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二、〇〇〇年戦争(にせんねんせんそう)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-25 15:50:34 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


   監視哨かんししょう

 マイカ地下大要塞の、陸門は、サン市のデパート、サンサンと、地下鉄の入口との二つであった。また、その海門は、北方海岸一帯であった。それ以外に、このマイカ地下要塞の出入口は、どこにもないのであった。これくらい、堅固で安全な要塞は、他にない。なにしろキンギン国では、世界の富の十分の一にあたるという巨大な費用をかけて、この大要塞を作りあげたのであった。
「一体、敵は、どこまで攻めて来たのかね」
「もう十マイル向うまで来ているそうだ。もの凄い戦闘部隊だということだぞ」
 マイカ要塞の監視哨が交代になる時間であった。
「この望遠鏡で見ても、なんにも見えないではないか」
「望遠鏡で見ても、見える道理がないよ。敵軍は、空中を飛んでいるのじゃないのだ」
「えっ、空襲じゃないのか」
「うむ、潜水艦隊らしい。太青洋の水面下を、まっしぐらに、こっちへ進んでくる様子だ」
「潜水艦なんぞ、おそれることはないじゃないか」
「それはそうだ。だが、そいつは、潜水艦にはちがいないが妙な形をしている奴ばかりで、姿を見たばかりで、気持がわるくなると、さっき、将校が、わが隊長に話をしていたぜ」
「で、こっちは、どうするのか。わがキンギン国の潜水艦隊は全滅だそうだし、他の水上艦隊は、みんなイネ州の海岸へいってしまったし、一体、どうするつもりかね」
「さあ、おいらは司令官じゃないから、どうするか、知らないや。多分、海中電気砲で、敵を撃退するのじゃないかなあ」
「ふん、海中電気砲か。あれは、このキンギン国軍の御自慢ものだが、こうなってみると、なんだか心細いなあ」
「くだらんことをいわないで、さあ、交代だ。あとを頼むよ」
 監視哨の兵は、そこで部署を交代した。
 空中方面には、更に敵の近づいた様子がないので、彼は、むしろ海中からの危機のことを心配し、空中のことを心配しないでいた。
 ところが、それから一分間ほどたった後、この監視哨は、顔の色をかえて測距儀そっきょぎにすがりつかねばならなかった。それは、とつぜん空中に、どこからいたか、すばらしい金色の翼を張った超重爆撃機が数百機、頭上に姿をあらわしたのであった。
「ああ、あれは……」
 その超重爆撃機は、まるで、戦艦に翼が生えたような怪奇きわまる姿をもっていた。
「敵機だ。大空襲だ!」
 監視哨は、ようやく、れにかえって、警報釦けいほうボタンし、そして口ごもりながら電話で報告をした。
 高射砲が、砲撃をはじめたのは、それからわずか三分のちのことだったが敵機は、それまでに、既に数百の爆弾を翼下から地上に向け切りはなしていた。
 爆煙は濛々もうもうとして、天日をおおった。土は、空中高くはね上り、樹木は裂け飛び、道路には大きな穴が明いた。
 だが、被害は、まずそれだけであった。十数名の兵士が、死傷したのが、キンギン国軍にとって、最も大きな痛手であった程度で、地下にあるマイカ大要塞の防禦力は微動だにしなかった。
 そのうえ、高射砲の砲弾は、刻一刻猛烈さを加えていった。鳩一羽さえ、通さないぞといったような、地上からの完全弾薬は、いかに敵の空襲部隊が精鋭であっても、これ以上キンギン国の領土内に侵入することを許さなかった。それは、刻々に証明されてきたようである。というのは、敵機は、急にスピードを失って、一機また一機、降下を始めたのであった。
「ああ、敵機撃墜だ。わが防空陣地の勝利だ!」
 と、地上にわずかに砲口を見せている高射砲部隊は喊声かんせいをあげた。
 地底深き司令部には、ラック大将が、テレビジョンによって、この戦闘の模様を、手に汗を握って観戦していたが、このとき、高射砲部隊からの報告が届いた。
“――わが高射砲部隊は、敵機五十八機を撃墜せり。なお引続き猛射中”
 だが、ラック大将は、別にうれしそうな顔もせず、傍の参謀に話しかけた。
「おい、高射砲部隊は、いい気になって、撃墜報告をよこしたが、それにしては敵機の様子がどうもへんではないか」
「はあ、閣下には、御不審な点がありますか」
「うん。なぜといって、敵機は、火焔かえんに包まれているわけでもなく、むしろ悠々と地上へ降下姿勢をとっているといった方が、相応ふさわしいではないか」
「なるほど」
「第一、わしには、このような強力なる空襲部隊が、急にどこから現われたのか、その辺の謎がとけなくて、気持がわるいのだ。太青洋上に配置したわが監視哨は、いずれも優秀を誇る近代警備をもって、これまで、いかなる時にも、ちゃんと仮装敵機の発見に成功している。これがわがマイカ要塞空襲のわずか二分前まで、敵機襲来を報告してきた者は只一人もいないのだからなあ」
 と、ラック大将は、すこぶるに落ちない面持おももちだった。

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