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小説に用ふる天然(しょうせつにもちうるてんねん)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-22 16:21:48 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语

底本: 鏡花全集 第二十八巻
出版社: 岩波書店
初版発行日: 1942(昭和17)年11月30日
入力に使用: 1976(昭和51)年2月2日第2刷
校正に使用: 1988(昭和63)年12月2日第3刷

 

小説を作る上では――如何しても天然を用ゐぬ譯には行かないやうですね。譬へば惚れ合つた男女二人が話をしながら横町を通る時でも、晴天の時と、雨天の時とは、話の調子が餘程違ひますからね。天然と言つても、海とか、山とかに限つたことはありません。室内でも、障子とか、襖とか、言ふものは、天然の部に這入つてもよからうと思ひます。だから其の室内の事を書く時でも、天然を見逃がす事は出來ません。また夜更けに話すのと、白晝に話すのとは、おのづから人の氣分も違ふ譯ですから、勢ひ周圍にある天然をよそにする譯に行かないでせう。假に場所を東京市内に選んで、神田とすれば、又其處に特有の天然があります。何方かと言へば、私の作などの中には、景色を見てから、人物を考へ出した場合が多い。『三尺角』や、『葛飾砂子』などは深川の景色を見て、自然に人物を思ひ浮べたのです。然し天然を主にして、作意を害するやうな事は面白くありません。程よく用ゐたいものです。

明治四十二年一月




 



底本:「鏡花全集 第二十八巻」岩波書店
   1942(昭和17)年11月30日第1刷発行
   1976(昭和51)年2月2日第2刷発行
※題名の下にあった年代の注を、最後に移しました。
入力:高柳典子
校正:門田裕志
2003年8月1日作成
青空文庫作成ファイル:
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