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半七捕物帳(はんしちとりものちょう)65 夜叉神堂

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-28 19:10:05  点击:  切换到繁體中文


     三

 鮨屋の女房おぎんは、夜叉神堂を背景にして、吟味のひと幕を開かれた。彼女は品川の女郎あがりで、年明ねんあきの後に六本木の明石鮨へ身を落ちつけたのである。
「亭主の清蔵とは勤めの時からの馴染なじみで、昨年から引き取られて夫婦になりました」と、おぎんは申し立てた。
「その清蔵が先月から左の足に悪い腫物を噴き出しまして、いまだに立ち働きが出来ません。職人任せでは店の方も思うように参りませんので、わたくしも心配して居りますと、それには長谷寺の夜叉神さまにお願い申すに限ると教えてくれた人がありましたので、昼間は店を明けるわけには参りませんから、夕方から御参詣にまいったのでございます」
「この二朱銀はどうしたのだ」と、兼松は訊いた。「女のくせに、二朱銀一つを裸で帯のあいだに挟んでいる筈はねえ。あの面箱の中から探し出したのか」
「恐れ入りました。あの箱のなかの古いお面をさがして居りますうちに、二朱銀ひとつ見つけ出しました。大かた御信心の方が納めたのだろうと思いまして、そのままにして一旦は帰りかけましたが、唯今も申す通り、亭主の病気で手元の都合も悪いものですから、これも夜叉神さまがお授け下さるのかも知れないと、手前勝手の理窟をつけまして……。御門前からまた引っ返してまいりまして、亭主の病気が癒りましたら、きっと倍にしてお返し申しますと、心のうちでお詫びを申しながら……。まことに済まないことを致しました」
 おぎんは泣き出した。亭主の病気平癒の祈願に来ながら、勝手な理窟をつけて、奉納の金をぬすみ去ろうとは、飛んでもない奴だと兼松も呆れた。しかしそれも浅はかな女の出来心とあれば、深く咎めるにも及ばないが、一体この女の申し立てが嘘か本当か、それさえも好くは判らないのであるから、兼松は油断しなかった。
「勘太。なにしろその箱をぶちまけてあらためてみろ。銀のほかに小判が出るかも知れねえ」
 勘太は箱のなかの古い面を片端から掴み出すと、果たして箱の底から五枚の小判があらわれた。
「親分、ありましたよ」と、勘太は叫んだ。「猫に小判ということは聞いているが、これは鬼に小判ですぜ」
「おれもそんな事だろうと思った」
 兜の金銀をぬすんだ奴は、自分のふところに納めて置くことを避けて、ひと先ずこの面箱のなかに押し隠したらしい。おぎんもその同類で、参詣をよそおってそっと取り出しに来たのか、あるいは偶然に二朱銀を見つけ出したのか。その申し立ての真偽がまだ判然はっきりしないので、ひと先ずおぎんを門番所へ連れて行って、取り逃がさないように監視を申し付けて置いた。
「仕方がねえ。こうなったらここで見張りだ。今夜じゅうには来るだろう」
「親分の夜明かしは御苦労ですね。うちへ帰って誰か呼んで来ましょうか」と、勘太は云った。
「まあいいや。この頃は暑くなし、寒くなし、月はよし、まだ藪ッ蚊も出ず、張り番も大して苦にゃならねえ。おめえと一蓮托生いちれんたくしょうだ」
 兼松は笑いながら、勘太と共に夜叉神堂のうしろに隠れた。人目ひとめを忍ぶ身には煙草の火も禁物きんもつである。まして迂闊にしゃべることも出来ないので、二人は無言のぎょうに入ったように、桜の蔭にしゃがんで黙っていた。
 夜明かしを覚悟していた彼等は、幸いに早く救われた。その夜もまだ四ツ(午後十時)を過ぎないうち、一つの黒い影が夜叉神堂の前にあらわれた。自分の顔を見られぬ用心であろう。その曲者は奉納の鬼の面をかぶっていた。まだ其の上にも用心して、彼は手拭を頬かむりにして其の頭を包んでいたが、それが坊主頭であるらしいことは、兼松らに早くも覚られた。
 曲者は面の箱をひき寄せて、なにか一心にさぐっているらしい。その隙をみて、二人は不意に飛びかかると、彼はもろくも其の場に捻じ伏せられた。手拭を取られ、鬼の面をがれて、その正体をあらわした彼は、二十五、六歳の青白い僧であった。
「この坊主め、生けッぷてえ奴だ」と、兼松は先ず叱りつけた。「内心如夜叉ないしんにょやしゃどころか、夜叉神の面をかぶって悪事を働きやがる。貴様は一体どこの納所なっしょ坊主だ。素直に云え」
 普通の出家の姿であったならば、なんとか云い訳もあったかも知れないが、頬かむりをして、鬼の面をかぶっていたのでは、どうにも弁解の法がない。彼も一も二もなく恐れ入ってしまった。
 彼はこの近所の万隆寺の役僧教重であった。諸仏開帳の例として、開帳中は数十人の僧侶が、日々参列して読経どきょう鉦鼓しょうこを勤めなければならない。しかも本寺から多勢たぜいの僧侶を送って来ることは、道中の経費その他に多額の物入りを要するので、本寺の僧はその一部に過ぎず、他は近所の同派の寺々から臨時に雇い入れることになっている。万隆寺の僧も今度の開帳に日々参列していたが、教重もその一人で、破戒僧の彼は奉納の兜に眼を着けたのである。
 彼も別に悪僧というのでは無かったが、いわゆる女犯にょぼんの破戒僧で、長袖ながそでの医者に化けて品川通いにうつつをぬかしていた。誰も考えることであるが、あの兜の小判があれば当分は豪遊をつづけられる。その妄念が増長して、彼は明け暮れにかの兜を睨んでいるうちに、寺社方の指図として兜の金銀は取りのけられることになった。それが彼の悪心をあおる結果となって、この機を失っては再び手に入る時節がないと、教重はゆうべ思い切って悪事を断行したのであった。
 他寺の僧ではあるが、日々この寺に詰めているので、彼は寺男の弥兵衛が奉納小屋を見まわる時刻を知っていた。弥兵衛がけ七ツの見まわりを済ませた後、彼はのみつちとをたずさえて小屋の内へ忍び込んだ。金や銀は巧みに組み合わせてあるので、定めて面倒であろうと思いのほか、一枚をこじ放すと他はそれからそれへと容易に剥がれた。元来は小判を盗むのが目的であったが、仕事が案外に楽であったので、彼は更に二朱銀五、六個を剥ぎ取った。
 そのときにも彼は自分の顔を隠すために、夜叉神堂の古い面をかぶっていた。

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