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安達が原(あだちがはら)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-1 11:42:45 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语

底本: 日本の諸国物語
出版社: 講談社学術文庫、講談社
初版発行日: 1983(昭和58)年4月10日
入力に使用: 1983(昭和58)年4月10日第1刷
校正に使用: 1983(昭和58)年4月10日第1刷

 

    一

 むかし、京都きょうとから諸国修行しょこくしゅぎょうに出たぼうさんが、白河しらかわせきえて奥州おうしゅうはいりました。磐城国いわきのくに福島ふくしまちか安達あだちはらというはらにかかりますと、みじかあきの日がとっぷりれました。
 ぼうさんは一にちさびしいみちあるきつづけにあるいて、おなかはすくし、のどはかわくし、なによりもあしがくたびれきって、このさきあるきたくもあるかれなくなりました。どこぞに百姓家ひゃくしょうやでもつけ次第しだいたのんで一晩ひとばんめてもらおうとおもいましたが、おりあしくはらの中にかかって、見渡みわたかぎりぼうぼうとくさばかりしげったあき野末のずえのけしきで、それらしいけむりがるうちえません。もうどうしようか、いっそ野宿のじゅくときめようか、それにしてもこうおなかがすいてはやりきれない、せめてみずでもましてくれるうちはないかしらと、心細こころぼそおもいつづけながら、とぼとぼあるいて行きますと、ふとこうにちらりとあかりが一つえました。
「やれやれ、がたい、これでたすかった。」とおもって、一生懸命いっしょうけんめいあかりを目当めあてにたどって行きますと、なるほどうちがあるにはありましたが、これはまたひどい野中のなかの一つで、のきはくずれ、はしらはかたむいて、うちというのもばかりのひどいあばらでしたから、ぼうさんは二びっくりして、さすがにすぐとは中へはいりかねていました。
 すると中では、かすかなやぶ行灯あんどんかげで、一人ひとりのおばあさんがしきりといとっている様子ようすでしたが、そのとき障子しょうじやぶれからやせたかおして、
「もしもし、おぼうさま、そこになにをしておいでだえ。」
 とこえをかけました。
 けにびかけられたので、ぼうさんはおもわずぎょっとしながら、
「ああ、おばあさん。じつはこのはらの中で日がれたので、とまうちがなくってこまっているものです。今夜こんや一晩ひとばんどうかしてめてはいただけますまいか。」
 といいました。
 するとおばあさんは、
「おやおや、それはおこまりだろう。だがごらんのとおり原中はらなかの一軒家けんやで、せっかくおもうしても、てねる布団ふとんまいもありませんよ。」
 とことわりました。
 ぼうさんはおばあさんがそういう様子ようす親切しんせつそうなのに、やっと安心あんしんして、
「いえいえ、雨露あめつゆさえしのげばけっこうです。布団ふとんなんぞの心配しんぱいはいりませんから、どうぞおめなすってください。」
 とたのみました。
 おばあさんはにこにこわらいながら、
「まあまあ、そういうわけなら、御不自由ごふじゆうでも今夜こんやうちがってゆっくりやすんでおいでなさい。」
 といって、ぼうさんを上へげてくれました。
 ぼうさんは度々たびたびれいをいいながら、わらじをぬいで上へがりました。おばあさんは、囲炉裏いろりにまきをくべて、あたたかくしてくれたり、おかゆをいてお夕飯ゆうはんべさせてくれたり、いろいろ親切しんせつにもてなしてくれました。それでぼうさんも、かけによらないこれはいいうちとまり合わせたと、すっかり安心あんしんして、くりかえしくりかえしおばあさんにおれいをいっていました。
 お夕飯ゆうはんがすむと、ぼうさんは炉端ろばたすわって、たきにあたりながら、いろいろたびはなしをしますと、おばあさんはいちいちうなずいてきながら、せっせと糸車いとぐるままわしていました。そのうちだんだんけるにしたがって、たださえあばらのことですから、そとつめたいかぜ遠慮えんりょなく方々ほうぼうからはいんで、しんしんと夜寒よさむにしみます。けれどあいにくなことには、ほうがだんだん心細こころぼそくなって、ありったけのまきはとうにやしつくしてしまいました。
 おばあさんはふとぼうさんのさむそうにふるえているのをつけて、
「おやおや、まきがみんなになりましたか。おきゃくさまがあるとったらもっとたくさんっておけばよかったものを、のつかないことをしました。どれどれ、ちょっとうらの山へ行ってまきをってますから、おぼうさま、しばらく退屈たいくつでもお留守番るすばんをおたのもうします。」
 こういっておばあさんは気軽きがるに出て行こうとしました。
 するとぼうさんはたいそうどくがって、
「いやいや、この夜更よふけにそんな御苦労ごくろうをかけてはすみません。なんならわたしが一走ひとはしり行ってってましょう。」
 といいますと、おばあさんは手をふって、
「どうして、とんでもない。たびの人にかるものではない。まあまあ、なんにもごちそうのない一つのことだから、せめてたきでもごちそうのうちだとおもってもらいましょう。」
 といいいい出かけて行きましたが、なんおもったのかもどってて、
「そのわりおぼうさま、しっかりたのんでおきますがね、わたしがかえってくるまで、あなたはそこにじっとすわっていて、どこへもうごかないでくださいよ。うっかりうごいて、つぎをのぞいたりなんぞしてはいけませんよ。」
 とくりかえし、くりかえし、ねんしました。
「どういうわけだからないが、むろんようもないのに、人のうちの中なんぞをかってにのぞいたりなんぞしませんから、安心あんしんしてください。」
 とぼうさんもいいました。
 それでおばあさんも安心あんしんしたらしく、そのまま出ていきました。

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