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中国怪奇小説集(ちゅうごくかいきしょうせつしゅう)09稽神録(宋)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-27 17:48:58 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语

底本: 中国怪奇小説集
出版社: 光文社文庫、光文社
初版発行日: 1994(平成6)年4月20日
入力に使用: 1994(平成6)年4月20日初版1刷
校正に使用: 1999(平成11)年11月5日3刷

 

中国怪奇小説集

稽神録

岡本綺堂




 第七の女は語る。
「五代を過ぎてそうに入りますと、まず第一に『太平広記』五百巻という大物がございます。但しこれは宋の太宗たいそうの命によって、一種の政府事業として※(「日+方」、第3水準1-85-13)りぼうらが監修のもとに作られたもので、ひろく古今の小説伝奇類を蒐集したのでありますから、これを創作と認めるわけには参りません。そこで、わたくしは自分の担任として『稽神録』について少々お話をいたしたいと存じます。『稽神録』の作者は徐鉉じょげんであります。徐鉉は五代の当時、南唐に仕えて金陵きんりょうに居りましたが、南唐が宋に併合されると共に、彼も宋朝に仕うる人となって、かの『太平広記』編集者の一人にも加えられて居ります。兄弟ともに有名の学者で、兄の徐鉉を大徐、弟の※(「金+皆」、第4水準2-91-14)じょかいを小徐と言い伝えているそうでございます。女のくせに、知ったか振りをいたすのは恐れ入りますから、前置きはこのくらいにして、すぐに本文ほんもんに取りかかることに致します」

   廬山の廟

 庚寅こういんの年、江西の節度使の徐知諫じょちかんという人がぜに百万をもって廬山使者のびょうを修繕することになりました。そこで、潯陽じんようの県令が一人の役人をつかわして万事を取扱わせると、その役人は城中へはいって、一人の画工を召出して、自分と一緒に連れて行きました。
 画工はの具その他をたずさえて、役人に伴われて行きますと、どういうわけか、城の門を出る頃からその役人はただ昏々こんこんとして酔えるが如きありさまで、自分の腰帯をはずして地に投げ付けたりするのです。
「この人は酔っているのだな」と、画工は思いました。
 そこでさからわずに付いてゆくと、役人はやがてまた、着物をぬぎ、帽子をぬぐという始末で、山へ登る頃にはほとんど赤裸あかはだかになってしまいました。そうして、廟に近い渓川たにがわのほとりまで登って来ますと、一人のそつが出て参りました。卒は青い着物をきて、白い皮で膝を蔽っていましたが、つかつかと寄って来て、かの役人を捕えるのです。
「この人は酔っているのですから、どうぞ御勘弁を……」
 こう言って、画工が取りなすと、卒は怒って叱り付けました。
「おまえ達に何がわかるか。黙っていろ」
 卒は遂に彼を捕虜とりこにして、川のなかに坐らせました。その様子がただの人らしくないと思ったので、画工は走って廟中の人びとに訴えると、大勢が出て来ました。見ると、卒の姿はいつか消え失せて、役人だけが水のなかに坐っているのです。声をかけても返事がないので、更によく見ると、彼はもう死んでいるのでした。あとになって帳簿を調べてみると、彼は修繕の銭百万の半分以上を着服ちゃくふくしていることが判りました。

   夢に火を吹く

 張易ちょうえきという人が洛陽にいた時に、りゅうなにがしと懇意になりました。劉は仕官もせずに暮らしている男でしたが、すこぶる奇術を善くするのでした。
 ある時、劉が町の人に銀を売ると、その人は満足にあたいを支払わないのです。そこで、劉は張と連れ立ってその催促にゆくと、彼はそれを素直に支払わないばかりか、種々の難癖なんくせをつけて逆捻さかねじに劉を罵りました。劉は黙ってそのまま帰って来ましたが、あとで張に話しました。
「彼は愚人で道理を識らないから、私がすこしく懲らしてやります。さもないと、土地の神霊のために重い罰を受けるようになりますから、彼を懲らすのは彼を救うがためです」
 どんな事をするのかと見ていると、劉はその晩、燈火あかりを消した後、自分の寝床の前に炭火をさかんにおこして、なにか一種の薬を焼きました。張は寝た振りをして窺っていると、暗いなかに一人の男があらわれて、しきりにその火を吹いています。よく見ると、それはかの町の人でありました。彼は夜の明けるまで火を吹きつづけて、その姿はいつか消え失せてしまいました。
 その後に、張が町の人の家をたずねると、彼はひどく弱っていました。
「どうも不思議な目に逢いました。このあいだの晩、夢のうちに誰かが来てわたくしを何処へか連れて行って、夜通し火を吹かせられましたが、しまいには息が続かなくなって、実に弱り果てました。その夢が醒めると、火を吹いていた口唇くちびるがひどくれあがって、なんだか息が切れて、十日とおかばかりは苦しみました」
 それを聞いて、張はいよいよ不思議に思いました。
 劉はこういう奇術を知っているために、河南のいんを勤めている張全義ちょうぜんぎという人に尊敬されていましたが、あるとき張全義がりょう太祖たいそと一緒に食事をしている際に、太祖は魚のなますが食いたいと言い出しました。
「よろしゅうございます」と、張全義は答えました。「わたくしの所へまいる者に申し付ければ、すぐに御前へ供えられます」
 すぐに劉を呼び寄せると、劉は小さい穴を掘らせ、それにいっぱいの水をたたえさせて、しばらく釣竿を垂れているうちに、五、六尾の魚をそれからそれへと釣りあげました。その不思議に驚くよりも、太祖は大いに怒りました。
「こいつ、妖術をもって人を惑わす奴だ」
 背を打たせること二十じょうの後、首枷くびかせ手枷てかせをかけて獄屋につながせ、明日かれを殺すことにしていると、その夜のうちに劉は消えるように逃げ去って、誰もそのゆくえを知ることが出来ませんでした。



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