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小熊秀雄全集(おぐまひでおぜんしゅう)-09

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-29 0:41:44  点击:  切换到繁體中文


白樺の樹の幹を巡つた頃

誰かいま私に泣けといつた
白樺の樹の下で
幼い心が幹の根元を
三度巡つたときからそれを覚えた
草原には牛や小羊が
雲のやうに身をより添はして
いつも忙がしく柵を出たり入つたりしてゐたのに
私の小屋の扉は
いちにちぢゆう閉られたきりで
父親も母親も帰つてこなかつた
夕焼は小羊達を美しいカーテンで
飾るやうにして小屋の中に追ひやつたのに
ランプもついてゐない私の小屋の
恐ろしいくらやみが幼ない私を迎へた
百姓の暮らしの
孤独の中に放されてゐる子供は
樺の樹の幹を巡ることに
孤独を憎む悲しみの数を重ねた
いまでも愛とはすべてのものが
小羊のやうに
寄り添ふことではないのかと思つてゐる
いまでも人間とは小羊のやうに
体の温かいものではないかと思つてゐる
大人になつても泣けるといふことは
みな昔樺の樹を巡つたせいだ


鉄の魔女

しづかな嘘か、或は計画された情熱で
魔女をのせた車は足音を忍ばせて走る
人影はながく、土の上の車の軋りは
いつまでもいつまでも列をつゞける
辺りに眼もくばらずに
悲劇の法則を辷るやうに――、
こゝは曾つて平和であつた
こゝろよいクッションであつた
いま寝台の弾機は壊れてしまひ
デコボコの路に
ところどころ穴があいて水が溜つてゐる

一夜にして野はベッドの覆ひを
激しい風と火とで縦糸(たていと)を舞ひあげて
あとには赤い横糸(よこいと)ばかり、
こゝで夜、車はとまり、人は眠る、
地上に眠むるものゝ背は痛み
寝返りをうつたびに
風は怒りの声を耳の傍でさゝやく
土が眠るものを冷めたく庇護するとき
心は眠るものを熱く愛す、
こゝに放逐者が寝息をたてゝゐる、
白々しい怒号によつて
人々は再び暁を迎へ、出発する、
鉄の魔女を乗せた車を
人々は守りながら
汗をかきつゝすゝむ、
魔女は車の上で地団駄ふんで
指さす方に車を進ませやうとしてゐる、
哀れな従者を従へて
自由を泥(どろ)に射(う)ちこむために
真黒い情熱的な叫びをあげつゝ
眼の前の丘陵を目ざしてすゝむ。


私と犬とは待つてゐた

ものゝ響いてくるのを
きくことは楽しい
夜は改札口で
私はレールが鳴るのをきゝながら
ぼんやりと人々の乗り降りするのをみてゐた、
一匹の小犬がゐて
そはそはと歩るきながら
降りてくる主人を待つてゐるやうであつた
ながい時間はたつたが
私も犬もそこを去らない
私はたしかに何ものかゞ
やつてくるのを待つてゐるやうだ、
青い信号燈が赤くかはつたり
赤いのが白くなつたり
くりかへす
でも私の待つてゐるものは来ない
これは汽車にのつて
やつてくるものではないからだらう、
ことによつたら汽車のとまつたときに
やつてくるものかも知れない、
――さあ帰つて眠らう
私は傍をふりかへると
おかしなことには
小犬は眼を真赤にして
待つてゐる主人が来ないので泣いてゐるのだ
私は犬の求めるもののためにも、
滑稽で純情なこ奴のためにも、
不幸は早く去つて
幸福が早く来るやうに
ねがつてやつた


自然偶感

風はしつきりなしに硝子戸をうちたゝく
雲は人々の生活の
頭上を走りまはる
花の開いたのは
花が怒つたときであつた
彼女は甘い蜜を蝶に引き渡すために
花を開きなどはしなかつた
蝶! あついは泥棒でしかない

水は下流にむかつて
その喜びに似た白い泡立ちをたてる
その泡立の痕跡はすばやくて捉へがたい
通りすぎるものよ
開くものよ
流されるものよ
閉ぢるものよ
人は街に群れ、
ひそひそと語る
森は騒ぐ
花開く怒り
水流れる喜び
悠久として真実は
騒がしい捉へ難い早さで走つてゆく。


生活の支柱

暁は山と山との間へ色づいた雲を
茜色にひろげる
あなたと私との激しい生活の中から
堪へ難い苦しみを
ひとつひとつはぎとり
精神の暁を
わたしはいま眼の前にみた
茜色のつよい喜びを感じてゐる
愛する人よ
春の聡明な色彩は日増しに美しく
生活の谷間からのぼつてくる。
苦しみをかくまでにも秩序立て
悩み苦しむ方法を
私達はどこから学んできたのだらう
過渡期の愛の新しい苦しみが
前方に私達を待つてゐるが
その新しい苦しみの性質を
生活の途上で我々は知りつくす
愛の大きな優位性をもつだらう。


馬の胴体の中で考へてゐたい

おゝ私のふるさとの馬よ
お前の傍のゆりかごの中で
私は言葉を覚えた
すべての村民と同じだけの言葉を
村をでゝきて、私は詩人になつた
ところで言葉が、たくさん必要となつた
人民の言ひ現はせない
言葉をたくさん、たくさん知つて
人民の意志の代弁者たらんとした
のろのろとした戦車のやうな言葉から
すばらしい稲妻のやうな言葉まで
言葉の自由は私のものだ
誰の所有(もの)でもない
突然大泥棒奴に、
――静かにしろ
声を立てるな――
と私は鼻先に短刀をつきつけられた、
かつてあのやうに強く語つた私が
勇敢と力とを失つて
しだいに沈黙勝にならうとしてゐる
私は生れながらの唖でなかつたのを
むしろ不幸に思ひだした
もう人間の姿も嫌になつた
ふるさとの馬よ
お前の胴体の中で
じつと考へこんでゐたくなつたよ
『自由』といふたつた二語も
満足にしやべらして貰へない位なら
凍つた夜、
馬よ、お前のやうに
鼻から白い呼吸を吐きに
わたしは寒い郷里にかへりたくなつたよ


銀河

私は窓をひらいて夜の空をみた
そして心に叫んだ
――おゝ空よ私を救へよ、と
とほくの銀河の美しい光沢よ
私はお前に乗りたい
心の重い、にぶい、動きのとれない
救ひのない悲しい心をお前に乗せたい
きのふお前は私の願ひをきいてくれた
きのふお前は私のところに
光りをとゞけてくれた
夜であつた
私はお前の光りにふれた
なんてお前の手は柔かかつたのだらう

星の光り
ただお前は私のところに届いただけで
高いところまでは引きあげてはくれない、
私の心はお前とつれだつてならんだが
なんと鉛より重い肉体の重さは地を離れず
叫ぶ苦痛は心ではなかつた
心におき忘れられた
肉体の絶え入るやうな哀訴であつた

銀河よ、
ついにお前は私を
とほくのせ去つてはくれないのか
かなしい自由は残されてゐる
たつた一つの地上の自由であるのか
他にもつと果され得る願ひや
幸福の生活があるのか
自由とはついに地上にあるものなのか
そのことに疑ひぶかい日がつづき
肉体はだんだんと重くなり
心はしきりに溶け流れさらうとする
あゝ、生活よ
地上の苦痛の帯よ


底本:「新版・小熊秀雄全集第4巻」創樹社
   1991(平成3)年4月10日第1刷
入力:浜野智
校正:八巻美恵
ファイル作成:浜野智
1998年8月10日公開
2006年5月20日修正
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