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聖アレキセイ寺院の惨劇(せいアレキセイじいんのさんげき)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-29 7:32:14  点击:  切换到繁體中文


「フフフ、あれは潤色的な出来事さ。」熊城は洒々(しゃあしゃあ)として鐘声排除説を主張した。「なるほど、鐘に直接触れた形跡はないのだ! あったにしても、手で押したくらいや振錘(ふりこ)を叩きつけたぐらいでは、大鐘は微動もせんと云うのだから、どうして大鐘が動いて逆に振動が小鐘に伝わり、鐘全体がああ云う首尾顛倒した鳴り方をしたのか判らない。もちろん不思議と云えば、これ以上の不思議はないのだが、しかしこの事件ではそれがホンのつまらない端役に過ぎないのだ。では、なぜかと云うと、鐘と死体を繞(めぐ)って推定されるものが、ことごとく一寸法師ルキーンの驚異的な特徴に一致している。また、そればかりでなく鐘の現象が犯人脱出後に起っているのだからね。[#「鐘の現象が犯人脱出後に起っているのだからね。」に傍点]だから、事件の複雑さを増す戯曲的な色彩にはなっても、とうてい本質を左右するものじゃない。ねえ法水君、捜査官が猟奇的な興味を起したばかりに、せっかく事件の解決を失った例が決して少なくはないのだぜ。いや、僕も危うくその轍(てつ)を踏(ふ)むところだったよ。」
「なるほど、君近来の傑作だけど、」露骨な嘲弄味を見せて、法水が煙の輪を吐いた。「だが、そうなると殺した者と綱を攀(よ)じ登った者と、こう別個の人物が二人現われるわけになるね。」
 熊城は相手が法水だけに、ほとんど怯懦(きょうだ)に近い警戒の色を泛(うか)べたが、検事は腿(もも)を叩いて、
「ウン、それに違いない。」と法水に同意してから、自説を云い出した。
「ねえ熊城君、死体は他殺死体には類例のない妙な格好で、跼(しゃが)んだまま死んでるんだぜ。そればかりでなく、死体を繞(めぐ)って謎だらけなんだ。第一格闘の形跡がないし、苦悶に引ん歪(ゆが)んだ顔や指先をしていても、のた打ち廻ったり逃れようとして床を掻(か)き※(むし)った跡もなければ、傷口を押えた形跡も見られない。いくら君でも、気管を切断されただけで、雷撃的な即死は考えられないだろう。それから、外傷は一つだけで、しかもその創道が自殺者以外には見ることのない方向を示していて咽喉を斜上(ななめうえ)に突き上げている。そう云うふうに目標の困難な個所を狙って一撃で効果を収ると云うことは、被害者が故意に便宜な姿勢をとらない限りは、まず不可能と見て差支えあるまい。もちろんルキーンでは、跳躍(ジャンプ)しないと傷口に届かないし、逆にラザレフが跼んでいたと考えれば、すべてがより以上に不可解になってしまう。それにまた、手燭は上から取り落された形跡がなく、着衣にも焦痕(こげあと)がないばかりか、しかも、ああ行儀よく据えられているんだ。だから、僕にはあらゆる状況に渉(わた)って、ラザレフの意志が現われているように思われるのだがね。熊城君、僕はラザレフの死に自殺を主張するぜ。」
「すると、死体はどう云う方法で、兇器を堂外に持ち出したのだね?」
「それは後から抜き取られたのだよ。君はその抜き取った人物を指して、犯人だと云ってるんだ。ところで、奇抜な想像かもしれないが、なにがラザレフを自殺させたか――述べることにしよう。僕はナデコフの置洋燈(スタンド)を見てから、ラザレフとルキーンとの間にもっと深刻な秘密――、と云うより、ルキーンがこの老人の致命的な弱点を握っているのではないか、と考えられて来た。で、それと交換条件にルキーンはジナイーダを求めたのだろうと思うね。しかし、ジナイーダは頑強に拒み続けるので、縺(もつ)れに縺れた紛争は恐らく夜半を越えたに違いないのだ。だから、ルキーンは電報がきても実際は行かずに食堂の中に止っていたのだよ。ところが、そうして抜差(ぬきさし)のならない窮地に陥ったラザレフは、たちまち一策を案じたのだ。それは、妹のイリヤに含めてルキーンに挑(いど)ませることだよ。あの女はどこか変態的なところがあると見えて、自分からルキーンに対する感情を告白しているぜ。しかし、ジナイーダに対する執着の飽くまで強いルキーンは、妹娘には手を触れようともしない。それがために、そのなりゆきを扉(ドア)の隙から窺っていたラザレフは、ついに絶望のあげく自殺をとげてしまったのだよ。君は点け放しになっていた壁燈を憶えているだろう。多分ルキーンが消し忘れたのだろうが、あれがあったばかりに、ルキーン対イリヤの鳴神(なるがみ)式な色模様を、ラザレフは見ることが出来たのだ。」
 法水はニヤニヤ微笑みながら、濛々(もうもう)と烟(けむ)ばかり吐き出していたが、
「なるほど、各人各説と云うわけだね。それでは支倉君、君は手燭をどう説明する?」
「それはこうなんだ。その時ラザレフは、最初五分(ぶ)ばかりに残った蝋燭を点(とも)して、扉の前に立ったのだが、左手が不髄なために一まず手燭を床の上においてから、扉を細目に開いたのだ。そうして、手燭を消すのも忘れて凝視しているうちに、やがて蝋燭は燃え尽きてしまい、その暗黒の中で、最後の怖ろしい断定を前方に認めねばならなかったのだ。ところで、ラザレフの自殺を発見したルキーンが、それからどうしたかと云うに、彼はそれを利用して、対ジナイーダの関係を有利に展開させようと試みた。と云うのは、ルキーンの邪推からジナイーダの蔭にあり――と信じたワシレンコを除くことで、深夜会堂の周囲を狂人のように徘徊(はいかい)している姿を目撃したからだよ。そしてイリヤに口止をしてから、短剣を抜き取って姉妹の室に鍵を下し、それから、君の推定通りの径路を辿って、構外に脱出したのだ。さて、そうなると鐘をルキーンが鳴らしたことは云うまでもあるまい。その幻妙不可思議な手法は無論ルキーンだけの秘密だけども、発見を一刻でも早めることが彼奴(きゃつ)にとってこの上もない利益なのだからね。鳴らさねばならない理由はこれで立派に判ってたことになる。だから熊城君、この事件には一人の犯人もないことになってしまうのだよ。」
「すると、死体の謎はどうなるね?」
「それは、或る病理上の可能性を信ずる以外にないと思うね。刃を突き立てた瞬間に、それまで健康だった脳髄[#底本では「脳随」と誤記]の左半葉に溢血して、自由な右半身に中風性麻痺が起ったのだ。半身不随者が絶えず不意の顛倒を神経的に警戒しているのを見ても判るだろうが、異常な精神衝撃や肉体に打撃をうけると、残り半葉によく続発症状が発するものなんだ。その意味で剖検の発表が待たれてならないと云うわけさ。」
「フム」と頷いたが、熊城は意地悪そうに笑って、「しかし、それはむしろ他殺の場合に云うことだろう。それに、君は死体の奇妙な鉾立腰(ほこだてごし)に注意を欠いている。もっとも、その辺を曖昧にしなければ、自殺だなんて荒唐無稽な説が成立する気遣いはないのだがね。しかもその真因が解ると、君の説が出発している創道の方向から、ラザレフの意志が消えてしまうのだよ。ところで何がああ云う形を作ったかと云えば、それは一寸法師ルキーンの体躯なんだ。――まずルキーンが扉の外から声を掛けたとする。そうすると、ラザレフは当然彼の身長を知っているのだから、恐らく、半ば習慣的に上体を曲げて、扉の間から首を突き出したに相違ない。そこを下から突き上げられたのだよ。そして、ラザレフはそのままの形で崩れ落ちたのだが、その時健康な半身に中風性麻痺が起ったのだ。つまり、ルキーンの頭上にラザレフの咽喉(のど)が現われたのだから、加害者がいかなる姿勢で突いたと云うよりも、ルキーンの特殊な身長では、あの個所をああ云う方向に突くよりほかに方法がなかったのだ。」
「すると、着衣に焦げた痕が現われなければならんよ。」検事は半ば敗勢を自覚して、声に力がなかった。「無論手燭を下において扉を開けたのだろうが、それには、蝋燭が燃え尽きるまでの時間がない。」
 そこで熊城は最後の結論を云った。
「しかし、ルキーンが五分(ぶ)ばかりだと云う蝋燭が、その間に一度は使われていたとしたらどうだろう。そして、芯だけになったのに、吝嗇(りんしょく)なラザレフが点(とも)したとすると、芯の下方が燃えることになるから、下の蝋が熔けるにつれて、横倒しに押し流され炎が直立しなくなってしまうぜ。」と凱歌を挙げたが、彼はチラと臆病そうな流眄(ながしめ)を馳せて、
「時に法水君、君の意見は?」とたずねた。
「サア、僕の意見ってただ」しかし彼の眼光には、決定したものの鋭さがあった。「困ったことには、鐘声の地位を主役に進めるだけのものなんだが、マア我慢して貰って、君達の推論を訂正する労だけも、買って貰うことにしよう。」と、まず検事に向い、「最初に君の自殺説だがそれが謬論だと云うことは、死体の最後の呼吸が証明している。知っての通り、気管を見事に切断しているのだが、犯人はすぐその場で短剣を引き抜かず、しばらく刺し込んだまま放置しておいたのだ[#「犯人はすぐその場で短剣を引き抜かず、しばらく刺し込んだまま放置しておいたのだ」に傍点]――その理由は後で話すがねえ。それで、気道がペタンと閉塞されるので、ちょうど絞殺のような具合になってしまった。無論解剖によらなければ、競合(せりあい)状態になっている二つのどっちが最終の死因だか判らないけれど、とにかくこの場合、出血が致死量に達する以前に、ラザレフが窒息で意識を失ってしまったことだけは確実なんだよ。その証拠には糞尿を洩らしているし、鞏膜(きょうまく)に溢血点が現われている。そこで重大な分岐点になるのは、最後の呼吸――すなわち刺される、いや君の説によると刺した瞬間前の呼吸が――吐いたか引いたかのいずれにありやなんだが、胸隔を見ると、それが吐息の直後になっている。つまり、それを問題にしなければならないのは、自殺者の定則として――と云うより人間の緊迫心理に、当然欠いてはならぬ生理現象があるからだよ。それはマイネルト等の説だが、末端動脈が烈しく緊縮して胸部に圧迫感が起るので、呼息(いき)を肺臓一杯に満たして不安定な感覚を除いてからでないと、意志を実行に移すことが不可能だと云うことなんだ。ところが、ラザレフの屍体にそれがないとすると、どうして空の肺臓が許したか疑問になって来るだろう。だから、その矛盾をかえって僕は、他殺の推定材料に挙げているのさ。」
「なるほど。」検事は率直に頷いたが、「すると、熊城君のルキーン説が確立されるわけかい。」
「ところが、そうじゃない。」法水は静かに微笑して、熊城に顔を近寄せた。「君の云う侏儒(こびと)の殺人にも、大いに異論がある。そこで最初に僕は、ラザレフの右半身に中風性麻痺が起らなかったと主張するよ。そして、その証拠として、死体の両腕の温度を挙げたいのだ。麻痺の起った部分は屍冷に等しい程冷たくなっていなければならないのだが、ラザレフの両腕を比較してみると、麻痺の軽くなった左腕は云うまでもないことだが問題の右腕にも均(ひと)しい温度で微(かす)かに体温が残っている。と云ったところでたぶん君は、皮膚の感触みたいな微妙(デリケート)なものに信頼は置けぬと云うだろうが、それならそれで、もう一つ適確に否定出来る材料がある。で、それを云う前に、君が芯だけになっていたと云う蝋燭の形に、もう少し具体的な説明が欲しいのだがね。」
 熊城はちょっと神経的な瞬きをしたが、
「無論僕は、あの手燭の実際について想像しているんだよ。知っての通り、残蝋が鉄芯の止金を越えて盛り上っている。だから、糸芯の周囲の蝋が全部熔け落ちてしまうと、芯が鉄芯にくっついて直立して、下端(した)のわずかな部分だけが、熔けた蝋に埋まると云う形になるだろう。」
「ウン、それには異議はない。僕にしろ幼い頃から飽きる程見せられている形だからね。そして君は、ちょうどそう云う状態の時吝嗇漢ラザレフはそれを吹き消して、その後にルキーンが扉を叩いた払暁(ふつぎょう)に、また使ったと云うのだね。しかし、それだけで焦痕を残さなかったものと証明しようとするのは、妙な用語だけれども、蝋燭の生理と云うものに全然不用意だからだよ。それに、百目蝋燭さえ使えそうなあの鉄芯の太さも、君は計算の基礎に加えていないのだ。」そうして法水は、該博な引証を挙げて繊密(せんみつ)きわまる分析を始めた。
「しかし、ここで僕がくどくど云うよりも、僕等の偉大な先輩が残した記録を紹介することにしよう。一八七五年と云えば、日本では違警罪布告以前で刑事警察の黎明(れいめい)期だ。ちょうど大蘇芳年(おおそよしとし)の血みどろな木版画が絵草紙屋の店頭を飾っていた邏卒(らそつ)時代なんだが、その頃ドナウヴェルト警察に、現在科学警察を率いている君よりも遙かに結構な推理力を備えた、ブェンツェルシェルデルップと云う警部がいたのだ。その警部が、やはり燃え尽きた大燭台の蝋燭の長さを推定して、それで一番嫌疑の深かった盲人を死線から救い上げたのだが、その時推理の根源をなしたものが、実に平凡きわまる、それでいて誰しもうっかり見逃してしまう点にあったのだ。それは鉄芯の温度なんだよ、元来蝋燭の芯は穴の左右いずれかに偏在しているものなのだから、ああ云う太い鉄芯で際まで燃えてくると、それから先は鉄芯に隔てられて、炎が十分反対側に届かなくなる。それで、蝋の燃焼が不均衡になって、急角度の傾斜が現われて来るのだ。つまり、一方は芯だけになっても、片側には幾分でも蝋が残っていなければならない。だが、そのまま燃え切らせてしまえば、鉄芯に熱が加わって灼熱して来るから、芯が落ちるまでには反対側の蝋もズルズル熔け落ちてしまうけれども……、芯だけになった時いったん消してその後時間を隔てて灯(とも)したとすると、あいにく今度は鉄芯が冷却している。だから、反対側の蝋も、ホンの僅かな間だけ燃える芯の下方に当る部分のみが熔けて、上端の部分はそのままの形で残るか、少なくとも蝋膜ぐらいは存在していなければならない。ところが、あの手燭には、鉄芯が真黒に燻(いぶ)っているだけで、蝋は完全に燃焼してしまってる。するとそれが、ホンのわずかでも蝋燭の形をしたものが残っていて、そのまま燃え終った証拠じゃないか。そして厭が応でも焼痕が残らなければならないのだ。」

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