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中国怪奇小説集(ちゅうごくかいきしょうせつしゅう)07白猿伝・其他(唐)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-27 17:47:00  点击:  切换到繁體中文

底本: 中国怪奇小説集
出版社: 光文社文庫、光文社
初版発行日: 1994(平成6)年4月20日
入力に使用: 1994(平成6)年4月20日初版1刷
校正に使用: 1999(平成11)年11月5日3刷

 

中国怪奇小説集

白猿伝・其他

岡本綺堂




 第五の男は語る。
「唯今は『酉陽雑爼』と『宣室志』のお話がありました。そこで、わたくしには其の拾遺しゅういといったような意味で、唐代の怪談総まくりのようなものを話せという御注文ですが、これはなかなか大変でございます。とても短い時間に出来ることではありません。勿論、著名の物を少々ばかり紹介いたすに過ぎないと御承知ください。就きましては、まず『白猿伝』を申し上げます。この作者の名は伝わって居りません。唐に欧陽詢おうようじゅんという大学者がありまして、後に渤海男ぼっかいだんほうぜられましたが、この人の顔が猿に似ているというので、或る人がいたずらにこんな伝奇を創作したのであって、本当に有った事ではないという説があります。しかし〈志怪の書〉について、その事実の有無を論議するのは、無用の弁に近いかとも思われます。ともかくも古来有名な物になって居りまして、かの頼光らいこう大江山おおえやま入りなども恐らくこれが粉本ふんぼんであろうと思われますから、事実の有無うむを問わず、ここに紹介することに致します。
 そのほかには、原化記げんかき朝野僉載ちょうやせんさい博異記はくいき、伝奇、広異記こういき幻異志げんいしなどから、面白そうな話を選んで申し上げたいと存じます。これらもみな有名の著作でありまして、一つ一つ独立して紹介するの価値があるのでございますが、あとがつかえて居りますから、そのなかで特色のあるお話を幾つか拾い出すにとどめて置きます。右あらかじめお含み置きください」

   白猿伝

 りょう六朝りくちょう)の大同だいどうの末年、平南将軍藺欽りんきんをつかわして南方を征討せしめた。その軍は桂林けいりんに至って、李師古りしこ陳徹ちんてつを撃破した。別将の欧陽※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)おうようこつは各地を攻略して長楽ちょうらくに至り、ことごとく諸洞の敵をたいらげて、深く険阻けんその地に入り込んだ。
 欧陽※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)の妻は白面細腰はくめんさいよう、世に優れたる美人であったので、部下の者は彼に注意した。
「将軍はなぜ麗人を同道して、こんな蕃地へ踏み込んでおでになったのです。ここらの山の神は若い女をぬすむといいます。殊に美しい人はあぶのうございますから、よく気をお付けにならなければいけません」
 ※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)はそれを聞いて甚だ不安になった。夜は兵をあつめて宿舎の周囲を守らせ、妻を室内に深く閉じ籠めて、下婢かひ十余人を付き添わせて置くと、その夜は暗い風が吹いた。五更ごこう(午前三時―五時)に至るまで寂然せきぜんとして物音もきこえないので、守る者も油断して仮寝うたたねをしていると、たちまち何物かはいって来たらしいので驚いて眼をさますと、将軍の妻はすでに行くえ不明であった。とびらはすべて閉じたままで、どこから出入りしたか判らない。門の外はけわしい峰つづきで、眼さきも見えない闇夜にはどこへ追ってゆくすべもない。夜が明けても、そこらになんの手がかりも見いだされなかった。
 ※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)の痛憤はいうまでもない。彼はこのままむなしくかえらないと決心して、病いと称してここに軍をとどめ、毎日四方を駈けめぐって険阻の奥まで探り明かした。こうしてひと月あまりを経たるのち、百里(六丁一里)ほどを隔てた竹藪で妻の繍履ぬいぐつの片足を見付け出した。雨に湿れ朽ちてはいたが、確かにそれと認められたので、※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)はいよいよ悲しみ怒って、そのゆくえ捜索の決心をますます固めた。
 彼は三十人の壮士をすぐって、武器をたずさえ、糧食を背負い、巌窟がんくつね、野原で食事をして、十日あまりも進むうちに、宿舎を去ること二百里、南のかたに一つの山を認めた。山は青くひいでて、その下には深いたにをめぐらしていた。一行は木を編んで、嶮しい巌やあおい竹のあいだを渡り越えると、時に紅いきものが見えたり、笑い声がきこえたりした。
 つたかずらをじて登り着くと、そこには良い樹を植えならべて、そのあいだには名花も咲いている。緑の草がやわらかに伸びて、さながら毛氈もうせんを敷いたようにも見える。あたりは清く静けく、一種の別天地である。
 路を東にとって石門にむかうと、婦女数十人、いずれも鮮麗の衣服を着て歌いたわむれていたが、※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)の一行を見てみな躊躇するようにたたずんでいた。やがて近づくと、かれらは一行にむかって、なにしに来たかといた。※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)は事情をつまびらかに打ち明けると、女たちは顔をみあわせて嘆息した。
「あなたの奥さんはひと月ほど前からここに来ておいでですが、今は病気で寝ておられます。来てごらんなさい」
 門をはいると、木の扉がある。内はひろくて、座敷のようなものが三、四室ある。壁に沿うてとこを設け、その床は綿に包まれている。※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)の妻は石のとうの上に寝ていたが、畳をかさね、しとねをかさねて、結構な食物がたくさんに列べてあった。たがいに眼を見合わせると、妻は急に手を振って、夫に早く立ち去れという意を示した。
 女たちは言った。
「奥さんはこの頃お出でですが、わたし達の中にはもう十年もここにいる者があります。ここは神霊ある物の棲む所で、自由に人を殺す力を持っています。百人の精兵でも、かれを取り押えることは出来ません。幸いに今は留守ですから、還らない間に早く立ち去るが好うございます。しかしい酒二石と、食用の犬十匹と、麻数十きんとを持ってお出でになれば、みんなが一致して彼を殺すことが出来ます。来るならば必ず正午ごろに来てください。それも直ぐに来てはなりません。十日を過ぎてお出でなさい」
 それでは十日の後に再び来ると約束して、※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)の一行は立ち帰った。それから美酒と犬と麻とを用意して、約束の時刻にたずねて行くと、女たちは待っていた。
「かれは酒が大好きで、酔うと力が満ちて来ると見えて、私たちに言いつけて綵糸いろいとで自分のからだをゆかに縛り付けさせます。そうして、一つねあがると、糸は切れてしまうのです。しかし三本の糸をまき付けると、力が不足で切ることが出来ません。それですから、きぬのなかに麻を隠して置いて縛ったらば、おそらく切ることは出来まいと思われます。彼のからだはすべて鉄のようで刃物などは透りませんが、ただへそのした五、六寸のところを大事そうに隠していますから、そこがきっと急所で、刃物を防ぐことが出来ないのであろうと察せられます」
 女たちは更にかたわらの巌室いわむろを指さして教えた。
「そこは食物ぐらですから暫く忍んでおいでなさい。酒を花の下に置き、犬を林のなかに放して置いて、わたし達の計略が成就じょうじゅした時に、あなた方に合図をします」
 その通りにして、一行は息を忍ばせて待っていると、日も早やさるの刻(午後三時―五時)とおぼしき頃に、練絹ねりぎぬのような物があなたの山から飛ぶが如くに走って来て、たちまちにほらのなかにはいった。見れば、身のたけ六尺余の男で、美しいひげをたくわえ、白衣を着て杖を曳いていた。かれは女たち大勢に取り巻かれて庭に出たが、たちまちに犬を見つけて驚き喜び、身を跳らせて引っ捕えたかと思うと、引き裂いて片端からくらい尽くした。女たちは玉の杯で酒をすすめると、機嫌よく笑い興じながらかれは数の酒を飲んだ。
 女たちはかれをたすけて奥にはいったが、そこでも又笑い楽しむ声がきこえた。やや暫くして、女が出て来て※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)の一行を招いたので、すぐに武器をたずさえて踏み込むと、一頭の大きい白猿が四足しそくゆかにくくられていて、一行を見るや慌て騒いで、しきりに身をもがいても動くことが出来ず、いたずらに電光のような眼を輝かすばかりであった。一行は先を争って刃を突き立てたが、あたかも鉄石の如くである。しかも臍の下を刺すと、やいばは深く突き透って、そそぐが如くに血が流れた。
「ああ、天がおれを殺すのだ」と、かれは大きい溜め息をついた。「貴様たちの働きではない。しかし貴様の女房はもうはらんでいる。必ずその子を殺すな。明天子に逢って家を興すに相違ないぞ」
 言い終って彼は死んだ。そのくらをさがすと、宝物珍品が山のように積まれていて、およそ人世の珍とする物は備わらざるなしという有様であった。名香めいこうこく、宝剣一そう、婦女三十人、その婦女はみな絶世の美女で、久しいものは十年もとどまっている。容色おとろえた者はどこへか連れて行かれて、どうなってしまうか判らない。女を取り、物を取るのはすべて自分ひとりで、他に党類はない。朝はたらいで顔を洗い、帽をかぶり、白衣を着るが、寒さ暑さに頓着せず、全身は長さ幾寸の白い毛におおわれている。
 かれが家にある時は、常に木彫りの書物を読んでいるが、その文字は符篆ふてんの如くで、誰にも読むことは出来ない。晴れた日には両手に剣を舞わすが、その光りは身をめぐって飛び、あたかも円月の如くである。飲み食いは時を定めず、好んで木実このみや栗を食うが、もっとも犬をたしなみ、啖い殺して血を吸うのである。ひるを過ぎると飄然として去り、半日に数千里を往復して夕刻には必ず帰って来る。夜は婦女にたわむれて暁に至り、かつて眠ったことがない。要するに※(「けものへん+暇のつくり」、第4水準2-80-45)かかく[#「けものへん+矍」、133-13]のたぐいである。
 ことしの秋、木の葉が落ち始める頃に、かれはさびしそうに言った。
「おれは山の神に訴えられて、死罪になりそうだ。しかし救いをもろもろの霊ある物に求めたから、どうにかまぬかれるだろう」
 前月、書物を収めてある石橋が火を発して、その木簡もっかんを焼いてしまった。かれは書物を石の下に置いたのである。かれは悵然ちょうぜんとしてまた言った。
「おれは千歳せんざいにして子がなかったが、今や初めて子を儲けた。おれの死期もいよいよ至った」
 かれはまた、女たちを見まわして、涙を催しながら言った。
「この山は険阻で、かつて人の踏み込んだことのない所だ。上は高くして樵夫きこりなども見えず、下は深うして虎狼ころう怪獣が多い。ここへもし来る者があれば、それは天の導きというものだ」
 怪物の話はこれで終った。※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)はその宝玉や珍品や婦女らを連れて帰ったが、婦女のうちには我が家を知っていて、無事に戻る者もあった。※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)の妻は一年の後に男の子を生んだが、その容貌は父にていた。
 ※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)は後にちん武帝ぶていのために誅せられたが、彼は平素から江総こうそうと仲がよかった。江総は※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)の子の聡明なるを愛して、常に自分の家に留めて置いたので、※(「糸+乞」、第3水準1-89-89)のほろびる時にもその子は難をまぬかれた。生長の後、その子は果たして文学に達し、書を善くし、名声を一代に知られた。
(白猿伝)
 


 

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