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象牙の牌(ぞうげのはい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-26 8:39:28  点击:  切换到繁體中文

 


 こう云った清水は何時の間にか再び最初の陽気な客に立ち戻って、燥いだ声をたてたのである。が、西村はパイプを銜えたまま、俊鋭らしい眉間に十字に皺を刻んで、痛ましそうに相手のその様子を見やった。
『そりゃあ、仰せとあれば遺言状も作りますがね、尤もこれは少し商売ちがいなのだが――併しそれにしても、ひどく悪あがきしなさすぎるじゃありませんか……警察の方にはむろん届け出たでしょうな。』
『警察? ええ。届けるには届けました。併し凡そ警察ってものは、あれァ学者の寄り集りですよ、殺されてからの後の推理や観察は極めて丁寧に、綿密に、一々ご尤にやっては呉れるでしょうがね。生きている人間、つまり、殺されるかも知れない人間にとっては、甚だ心細いものにすぎませんのでねえ……』
『僕は何時だったか、坊城から、君があのアメリカ帰りの監督の狭山氏と何か女の事から面白くない争いをしたって話を聞きましたが――何か、そんな風な、他人からはげしい恨を抱かれる様な覚はありませんか。』
『はッはッはッ、狭山ですか。なる程あいつなら僕を殺し兼ねますまいよ。何しろすさまじい権幕でしたからねえ――事の因(おこ)りってのは、何ァに大した事じゃありません。大体あの狭山って男はひどい好色漢でしてね。撮影所に出入する目星い女優には誰彼の差別なく、働きかけ[#「働きかけ」に傍点]なきゃ――と仲間の連中は云いますがね。つまりもの[#「もの」に傍点]にしなけりゃ承知しない、と云った風で――まだ、彼の歓心を買っておかないと如何なにすぐれたいい女優でも決して出世が出来なかったのです。ところが、一人、弓子って云う所長のお声掛りで一番年も若いし一番美しい娘がいて、これがまた非常に見識が高くて、どうしても狭山の意に従わなかったのです。狭山は躍起となって持前の蛇の様にねちねちした性分で、愈々しつこく弓子にまとわりついて行ったものです。狭山のこの卑しいやり口を兼ねてから癪に障っていた僕は、ここで到頭堪え切れなくなって、あっさりと弓子を横取りしてしまいました――何も、決して僕自身、弓子に如何のって気はなかったのですがね――そしてあげくに、僕は或る日狭山を皆の前で散々っぱら遣っ付けてしまったのですよ……そうそう、その為に到頭い堪まらなくなって協会を脱退する時、彼は、「清水の野郎奴! 俺はあいつの首っ玉へ何時かは必ず匕首(どす)をお見舞申してやるぞ!」って凄い捨てぜりふを残して行ったそうです……』
『フム。では狭山氏の事は勿論警察に云ってあるでしょうね。』
『ええ。一応はそう云っておきましたが――併し、悲しい事には、西村さん。僕の命をねらっている奴はたしかに狭山ではないのですよ。そして、また、もし狭山であってくれたなら、僕は何もこれ程の騷ぎをせずともすみましたろう……』
『如何して曲者が狭山氏でないと云う事を君には断言が出来るのですか。もちろん何かしっかりしたお心あたりでもあって仰言るのでしょうね。』
『そこなのですよ。狭山と云う想像を根こそぎ打ち壊わしている一つの事実こそ、同時に、僕の命をほしがる敵が意外にも恐るべき奴であった事を証拠立てているのです。と云うのは、昨夜はじめてそれ[#「それ」に傍点]と思い合せたのですが、よくよく考えて見ると実は、「スペエドのジャック」の電話は、ズーッと以前、左様恰度七年前に確に一度聞いていたのでした。しかもそれは上海でです。七年前の上海――狭山と何の拘わりもあろう筈がなかろうじゃありませんか。』
『上海?――』
 西村は瞬間、かすかに顔色をうごかした。
『そうですよ。上海でです。僕の生涯中でおそらく一番いんさんな時代のことでした――お聞きください……』
 と、清水は、古い記憶をそろそろとほぐし出す人の寂しい、ぼんやりとした眼ざしをしながら語りはじめた。
『……その頃――長らくつづいた世界戦争がやっと終りを告げた年の春も末の頃でした。僕は、当時、ひと頃はずいぶんと人気を呼んだ暁星歌劇団のテノール歌手をやっていたのですが、戦争終局と共に、ばたばたとやって来た大不景気のために最も有力な金主を失ってしまった結果、おまけに肝心な客足はゲッソリと減るし、到頭一座はご多聞に洩れず、何れあじけない旅烏とならなければなりませんでした。そして方々と何れもあまり思わしくない興業を打って廻った末に、思い切って、海を越えて上海くんだりまで落ちてみる事になったのです……所が、上海でもまた、初手からお話にならないひどい不入りでして――もともと、殆ど西洋と云ってもいい位なこの都で怪しげなジャップたちが、怪しげなオペレットを、しかも日本語で演って人気を取ろうなんて、実際、今思えば虫のいい限りなのですが――客席は文字通り数ぞえる程の頭数で、とうとう、最初は四馬路の緑扇座(グリーンファンシアター)どころで開けていたのが、ひと月と経たない中に新世界のバラエテーに迄おち込んでしまって、そしてそのあげくが遂に、この知らぬ他国で解散と云う悲運に到達したのです。
 それでも、大ていの連中はさまざまなやりくり[#「やりくり」に傍点]をして、裸同様な身になりながらもどうやらみんな日本に帰って行った様でした――が、不仕合せな僕だけは、(――併し、勿論その当時は決して、そうは思ってもいませんでしたが)不仕合せにも、僕の泊り合せていた旅籠の、それは霞飛路(アヒロー)にあったのですが、その旅籠屋の女将のフランス女と、だらしがない役者根性の果に、つい造ってしまった情事のおかげで、僕一人だけはみんなと別れて、その儘べったりと上海に居残ってしまう破目になったのでした。彼女は、未だうら若い寡婦(ごけ)さんで――尤も僕よりは一つ方姉さんでしたが――健康そうな肉体を持った相当美しい女であったので、少らず僕の心を囚えていたし(いや決してあなたを前にしてのろけるわけじゃありませんが、何しろ今も申し上げた通り、それは不仕合せ[#「不仕合せ」に傍点]だったのですからね)それに実際、また僕は他の皆の様に血の出る様な苦しい算段までして帰国する程の気力もなかったのだし……
 で、そんなわけで、僕はそれから半年と云うものを上海で送りました。もとより、地道な働きなんか出来ようともする気のなかった僕であったので、そしてまた、そのフランス女は――マドレエヌと云うのです――彼女は可成りの額の金を蓄えていたので、僕は毎日々々飲んだり打ったりして、この都の怪しい世界ばかりをうろうろとほっつき廻っていました。それにはまた恰度よく(?)その当時宿に、マドレエヌの兄でショコラアって云う呼名を持ったのんだくれのマドロスが転がり込んでいて、彼はおそろしくのんだくれではあったけれども、性質はその呼名の如く非常にお人好しの愛すべき男なのであって、地理に暗い言葉の不自由な僕を、妹の情夫のやっぱりやくざ者であるジャップの僕を、毎日親切にさまざまの遊び場へ、地下室に大きなばくち[#「ばくち」に傍点]場の開けている酒樓や、阿片窟や、それから美しい鶏(チー)たちの群がっている彼女らの巣窟へと連れて行ってくれるのでした。
 するとそのうちに、ある日の事、僕たちは――いや、僕は、遂にある恐しい秘密倶楽部の倶楽部員になることとなってしまったのです。勿論、やっぱりショコラアが引っぱって行ったのですが、ショコラアはもとっからそこの倶楽部員だったのですよ。それは、オールドカルトンとかニューカルトンとかカフェマキスィムとか云ったたぐいの家々と共に上海一流の酒樓であるところの、「上海の赤風車亭(ムーランルージュ)」と呼ぶ家の地下室にあった倶楽部なのです。僕ははじめて其処に入る時は――いや、入った当座しばらくの間も、それがそんな恐るべき倶楽部であろうなぞとは夢にも思っていませんでした。が、しばらく経って後そうと気がついた時はすでに遅かったし、また、もはや阿片や酒毒のおかげで可成りにちぐはぐ[#「ちぐはぐ」に傍点]な、おぼつかないものに成っていた僕の頭は、そんな恐ろしい秘密結社になぞ加入した事に対して、妙な事にも、返ってしびれる様な淡い快さ――ひょっとしたら感傷的な、快さを感じていたらしかったのでした。併し、その倶楽部は恐しいと云っても決して見境もなく無闇矢鱈と恐ろしい事を企てるのではなくて、ただ倶楽部で決められた則(おきて)をやぶった者に対してだけ少しの容赦もなくその法外にきびしい制裁を下すと云うのであって、彼等倶楽部員は皆、極端なる、「不正を悪くむ紳士方」であるのです。紳士方――左様、なかにはショコラアの様な水夫(マドロス)も大勢いましたが、本当に立派な上流の紳士方も沢山、それは殆ど世界中のあらゆる国籍を網羅して出入していました。
 そしてその倶楽部で、「不正を悪くむ紳士方」の毎日やっておられる主な仕事は、ばくち[#「ばくち」に傍点]、「麻雀」と呼ぶばくち[#「ばくち」に傍点]なのだから面白いではありませんか――僕は間もなく、ショコラアに連れられることなくして勝手に、その薄ぐらい倶楽部の地下室に入り浸って、麻雀に時の過ぎるのも忘れ果てているようになったのでした。
 で、もうこの頃はすでに、悪魔の黒犬は僕の背中に噛みついていたのでした。と云うのは、僕たちは毎日々々麻雀をやってお互に、一瞬にして途方もない大尽になるか、それともただ一つ、自殺だけを残して他のすべてを失おうか――と云う全くすさまじい勝負を争っていたのですが、幼い時分からそんな方にはからっきし運のなかった僕であったのに、どうしたものか、この倶楽部に入ってからと云うものは殆ど負らしい負も見ずにとんとん拍子に素晴らしい目にばかり打(ぶ)つかるのじゃありませんか。おかげで思わぬ成金になった僕は浅はかにも、こりゃ大した運が開らけて来たものだ、みんなと一緒に日本へなぞ帰らないでいい事をした――とすっかり有頂天になって喜びました。所が、だしぬけに、ここに偶(ふ)と妙な事が湧いて起ったのです……と、さて、いよいよ僕は僕の身の上にふりかかって来た忌まわしい出来事についてお話しなければならない順序となりました。
 ある夜のこと――上海生活が始ってからもうやがて半年は過ぎようと云うある夜、おそくのことでした……いや、未だ宵の口だったかも知れない、それとも夜の明け方であったろうか――何しろ時間の観念はまるでなくなっていた僕でしたから。とにかく戸外は真暗な夜に違いなく、その地下室の倶楽部には美しい吊燈籠が仄明るくともっていました。その夜も僕は云う迄もなく、麻雀に夢中になっていたのですが、僕の相手と云うのは、倶楽部の番人で胡(ホー)と云う中年の支那人でした。胡は古くからこの倶楽部にいて、因業な、併し物固い(?)そして恐しくばくち[#「ばくち」に傍点]運の強い男として知られていました。所が、その夜は流石の彼も僕の為に散々な負け方をして、一文なしどころか手も足も出ない程の莫大な借金をしょわされてしまったのです。彼はしばらく卓の上に顔を伏せてひどく悲しげな、小犬の様な声を洩らして泣いていましたが、やがてふらふらと立ち上って何処かへ出て行きました。が、間もなく彼は再び戻って来て僕をそっ[#「そっ」に傍点]と、部屋の隅の紫檀の衝立の蔭に呼び寄せたのです。そして其処で彼は、青繻子の上衣のだぶだぶ[#「だぶだぶ」に傍点]な袖の中から一つの見事な象牙の牌(ふだ)を取り出して僕に示しながら、ぶつぶつと囁く様に云いました。「……これをあなたに上げます。けれども、これは、どんな事があっても、決して、他の誰にも見せてはいけませんよ。よござんすか、屹度ですよ――」と、僕には彼の言葉の意味はよく解らなかったけれども、とにかく、その牌は僕の要求するものより遙かに値打があるものらしかったので、即座にその旨を承知しました。
 僕は到頭、麻雀に、かけがえのない命までを賭けてしまったのです……
 宿にかえってから、それでも矢張り何となく胡の云った言葉が気にかかっていたと見えて、扉(ドア)に鍵を下ろして窓をすっかり閉めてから、さて、密かにその牌をあらためて眺めました。と僕はそれが、先に値ぶみしたよりも更に高価な品であるらしいのでびっくりしました。古びた、厚み五分、二寸四方位の四角い上等な象牙で、表面には精緻な菊花が一面に彫り出されてあって、しかもその花のひとつひとつが何れも素晴しいルビイの芯を有っているのです。その真赤な宝石の色の鮮かさは、真白い滑々の象牙の中に埋まって不気味な迄に生き/\として――何故かそんな感じがしました――燦っているのでした。そして、その裏面には何処の国のとも、僕にはさっぱり解らない象形文字みたいなものがべた[#「べた」に傍点]に彫りきざまれてありました。僕はこの全く思い設けぬ掘出し物にホクホクと喜んでしまいました。可笑しなもので、すっかり大金持になった気持の僕はそこで、急に日本へ帰りたくなり出したのです。そうして、一端そう思い立つともう矢も楯もたまらなくなって、恰度その日から一週間目に出る便船で、出発(た)つことに決めてしまったものです。
 ところが、その愈々たつと云う、三日前の晩でした。冷たい雨が少し強加減に降る晩でした。僕は朝っから手まわりの荷物の始末などしてずうっと晩になっても宿にいました。夜、僕が何処へも出ずに宿におち着いているなんて、ほんとうにめったにない珍しい事でした。ただ一人、部屋に籠って明々と燃えているファイヤープレイスの前に揺椅子をひき据えていました。何故ならば、もう世の中には冬がやって来ていて、大陸の夜気は可成り底冷えがしていましたから。そして窓外のザアザアと云うはげしい――と云っても決してそれは不愉快でない程度におけるはげしさの雨の音をじっと聞き乍ら、久方振りで眺められる懐しい東京の風景……家こそもう失くなっていたが僕の生まれた土地である美しい浜町河岸の夕まぐれや……こんな雨の晩にはさだめし絵の様に綺麗に見えたであろう、人形町通りや……または白い水鳥がいくつも飛んでいる霧のかかった大川の眺めや……それから或は幼ななじみのいろんな年寄りや友達や……それらのさまざまな楽しい想い出に浸って、可成り上機嫌になっていたのですが、その楽しい瞑想をしばしば不意に破る者がありました。それは僕の室から程近い玄関口の方に当って時折、するどく、けれども何となく物悲しい余韻をひびかせて、犬が吠え立てるのであって、僕はあまり雨降りの夜に犬の吠声を聞いた事がなかったもので(むろんそれは人通りの少い故にもよるのだろうが)――ちょっと訝しく思ったのでした。殊にその夜の雨足は今も云った様にかなりはげしかったのですからね。けれどもまたそれだけに一層、碌に泊客もないらしいこの宿屋の一室には物寂しい、しみじみとした静閑(しずけ)さがみちていました……と、僕はふと耳を澄ましました。僕は気のせいか、或かすかな物音を――窓ガラスを誰かが極めて静かに叩いている様な物音を聞いた様に思ったのです。僕は立って窓帷(カーテン)を開けてみました。けれども勿論、そんな真暗な大雨の夜に窓から訪れて来る様な酔狂なお客様の影なぞは見とめるべくもなかったので、再びファイヤープレイスの前に戻りました。そして巻煙草箱(シガレツチェスト)から新しい奴を一本つまんで銜えた途端です――オヤ! 再び、今度は前よりもはっきりと物音を聞いたのです。ヒョイと窓の方を、いま窓帷を開けたなりにして来た窓の方をふり返ると、まァ! どうでしょう。窓ガラスに、ぼんやりと一人の支那人の顔が浮んでいたのじゃありませんか。胡なのですよ。ずぶずぶ[#「ずぶずぶ」に傍点]に濡れているとみえて髪の毛がべっとりと額にみだれかかっていて、真蒼な顔色をして、おびえ切った様な眼で僕の方を見入り乍ら、何か喋っているのか、しきりと喘ぐ様に口を動かしているのです。あまりの事に僕は度ぎもを抜かれて了ってしばらくは唖然としていました。が、やがて、やっと立ち上がって其処へ進み寄ろうとしたその時、急に彼の眼に非常な恐怖と怨恨との入りまじった色が浮び出てグイと僕をねめつけたかと思うと、突然、その顔は消えてしまいました。それはまるで、大きな機械にでも巻きこまれた様な、急激な勢で闇のなかへ消え去ったのでした。僕は思わずぶるぶるっ[#「ぶるぶるっ」に傍点]と身を震わして二三歩あとずさりをしました。そして再び窓ぎわにかけ寄ってガラス戸を押し開いてみた時には、もはや、戸外(そと)の闇の中には何ものの気はいもありませんでした。ただ、犬がこの時またひとしきりはげしく吠えはじめていたのが、怪しいと云えば怪しかったかも知れません。(――清水茂は異常な恐怖に迫(おそ)われているらしく顔色を蒼白に変えながら語った)……はて、これは訝(おか)しなことがあるものだ。気の迷いかしら、それとも揺椅子でぬくもりながらついウトウトとしてしまって夢をみたのかしら――酒と阿片とでいい加減狂いかけている俺の頭だもの、その位の気の迷いや夢がないとも云えない――が、併しそんな風に簡単に思いなしてしまうには、どうもすべてがあんまりまざまざ[#「まざまざ」に傍点]とし過ぎている。雨の音だって、犬の吠え声だって前後とちっとも変らない明瞭さで聞こえていたのだし、それに彼奴の恨めし相な凄い顔! いや、どうして気の迷いや夢とは思われん……むしろ幽霊を信じた方がもっと間違いがなさ相だ……おやおや、俺はひょっとしたら本当に気が狂いかけているのかも知れないぞ! ――と、そんな風に僕はそれこそ本当にその場で狂気でもし兼ねない迄の気持になってしまいました。するとこの時、けたたましく卓上電話のベルが鳴りひびいたのです。出てみると、聞き覚えのない男の声が遠くで、併しはっきりと聞こえていました。「……清水君。清水君! 君は明日スペエドのジャックをひきますよ」とね。僕は腹が立ったので、「誰だ! 縁起でもねえ!」と怒鳴りつけてやったのですが電話はその儘切れてしまいました……かさねがさねの薄気味の悪い出来事に、僕は一層気を滅入らしてしまったのですが、併し勿論そんな電話なぞは誰かの悪洒落、と思えば思えないこともなかったし、それよりか先刻の胡の顔の方が遙かにまして僕の心をひきつかんでいたので、ついそれっきり忘れてしまいました――そしてその電話の事はそれから七年の間、ついぞ一度も思い出した事がありませんでした――で、その夜は、折角の楽しい瞑想を目茶々々に打ち壊されてしまったのがひどく腹立たしかったので、またその底気味の悪い怪しい出来事に何時までも思い悩まされているのはとても堪らなかったので、有合したコニャク酒をしたたかに呷るとその儘、寝込んでしまいました。

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