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恋を恋する人(こいをこいするひと)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-26 8:55:43  点击:  切换到繁體中文

 大  友 様
 
とあるので、驚いた。何時ごろから来ているのだと聞くと、娘は一週間ばかり前からという。直ぐ次の返事を書いて持たしてやった。
[#改行ごとに二字下げ]お手紙を見て驚喜(きょうき)仕候、両君の室(へや)は隣室の客を驚かす恐れあり、小生の室は御覧の如く独立の離島に候間、徹宵(てっしょう)快談するもさまたげず、是非此方(このほう)へ御出向き下され度く待(ま)ち上候[#二字下げ終わり]
 すると二人がやって来た。
「君は何処を遍歴(へめぐ)って此処(ここ)へ来た?」と朝田が座に着くや着かぬに聞く、
「イヤ、何処も遍歴らない、東京から直きに来た。」
「そこでこの夏は?」
「東京に居た。」
「何をして?」
「遊んで。」
「そいつは下らなかったな」
「全くサ、そして君等は如何(どう)だ。」
「伊豆の温泉めぐりを為(し)た。」
「面白ろい事が有ったか。」
「随分有った。然し同伴者(つれ)が同伴者だからね。」と神崎の方を向く。神崎はただ「フフン」と笑ったばかり、盃をあげて、ちょっと中の模様を見て、ぐびり飲んだ。朝田もお構いなく、
「現に今日も、斯(こ)うだ、僕が縁とは何ぞやとの問に何と答えたものだろうと聞くと、先生、この円と心得て」と畳の上に指先で○(まる)を書き、
「円の定義を平気な顔で暗誦したものだ、君、斯(こ)ういう先生と約一ヶ月半も僕は膳を並べて酒を呑んだのだから堪らない。」
「それはお互いサ」と神崎少しも驚かない。
「然し相かわらず議論は激しかったろう」と大友はにこにこして問うた。
「やったとも」と朝田、
「朝田の愚論は僕も少々聞き飽きた」と神崎の一言に朝田は「フフン」と笑ったばかり。これだから二人が喧嘩を為(し)ないで一ヶ月以上も旅行が出来たのだと大友は思った。
 三人とも愉快に談じ酒も相当に利いて十一時に及ぶと、朝田、神崎は自室に引上げた、大友は頭を冷す積りで外に出た。月は中天に昇っている。恰度前年お正(しょう)と共に散歩した晩と同じである。然し前年の場所へ行くは却って思出の種と避けて渓(たに)の上へのぼりながら、途々「縁」に就(つい)て朝田が説いた処を考えた、「縁」は実に「哀」であると沁み沁み感じた。
 そして構造(かまえ)の大きな農家らしき家の前に来ると、庭先で「左様なら」と挨拶して此方(こちら)へ来る女がある、その声が如何(いか)にもお正(しょう)に似ているように思われ、つい立ちどまって居(お)ると、往来へ出て月の光を正面(まとも)に向(う)けた顔は確かにお正(しょう)である。
「お正(しょう)さん」大友は思わず叫んだ。
「大友さんでしょう、」と意外にもお正(しょう)は平気で傍へ来たので、
「貴女は僕が来て居るのを知っていたのですか」と驚いて問うた。
「も少し上の方へのぼりながらお話しましょうか。」とお正は小声にて言う。
「貴女さえかまわなければ。」
「私はちっとも、かまいませんの。」
 それではと前年の如く寄添うて、渓(たに)をのぼる。
真実(ほんと)に妙な御縁なのですよ、私は今日、身の上に就(つい)て兄に相談があるので、突然(だしぬけ)に参りますと、妹が小声で大友さんが来宿(みえ)てるというのでしょう、……」
「それじゃア貴女は僕より一汽車後で来たのだ。」
「そうなの。それで今夜はごたごたして居るから明日お目にかかる積りでいましたの。」
 さて大友はお正(しょう)に会ったけれど、そして忘れ得ぬ前年の夜(よ)と全然(まった)く同じな景色に包まれて同じように寄添うて歩きながらも、別に言うべき事がない。却ってお正は種々の事を話しかける。
「貴下いつかの晩も此様(こんな)でしたね。」
「貴下彼晩(あのばん)のことを憶えていらっして?」
「憶えていますとも。」
「私はね、何もかも全然(すっかり)憶えていて、貴下の被仰(おっしゃ)った事も皆な覚えていますの。」
「僕もそうです。そして今一度貴女に会いたいとばかり思っていました。今度も実はその積りで来たのです。無論何家(どっか)へ嫁(かたず)いていて会える筈は無かろうとは思いましたが、それでも若しかと思いましてね……」
「私も今一度で可(い)いから是非お目にかかりたいと思いつづけては、彼晩(あのばん)の事を思い出して何度泣いたか知れません、……ほんとにお嫁になど行かないで兄さんや姉さんを手伝った方が如何(どん)なに可(よ)かったか今では真実(ほんと)に後悔していますのよ。」
 大友は初めてお正が自分を恋していたのを知った、そして自分がお正に会いたいと思うのと、お正が自分に会いたいと願うのとは意味が違うと感じた。自分はお正の恋人であるがお正は自分の恋人でない、ただ自分の恋に深い同情を寄せて泣いてくれた柔しサを恋したのだ。そして自分は恋を恋する人に過ぎないと知った。実に大友はお正の恋を知ると同時に自分のお正に対する情の意味を初めて自覚したのである。
 暫時無言で二人は歩いていたが、大友は斯(か)く感じると、言い難き哀情(かなしみ)が胸を衝いて来る。
「然しね、お正さん、貴女も一旦嫁いだからには惑わないで一生を送った方が可(よろ)しいと僕は思います。凡(すべ)て女の惑いからいろんな混雑や悲嘆(なげき)が出て来るものです。現に僕の事でも彼女(あのおんな)が惑うたからでしょう……」
 お正はうつ向いたまま無言。
「それで今夜は運よくお互に会うことが出来ましたが、最早(もう)二度とは会えませんから言います、貴女も身体も大切にして幾久しく無事でお暮しになるように……」
 お正は袖を眼に当て、
「何故会えないのでしょうか。」
「会えないものと思った方が可(い)いだろうと思います。」
「それでは貴下は最早会いたいとは思っては下さらないのですか。」
「決して其様(そんな)ことはありません。僕はこれまで彼女(あのおんな)に会いたいなど夢にも思わなくなりましたが、貴女には会いたいと思っていましたから……」
「それではお目にかかる事が出来る縁を待ちましょうね。」
「ほんとうに、そうです。貴女も今言ったように、くよくよ為(し)ないで、身体を大事にお暮しなさい。」
難有(ありがと)う御座います。」
 夜の更くるを恐れて二人は後へ返し、渓流(たにがわ)に渡せる小橋の袂まで帰って来ると、橋の向うから男女(なんにょ)の連れが来る。そして橋の中程ですれちがった。男は三十五六の若紳士、女は庇髪(ひさしがみ)の二十二三としか見えざる若づくり、大友は一目見て非常に驚いた。
 足早に橋を渡って、
「お正さんお正さん。彼(あ)れです。彼(あ)の女です!」
「まア、彼の人ですか!」とお正も吃驚(びっくり)して見送る。
如何(どう)して又、こんな処で会ったろう。彼女(あれ)も必定(きっと)僕と気が着(つ)いたに違いない。お正さん僕は明日朝出発(たち)ますよ。」
「まア如何(どう)して?」
「若し彼女(あれ)が大東館にでも宿泊っていたら、僕と白昼出会(でっく)わすかも知れない、僕は見るのも嫌です。往来で会うかも知れません如斯(こん)な狭い所ですから。」
「会っても知らん顔していれば可(い)いじゃア御座(ござ)いませんか。」
「不愉快です。殊に今度貴女に会った場合、猶不快です。」
 翌朝早(はやく)大友は大東館を立った。大友ばかりでなく神崎や朝田も一緒である。見送り人の中にはお正も春子さんもいた。


底本:「小田切進・編 日本の短編小説[明治・大正]」潮文庫
   1973(昭和48)年5月20日初版
   1988(昭和63)年11月30日9刷
初出:「中央公論」明治四十年一月
入力・校正:鈴木厚司
ファイル作成:鈴木厚司
1999年5月16日公開
1999年8月21日修正
青空文庫作成ファイル:
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