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薬(くすり)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-23 15:50:30 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


        四

 西関外せいかんがいの城の根元にる地面はもとからの官有地で、まんなかに一つゆがんだはすかけの細道がある。これは近道を貪る人が靴の底で踏み固めたものであるが、自然の区切りとなり、道を境に左は死刑人と行倒ゆきだうれの人をうずめ、右は貧乏人の塚を集め、両方ともそれからそれへと段々に土を盛り上げ、さながら富家ふけの祝いの饅頭を見るようである。
 今年の清明節せいめいせつは殊の外寒く、柳がようやく米粒ほどの芽をふき出した。
 夜が明けるとまもなく華大媽は右側の新しい墓の前へ来て、四つの皿盛と一碗の飯を並べ、しばらくそこに泣いていたが、やがて銀紙を焚いてしまうと地べたに坐り込み、何か待つような様子で、待つと言っても自分が説明が出来ないのでぼんやりしていると、そよ風が彼女の遅れ毛を吹き散らし、去年にまさる多くの白髪しらがを見せた。
 小路こみちの上にまた一人、女が来た。これも半白はんぱくの頭で襤褸ぼろの著物の下に襤褸のはかまをつけ、壊れかかった朱塗しゅぬりの丸籠を提げて、外へ銀紙のお宝を吊し、とぼとぼと力なく歩いて来たが、ふと華大媽が坐っているのを見て、真蒼まっさおな顔の上に羞恥の色を現わし、しばらく躊躇していたが、思い切って道の左の墓の前へ行った。
 その墓と小栓の墓は小路こみちを隔てて一文字いちもんじに並んでいた。華大媽は見ていると、老女は四皿のおさいと一碗の飯を並べ、立ちながらしばらく泣いて銀紙を焚いた。華大媽は「あの墓もあの人の息子だろう」と気の毒に思っていると、老女はあたりを見廻し、たちまち手脚を顫わし、よろよろと幾歩か退しりぞいて眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)って※(「りっしんべん+正」、第3水準1-84-43)おそれた。その様子が傷心のあまり今にも発狂しそうなので、華大媽は見かねて身を起し、小路こみちを跨いで老女にささやいた。
 「※(「女+乃」、第4水準2-5-41)※(「女+乃」、第4水準2-5-41)ラオナイナイ、そんなに心を痛めないでわたしと一緒にお帰りなさい」
 老女はうなずいたが、眼はやッぱり上ずっていた。そうしてぶつぶつ何か言った。
「あれ御覧なさい。これはどういうわけでしょうかね」
 華大媽は老女のゆびさした方に眼を向けて前の墓を見ると、墓の草はまだ生え揃わないで黄いろい土がところ禿げしてはなはだ醜いものであるが、もう一度、上の方を見ると思わず喫驚びっくりした。――紅白の花がハッキリと輪形わがたになって墓の上の丸い頂きをかこんでいる。
 二人とも、もういい年配で眼はちらついているが、この紅白の花だけはかえってなかなかハッキリ見えた。花はそんなにも多くもなくまた活気もないが、丸々と一つの輪をなして、いかにも綺麗にキチンとしている。華大媽は彼女の倅の墓と他人の墓をせわしなく見較べて、倅の方には青白い小花がポツポツ咲いていたので、心の中では何か物足りなく感じたが、そのわけを突き止めたくはなかった。すると老女は二足三足、前へ進んで仔細に眼をとおして独言ひとりごとを言った。
「これは根が無いから、ここで咲いたものではありません――こんなところへ誰がきましょうか? 子供は遊びに来ることが出来ません。親戚も本家も来るはずはありません――これはまた、何としたことでしょうか」
 老女はしばらく考えていたが、たちまち涙を流して大声上げて言った。
ちゃん、あいつ等はお前にみな罪をなすりつけました。お前はさぞ残念だろう。わたしは悲しくて悲しくて堪りません。きょうこそここで霊験をわたしに見せてくれたんだね」
 老女はあたりを見廻すと、一羽のからす枯木かれぎの枝に止まっていた。そこでまた喋り始めた。
「わたしは承知しております。――瑜ちゃんや、可憐かわいそうにお前はあいつ等の陥穽かんせいに掛ったのだ。天道様てんとうさまが御承知です、あいつ等にもいずれきっと報いが来ます。お前は静かにねむるがいい。――お前ははたして、しんじつはたしてここにいるならば、わたしの今の話を聴取ることが出来るだろう――今ちょっとあの鴉をお前の墓の上へ飛ばせて御覧」
 そよ風はもうんだ。枯草かれくさはついついと立っている。銅線のようなものもある。一本が顫え声を出すと、空気の中に顫えて行ってだんだん細くなる。細くなって消え失せると、あたりが死んだように静かになる。二人は枯草かれくさの中に立って仰向いて鴉を見ると、鴉は切立きったての樹の枝に頭を縮めて鉄の鋳物いもののように立っている。
 だいぶ時間がたった。お墓参りの人がだんだん増して来た。老人も子供もつかあいだに出没した。
 華大媽は何か知らん、重荷を卸したようになって歩き出そうとした。そうして老女に勧めて
「わたしどもはもう帰りましょうよ」
 老女は溜息いて不承々々ふしょうぶしょう供物くもつを片づけ、しばらくためらっていたが、遂にぶらぶら歩き出した。
「これはまた、何としたことでしょうか」
 口の中でつぶやいた。二人は歩いて二三十歩も行かぬうちにたちまち後ろの方で
「かあ」
 と一声いっせい叫んだ。
 二人はぞっとして振返って見ると、鴉は二つのはねをひろげ、ちょっと身を落して、すぐにまた、遠方の空に向ってのように飛び去った。
(一九一九年四月)





底本:「魯迅全集」改造社
   1932(昭和7)年11月18日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「彼奴→あいつ 或→ある 却って→かえって 屹度→きっと 呉れ→くれ 此処→ここ 此→この 宛ら→さながら 暫く→しばらく 即ち→すなわち 其→その 只→ただ 忽ち→たちまち 丁度→ちょうど 一寸→ちょっと て仕舞った→てしまった 尚お→なお 筈→はず 甚だ→はなはだ 又・亦→また 未だ→まだ 丸切り→まるきり 若し→もし 矢ッ張り→やッぱり 余程→よほど」
※底本内には「燈」と「灯」が混在していますが、そのままにしました。
※底本は総ルビですが、一部を省きました。
入力:京都大学電子テクスト研究会入力班(加藤祐介)
校正:京都大学電子テクスト研究会校正班(大久保ゆう)
2004年5月17日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。

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