こんなことを女王に語って、大納言は深く身にしむふうでしおれかえってしまった。この気持ちが促しもして大納言は、梅の枝を折らせるとすぐに若君を御所へ上がらせることにした。
「しかたがない。
と言って、
![]() ![]() |
源氏物語(げんじものがたり)45 紅梅
|
作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/11/6 10:05:22 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语 |
|
こんなことを女王に語って、大納言は深く身にしむふうでしおれかえってしまった。この気持ちが促しもして大納言は、梅の枝を折らせるとすぐに若君を御所へ上がらせることにした。 「しかたがない。 と言って、 心ありて風の
この歌を紅の紙に、青年らしい書きようにしたためたのを、若君の 兵部卿の宮が中宮のお 「 などとお尋ねになった。 「昨日はあまり早く 子供らしくはあるが、若君は親しい調子で申し上げた。 「御所でなくても時々はもっと気楽な家のほうへも遊びに来るがいいよ。若い人がどこからともなくたくさん集まって来る所だよ」 と宮はお言いになる。この子一人を相手にお話をあそばされるので、他の人たちは遠慮をしてやや遠くへのいていたり、ほかへ行ってしまったりして、静かになった時に、宮が、 「東宮様から少し暇がいただけたのだね、君をおかわいがりになってお放しにならないようだったのに、私の所へ来ている間に御 とおからかいになると、 「あまりおまつわりになるので苦しくてなりませんでした。あなた様は」 と子供は言いさして黙ってしまったのをまた宮は 「私を貧弱な無勢力なものだと思って、 こんなことをお言いだしになったのをきっかけにして、若君は紅梅の枝を差し上げた。 「私の意志を通じたあとでこれがもらえたのならよかったろう」 とお言いになって、宮は珍重あそばすように、いつまでも花の枝を見ておいでになった。枝ぶりもよく花弁の大きさもすぐれた美しい梅であった。 「色はむろん紅梅がはなやかでよいが、香は白梅に劣るとされているのだが、これは両方とも備わっているね」 宮がことにお好みになる花であったから、差し上げがいのあるほど大事にあそばすのであった。 「今夜は御所に こうお言いになってお放しにならぬために、若君は東宮へ伺うこともできずに兵部卿の宮のお 花も 「この花の持ち主の方はなぜ東宮へお上がりにならなかったのかね」 「よく存じませんけれど、宮仕えよりも普通の結婚を父母は望んでいるのではございませんでしょうか」 などと若君はお答えしていた。大納言の希望は自身の娘のほうであることも宮は他から聞き込んでおいでになるのであるが、 花の香に誘はれぬべき身なりせば花のたよりを過ぐさましやは
こんな歌をおことづてになるのであった。 「 と返す返す宮は仰せられた。若君も東の姉君を他の姉よりも愛しているのであって、かえって他の姉たちは顔も見せるほどにして近づかせ、普通の家の兄弟と変わらないのであるが、重々しい上品さのある女王を、幸福の多い、はなやかな境遇に置いてみたいと常に望んでいるのに、太子の後宮へはいった姉が両親からはなばなしく扱われるのを見て、それも姉なのであるからよいわけであっても、不満足な気がするために、せめてこの宮を東の女王の 昨日は大納言から歌をお贈りしたのであるから、まず宮のお返事を若君は父に見せた。 「おじらしになる歌だね。あまりに多情な御生活をされることに感心しないでいることをお聞きになって、左大臣や自分などに対しては慎しみ深くお見せになるのがおかしい。 などと 風流狂のようでございますがお許しください。
こんなふうな消息をあかずに書いて持たせてあげた。遊びの気分でなくまじめに娘の所へ自分を誘おうとするのであろうかと、さすがに宮は興奮をお感じになった。
花の香を匂はす宿に
と、まだ受け入れがたい気持ちを書いてお返しになったのを、大納言は飽き足らず思った。 「若君がいつかお こんなことを良人に問うた。 「そう。梅の花がお好きな方だから、あちらの座敷の前の紅梅が盛りで、あまりきれいだったから折って差し上げたのです。宮のお移り香は実際 花の話からもまた兵部卿の宮のことを言う大納言であった。 東の女王は細かい感情ももう皆備わる妙齢になっているのであるから、匂宮がお寄せになる好意を気づかないのではないが、結婚をして世間並みな生活をすることなどは断念していた。世間もまのあたり勢力のある父の子である方を好都合であるように思うのか、西の姫君のほうへは求婚者が次ぎ次ぎ現われてきて、はなやかな空気もそこでは作られるが、こちらは 「行き違いになって、そんな気持ちなどをまったく持っていない人のほうへいろいろと好意を寄せた手紙をくだすってもむだなことなのに」 こんなことを言うことがあった。少しのお返事すらも女王のせぬことでいよいよ宮はおいらだちになって、負けたくないお気持ちも出て、より多く熱の加わった手紙を書いてお送りになるのであった。 底本:「全訳源氏物語 下巻」角川文庫、角川書店 1972(昭和47)年2月25日改版初版発行 1995(平成7)年5月30日40版発行 ※このファイルは、古典総合研究所(http://www.genji.co.jp/)で入力されたものを、青空文庫形式にあらためて作成しました。 ※校正には2002(平成14)年4月10日44版を使用しました。 入力:上田英代 校正:砂場清隆 2004年3月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 ●表記について
|
![]() ![]() |