您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 岡本 綺堂 >> 正文

鳥辺山心中(とりべやましんじゅう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-27 18:13:18  点击:  切换到繁體中文


     四

 半九郎を初めてここへ誘って来たのは市之助であったが、塒(ねぐら)を一つ場所に決めていない彼はいつも半九郎の連れではなかった。ことに過日(このあいだ)の鶯の話を聴かされてから、彼は半九郎のあまり正直過ぎるのを懸念するようになったので、ゆうべも彼を誘わずに自分一人で来ていると、あとから半九郎が丁度来合せたのである。
 もう二、三日というけれども、今夜が京の遊び納めであると市之助は思っていた。八日(ようか)九日(ここのか)の二日(ふつか)は出発前でいろいろの勤めがあるのは判り切っているので、今夜は思う存分に騒ぎ散らして帰ろうと、彼は羽目(はめ)をはずして浮かれていた。半九郎もお染に逢うのは今夜限りだと思っていた。
 もう泣いても笑っても仕方がないと、お染もきのう今日は諦めてしまった。いつも沈んだ顔ばかりを見せて男の心を暗い方へ引き摺って行くのは、これまでの恩となさけに対しても済まないことであると思ったので、彼女も今夜は努(つと)めて晴れやかな笑顔を作っていた。お花は無論に浮きうきしていた。今夜がいよいよのお別れであるというので、馴染みの女や仲居なども大勢寄って来て、座敷はいつもより華やかに浮き立った。
 内心はともかくも、お染の顔が今夜は晴れやかに見えたので、半九郎も少し安心した。安心すると共に、彼はふだんよりも多く飲んだ。ことに今夜は市之助という飲み相手があるので、彼はうかうか[#「うかうか」に傍点]と量をすごして、お染の柔かい膝(ひざ)を枕に寝ころんでしまった。
「半さま。御家来の衆が見えました」と、仲居のお雪が取次いで来た。
八介(はちすけ)か。何の用か知らぬが、これへ来いと言え」と、半九郎は寝ころんだままで言った。
 若党の八介はお雪に案内されて来たが、満座の前では言い出しにくいと見えて、彼は主人を廊下へ呼び出そうとした。
「旦那さま。ちょっとここまで……」
「馬鹿め」と、半九郎はやはり頭をあげなかった。「用があるならここへ来い」
「は」と、八介はまだ躊躇していたが、やがて思い切って座敷へいざり込んで来た。
「用は大抵判っている。迎いに来たのか」と、半九郎は不興らしく言った。
「左様でござります」
 御用の道中であるから銘々の荷物は宿々(しゅくじゅく)の人足どもに担がせる。その混乱と間違いとを防ぐために、組ごとに荷物をひと纏めにして、その荷物にはまた銘々の荷札をつける。それを今夜じゅうにみな済ませて置けという支配頭からの達しが俄かに来た。八介一人では判らないこともあるから、ひとまず帰ってくれというのであった。
「うるさいな。あしたでもよかろうに……」
「でも、一度になっては混雑するから、今夜のうちに取りまとめて置けとのことでござります」
「市之助。お身は帰るか」と、半九郎は酔っている連れにきいた。
「弟が何とかするであろうよ」と、市之助は相変らず横着を極(き)めていた。
「よい弟を持って仕合せだ。おれはちょっと戻らなければなるまいか」
 半九郎はしぶしぶ起き上がって、八介と一緒に出ると、お染は角(かど)まで送って来た。
「お前さま。もうこれぎりでお戻りになりませぬかえ」
「いや、戻る。すぐまた戻って来る。待っておれ」
 酔っていても半九郎はしっかりした足取りで歩いた。宿所へ帰って、彼は八介に指図して忙がしそうに荷作りをした。さしたる荷物もないのであるが、それでも一※(いっとき)ほどの暇を潰して、主人も家来もがっかりした。表では雨の音がはらはら[#「はらはら」に傍点]聞えた。
「旦那さま。降ってまいりました」
「降って来たか」
「昼から催しておりました。今のうちに降りましたら、お発ちの頃には小春日和(びより)がつづくかも知れませぬ」
 道中はともかくも、今夜の雨を半九郎は邪魔だと思った。彼は落ち着かない心持ちで、すぐにまた表へ出ようとした。
「またお出掛けでござりますか」と、八介は暗い空を仰ぎながら言った。
 酔いは出る、からだは疲れる。半九郎はもうそこに寝ころんでしまいたかったが、彼の心はやはりお染の方へ引かれていった。これがふだんの時であったら、彼も自分の宿に眠って安らかに今夜一夜を過(すご)すことが出来たかも知れないが、祇園の酒も今夜かぎりだと思うと、半九郎はとても落ち着いていられなかった。
 彼は雨を冒(おか)して祇園へ引っ返して行った。そうして、運命の導くままに自分の生命(せいめい)を投げ出してしまったのであった。
 花菱の座敷には市之助がまだ浮かれ騒いでいた。よくも遊び疲れないものだと感心しながら、半九郎も再びそのまどいに入った。
「半九郎、また来たか。おれはさすがにもう堪まらぬ。お身が代って女子(おなご)どもの相手をしてくれ。頼む、頼む」
 今度は市之助がお花の膝を借りて横になってしまった。半九郎は入れかわってまた飲んだ。寡言(むくち)の彼も今夜は無器用な冗談などを時どきに言って、女どもに笑われた。
「あの、お客様が……」
 お雪が取次ぐひまもなしに、一人の若侍が足音あらくこの席へ踏み込んで来た。
「兄上、兄上」
 それが弟の源三郎であると知って、市之助は薄く眼をあいた。
「おお、源三郎か。何しにまいった」
「言わずとも知れたこと。お迎いにまいりました」
「出発の荷作りならよいように頼むぞ」
「わたくしには出来ませぬ」
 同じ迎いでも、これはさっきの若党とは一つにならなかった。血気の彼は居丈高(いたけだか)になって兄に迫った。
「荷作りのこと御承知なら、なぜ早くにお戻り下されぬ。兄弟二人が沢山の荷物、わたくし一人(いちにん)にその取りまとめがなりましょうか。積もって見ても知れているものを……。さあ、直ぐにお起(た)ち下され」
 彼は寝ころんでいる兄の腕を掴んで、力任せに引摺り起そうとするので、膝をかしているお花は見兼ねて支(ささ)えた。
「まあ、そのように手暴(てあら)くせずと……。市さまはこの通りに酔うている。連れて帰ってもお役に立つまい。お前ひとりでよいように……」
「それがなるほどなら、かようなところへわざわざ押しかけてはまいらぬ。じゃらけた女どもがいらぬ差し出口。控えておれ」
 武者苦者腹(むしゃくしゃばら)の八つ当りに、源三郎は叱りつけた。叱られてもお花は驚かなかった。彼女は白い歯を見せながら、なめらかな京弁でこの若い侍をなぶった。
「お前は市さまの弟御(おととご)そうな。いつもいつも親の仇でも尋ねるような顔付きは、若いお人にはめずらしい。ちっと兄(あに)さまを見習うて、お前も粋(すい)にならしゃんせ。もう近いうちにお下りなら、江戸への土産によい女郎衆をお世話しよ。京の女郎と大仏餅とは、眺めたばかりでは旨味(うまみ)の知れぬものじゃ。噛みしめて味わう気があるなら、お前も若いお侍、一夜の附合いで登り詰める心中者(しんじゅうもの)がないとも限らぬ。兄嫁のわたしが意見じゃ。一座になって面白う遊ばんせ」
「ええ、つべこべ[#「つべこべ」に傍点]とさえずる女め、おのれら売女の分際で、武士に向って仮りにも兄嫁呼ばわり、戯(たわむ)れとて容赦せぬぞ」
 彼は扇をとり直して、女の白い頬をひと打ちという権幕に、そばにいる女どもも、おどろいてさえぎった。自分の頭の上でこんな捫着(もんちゃく)を始められては、市之助ももう打棄(うっちゃ)って置かれなくなった。彼はよんどころなく起き直った。
「源三郎、静まらぬか。ここを何処(どこ)だと思っている」
 満座の手前、兄もこう叱るよりほかはなかったが、それがいよいよ弟の不平を募らせて、源三郎は更に兄の方へ膝を捻(ね)じ向けた。
「それは手前よりおたずね申すこと。兄上こそここを何処だと思召(おぼしめ)す。我われ一同が遠からず京地を引払うに就いては、上(かみ)の御用は申すに及ばず、銘々の支度やら何やかやで、きのう今日は誰もが眼がまわるほどに忙がしい最中に、短い冬の日を悠長らしく色里の居続け遊び、わたくしの用向きは手前一人(いちにん)が手足を擦り切らしても事は済めど、上の御用は一人が一人役、それでお前さまのお役が勤まりまするか、支配頭の首尾がよいと思召すか。京三界(さんがい)まで一緒に連れ立って来て、弟に苦労さするが兄の手柄か、少しは御分別なされませ」
 これが過日(このあいだ)から源三郎の胸に畳まっていた不平であった。現に兄は昨夜も戻らない。きょうも戻らない、出発まぎわにあってもまだ止(と)めどもなしに遊び歩いている兄の放埒には源三郎も呆れ果てた。年の若い彼はじりじりするほどに腹が立った。
 今夜も荷作りの達しが来たが、自分と家来ばかりでは纏(まと)め方が判らない。さりとておとなしく待っていてはいつ帰るか知れないので、源三郎は焦(じ)れにじれて、自分で兄の在りかを探しに出た。折りからの時雨に湿(ぬ)れながらまず六条の柳町をたずねると、そこには兄の姿が見付からなかった。それからまた方角を変えて祇園へ来て、ようようその居どころを突きとめると、兄は女の膝枕で他愛なく眠っている。源三郎はもう我慢も勘弁も出来なくなって、不平と疳癪(かんしゃく)が一時に爆発したのであった。
 それは市之助もさすがに察していた。弟が焦れて怒るのも無理はないと思った。彼は自分の遊興を妨げた弟を憎もうとはしなかった。しかし弟の言い条(じょう)を立てて、これから直ぐに帰る気にもなれなかった。
「もういい、もういい。何もかも判った、判った。おれもやがて帰るから、お前はひと足先へ帰れ」
 見え透いた一寸(いっすん)逃れと、弟はなかなか得心しなかった。
「いや、どうでお帰りなさるるなら、手前も一緒にお供いたす。さあ、すぐにお支度なされ」
 容赦のない居催促(いざいそく)には、兄も持て余した。
「それは無理というものだ。帰るには相当の支度もある。まあ、何でもよいから先へ行け」
 相手になっていては面倒だと、市之助はその場をはずす積もりらしい、酔いにまぎらせてよろけながら席を起(た)つと、お花は彼を囲うようにして、一緒に起った。ほかの女たちもそれを機(しお)に、この面倒な座敷をはずしてしまった。
 あとには半九郎とお染とが残った。半九郎は黙って酒を飲んでいた。

上一页  [1] [2] [3] [4] [5] 下一页  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告