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ふしぎ国探検(ふしぎくにたんけん)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-26 6:25:18 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


   聞いたような名


「おいおい、もう目をさましても、いいじゃろう」
 ポーデル博士の声に東助もヒトミも、ねむりから起こされてしまった。
 ポーデル博士は操縦席に腰をおちつけ、しきりに計器を見ながら操縦かんをあやつっている。――この樽ロケット艇は、どこを目ざして飛んでいるのであろうか。
「ポーデル先生。こんどは、どのようなふしぎな国へ連れていって下さるのですか」
 東助は、うしろから博士に声をかけた。
「これからわしが案内しようという先は、ちょっとかわった人物なんでねえ。君たちは気持わるがって、もう帰ろうといいだすかもしれんよ」
「大丈夫ですよ。ぼくは、いつもこわいものが見たくて、探しまわっているんですよ」
「あたしだって、こわいもの平気よ。ポーデル先生、そのかわった人物というのは一つ目小僧こぞうですか、それともろくろッ首ですか」
「うわはは、二人とも気の強いことをいうわい。いや、一つ目小僧やろくろッ首なのではない。また幽霊でもない。それはたしかに生きている人物なんだ。彼はすばらしく頭のいい学者でのう、大学教授といえども彼の専門の学問についてはかなわない。かなわないどころか、さっぱり歯が立たないのじゃ」
「先生、その方はどんな学問を専攻していられるんですか」
「オプティックス――つまり光学、ひかりの学問なんだ。光の反射とか、光の屈折くっせつとか、光の吸収とか、そういう学問の最高権威だ」
「じゃあ、あたり前の学問ですわ。別にかわっていないと思いますわ」
「いや、大いにかわっている。それは君たちが実際ケンプ君――ドクター・ケンプというのが彼の名前さ。そのドクター・ケンプにじっさい会ってみりゃ、ただちにわかる。一目見れば分るのだ」
「ドクター・ケンプですね。はてな、その名前ならどこかで聞いたような気がするが……」
 と、東助は考えこんだが、すぐには思い出せなかった。
「おお、この下だ。急降下するよ。目がまわるよ」
 博士の声につづいて、ていはがたんと下へ落ちはじめた。目がまわる。
「もういいよ。外へでようや」
 博士の声に、われにかえった二人だった。しずかだ。気持もぬぐったようになった。そこで一同は、例の非ユークリッドの空間に通ずる扉を開き、外へでた。
 目の前に、古ぼけた洋館が建っていた。ペンキははげちょろけで、のきはかたむいていた。窓という窓には、かっこうの悪い鎧戸よろいどがしまっていて、あいた窓はない。あき家なのかしらん。いや、そうではない。煙突から黒い煙がでている。中で石炭をストーブにくべているんだ。それなら中に人がいることまちがいなしだ。
 ポーデル博士は、空飛ぶ樽を、草むらの中にかくしたあとで、石段をのぼって玄関の前に立ち、上からぶら下っているつなを二三度ひいた。
 ことばは分らないが、ゆがんだ声が、家の中から聞えた。と、中でかけ金が外れる音がしてから入口の扉がすうーっと内側へあいた。
「この前、君にお話しておいたとおり、この二人が君にぜひあいたいというお客さんじゃ」
 と博士は、家の中の人に、東助とヒトミを紹介した。二人は、あわてて家の中へおじぎをした。しかし家の中の人の姿は見えなかった。
「みんな入りたまえ。早く!」
 ごつごつした声が、家の中からとびだした。
「お許しがでた。さあ入りたまえ、君たち」
 博士にうながされて東助とヒトミは、家の中へとびこんだ。――だが奇妙なことに、玄関を入った廊下には、誰もいなかった。
「ポーデル先生。あのドクターは、どこにいらっしゃるんですの」
 ヒトミが、そういってたずねたとき、きげんのわるいせきばらいの声が、二人の子供のうしろに聞えた。二人はびっくりして、うしろをふりかえったが、しかしそこにはやっぱり誰もいなかった。
 そのかわりに――というと、ちょっとおかしいが、玄関の扉がひとりでに動きだして、ばたんとしまった。そしてかけ金が、ひとりでに動きだして、がちゃりと音をたててかかった。
 ヒトミはもちろん東助も、頭から冷水ひやみずをぶっかけられたように、ぞおーッとして、左右からポーデル博士にすがりついた。
「幽霊屋敷……」
「目に見えない幽霊がいるんですね。何者の幽霊ですか」


   見えない人


「さわいでは、いけないね。この家のご主人に対して失礼だから」
 と、博士は冷やかに二人にいった。
 そのときまたもや例のふきげんな咳ばらいの声がそばで聞え、それからたしかに人間がたっているにちがいない足音が、とんとんとんと廊下を奥へ伝わっていった。が、それは足音だけのことでやっぱり姿はなかった。
「ドクター・ケンプは、いつもぶっきらぼうにものをいう。しかし心はいい人なんだから、君たちは恐れずに、何でも質問したまえ」
 博士が二人の子供に注意をあたえた。
「あ、思い出したぞ」と東助がこのとき叫んだ。
「ドクター・ケンプは透明人間なんでしょう。ねえポーデル先生」
「ドクター・ケンプといえば、透明人間にきまっているさ」
 と博士は分り切ったことを聞くやつだといわんばかりの顔をした。
「いったい彼は、どんな学問を使って、からだを見えなくすることに成功したか、それが大事なことなんだから、ぜひたずねてみたまえ」
 廊下の奥の左側の扉が、ひとりでに内側へ開いた。もう二人は、前ほどおどろかなかった。そのかわり、早くケンプの前へ立って、ほんとうにドクターのからだが透明で、何も見えないのかどうかをたしかめたくなった。
「入口をまっすぐ入って、この三つの椅子に腰をかけたまえ。勝手に部屋の中を歩きまわることはごめんこうむる」
 部屋の中からドクターの声がし、そして椅子が、生きているようにがたがたと肩をふり、足をふみならした。
 入ってみると、この部屋はドクターの化学実験室だと見え、天井は高く、まわりの白壁は薬品がとんだと見えて茶色に汚れた所が方々にあった。まわりの壁は、薬品戸棚と、うず高くつみあげた書籍雑誌で隙間すきまもない。中央に大きな台があって、その上にごたごたと実験用の器具やガラス製のレトルト、ビーカー、蛇管じゃかん、試験管などが林のように並んでいた。三人の椅子は、その台の前にあった。
 東助も、ヒトミも、目を丸くしてこの実験台の異風景に見とれていたが、とつぜん、一箇の架台かだいがレトルトをのせたまま宙に浮いた。
「あッ」
 その架台は横の方へいって再び台の上へ足をおろした。次はビーカーがいくつも、ひとりでに台の上からまいあがって、台のすみっこへもぐりこんだ。試験管が、ことんことんと音をたてながら台ごと横へすべっていった。
 と、とつぜんじゃーッと音がして、栓から水がいきおいよく流れだした。すると大きなビーカーが動きだして、水を受けた。
 水はビーカーの中に八分目ぐらい入った。水道の栓がひとりでに動いて、水がとまる。こんどはビーカーが実験台の上へもどってきた。と、アルコール・ランプの帽子がとび上って、台の上へ下りた。と、引だしからマッチがとびだしてきて、一本の軸木がマッチ箱の腹をこすった。軸木に火がついた。その火はアルコール・ランプのしんに近づいた。ぽっと音がして青白いほのおが高くあがった。するとこんどは架台かだい金網かなあみとが一しょにとんでいって、アルコール・ランプにかぶさった。水の入ったビーカーがとんでいって架台の上の金網の上に乗った。焔は金網を通じて、ビーカーの水をあたため始めた。
 あまりの奇怪なる器具の乱舞らんぶに、東助もヒトミも息をのんで、身動きもしなかった。そのときアルコール・ランプの燃える台の向こうから、例の特長のある咳ばらいが聞えた。ドクター・ケンプが、台の向こうに腰を下ろしたらしい。腰掛ががたりと床の上に鳴った。
「ケンプ君。どうして君は、君のからだを透明にすることができたのかね」
 ポーデル博士が、台の向こうへ声をかけた。
 姿のないドクターは、立てつづけに咳ばらいをした。
「透明というんではない。ほんとうは見えない人だ」ドクターは、怒ったような声で、ぽつんぽつんとしゃべった。
「その研究には、永い年月をかけた。莫大な金を使った。ぼくは親爺おやじの金まで持ちだした。……三年かかれば研究はできあがると思ったが、だめだった。それから屋敷を売って次の五年間の研究費を作った。……五年目の終りになって、こんどこそうまくいくと思ったのが間違いで、致命的な問題に突当り、今までの研究は全部だめだと分った。がっかりして、ぼくは一週間死んだようになって寝ていた……やり直しだ。ふりだしへもどって、はじめからやり直さねばならない。研究の費用はどうするんだ。何を喰って研究をつづけるのだ。
 ぼくは、のこり少い持物をほとんど全部たたき売った。ああ、やさしかった母親の残してくれたかたみの指環も売った。寒い冬をしのぐためにはぜひとも必要なオーバーさえ人の手に渡した。学者として生命にもかえがたい秘蔵の書籍三千冊も売り払った。ベッドさえ手放した。そしてこのあばら家へ転がりこんだ。……あとに残ったのは、今この部屋に転がっているものだけだ。実験の器具、ぜひ必要な本と研究録、わずかの生活道具だけになってしまった。
 ぼくは元気をだして最後の研究にとりかかった。そのときぼくは、自分の健康がもうとりかえしのつかない程そこなわれているのに気がついた。それからのくる日くる日を悪寒おかんと高熱になやみながら、ぼくは新しい道から研究を進めていった。……十月十一日! 忘れもしない、十月十一日だ。暁の光が窓からさしこんできたとき、三日間徹夜でつづけた研究が、遂に実を結んだ。見よ、ぼくのてのひらの上にのっている一本のひもは、手ざわりだけがあって形はなかった。ダイナモの力を借りて、ぼくはその紐を全然見えないものにしてしまったのだ」

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