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ざんげ(ざんげ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-12 9:44:29  点击:  切换到繁體中文

底本: 日本児童文学大系 第一〇巻
出版社: ほるぷ出版
初版発行日: 1978(昭和53)年11月30日
入力に使用: 1978(昭和53)年11月30日初刷
校正に使用: 1978(昭和53)年11月30日初刷


底本の親本: 鈴木三重吉童話全集 第六巻
出版社: 文泉堂書店
初版発行日: 1975(昭和50)年9月

 

    一

 ロシアのウラディミイルといふ町に、イワン・アシオノフといふ商人がゐました。住居すまひと、店を二つももつてゐるほどのはたらき人で、うたをうたふことの大好きな、おどけ上手の、正直ものでした。
 そのイワンがある夏、ニズニイといふ町の市へ品物をさばきに出かけました。イワンが馬車をやとつて荷物をつみ入れさせ、子どもたちや、おかみさんに、いつてくるよとあいさつをしますと、おかみさんは心配さうな顔をして、
「今日立つのはおよしになつたらどうでせう。わたしはいやな夢を見たんですが。」と言ひました。
「ふゝん、もうけた金を使つてでも来るかと気になるのかな。」とイワンは笑ひました。
「そんなことならいゝんですけれど、わたしはそれはへんな夢を見たんです。あなたがニズニイからかへつていらしつて、帽子をおぬぎになると、おつむりの髪がすつかり白髪になつてる夢を見たんです。」
「はゝゝそれはけつこうな前兆だよ。まあ/\見ておで。品物をすつかり売り上げて、土産を買つて来るから。」
 イワンはかう言ひ/\馬車を走らせて出ていきました。そしてニズニイまでの道のりの半分まで来ますと、リアザンの町から来た、或知合しりあひの商人に出あひました。その晩二人は、或村の宿屋について、一しよにお茶を飲んだりしたのち、となり合つた部屋にはいつてやすみました。
 イワンはいつも夜は早く寝るのが習慣でした。それであくる朝も、涼しい間に歩かうと思つて、まだ夜のあけないうちに馬車つかひをおこして、馬を引き出させました。宿屋の亭主ていしゆたちは裏手の小さな建物に寝てゐました。イワンはその亭主をおこしてお金をはらつて立ちました。
 そこから二十五マイルばかり来ますと、イワンは道ばたの宿屋へ馬車をとめて、馬にかひばをつけさせました。イワンはお茶の用意をたのんで、それが出来るまで戸口にすわつて、ギターをとり出してならしてゐました。すると、そこへ、三頭だての馬車が、リン/\と鈴を鳴らしながらとぶやうにかけて来て、ぴたりとイワンの目の前にとまりました。すると中から一人の巡査が兵たいを二人つれて下りて来て、いきなりイワンに向つて、おまいの名前は何といふか、どこから来たかと聞きます。イワンは、これ/\かう/\ですと答へて、
「今お茶が来ます。一しよにお飲み下さい。」と言ひますと、巡査は、そんなことには耳をもかさないで、おまいはゆうべどこへ泊つた、一人で泊つたか、それとも、だれかつれのものと一しよだつたか、今朝そのつれのものゝ顔を見たか、一たいどうして夜のあけないうちに立つて来たのだと、うるさく聞きしらべます。イワンは、何だつてそんなことを一々聞きほじるのだらうと、ふしんに思ひながら、すべてをありのまゝに話しました。
「何だかわたし盗坊どろばうかおひはぎでもしたやうですね。私はじぶんの商用で出かけて来てゐるのです。そんなにくど/\おしらべになる必要はありません。」と、イワンはぷり/\してかう言ひました。
「ちよつとおまいの荷物を検査する。おい君たち、こつちへ来て下さい。」と、巡査は二人の兵たいをよんで、イワンの荷物をときはじめました。巡査は、イワンの持ものを一々さがしてゐるうちにふと、手さげ袋の中からナイフをとり出して、
「おい、このナイフはだれのものだ。」と、イワンに向つてどなりました。イワンは首をかしげながらそれを見ますと、刃にべつとり血がついてゐます。
「どうしてこのナイフに血がついてゐるのだ。」と巡査はたゝみかけてどなりました。イワンはびつくりしたあまり、返答をしようと思つても急には言葉が出ず、
「し、しりません。」と、どもりながら答へました。
「今朝見ると、おまいのつれの商人はのどを切られて死んでゐた。おまいがその犯人だらう。あの建物は中から錠がかゝつてゐた。そして、おまいと二人きりしかゐなかつたのぢやないか。そのあげくにおまいの袋の中から血のついたこのナイフが出た。おまいのその顔、そのきよ動だけ見ても事実はたしかだ。言へ。どういふふうにして殺したのか、いくら金を盗みとつたか、きつぱりと言へ。」
 イワンは、それはわたしのしたことではありません、私はゆうべ一しよに茶を飲んでからあとは、ずつとあの人の顔を見なかつたのです、私はじぶんのお金を八千ルーブルもつてゐる以外に、人の金なぞはもつてゐません、と、ちかつてかう言ひました。しかしイワンのその声はきれ/″\でした。恐怖のために顔はまつさをになつて、まるでその罪人かなぞのやうに、からだ中をがた/\ふるはせてゐました。
 巡査は兵たいに言ひつけて、イワンへ綱をかけさせました。イワンは両足をしばりつけられて、巡査の馬車の中になげこまれると、手で十字を切つて、泣き出しました。
 イワンは所持金と馬車につんでゐた商品をことごとく没収された上、そこから一ばん近くの町へはこばれて、牢屋らうやへおしこめられてしまひました。
 警察官はウラディミイルの町へ出かけて、イワンの人柄や、ふだんのおこなひなぞをとりしらべました。町の人たちは、イワンは、ずつと前にはよく酒も飲み、なまけもしてゐたが、近来はあまり酒も飲まない、根が正直ないゝ人間だと弁護しました。しかし裁判の結果、イワンは、あの、リアザンの商人を殺して二万ルーブルの金をとつた、実さいの犯人ときめられてしまひました。


    二

 イワンのおかみさんは、その宣告を聞いてびつくりしました。子ども二人はみんなまだ小さく、下の子なぞはお乳をはなれないくらゐです。おかみさんは、その二人の子どもをつれて、イワンが入れられてゐる牢屋らうやへたづねていきました。はじめはどうしても面会を許されませんでしたが、さんざんにねだりたのんで、やうやく聞きとゞけてもらひ、役人につれられて、イワンのそばへいきました。
 いつて見ると、イワンは囚人の服をきせられ、くさりでしばられて、盗人たちや、いろんな罪人たちと一しよに投げこまれてゐます。おかみさんは、イワンのそのありさまを見ると、その場へたふれて、目をまはしてしまひました。おかみさんは、人々にかいほうされて、やうやく正気にかへりました。そして、泣き/\子どもを引きよせて、一しよにイワンのそばへすわりました。そしてうちのことや、店のことなどを話したのち、イワンが町を出てからのことをくはしく聞きたゞしました。
「おや、まあ、さういふわけなのですか。……一たいどうしたらあなたのあかりが立つのでせう。」とおかみさんは涙をふき/\言ひました。
「かうなれば、最後に皇帝へ書面を出して、罪のないものに罰を加へて下さらないやうにおねがひするまでだ。」とイワンが答へました。
わたしはすぐに皇帝へ願書を出したのですが、つッかへされてしまひました。」とおかみさんが言ひました。イワンはそれを聞くと、もう何を言ふ力もないやうに、だまつてうつぶしてしまひました。
「だから一ばんはじめわたしがおとめしたでせう? あんなへんな夢を見たから、あの日は立つのをおよしなさいと言つたんですのに。ね、あなた、私にだけはほんとうのことを言つて下さい。あなたはじつさい何もしたんぢやないのですか。」と泣き/\問ひつめました。イワンは、両手を顔におしあてゝ、ぼろ/\涙を流しながら、
「あゝ、おまへまでもわしをうたぐるのかい。」と言ひました。
 さうしてるところへ一人の兵たいが来て、おかみさんや子どもたちに立てと命じました。イワンは家族たちに、最後の「さやうなら」を言ひました。
 イワンは一人になると、今のさつき、おかみさんの言つたことを一々考へかへして見ました。
「あの女までがわしをうたがはうとしてゐる。ほんとうのことは神さまが見てゐて下さるばかりだ。おすがりするのは神さまより外にはない。わしはもう神さまのお慈愛をまつだけだ。」
 イワンはかう決心して、この上皇帝へ嘆願書を出すのも思ひとまり、すべての望みもなげうつてしまひました。そしてたゞ神さまへお祈りを上げました。
 イワンは笞刑たいけいを加へられた上、流罪にされることになりました。それでまづむちでもつて半死はんじにになるまでぶたれました。そしてその傷がなほるとすぐに、他の懲役人たちと一しよに、とほくシベリヤへおくられました。
 イワンはそこで二十六年の間服役しました。今はイワンの髪の毛も、すつかりまつ白になり、ひげも長くのびて、まばらに、そして灰色になつてしまひました。腰もこゞんで、歩くのも、のそり/\としか歩けなくなりました。心もすつかりしをれつくして口をきくこともまれですし、笑ふことなぞは一どだつてありません。たゞ、とき/″\だまつてお祈りを上げてゐるだけです。
 イワンは、こゝへ来てから、くつをこしらへることを習ひました。そしてその仕事でわづかばかりのお金をもらふと、それでもつて「聖書」を買ひました。そして二十六年の間、毎日仕事がをはつてから日がくれるまでの間の、わづかなあかるみでもつて、一生けんめいにそれをよみつゞけました。それから日曜ごとには、獄中の教会堂へ行つて、祈祷書きたうしよをよみ、合唱に加はつて讃美歌をうたひました。すつかり年をとつても、むかしうたをうたひなれてゐたので、声だけはきれいでした。
 監獄の役人たちは、温順なイワンをあはれがつてゐました。一しよにはいつてゐる囚人の全部はイワンを尊敬して、みんなで「おぢいさま」とよび「聖徒」とよんでゐました。みんなは役人にたいして何か願ひ出たいことがあると、きまつてイワンから言つてもらひ、おたがひの間にあらそひがおきると、すぐにイワンのところへ来て、とりさばいてもらひました。
 イワンのうちからは二十六年の間、何のたよりも来ません。イワンにはじぶんの家内や子どもたちの生死さへもわかりませんでした。


    三

 ところが、ある日、また一団の囚人がロシアからおくられて来ました。夕方になりますと、ふるい囚人たちは、それらの新来のものたちのぐるりにあつまつて、一々、おまいはどこの町、どこの村のものか、どうして処刑をうけたのかと聞きました。イワンもそれらの人々のそばにすわつて、くびをうなだれたまゝ、話を聞いてゐました。
 新来の一人に、六十になるといふ、白ひげをみじかくかつた、背のたかい、がんぢような年よりがゐました。そのぢいさんが、みんなに向つて、じぶんが収監されたいきさつを話し出しました。
「実にばかげきつた話だよ。」とぢいさんは言ひ出しました。
「おれは、そりについてゐた馬を一ぴきはづして来たんだ。すると、たちまちつかまつて、窃盗罪に問はれたわけだ。おれは言つたよ。何もぬすんだわけぢやない、早くうちへかへらうと思つて借りたんだ。そのしようこには、うちへ来ると、ちやんと馬をにがしてやつてるぢやないか。しかもその馬の御者つてのは、おれのともだちだよ。だから、何もかまやしないぢやないかと言つたんだ。だけど、やつらは、いけない、盗んだんだつて言やあがるんさ。ぢや、いつどこで、どんなふうにして盗んだかい、とつッこむと、それにはまるで返答が出来ないんだ。まつたくおれは、何のわるいこともしないのに、こんなところへ送りつけられたんだ。いや、じつをいへば、そのまへには一ど、ほんとうに悪いことをしたことがある。そいつをおさへられたら、りつぱにこゝへおくられても苦情は言へないんたが、めうなもので、そのときには、とう/\つかまらないですんだんだ。といふと、こゝへはじめて来たやうだが、何、前にも一ど来たことがあるよ。そのときには、永くゐないでかへれたのさ。」
「おまいはどこから来たんだい?」とある一人が聞きました。
「おれかい? おれはウラディミイルのものだ。おれんとこのかゝあも、やはりあの町の生れだ。おれはマカールといふ名まへなんだが、世間ぢやセミョニッチとも言つてゐた。」と、ぢいさんは答へました。
 イワンはウラディミイルと聞くと、うなだれてゐた頭を上げて、
「ではおまいさんは、あの町のイワンといふ商人のことをしつてゐますか。あの一家のものはまだ生きてゐますかしら。」と、それとなく、じぶんの家内や子どもの安否を聞きさぐらうとしました。
「あゝ、イワンの家か。しつてるとも。あのうちは金もちだ。もつとも、おとつつあんは、シベリヤへ来てるとかいふがね。やつぱり、おれたち見たいな罪人らしい。ときにおまいはもういゝ年のやうだが、一たい何をしてこんなところへ送られたんだ。」
 しかしイワンは、じぶんのいたましい不幸をうちあけて話す元気もありませんでした。イワンは聞かれてもたゞため息をして、
「わしは悪いことをしたので、もう二十六年もこゝにかうしてゐるのだよ。」と答へました。
「悪いことつて何をしたんだい。」とマカールは、かさねて聞きました。
「いや、かういふ目に合ふのがほんとうだらうよ。」とイワンは言ひました。すると、仲間の一人がイワンに代つて話しました。だれか悪いやつがゐて、或商人を殺して、血のついたナイフをこの人の荷物の中へ入れこんだのだ、そのために、罪もないこの人が犯人にされてしまつたのだと言ひますと、マカールは、
「はゝァん。」と、びつくりしたやうにイワンの顔を見つめながら、ぽんとひざをたゝいて、
「へゝえ、さうかなァ。ふうん。めうなこともあるものだね。だがおまいもひどくおぢいさんになつたな。」と、マカールは一人でかう言ひました。
 はたのものたちが、マカールにどうしてそんなにびつくりしたやうに言ふのかと聞きますと、マカールは何にも答へずに、
「や、ともかく、この人にあふつていふのがふしぎなのさ。」と言ひました。
 イワンは、それではこのぢいさんは、あの商人を殺した犯人をしつてゐるのかもしれないなと思ひながら、
「ぢやァおまいさんはあの殺人事件のことをしつてるんだね。それとも、まへにどこかでわしを見かけたことでもあるのかい。」と聞きました。
「はッは、あの事件をしらないでどうするんだ。世間中のうはさにのぼつた犯罪ぢやないか。だが、もう古いむかしのことだから、くはしい話はわすれたよ。」
「しかし、おまいさんは、あの事件のほんとうの犯人を知つてるんだらう?」とイワンはつッこみました。するとマカールは笑つて、
「それやおまい、ほんとうの犯人も何も、げんざい、血のついたナイフが荷物の中から出て来た以上は、その人間が殺したんだらうぢやないか。かりに、ほかのやつが、人の荷物の中へ入れこんだものとしても、その本人がつかまらなけやァだめぢやないか。だが考へて見てもわかることだ、人が頭の下においてゐる荷物の中へ、どうしてほかのやつがナイフなんぞをおしこめられるかい。そんなことをすれば、眠つてる当人はすぐに目をさますぢやないか。」
 イワンはその言ひぐさを聞いて、ふゝん、あの商人を殺したのはこいつだなとかんづきました。
 イワンはだまつて立ち上つて、あつちへいつてしまひました。

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