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幽霊船の秘密(ゆうれいせんのひみつ)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-26 6:41:56 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


   決死の探険隊


「おい、なんでもいいから、護身用になる木片きぎれでもナイフでも用意しろ。貝谷は銃を大切にしろ。銃は一挺しかないんだからな」
 古谷無電局長は、探険隊長を命ぜられて、たいへんなはりきり方だ。彼は可愛がっていた丸尾技士のためにも、すすんでこの探険隊に加わりたいところだったのだ。
「さあ、用意はできたね。では探険隊出発! げ! お一チ、二イ、お一チ、二イ」
 古谷局長の指揮のもとに、ボートは大雨の中を矢のように波頭をつらぬいてすすむ。そのとき幽霊船はと見れば、嵐の中にまるで降りとめられたようにじっとうごかない。巨象が行水ぎょうずいしているようでもある。船体からは、例の青白い燐光りんこうがちらちらとえている。さすがにものすさまじい光景で、櫂をにぎるわが勇士たちの腕も、ちょっとにぶったように見えたが、それも無理のないことであった。
「おい、しっかり漕げ! 生命いのちの惜しい奴は、今のうちに手をあげろ。すぐ一号艇へ戻してやる」
 もちろん誰も手をあげる者はいない。えいやえいやと、またごえがいさましくなった。
「そこだ。しっかり漕げ。貝谷、銃を構えていろ。――そこでこのボートを幽霊船の船尾にぶらさがっている縄梯子なわばしごの下へつける。おれがのぼったら、お前たちもあとからついてのぼれ」
 やがてボートはぐんぐんと幽霊船の下に近づいていった。見上げるような巨船だ。すっかりさびが出ているうえに、なみに叩かれてか、船名さえはっきり読めない。しかしとにかく外国船であることはたしかである。
 なにしろ驟雨しゅううはまだおさまらず、波浪が高いので、ボートはいくたびか幽霊船に近づきながら、いくたびとなく離れた。
「えい!」いくど目であったかしらぬが、とうとう古谷局長は、身をおどらせて船と船との間を飛んだ。綱梯子は大きく揺れているが、局長の身体はそのうえに乗っている。
「おい、はやく漕ぎよせろ。局長を見殺しにしちゃ、おれたちの顔にかかわる」
「ほら、いまだ。とびうつれ」
 なぜか船尾から、綱梯子が三条も垂れていた。二号艇の勇士たちは、つぎつぎに蛙のように、この綱梯子にとびついた。貝谷も銃を背に斜めに負うたまま、ひらりと局長のとなりの梯子にとびつき、そのままたったっと舷側げんそくへのぼっていった。彼は一番乗りをするつもりらしい。
「おい貝谷、油断をするな」
 早くもそれをみとめて、古谷局長が声をかけた。局長は白鞘しろざやの短刀を腰にさしている。あと舷側まで、ほんの一伸ひとのびだ。おそれているわけではないが、胸が躍る。局長は、ひょいと身体をかるく浮かして、舷側に手をかけた。そしてしずかに頭をあげていった。
「見えた、甲板かんぱんだ」古谷局長は、舷側ごしに甲板をながめ、「ふーん、やっぱり誰もいない」
「局長、甲板に人骨が散らばっています。あそこです。おや、こっちにも。……ち、畜生、どうするか覚えていろ!」と貝谷が叫んだ。
「なるほど、こいつは凄い。幽霊というやつが、こんなに荒っぽいものだと知ったのは、こんどが始めてだ」


   船内の怪光


 嵐の勢いがおとろえ、雨はだいぶん小やみになった。怪船の舷側に、鈴なりになっている二号艇の面々は、もう突撃命令がくだるかと、めいめいにナイフや棒切を握って、身体をかたくしている。
「さあ、突撃用意!」古谷局長が、いよいよ号令をかけた。
「船内捜索のときは、必ず二人以上組んでゆけ。一人きりで入っていっちゃ駄目だぞ。まずおれたちは船橋ブリッジを占領する。そこで十分間たっても異状がなかったら、手をあげるから、こんどはみんなで船内捜索だ」
 そういい捨てるようにして、局長は舷側を身軽くとび越え、甲板のうえに躍りあがった。つづいて、銃を持った貝谷が、甲板上の人となる。残りの艇員たちは、場所をさらに上にうつして、舷側越しに、両人の行動をじっと注視する。そのとき、また空が暗くなって、白い雨がどっと降ってきた。甲板をう局長と貝谷の姿が痛ましく雨にたたかれ、ぼーっと霞む。
「突進だ」古谷局長は、貝谷をうながすと、脱兎だっとのようにけだした。そして船橋につづく狭い昇降階段をするするとのぼった。
「やっぱり誰もいないですね」貝谷は雨に叩かれている船橋をじっとみまわした。
「局長、どうもさっきから気になっているんだが、妙なものがありますぜ。あれをごらんなさい」貝谷は、船橋のうえを気味わるそうに指した。
「雨に洗われて、うすくしか見えませんが、血の固まりを叩きつけたようなものが、点々としているのではないですか」
「そうです。もしここが陸上なら、いやジャングルなら、猛獣の足跡とでもいうところでしょうな」
「ふん、冗談じゃないよ。ここは海の上じゃないか」
 といったが、古谷局長も貝谷の指した妙な血の斑点はんてんがなんであるか、解くことができなかった。そのうちに、予定の十分間はいつの間にか経ってしまった。
「局長、舷側のところで、みんなが局長の信号を待っていますぜ」
「ああ、そうか。じゃあ、いよいよ船内を探してみることにしよう」
 そういって局長は、待っている一同の方へ手をあげて、かかれの合図をおくった。待っていましたとばかり、一同はどやどやと甲板上に躍りあがった。
「おい貝谷。船室の方へいってみよう」二人は船室の方へ下りていったが、どの室の扉も壊れたり、または開いていて、室内はたとえようもなく乱れている。
「一体ここの船客たちは、どうしたんだろうね」
「幽霊に喰い殺されちまったんですよ」
「そうかなあ、それにしてはあまりに惨状がひどすぎるよ。ふん、ひょっとすると、この汽船の中に、恐ろしい流行病がはやりだして、全員みんなそれにたおれてしまったのではないかな」
「えっ、流行病ですって」貝谷の顔色はさっと変った。
「そうだ、そうかもしれない。たとえば、ペストとか、或いはまた、まだ人間が知らないような細菌がこの船内にとびこんでさ、薬もなにも役に立たないから、皆死んでしまったというのはどうだ」
「しかし局長、人骨だけ残っていて、満足な人体が残っていないのはどういうわけですかな」
 そういっているうちに、二人は船橋へ通ずる階段のところへ出た。そのとき下の船艙せんそうから、なにかことんと物音がしたのを、二人は同時に聞きとがめた。その妙な物音は、ずっと下の船艙からきこえる。二人はその物音を追ってついに二番船艙の底まではいりこんだ。あたりは電灯も消えて真暗であった。が、どこからともなく吹いてくる血なまぐさい風!
「あっ、あんなところに、なにかキラキラ光っているものがある!」
 と、貝谷が局長の腕をぐっと引寄せた。

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