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小熊秀雄全集(おぐまひでおぜんしゅう)-03

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-29 0:31:19  点击:  切换到繁體中文

 

慾望の波



     1
彼は人々の生活をじつと凝視した
するとヒシヒシと悔に似たものが襲つてきた、
居ても立つても居られない程になり
悔は苦しみに変つてきた
黙々と人々は生活する、
辞書の「××」といふ言葉を人々は忘れない
依然として反抗といふ言葉は
反抗といふ文字として変らない
ただ変化したのは人々の
争つてゆく方法であつた、
人々は平穏を何よりも愛してゐた、
最も消極的な形で
自己の生活の周囲に垣をつくつた、
その垣は己れの主人の
垣と隣り合つてゐるといふ意味で
最も安心な平穏な垣であつた、
彼は人々がそのやうに
執拗さをもつて争ひを
避けてゐる様子をみるとき
己れの悪魔のやうな性格を恥ぢつゝ
人々の平穏に
新しい苦しみを植ゑつけることが
果してあの人々にとつて
幸福となるか
悪魔はまたこの人々にとつての
悪魔の招来を約束できるか
どうかといふことに疑ひ始めた。

     2
明日のことは判らない
ただ明瞭なことは彼自身の
もつてゐる慾望の性質である。
あらゆるものを征服し
尽さうとするときの
彼の行動は
どのやうな死のやうな
静かな野へも風を捲き起す
しづかな野や其処に生活する
ものにとつて果して彼の行動は
愛され感謝されるだらうか
彼の慾望は高い
低い慾望家たちにとつて
彼は何時も嫉妬されてゐる
ましてや平凡な生活人にとつて
彼が真理を語るときは
いつも風を捲き起すから
彼はにがにがしく見かへされる
事実、湯にひたつてゐるやうな
静かな生活といふものもある。
また何の不足も己れ自身には
感じてゐない人々も少くない、
かうした人々の生活の
窓へ彼が顔を突込んで
中をのぞいて叫ぶとき
女達や子供達はキャッと叫ぶ
そして主人は身構へをする
平和な人々は口々に罵る
――彼は不幸をもつてきた、と

     3
沈鬱な人々も少くない
彼はそれらの人々の友である、
彼は世間並みの会話を
これらの人々と交すとき
これらの人々に愛される
だが一度真実に触れてゆくとき
人々はしだいに彼を去つてゆく
彼にとつては斯かる真実を
語るとき楽しみであるが
平穏を愛する人々にとつては
これが苦痛であることを知つたとき、
遂に彼はあらゆるものと
とほく去つて
人々の平和と彼の不幸との
無限大のへだたりを
つくらうかとさへ考へた
生命をこの世から断つことである、
あゝだが死に就いての慾望さへ
生の慾望に匹敵するほど
いやそれ以上に価値高いものを欲したから
死を選む勇気をもたなかつた
女との恋愛に就いても
金銭についても、交友についても
食慾、智慧
美、酒、賭博
あらゆる本能的なもの
全力的にこれを奪ひ去らうとする、
これらの品の所有者は誰れか、
あらゆる平凡人がこれを所有し、
多少なりともこれに満足してゐる
厚い壁を打破る
大きな掌はうごく、
快哉を覚えつつ盗みにゆく
あらゆるものから
あらゆる古い慾望の固守を
新しい彼の慾望の
鉄槌をうちふるつて打破る

     4
蠱惑的に優しい女が
哀願的な眼をもつてみるとき
彼は彼女の願ひに
答へてやつた瞬間
しだいに女の瞳孔に
優しい影が失はれてゆくのを発見する、
女の眼は新鮮になつたのか、
あるいは古くなつたのか、
女は古くなつたと悲しむ
彼は笑ひながら平然と
――否、それは新しくなつたのだ――といふ
貞操の所有を奪つた瞬間
彼は何かしら新しい所有に
移らなければならない
だが愚昧な女は
失つたものを
失つた後にをいても
いまだに夢のやうにその所有を信じてゐる。
そして失つた現実には
女は何の誇るべきものや
さらに新しい慾望をも抱かない
抱擁の中でただ男達の
小さな慾望の中に更に
もつと小さな慾望を住まはせてゐる、
そしてまた功利的な男は
これらの慾望の輪の中から
絶対に女の慾望が逃げださないやうに
さまざまな狡猾さで愛してゐる
彼はみぶるひする
あゝ、歴史は泥棒で、
すべて偉大なる敵は大なる慾望家であつた、
あらゆる敵を打倒すには
敵にひつてき[#「ひつてき」に傍点]する程
底知れぬ慾望をもたねばならない、
だが歴史は恬淡で
生活の海とは
いつも南国の海のやうに静かなもので
あることを望む人々に
彼がまざまざと生活の
生々しい慾望の波の高さを示すとき
人々は一斉に彼から眼をそらすのであつた
あるものは憎々しく見る、
あるものは何かしら漠然たる気に喰はなさをもつてゐる。
彼が峻厳に語るとき
聴き手は耳をふさぎ
ゆるやかに砂の崩れてゆくのを想像してゐる、
あくどく追求してゆくとき
人々は従順さうに路をさける、
追ひつめた時人々は悲鳴をあげる
そしてそのものにとつて最大の力をもつて
打ちかゝつてくる
だが人々のなんといふ可憐な力であらう、
その可憐さによつて
辛うじて生活の波を
小さく打ち砕き己れの住居に
平穏さを与へてゐたのかと
彼が考へるとき彼はおかしくなつた、
同時に彼は弱者に対する
哀憐は彼にとつては苦痛の感情にかはつていつた
弱いものを蔑すむにはあたらない、
だが弱者の慾望の限界を憎む
彼は己れの慾望の波の高まりの正しさを
あらゆる形式で
立証しなければならなかつた、
奪ふもの、
それは決して遠くからばかりとは限らない、
もつとも手近な人々からも
決して奪ふことを避けてはならない。
彼はそのことを
はげしく実行しようと企てた。

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