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夢の卵(ゆめのたまご)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-13 14:27:15  点击:  切换到繁體中文

     一

 遠い昔のことですが、インドの奥に小さな王国がありました。その国の王様の城は、高い山のふもとに堅い岩で造られていました。前にはきれいな谷川が流れており、後ろには広い森が茂っていました。谷川の水はいつも冷たくみきって、こけむした岩の間にさらさらと音を立てていますし、森の奥には何百年となき古い木が立ち並んで、魔物が住んでると言われていて、ほとんど誰も足を踏み入れる者がありませんでした。
 その城に、美しい若い王子が一人ありました。朝のうちは、えらい学者達についていろんなことを学び、午後になると、城の中の庭を駆け廻ったり、城の前の谷川で遊んだり、また時には、谷川の向こうの町やその近くの野原を、象の背に乗って散歩しました。晩には、国王に仕えている年とった侍女達じじょたちから、おもしろい話をききました。そして夜眠ってからは、さまざまな夢をみました。鳥やけだものや虫や花やけ物や、そのほか見たことも聞いたこともない不思議なものが、夢の中に出てきました。
 それらの夢をみることが、王子にとっては一番の楽しみでした。そして翌朝になると、侍女じじょや学者達に、また国王や女王へまでも、夢の話をしてきかせました。水の精から銀の魚をもらったことだの、真珠しんじゅの眼玉を持ってる小鳥のことだの、空いっぱいにまっ赤な花を開いた大きな草のことだの、奇妙きみょうな声で歌いながら踊る虫のことだの、五色の息を吐く怪物のことだの、自由自在じゆうじざいに空を飛び廻る仙人のことだの、いくつもいくつもありました。
 王子があまり夢のことばかり話すものですから、国王はある時王子をたしなめました。
「そんなに夢のことばかり考えないで、お前はもっと確かなことに心を向けなければいけない。学者達についてもっと熱心に勉強しなければいけない。学問というものは、みな確かな本当のことばかりで、深くはいると、夢よりもいっそう不思議なおもしろいものだ。ところが夢の方は、みな不確ふたしかな嘘ばかりで、眼がさめると消えてなくなるではないか」
 けれど王子にとっては、夢もやはり学問と同じように、確かな本当のことであると思われました。ただ、国王から言われた通り眼がさめると消えてなくなるのだけが不満でした。もし、眼がさめてからも夢が消えなかったら……! 夢をつかまえることが出来たなら……!
「そうだ、夢を捕えてやろう」と王子は考えました。
 ところがどうして夢を捕えてよいか、いくら考えてもわかりませんでした。それで王子は学者達に、夢を捕える仕方しかたをたずねました。けれどいくら学者達が知恵をしぼっても、そんなことはとても考え出されませんでした。
「夢を捕えることばかりは、私共の知恵も及びませぬ」と学者達は答えました。
 それでも王子は力を落としませんでした。この上は自分一人で夢をつかまえてやろうと決心しました。夜寝る時、一生懸命にその覚悟をしておいて、それから眠りました。そして夢の中にいろんなものが出て来ると、はっと眼を覚ましながら両手を差し出しました。けれどその時には、もう夢は消えてしまっていました。王子は口惜くやしくてたまりませんでした。どうかして夢を捕えたいと思って、両手を布団ふとんの外に出して寝ましたし、しまいには、網やかごなんかを手に握って寝ました。そして夢をみてから、はっと眼がさめるかさめないうちに、網や籠を夢の上に押っかぶせようとすると、もう夢は消えてしまっていました。何度やっても同じことでした。
「どうしたらいいかしら?」と王子は昼も夜も、そのことばかりを考えていました。
 ある夜、王子は疲れきった悲しい心で、いつもより深く眠ってしまいました。すると間もなく、また夢をみました。……紫色の雲が遠くから飛んできます。それをじっと見つめていると、もやもやとしたその雲が、自分のすぐ前までやって来て、その中から、身体中まっ白な長い毛の生えた老人の姿が、ぼんやり浮かび出ました。老人はにこにこ笑いながら、王子に向かって言いました。
「王子、あなたがいくら骨折ほねおっても、夢を捕えることは出来ません。けれど、あなたがあまり熱心なのにめんじて、夢の精を一つ見せてあげましょう。私はこの城の後ろの森の王です。これからすぐに私をたずねておいでなさい。森の奥の奥に大きなかしの木があります。それが私です。私のふところに夢の精が一ついます。みごと私をたずねて来ましたら、その夢の精と一日遊ばしてあげましょう」
 王子はまだなかば夢からさめずに、いきなり飛び起きました。とたんに、老人の姿は雲と共にすーっと消えてしまいました。王子はしばらくぼんやりしていましたが、やがて老人の言葉をはっきり思い出しました。そして、是非ぜひともその言葉に従わねばならないような気がしました。

      二

 王子は身仕度みじたくをし、長い外套がいとうをつけまるい帽子をかぶり、短い剣をこしにさして、誰にも気づかれないように、そっと城をぬけ出しました。外はまっ暗な夜でしたが、不思議なことには、ほの白い一筋の道が森の方へ通じています。その道を歩いてゆくと、ちょうど土手どてでも乗り越すように、高い城壁じょうへきをもわけなく越せました。それから先は、魔物が住んでいるという森の中へ、けわしい坂になっています。けれど王子はほの白い道を頼りに、恐れる気色けしきもなく、ずんずん進んで行きました。高い山のいただきの方へ、深い森の中を上ってゆくのですが、まるで宙をかけるように、少しも骨が折れないで、非常に早く道がはかどりました。王子はそれに力づいて、息をするまも立ち止まらずに、まっしぐらに上って行きました。
 ところが、城から山の頂までの半分ほどの所で、今まで王子の前にほの白く続いていた一筋の道が、ぷつりと切れてなくなりました。王子はびっくりしてあたりを見廻しました。どこからさすとも知れぬぼんやりした明るみに透かして見ますと、何百年たったか知れないほどの大きな木がまっ直に立ち並んでいまして、その枝葉の茂みが空をおおいつくしています。ちょうど、大きな円柱の立ち並んだ広々とした部屋の中にはいったようです。しかもその部屋の広さが限りない上に、燈火ともしびの光もなく、何の飾りもなく、足下あしもとにはじゅうたんのかわりに、名も知れぬ気味きみ悪いかずらいばらが、積もり積もった朽葉くちば枯枝かれえだの上にはいまわっています。王子は恐ろしくなって立ちすくみました。
 そのうちに、今まで静かだった森が、ごーッごーッと底深いうなり声を立て始めました。その唸り声の間から、重い鈍い声が四方から王子へ呼びかけてきました。
「誰だ?」
「何しに来た?」
「どこの者だ?」
「どこへ行くのだ?」
「何者だ?」
 王子はうすあかりにきっと見廻しましたが、ただ声だけで何の姿も見えず、大きな木がけ物のように立ち並んでるだけでした。そして森全体はやはり、ごーッごーッと唸り続けていました。
 王子は恐ろしさに震え上がりそうなのを、じっと押しこらえて、剣のつかを握りしめながら、一生懸命に叫び返してやりました。
「僕はこの山の下の城の王子だ。森のかしの木に逢いに来た。どこにいるのだ? 返事をしないか」
 すると、「おーう」というほえるような声が一つ、森の唸り声の中から一際ひときわ高く聞こえてきました。王子はもう命がけになって、その声の聞こえた方へ、いばらかずらの中を踏み分けて進んでゆきました。
 しばらく行くうちに、はるか向こうの方から、ぼーっと薄赤い光がさしてきました。王子はにわかに力強くなって、その光の方へ飛んで行きました。そして、あッ! と叫んだまま棒立ちになってしまいました。
 それももっともです。すぐ眼の前に、何千年たったとも知れない、また何の木とも知れない、城のやぐらほどもある大きな木のみきが、すっくとつっ立っていまして、その上の方に洞穴ほらあなみたいな穴がありまして、穴の口に、こちらを向いて、金色こんじきの大きな鳥がとまっているではありませんか。その鳥の全身から出る金色の光に、王子は眼がくらみそうになりました。それからようやく気をとりなおして、じっと向こうを見やりました。すると、何故なぜともなく、その大きな木は森の王の樫で、その金色の鳥は夢の精だということを、王子は知りました。森のうなり声はいつの間にかやんでいました。
 鳥はそのめのうのような赤い眼で、王子の姿をじっと眺めましたが、しばらくするといきなり大きな翼を広げて、王子の前に飛び下りてきました。そして足を屈め頭を垂れて、背中に乗れとでもいうようなようすをしました。王子はちょっと迷いましたが、鳥のめのう色のやさしい眼を見ると、すっかり信じきった気持ちになって、その背中へ飛び乗って、柔らかい首筋くびすじへしっかとしがみつきました。
 王子が背へ乗るが早いか、鳥は大きな金色の翼を動かして飛び上がりました。不思議なことには、そんな大きな翼で飛んでるのに、少しも空を切る音がしませんでした。一瞬間しゅんかんのうちに、森の枝葉かれはの茂みの上にぬけ出て、それから空高く舞い上がり、一時間に何百里という早さで、どこともなく飛んで行きました。

      三

 王子は一生懸命に鳥の首筋にしがみついていましたが、だいぶたって、鳥がにわかに飛ぶのをやめましたので、恐る恐る眼を開いてみますと、まあどうでしょう。そこは雲の上までそびえ立った高い山のいただきで、はるか向こうの方に五色ごしきの雲がたなびいて、その中からまんまるい太陽がぎらぎら出てくる所です。一面に銀の粉がまき散らされたような空と五色の雲とに、出たばかりの太陽の光がぱっと輝り映えています。あまりの美しさに、王子は我を忘れて眺め入りました。
 しばらくたつと、鳥が一つ羽ばたきをしましたので、王子はまたしっかとその首筋くびすじにしがみつきました。鳥はやはり一時間に何百里という早さで、そして音も立てずに飛んでいって、今度は広い牧場の中の一本の木の上にとまりました。見渡す限りはてもない広々とした牧場で、いろんな花が一面に咲き乱れていまして、草の葉にたまった水銀の露の玉をとばしながら、雪のようにまっ白な羊の群が遊んでいます。
 しばらくすると、鳥はまた一つは羽ばたきをして、王子がその首筋にしがみつくのを待って、やはり一時間に何百里という早さで、別の所へ飛んで行きました。
 そういうふうにして、王子は金色の鳥に連れられて、たくさんの不思議な所を見て廻りました。水の精達が遊びたわむれる河のふちをも見ました。はえのような小さな小鳥の国をも訪れました。魔法使いの住んでる洞穴ほらあなへも入りました。虹の橋をも渡りました。月の世界へも行きました。天の川へまでも上りました。その一つ一つをくわしく言っていると、いつまでたっても話しきれるものではありません。世にありとあらゆる不思議な所ばかりですもの。皆さん自分で想像してごらんなさい。けれど恐らく皆さんの想像も、その昼から夜へかけて王子が見ました事柄ことがらの、千分の一、万分の一にも及ばないでしょう。
 さて、数限りない星が集まって河原の砂となり、青くみきった水がゆったりと流れてる、あの天の川を見てしまって、王子がまた金色こんじきの鳥の背中に乗ると、鳥は天から地上へ舞い下りてきました。地上へ近づくにしたがって、西の山のに沈みかけた月の光で、ぼんやり下の景色が見て取れました。今度はどこへいくのかしらと、王子は眼を見張って眺めました。まっ黒な山、山の腹に茂ってる森、森のすそにある城、城の前に広がってる野原、野原のまん中にある町……王子は何だか見覚えがあるような気がしてきました。そしてなおよく見ると、それは見覚えがあるどころか、実は自分の国で、森の裾にある城は自分の城だったのです。王子はその城をぬけ出した時から、両親の国王と女王とのことやその他自分の国のことを何もかも忘れていましたが、今眼の下に自分の城を見ると、急になつかしくなって、思わず知らず叫びました。
「あ、僕の城だ」
 そのとたんに、ふと気がゆるんで、鳥の首筋くびすじにしがみついてた手を離したものですから、あッというまに王子は鳥の背中から滑って、まっ逆さまに城の上へ落ちてゆきました。途中で気が遠くなってしまいました……。

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