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中国怪奇小説集(ちゅうごくかいきしょうせつしゅう)04

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-27 17:42:45 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语

底本: 中国怪奇小説集
出版社: 光文社文庫、光文社
初版発行日: 1994(平成6)年4月20日
入力に使用: 1994(平成6)年4月20日初版1刷

 

中国怪奇小説集

捜神後記(六朝)

岡本綺堂




 第二の男は語る。
「次へ出まして、わたくしは『捜神後記』のお話をいたします。これは標題の示す通り、かの『捜神記』の後編ともいうべきもので、昔から東晋とうしん陶淵明とうえんめい先生の撰ということになって居りますが、その作者については種々の議論がありまして、『捜神記』の干宝よりも、この陶淵明は更に一層疑わしいといわれて居ります。しかしそれが偽作であるにもせよ、無いにもせよ、その内容は『捜神記』に劣らないものでありまして、『後記』と銘を打つだけの価値はあるように思われます。これも『捜神記』に伴って、早く我が国に輸入されまして、わが文学上に直接間接の影響をあたうること多大であったのは、次の話をお聴きくだされば、大抵お判りになるだろうかと思います」

   貞女峡

 中宿ちゅうしゅく県に貞女峡ていじょこうというのがある。峡の西岸の水ぎわに石があって、その形が女のように見えるので、その石を貞女と呼び慣わしている。伝説によれば、秦の時代に数人の女がここへ法螺貝ほらがいを採りに来ると、風雨に逢って昼暗く、晴れてから見ると其の一人は石に化していたというのである。

   怪比丘尼

 東晋とうしんの大司馬桓温かんおんは威勢赫々かくかくたるものであったが、その晩年に一人の比丘尼びくにが遠方からたずねて来た。彼女は才あり徳ある婦人として、桓温からも大いに尊敬され、しばらく其の邸内にとどまっていた。
 ただひとつ怪しいのは、この尼僧の入浴時間の甚だ久しいことで、いったん浴室へはいると、時の移るまで出て来ないのである。桓温は少しくそれを疑って、ある時ひそかにその浴室を窺うと、彼は異常なる光景におびやかされた。
 尼僧は赤裸あかはだかになって、手には鋭利らしい刀を持っていた。彼女はその刀をふるって、まず自分の腹をち割って臓腑をつかみ出し、さらに自分の首を切り、手足を切った。桓温は驚き怖れて逃げ帰ると、暫くして尼僧は浴室を出て来たが、その身体は常のごとくであるので、彼は又おどろかされた。しかも彼も一個の豪傑であるので、尼僧に対して自分の見た通りを正直に打ちあけて、さてその子細を聞きただすと、尼僧はおごそかに答えた。
「もしかみを凌ごうとする者があれば、皆あんな有様になるのです」
 桓温は顔の色を変じた。実をいえば、彼は多年の威力をたのんで、ひそかに謀叛むほんを企てていたのであった。その以来、彼はおそいましめて、一生無事に臣節を守った。尼僧はやがてここを立ち去って行くえが知れなかった。
 尼僧の教えを奉じた桓温は幸いに身を全うしたが、その子の桓玄かんげんは謀叛を企てて、彼女の予言通りに亡ぼされた。

   夫の影

 東晋とうしん董寿とうじゅが誅せられた時、それが夜中であったので、家内の者はまだ知らなかった。
 董の妻はその夜唯ひとりで坐っていると、たちまち自分のそばに夫の立っているのを見た。彼は無言で溜め息をついているのであった。
「あなた、今頃どうしてお退がりになったのです」
 妻は怪しんでいろいろにたずねたが、董はすべて答えなかった。そうして、無言のままに再びそこを出て、家に飼ってある※(「鷄」の「鳥」に代えて「隹」、第3水準1-93-66)とりかごのまわりをめぐってゆくかと思うと、籠のうちの※(「鷄」の「鳥」に代えて「隹」、第3水準1-93-66)にわとりが俄かに物におどろいたように消魂けたたましく叫んだ。妻はいよいよ怪しんで、火を照らして窺うと、籠のそばにはおびただしい血が流れていた。
「さては凶事があったに相違ない」
 母も妻も一家こぞって泣き悲しんでいると、果たして夜が明けてから主人の死が伝えられた。

   蛮人の奇術

 のとき、尋陽じんよう県の北の山中に怪しい蛮人が棲んでいた。かれは一種の奇術を知っていて、人を変じて虎とするのである。毛の色から爪やきばに至るまで、まことの虎にちっとも変らず、いかなる人をも完全なる虎に作りかえてしまうのであった。
 土地のしゅうという家に一人の奴僕しもべがあった。ある日、たきぎを伐るために、妻と妹をつれて山の中へ分け入ると、奴僕はだしぬけに二人に言った。
「おまえ達はそこらの高い樹に登って、おれのする事を見物していろ」
 二人はその言うがままにすると、彼はかたわらのやぶへはいって行ったが、やがて一匹の黄いろいのある大虎が藪のなかから跳り出て、すさまじいうなり声をあげてたけり狂うので、樹の上にいる女たちはおどろいて身をすくめていると、虎は再び元の藪へ帰った。これで先ずほっとしていると、やがて又、彼は人間のすがたで現われた。
「このことを決して他言するなよ」
 しかしあまりの不思議におどろかされて、女たちはそれを同輩に洩らしたので、遂に主人の耳にもきこえた。そこで、彼にい酒を飲ませて、その熟酔するのを窺って、主人はその衣服を解き、身のまわりをも検査したが、別にこれぞという物をも発見しなかった。更にその髪を解くと、頭髻もとどりのなかから一枚の紙があらわれた。紙には一つの虎を描いて、そのまわりに何か呪文じゅもんのようなことが記してあったので、主人はその文句を写し取った。そうして、酔いの醒めるのを待って詮議すると、彼も今更つつみ切れないと覚悟して、つぶさにその事情を説明した。
 彼の言うところに拠ると、先年かの蛮地の奥へ米を売りに行ったときに、三尺の布と、幾しょう糧米りょうまいと、一羽の赤い※(「鷄」の「鳥」に代えて「隹」、第3水準1-93-66)おんどりと、一升の酒とを或る蛮人に贈って、生きながら虎に変ずるの秘法を伝えられたのであった。



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