打印本文 打印本文 关闭窗口 关闭窗口

白い鳥(しろいとり)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-9-1 12:15:20 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语

底本: 日本の諸国物語
出版社: 講談社学術文庫、講談社
初版発行日: 1983(昭和58)年4月10日
入力に使用: 1983(昭和58)年4月10日第1刷
校正に使用: 1983(昭和58)年4月10日第1刷

 

    一

 むかし近江国おうみのくに余呉湖よごのうみという湖水こすいちかさびしいむらに、伊香刀美いかとみというりょうしがんでおりました。
 あるれたはるあさでした。伊香刀美いかとみはいつものようにりょうの支度したくをして、湖水こすいほうりて行こうとしました。その途中とちゅう、山の上にさしかかりますと、いままでからりとがってあかるかった青空あおぞらが、ふとくもって、そこらがうすぼんやりしてきました。「おや、くもが出たのか。」とおもって、あおむいてますと、ちょうど伊香刀美いかとみあたまの上のそらに、白いくものようなものがぽっつりえて、それがだんだんとひろがって、大きくなって、いまにもあたまの上にちかかるほどになりました。
 伊香刀美いかとみはふしぎにおもって、
なんだろう、くもにしてはおかしいなあ。」
 とひとごとをいいながら、じっと白いものをつめていますと、それは伊香刀美いかとみあたまの上をすうっとながれるようにとおりすぎて、だんだん下へ下へと、余呉湖よごのうみほうへとくだって行きます。やがてきらきらと、みずうみの上にかがやきだしたはるの日をあびて、ふわりふわりちて行く白いものの姿すがたがはっきりとえました。それは八白鳥はくちょうゆきのように白いつばさをそろえて、しずかにりて行くのでありました。伊香刀美いかとみはびっくりして、
「ほう、えらい白鳥はくちょうだ。」
 といいながら、われわすれてけわしい坂道さかみち夢中むちゅうりて、白鳥はくちょうみずうみほうりて行きました。やっとみずうみのそばまでましたが、もう白鳥はくちょうはどこへ行ったか姿すがたえませんでした。伊香刀美いかとみはすこし拍子ひょうしけがして、そこらをぼんやり見回みまわしました。すると水晶すいしょうかしたようにみきった湖水こすいの上に、いつどこからたか、八にん少女おとめがさもたのしそうにおよいであそんでいました。
 少女おとめたちはの中になんにもこわいことのないような、つみのない様子ようすで、きれいなはだみずの中にひたしていました。伊香刀美いかとみは「あッ。」といったなり、とれてそこにっていました。するとどこからともなくいいかおりが、すうすうとはなさきながれてきました。そしてしずかな松風まつかぜおとにまじって、さらさらとうすきぬのすれうようなおとが、みみのはたでこえました。
 いて伊香刀美いかとみかえってみますと、すぐうしろのまつの木のえだに、ついぞたこともないような、うつくしいしろ着物きものけてありました。伊香刀美いかとみはふしぎにおもって、そばへってみますと、うつくしい着物きものはみんなで八まいあって、それはとりつばさをひろげたようでもあり、なが着物きもののすそをひいたようでもありました。それがかすかなかぜかれては、おとてたり、かおりをおくったりしているのです。
 伊香刀美いかとみはその着物きものがほしくなりました。
「これはめずらしいものだ。きっとさっきの白いとりたちがぬいで行ったものにちがいない。するとあの八にん少女おとめたちは天女てんにょで、これこそむかしからいうあま羽衣はごろもというものにちがいない。」
 こうひとごとをつぶやきながら、そっと羽衣はごろもを一まいろして、うちへってかえって、たからにしようとおもいました。でもみずの中に少女おとめたちがどうするか、様子ようす見届みとどけて行きたいとおもって、羽衣はごろもをそっとかかえたまま、木のかげにかくれてていました。
 八にん少女おとめたちはややしばらくみずの中で、のびのびとさも気持きもちよさそうに、おさかなのようにおよかたちをしたり、小鳥ことりのようにかたちをしたりして、余念よねんなくあそたわむれていましたが、やがて一人ひとりがり、二人ふたりがり、まつの木の下までると、てんでんに羽衣はごろもろしては、からだにまといました。そして一人ひとり一人ひとり、ぱあっと羽衣はごろもをひろげては、がっていきました。
 とうとう七にんまで、少女おとめたちはみんな白鳥はくちょうになってそらの上にがりましたが、いちばんおしまいにがってた八にんめの少女おとめが、ると自分じぶん羽衣はごろもかげかたちえません。松風まつかぜばかりがさびしそうなおとてていました。少女おとめはそのとき
「まあ、わたしの羽衣はごろもが。」
 といったなり、あわててそこらをさがしはじめました。もうそのときには、仲間なかま少女おとめたちは、七にんともそらの上にがって、に、ずんずん、ずんずん、とおくなっていきました。
「まあ、どうしましょう。羽衣はごろもがなくなっては、てんへはかえられない。」
 と少女おとめはくらい目をして、うらめしそうにそら見上みあげました。青々あおあおれた大空おおぞらの上に、ぽつん、ぽつんと、白い点々てんてんのようにえていた、仲間なかま少女おとめたちの姿すがたも、いつのにか、その点々てんてんすらえないほどのとおくにへだたって、あいだにははるかすみが、いくえにもいくえにもめていました。
てんにもかえられない。にもめない。わたしはどうしたらいいのだろう。」
 と、羽衣はごろもをなくした少女おとめは、あしずりをしてなげいていました。さっきからその様子ようすかげでながめていた伊香刀美いかとみは、さすがにどくになって、のこのこはいしてて、
「あなたの羽衣はごろもはここにありますよ。」
 といいました。
 だしぬけにこえをかけられて、少女おとめはびっくりしました。それから人間にんげん姿すがたると、二びっくりして、あわててそうとしました。しかしふと伊香刀美いかとみわきにかかえている羽衣はごろもると、きゅうかえったような笑顔えがおになって、
「まあ、うれしい。よくかえしてくださいました。ありがとうございます。」
 といいながら、手をして羽衣はごろもをうけろうとしました。けれど伊香刀美いかとみはふと羽衣はごろもをかかえていた手を、うしろにめてしまいました。
「おどくですが、これはかえすわけにはいきません。これはわたしの大事だいじたからです。」
 といいました。
 いったんどくになって、羽衣はごろもかえそうとおもった伊香刀美いかとみは、きゅうにまたこのきれいな少女おとめきになって、このままわかれてしまうのがしくなったのでした。
「まあ、そんなことをおっしゃらずに、かえしてくださいまし。それがいと、わたしはてんかえることができません。」
 と少女おとめはいって、はらはらとなみだをながしました。
「でもわたしはあなたをてんかえしたくないのです。それよりもわたしのところへおいでなさい。いっしょにたのしくらしましょう。」
 と伊香刀美いかとみはいいました。そしてずんずん羽衣はごろもをかかえたままこうへあるいていきました。少女おとめはしかたがないので、かなしそうなかおをして、あとからついていきました。
 少女おとめ羽衣はごろもにひかれて、とうとう伊香刀美いかとみのうちまで行きました。そして伊香刀美いかとみといっしょに、そのおかあさんのそばでらすことになりました。でも始終しじゅうどうかしててんかえりたいとおもって、おりがあったら羽衣はごろもかえして、げようげようとしました。伊香刀美いかとみ少女おとめこころっているので、羽衣はごろもをどこかへしまったまま、少女おとめの目にはふれさせませんでした。少女おとめ毎日まいにちのようにそらをながめては、人しれずかなしそうなためいきをついていました。

[1] [2]  下一页 尾页




打印本文 打印本文 关闭窗口 关闭窗口