもまけません。
 エキモスは笛をうちふりながら、野原のなかをかけまわりました。それから森のはずれの木かげにねころびました。そしていろんな歌をむちゅうになってふきつづけました。
 するうちに、ふと、気がつくと、羊たちがいつのまにかあつまってきていました。木の上には、多くの小鳥がじっととまっていました。エキモスはほほえみました。羊や小鳥があつまってきて、自分の笛をきいていてくれることが、とてもうれしかったのです。
 ところが、羊と小鳥だけならよいが……。エキモスはびっくりしてとび上がりました。森の中に、どこから出てきたのか、さるや、おおかみや、きつねや、野兎のうさぎや、鹿しかや、獅子ししや、たかや、わしなど、いろんな鳥やけだものが、あちらこちらにうずくまっているのです。
 エキモスはどうしていいかわかりませんでした。ことに狼や獅子にはびっくりしました。羊や自分も食われてしまうかもしれません。彼はもう笛のこともわすれて、あとずさりしながら、羊のむれのなかににげこみました。がそのおそろしい獣たちは、じっとうずくまったまま、おっかけてはきませんでした。やさしい眼をして見おくっているだけでした。
 エキモスは鈴をならして、羊のむれをつれて小屋へかえっていきました。
 翌日、エキモスはまた羊のむれをつれて、野原にでました。おそろしい鳥や獣はいませんでした。エキモスは安心して、羊たちを野原のなかにちらばして、自分は木かげにやすんで、白い葦笛あしぶえをふきはじめました。とても自分がふいているのだとはおもわれないほど美しいでした。天からひびいてくるような歌でした。
 そのうちに、笛の音をききつけて、羊たちは近くにあつまってきました。小鳥たちもとんできました。みんなだまってきいています。それからなお、森のおくの方から、いろんな鳥やけだものがでてきました。おおかみ獅子ししのようなおそろしいのもでてきました。がエキモスはさほどおどろきませんでした。ただ笛をききにでてきたのだということが、そのようすでよくわかりました。
 獣のうちに、五六ぴきの鹿しかがいました。大きなつのの頭をかしげて、笛にききいっています。そのまんなかに、ひときわ大きいのが一ついて、角のかわりに獅子のようなながいたてがみがはえ、全身の毛が金色に光っていて、眼が青々とすみきっていました。
 その金の毛の大きな鹿には、エキモスもびっくりしました。そんな鹿は、これまでみたこともなければ、話にもきいたこともありません。エキモスが笛をやめて、うっとりみとれますと、鹿はその青くすみきった眼で、わらっているようでした。
 エキモスは鹿のそばにやっていきました。金色のふさふさしたたてがみをなでてやりました。鹿はうれしそうにすりよってきます。エキモスが笛をふきだすと、鹿はそばにすわってききいっています。そうして、エキモスと金色の鹿とは、いちばんなかのよいともだちになりました。
 エキモスにとっては、何もうれしいことばかりでした。白い葦笛あしぶえはいくらふいてもあきません。笛をふくと多くの鳥や獣がそれをききにでてきます。みんな仲よくして、ただ笛をきいているだけです。そのなかで、金色の鹿が王さまのように光っています。エキモスはいつもその鹿とつれだってあるきます。夕方になると、獣たちは森のおくに、鳥たちは空たかく、そしてエキモスと羊たちは小屋に、それぞれかえってゆくのです。毎日うららかに日がてって、野にはいろんな花がさいています。
 ところが、ある日、金色の鹿がすがたをみせませんでした。ほかの鳥や獣はでてきましたが、金色の鹿しかだけは、エキモスがいくら笛をふいても、夕方までまってもでてきませんでした。
 その翌日も、金色の鹿はやはりでてきませんでした。エキモスは心配になりました。それからかなしくなりました。もう笛をふく気もしませんでした。――金色の鹿はどうしたろう! エキモスはそのことばかり考えました。

      二

 金色の鹿がでてこなくなってから三日目の朝、エキモスはもう何のたのしみもなく、ただいつもの仕事をして、羊のむれをつれて野原にでました。葦笛あしぶえをふく気にもなれませんでした。
 すると、エキモスがやってくるのをまちうけてでもいたかのように、多くの鹿が森からかけだしてきました。そのうちの一つが、エキモスの上衣うわぎのはしをくわえて、しきりに森の方へひっぱります。
 何か用があるんだな、とエキモスは思いました。といっしょに、金色の鹿のことが胸にうかびました。もうじっとはしていられません。羊のむれをそこにのこして、鹿につれられて森のなかにはいっていきました。
 森のおくふかくなると、人のとおった道もありません。それに、崖があったり坂があったりします。エキモスは一生けんめいに歩きましたが、やがてつかれてきて、足がうごかなくなりました。すると、大きなつののはえた鹿が、エキモスの前にかがんで、背なかをさしだしました。エキモスはその背にのって、しっかと角にしがみつきました。鹿は走るように早く歩きだしました。
 うちひらけたところにでたり、森にはいったり、坂をのぼったり、谷川をわたったりしました。どれくらいきたのかわかりませんが、山ふかいところで、ふいに、谷川のそばの平地にでました。やわらかな草がいちめんにはえて、何ともいえぬよい香りの花がさいています。そしてたくさんの鹿しかがでむかえています。
 その平地のおくの、がけの下のところに、エキモスは鹿の背からおろされました。
 みると、すぐそこの、草の上に、あの金色の鹿がよこたわっていました。エキモスは声をたててかけよりました。
 金色の鹿は、そこによこたわったまま、身うごきも出来ませんでした。とぎれとぎれに、かすかな息をして、じっとエキモスの方をみているだけでした。しらべてみますと、肩のあたりから血が流れています。鉄砲でうたれたらしいんです。もうてあてのしようもありません。死にかけているんです。
 エキモスはかなしさに涙ぐんで、そのそばにすわって、ひざのうえに頭をのせてやりました。鹿はうれしそうに眼をつぶりました。エキモスは、その獅子ししのようにながいたてがみをなでてやりました。それから白い葦笛あしぶえをとりだして、さいごのわかれにふいてきかせました。
 エキモスが心をこめてふく葦笛は、とてもいいあらわせない美しいひびきをたてました。谷川の水も、しばらくながれやんで、ききいりました。
 エキモスが笛をふきやめると、もう、金色の鹿は死んでいました。
 エキモスはそのまま、ながいあいだすわっていました。それから、金色の毛皮をすこし、かたみに切りとりました。そして死体を、そこの崖の下にうずめてやりました。
 エキモスが帰りかけると、また、多くの鹿しかがおともをして、つのの大きな鹿がエキモスを背なかにのせてくれました。そして、がけや坂や谷川や森をこして、もとの野原にもどってきました。
 羊のむれは、しずかに草をたべています。蝶はとんでいます。小鳥はさえずっています。けれど、エキモスは気がはれませんでした。金色の鹿のかたみの毛皮で、だいじなものをいれる袋をつくって、こしにさげましたが、かなしさはまぎれません。笛をふく気にも、とてもなれません。
 ――だれが、あの鹿を、鉄砲でうったんだろう。
 そう考えると、くやしかったり、さびしかったりして、どこか旅にでもでてしまいたくなりました。羊たちもかわいいけれど、金色の鹿が死んだかなしみの方が、もっとつようございました。
 エキモスはついに決心して、主人のところへいって、ひまをもらいたいと願いました。
 主人はエキモスをひきとめたがりました。けれど、その話をきき、そのかなしみと決心とをみて、願いをゆるしてくれました。
「それでは、都でも見物してくるがよい」と主人はいいました。「都にはいろいろおもしろいことがあるから、気がはれるかもしれない。けれど、おもしろいのはうわべだけで、ずいぶん悪い人が多いから、気をつけなければいけないよ。そして、また戻ってきたくなったら、いつでも戻っておいで、使ってあげるから」
 エキモスはお礼をいって、主人からもらったお金を毛皮の袋にいれ、白く銀色に光る葦笛あしぶえをもって、ほかにはなんの荷物もなく、つれもなく、ぼんやりでかけました。
 だいぶいってから、エキモスは、道ばたの木かげに休みました。そしてはじめて、どちらへいったものかと考えました。主人がいうように、都へゆくのもいいかもしれないと思いました。
 ――だが、都へゆけば、お金がたくさんいるだろう。これだけでたりるかしら。
 エキモスは皮袋かわぶくろをひらいて、主人からもらったお金をかんじょうしかけました。そしてびっくりしました。皮袋のなかのお金は、みんな金貨ばかりでした。でも、そんなはずはありません。主人からもらった時はたしかに、銀貨や銅貨もまじっていました。それが、みな金貨ばかりになっているのです。
 エキモスにはわけがわかりませんでした。ふしぎそうに皮袋をながめました。
 ――もしかしたら、あの金色の鹿しかの毛皮だから……。
 ためしに、道の小石をひろって、皮袋にいれてみました。とりだしてみると、それが、黄金こがねになっています。
 エキモスはびっくりして立ち上がりました。いくつ小石をいれても、とりだすと黄金になっています。それがおもしろくて、やたらに小石を黄金にしては、四方しほうになげちらしました。
 ――ふしぎな皮袋だ。あの金色の鹿の毛皮でこしらえたのだ。
 それさえあれば、都にいっても不自由はしません。エキモスは都にいくことにきめました。
 ふしぎな皮袋とふしぎな葦笛あしぶえ……。エキモスは、にわかに元気がでてきました。そして都をさしてやっていきました。

      三

 まだ汽車や飛行機のないころのことです。エキモスは、いく日かのんきな旅をして、ようやく都につきました。
 大きなりっぱな家が、たちならんでいました。うつくしいものが、店いっぱいにかざってありました。そしてなによりも、人間が多いのにエキモスはびっくりしました。ありのすをつついたように、たくさんの人がいそがしそうにあるきまわっていました。
 夕方になると、いちめんに灯がともって、町はいっそうきれいになり、うつくしくきかざった人が、いっそう多くなりました。
 エキモスははらがすいてきましたので、あるりっぱなホテルにはいっていきました。ぴかぴかひかるガラス戸のおくに、白い服をきた男がたっていました。そしてエキモスのようすを、じろじろながめて、いいました。
「ここは、お前さんのような者がくるところではない。食事がしたいんなら、ほかをたずねてごらん」
 エキモスは外に出ました。しばらくゆくと、また、うつくしくきかざった人たちが出入りしてる、りっぱなホテルがありました。そこにはいっていくと、ガラス戸のおくの白い服の男が、エキモスのようすをみながらいいました。
「ここは、お前さんのような者がくるところではない。食事がしたいんなら、ほかをたずねてごらん」
 エキモスはうなだれて外にでました。
 ぼんやりあるいていると、なおいくつも、りっぱなホテルが、ならんでいましたけれど、もうはいってみる気もしませんでした。
 ――どうして、食事をさせてくれないんだろう。
 そう思うと、なおはらがすいてきますし、かなしくなりました。
 いつのまにか、大きな川のふちにでました。川には、むこうがわの灯がちらちらうつって、きれいでしたが、川のふちは、人どおりもすくなく、うすぐらくて、ひっそりしていました。
 しばらくゆくと、すこしひろいところがあって、大きな木が四五本うわっていて、そのなかに、ちいさな噴水ふんすいがありました。ふるいきたない服をきて、靴もはかず、帽子ぼうしもかぶらないでいる、年をとった男が、噴水の水をのんでいました。
 エキモスは、はらがすいていますし、のどもかわいていましたので、その男にたずねました。
「その水は、だれでものんでいいんですか」
 年とった男は、ふりむいてこたえました。
「のんでいいとも。だが、うまい水じゃあないよ」
 でも、エキモスはうまそうにのみました。そのようすをみて、年とった男はいいました。
「お前さんも、どうやら、はらがすいてるようだね」
「ええ」とエキモスはこたえました。「どこでも、たべさしてくれないんです」
「どこでも……」
 エキモスは、りっぱなホテルから、おいだされた話をしました。年とった男はわらいました。
「そりゃあ、そうしたもんだよ。お前さんみたいな、きたないなりをした子供に、あんなところで食事をさせてくれるものかね」
「だって僕、お金はもってるんですよ」
 エキモスは、皮袋かわぶくろから金貨を一つとりだして、みせました。
「ほう」
 男はふしぎそうに、金貨とエキモスの顔をみくらべています。エキモスはいいました。
「おじさん、どこか、これでなにかをたべさせてくれるところはありませんか。おじさんもおなかがすいているんなら、いっしょにたべましょうよ」
「なるほど、それもいいが……」と男はかんがえながらいいました。「二人きりでたべるのは、すこしもったいないな」
「ほかにもまだ、おなかのすいてる人があるんですか」
「あるとも、たくさんあるよ。からだがわるかったり、靴がなかったりして、しごとをしにでかけられない者が、いくらもあるからね」
「じゃあ、そんな人とみんなで、たべましょうよ」
 年とった男は、とてもうれしそうな顔をしました。きゅうにげんきになって、かけだしていきました。しばらくすると、十四五人の男たちをつれて、もどってきました。靴のない者ややせほそった者で、みんなしょんぼりしていました。年とった男は、エキモスをさしてさけびました。
「この人が、おれたちにごちそうしてくださろうという、神さまのお使いだ」
 人々は、エキモスをまんなかにかこんで、うれしそうにあるいていきました。うらどおりのせまい町すじを、右にまがったり、左にまがったりして、やがて、ちいさなたべもの屋にはいりました。
 天井てんじょうのひくい、きたない部屋で、木のテーブルと木のこしかけとがならんでいて、ランプがくすぶっていました。でも、そこにいっぱいになった人々の顔は、どんなうつくしいあかりよりも、もっとはればれとかがやいていました。
 エキモスは、部屋のおくにたっている主人のところにいって、皮袋かわぶくろから金貨を五つとりだして、かんじょう台のうえにならべました。
「これで、みんなの人に、うまいごちそうをしてください」
 主人は、びっくりしたようすをしました。そして五つの金貨をとって、皆の方へそれをうちふりました。
「おい、みなさん、これだけのごちそうだとよ」
 わーっとよろこびの声があがりました。
 声がでなくて、涙ぐんでる者もありました。エキモスもうれしくて、涙がでてきました。
 酒がでました。ごちそうがでました。たいへんなさわぎでした。みんな元気になりました。やせほそった病気の者も、あしたから仕事へでかけるといいだします。みんなが仕事のことをはなします。エキモスはまた金貨をとりだして、靴のない人たちのために、靴をかってきてもらいました。みんなが、あしたからは、自分たちだけで、都じゅうの仕事をするような、元気です。そしてはらいっぱいに、のんだりたべたりしました。
 しまいには、「神さまのお使い」のエキモスを胴上げして、よろこびさわぎました。
 夜がふけました。エキモスがねむそうな眼になりますと、たべもの屋の主人は、そまつな家ですが、そのなかのいちばんよい部屋につれていって、ねかしてやりました。

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