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太平洋雷撃戦隊(たいへいようらいげきせんたい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 6:31:06  点击:  切换到繁體中文


   大胆不敵の艦長
   痛快な捨身の戦法


 一難去って又一難。こんどの相手は、潜水艦の最も苦手とする飛行機です。これに会ったら最後、いくら潜っても逃げようとしてもだめです。三十メートルや四十メートルの深さでは、海水を透して、アリアリと見えるからです。また水面を全速力で逃げ出しても、潜水艦と飛行機の競走では、まったく亀と兎で、またたく間に追いつかれてしまいます。折角危い命を拾ったと思った第八潜水艦でしたが、どんなにもがいてみても、今度という今度は最期が迫ったようです。
 大汽船はと見ると、マストの上に鮮かな××旗をかかげ、憎々しく落着いて、こっちを向いて快走してきます。自分の飛行機がどんなに痛快に日本の潜水艦をやっつけるか、高見の見物をしようというつもりに違いありません。
「生意気な汽船だ」
 先任将校がこらえかねたように、口の中で怒鳴りました。
 しかし誰もが、もう覚悟をきめました。この上は、艦長からの果断なる命令を待つばかりです。
 航程六千キロ。本国を後にして、勇敢にも×国の海に進入した第八潜水艦も、遂にここで空しく海底に葬られねばならないのでしょうか。
 艦長清川大尉は、ビクとも驚きません。ここで騒いだり、悲観しては帝国軍人の名折れです。
(日本男子は、息の根のあるうちは、努力に努力を重ねて、頑張るのだッ)
 大尉は日頃から思っていることを、口の中でいってみました。
 見れば、×の攻撃機は、わが艦の砲撃をさけるかのように、やや向うに遠く離れて、もっぱら高度をあげることに努めているのでした。やがてこっちの手の届かない上空から爆撃を始めようという作戦なのでしょう。
「よおし、やるぞ」
 大尉は何か決心を固めたものらしく、その両眼は生々と輝いてきました。
「潜航! 深度三十メートル、全速力!」
 艦長は元気な声で号令をかけました。
 艦はみるみる海上から姿を消して、なおもドンドン沈んでゆきます。潜望鏡も、すっかり水中に没して、今は水中聴音機が只一つのたよりです。こうなると、いつ飛行機から爆撃されるか、全く見当がつかなくなります。
 乗組員は、艦長の心の中を、早く知りたいものだと焦りました。
「深度三十メートル」
 潜舵手が明瞭な声で報告しました。
「よし、そこで当直将校、水中聴音機で探りながら、×の汽船の真下に、潜り込むのだ。丁度真下に潜っていないと、危険だぞ」
 艦長の口から出た命令は、なんという大胆だいたんな、そして思いもかけぬ作戦計画でしょう。ところもあろうに、×船の腹の下に潜れというのです。成程、この大汽船の腹は広々として、○号潜水艦の五つや六つは、わけなく隠れることが出来ます。
 乗組員は勇躍して、艦体を操りました。
 これに気づいた×の汽船は大あわてです、備えつけの砲に弾をこめているうちに、潜水艦はもう、砲撃ができないほど、船底間近にとびこんで来たのです。
 ×の攻撃機は、潜水艦からの砲撃をさけるためにすこし離れて飛んでいたので、あっと気のついたときには、もう潜水艦は、グルリと半廻転して、味方の船底にぴったりと附いてしまったあとでした。
「こりゃ、弱ったな」
 さすがの大汽船も、爆弾を懐中にしまっているようで、気味の悪さったらありません。爆雷を水中へ投げてもよいのですが、下手へたをやると、爆発した拍子に、日本の潜水艦の胴中に穴をあけるばかりか、自分の船底にも大孔をあけてしまわないとはいえないのです。そんな危険なことがどうして出来ましょう。
「こいつは困った」
 攻撃の姿勢をとって、空中高く舞い上った×の飛行機も、同じような嘆声をあげました。折角せっかく爆弾をおとしてやろうと思ったことも今は無意味です。敵軍の指揮者たちは、無念のなみだをポロポロとおとして、口惜くやしがりました。
 そこへもってきて、折悪しく暮方になりました。いままで明るかった海面が、ずんずん暗くなってゆきます。西の空には、鼠色の厚い雲が、鉄筋コンクリートの壁のようにたてこめているので、大変早く夕闇が翼を伸ばしはじめました。夕日のなごりが空の一部を染め、波頭を赤々と照らしたと見る間もなく、たちまち光はせて、黒々とした闇が海と空とを包んでゆきました。
 にわかに訪れる夜!
 それこそ気の毒にも、睨み合った相手の位置を、ひっくりかえすのでした。
「救いの駆逐艦くちくかんを呼べ!」
「その辺に××××の潜水艦はいないか」
「飛行機が下りて来たぞ、ガソリンがなくなったらしい」
 そんなざわめきが、×の汽船の上に起りました。さっきまで笑顔でいた船員たちは、それもこれもいい合わせたように、唇の色をなくしていました。
「船長。どうも変です」
 一人の通信手が、あたふたと船橋に上ってきました。
「どうしたのだ」
 あから顔の太った船長が、思わず心臓をドキリとさせて、通信手の顔を見つめました。
「日本の潜水艦がいないのです。さっきから、水中を伝わって来ていた敵艦のスクリューの音が、パタリとしなくなりました」
「なに、推進機の音がしなくなった? それはいつのことだ」
「もう十分ほど前です」
「なぜもっと早く知らせないんだ」
「敵艦は、もう逃げてしまったのでしょう」
「ばか! な、な、なんてことだ……」
 船長の顔は、ひきつけたときのように歪みました。
 丁度そのときでした。
 百らいが崩れ落ちたような大爆発が、この大汽船の横腹をぶッ裂きました。船底から脱け出した第八潜水艦の魚雷が命中したのです。
 ガラガラガラ――
 積荷もボートも船員も一緒に空中へ舞いあがりました。つづいて巻上る黒煙――船は火災を起して早くも沈みかけています。
 大胆不敵の戦術によって、地獄の中から生を拾いあげた第八潜水艦は、はるか離れた海上で×船の最期を見送ると、もう前進を始めました。
 艦長の元気な号令が聞えます。
「僚艦の後を追って水面前進! 進路は北東北、速力二十ノット」

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