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春の枯葉(はるのかれは)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-22 9:22:25  点击:  切换到繁體中文

 
(野中)(たじろぎ)何だ。何か文句があるのか。
(節子)(緊張した声で)あなたは、いったい、……。

この時、舞台下手しもてより庭先へ、学童二名け込み、「先生! 奥田先生!」と叫ぶ。
奥田教師、縁側に出る。学童二名、息せき切って何やら奥田教師にささやく。

(奥田)(それを聞いて)そうか、よし。すぐ行く。(部屋へはいって、壁にかけてある自身の上衣をとって着ながら野中に)妹が警察に挙げられました。ばくちです。麻雀賭博マージャンとばくを学校の子供たちに教えてやっていたのです。たぶん、そんな事じゃないかと思っていました。ちょっと警察に行って来ます。(会釈えしゃくして、縁側に出て、はきものを捜す)
(野中)(蹌踉そうろうと立ち上り)僕も行く。
(奥田)(靴をはきながら)だめ、だめ。あなたはもう、どだい、歩けやしませんよ。(学童たちに向い)さ、行こう。

奥田教師、学童二名と共に舞台下手しもてに走り去る。

(野中)(夢遊病者の如くほとんど無表情で歩き、縁側から足袋たびはだしで降りて)僕も行く。

野中教師、ほとんど歩行困難の様子だが、よろめき、よろめき、足袋はだしのまま奥田教師たちのあとを追い下手に向う。
節子、冷然と坐ったままでいたのであるが、ふと、膝元ひざもとの白い角封筒に眼をとめ、取りあげて立ち、縁側に出てはきものを捜し、野中のサンダルをつっかけ、無言で皆のあとを追う。
――舞台、廻る。

     第三場

舞台は、月下の海浜。砂浜に漁船が三艘あげられている。そのあたりに、一むらがりの枯れたあしが立っている。
背景は、青森湾。

舞台とまる。

一陣の風が吹いて、漁船のあたりからおびただしく春の枯葉舞い立つ。

いつのまにやら、前場の姿のままの野中教師、音も無く花道より登場。
すこし離れて、その影の如く、妻節子、うなだれてつき従う。

(野中)(舞台中央まで来て、疲れ果てたる者の如く、かたわらの漁師に倒れるように寄りかかり)ああ、頭が痛い。これあ、ひどい。

節子、無言で野中に寄り添い、あたりを見廻し、それから白い角封筒をそっと野中に差し出す。角封筒は月光を受けて、鋭く光る。

(野中)(力弱くそれを片手で払いのけるようにして)それは、お前から、菊代さんにやってくれ。

節子、そのままの形で、黙って野中の顔を見つめている。

(野中) いやなら、いい。(節子の手から封筒をひったくり、自身の上衣のポケットにねじ込み)僕から、返してやる。(急にまた、ぐたりとなって)しかし、お前は、強いなあ。……負けた、負けた。僕は、負けたよ。お前たちのこんな強さは、いったい、何から来ているのだろうなあ。男女同権どころじゃない。これじゃ、あべこべに男のほうからお助けをわなくちゃいけねえ。いったい、なんだい? お前たちのその強さの本質は、さ。封建、といったってはじまらねえ。保守、といってみたってばかげている。どだいそんな、歴史的なものじゃあ無えような気がする。有史以前から、お前たちには、そんな強さがあったんだ。そうしてまた、これから、この地球に人類の存在するかぎり、いや、動物の存続する限り、お前たちは、永久に強いんだ。
(節子)(落ちついて)あなたは、はずかしくないのですか?
(野中)(うめく)ううむ、ちえっ、ちくしょう! (顔を挙げて)全人類を代表してお前に言う。お前は、悪魔だ!
(節子)(冷く)なぜですか!
(野中) わからんのか? 人が死ぬほど恥かしがっているその現場に平気で乗り込んで来て、恥かしくありませんかと聞けるやつあ悪魔だ。
(節子) あなたは、はずかしがっていません。
(野中) どうしてわかる? どうして、それがわかるんだ。
(節子)(無言)
(野中) イエス答をなし給わず、か。お前のその、何も物を言わぬという武器は、強いねえ。あんまり、いじめないでくれよ。ああ、頭が痛い。
(節子) これから、どうなさるのですか?
(野中) 死ぬんだ。死にゃあいいんだろう? どうせ僕は、野中つらよごしなんだから、死んで申しわけを致しますですよ。(崩れるように、砂の上にあぐらをき)ああ、頭が痛い。切腹だ。切腹をして死んでしまうんだ。
(節子) ふざけている時ではございません。菊代さんを、あなたは、どうなさるおつもりです。
(野中) どうもこうも出来やしねえ。ああ、頭が痛い。(頭をかかえ込んで、砂の上に寝ころび)負けたんだよ、僕たちは。僕と菊代さんは、お前たちに叛逆はんぎゃくをたくらんだが、お前たちは意外に強くて、僕たちは惨敗を喫したんだ。押せども、引けども、お前たちは、びくともしねえ。
(節子) だって、あなたたちは、間違った事をしているのですもの。
(野中) 聖書にこれあり。ゆるさるる事の少き者は、その愛する事もまた少し。この意味がわかるか。間違いをした事がないという自信を持っているやつに限って薄情だという事さ。罪多き者は、その愛深し。
(節子) 詭弁きべんですわ。それでは、人間は、努めてたくさんの悪い事をしたほうがいいのですか?
(野中) そこだ! 問題は。(笑う)何が、そこだ! だ。僕はいま罪人なんだ。人を教える資格なんか無いのに、どうも、永く教員なんかしていると、教壇意識がつきまとっていけねえ。いったい、この国民学校の教員というものの正体は何だ。だいいち、どだい、学問が無い。外国語を自由に読める先生が、この津軽地方には、ひとりもいない。外国語どころか、源氏物語だって読めやしない。なんにも知らねえくせに、それでも、教壇に立って、自信ありげに何か教えていやがる。学問が無くても、人格が立派とでもいうんならまだしも、毎日の自分の食べものに追われて走り廻っている有様で、人格もクソもあるもんか。学童を愛する点に於いては、学童たちの父母ちちははに及びもつかぬし、子供の遊び相手、として見ても、幼稚園の保姆ほぼにはるかに劣る。校舎の番人としては、小使いのほうが先生よりも、ずっと役に立つし、そもそもこの、先生という言葉には、全然何も意味が無い。むしろ、軽蔑感を含んでいる言葉だ。どうせからかうつもりなら、いっそもう、閣下かっかとでも呼んでもらいたい。僕たちの社会的の地位たるや、ほとんどまるで乞食坊主と同じくらいのものなんだ。国民学校の先生になるという事はもう、世の中の廃残者、失敗者、落伍者らくごしゃ変人へんじん、無能力者、そんなものでしか無い証拠だという事になっているんだ。僕たちは、乞食だ。先生という綽名あだなを附けられて、からかわれている乞食だ。おい、奥田先生だって、やっぱり同じ事なんだぜ。あきらめろ、あきらめろ。
(節子)(鋭く)なんですの? (かすかに笑い)へんな事をおっしゃいますわね。
(野中) 知ってるよ。お前のあこがれのひとは、誰だか。
(節子) まあ! そんな。よして下さい! 下劣ですわ。
(野中) なんでも無いじゃないか。人間は皆、あこがれのひとを二人や三人持っているものだ。で、どうなんだい? その後の進行状態は。
(節子) わたくしには、あなたのおっしゃる事が、ちっともわかりません。
(野中) よし、それじゃ、わかるように言ってやろう。お前は、きょう僕の帰る前に、奥田先生の部屋に行っていたね。
(節子)(はっきり)ええ、まいりました。奥田先生がおひとりで晩ごはんのお仕度したくをしていらっしゃるという事を母から聞いて、何かお手伝いでもしようかと思ってお部屋をのぞいてみました。
(野中) それは、ご親切な事だ。お前にもそれだけの愛情があるとは妙だ。いいことだ。美談だ。しかし、僕が外から声をかけたとたんに、お前はふっと姿をかき消したが、あれは、どういうご親切からなんだい?
(節子) いやだったからです。
(野中) へんだね。
(節子)(泣き声になり)いったい、なんとお答えしたらいいのです。
(野中) まあ、いいや。よそう。つまらん。どうせお前には、かないっこないんだ。ああ、あ。世は滔々とうとうとして民主革命の行われつつあり、同胞ひとしく祖国再建のため、新しいスタートラインに並んで立って勇んでいるのに、僕ひとりは、なんという事だ。相も変らず酔いどれて、女房に焼きもちを焼いて、破廉恥はれんちの口争いをしたりして、まるで地獄だ。しかし、これもまた僕の現実。ああ、眠い。このまま眠って、永遠に眼が覚めなかったら、僕もたすかるのだがなあ。(眠った様子)
(節子)(野中の肩に手をかけて)もし、もし。(肩をゆすぶる)
(野中)(なかば、うわごとの如く)殺せ! うるさい! あっちへ行け!

奥田教師、上手かみてより、うろうろ登場。

(奥田) あ、おくさん! (寝ている野中を見ていよいよ驚き)どうしたんです、これあ。
(節子) あなたの後を追ってここまで来て、寝てしまいました。それよりも、菊代さんは? いかがでしたの?
(奥田) いや、それがね、あの子供たちを途中で見失ってしまいましてね。とにかく、僕ひとり警察の前まで行って、それとなく中の様子をうかがって見たんですが、ばかに静かで、べつに変った事も無いようなんです。へたに騒ぎ立てて恥をかいてもつまりませんし、さっきの生徒たちを捜して、もういちどよく聞きただそうと思って、引返して来たところなんです。ことによったら、あいつ、……。
(節子) え?
(奥田) いや、べつに、……。
(節子) 奥田先生! わたくしどもは、菊代さんに何か悪い事でもしたのでしょうか。
(奥田)(あらたまって)なぜですか?
(節子) ばくちで警察に挙げられたなんて、うそです。わたくしには、もうみな、わかりました。(急に泣き出す)あんまりですわ。あんまりですわ。なぜ、わたくしどもはこんなに、菊代さんにからかわれなければならないのです。
(奥田) すみません。実は、僕も、警察の前まで行って、すぐこれあ菊代に一ぱい食わされたなと思ったのですが、しかし、もしそうだとしても、なんのために、子供たちまで使って、こんな、ばからしい狂言を、……。
(節子) それは、わかっています。菊代さんは、野中をけしかけて酒やさかなを買わせて、そうしてわたくしや母にまでごちそうさせて、それから、そのお金は実は菊代さんがばくちでもうけたお金だという事を知らせて、いい気持でごちそうになっている母やわたくしがみっともなく狼狽ろうばいするさまを、かげでごらんになってあざ笑うつもりだったのでしょうけれど、でも、それにしても、策略があくどすぎます。あんまり、意地がわるすぎます。
(奥田) すると? あの金は?
(節子) ご存じじゃなかったのですか? 菊代さんのお金です。
(奥田) そうですか。いや、いかにも、あいつのやりそうないたずらだ。(笑う)
(節子) まだあります。野中にたきつけて、わたくしとあなたと、……。
(奥田)(まじめになり)しかし、おくさん。妹はばかなやつですが、そんな、くだらない事は言わないはずです。
(節子) でも、野中はさっき、わたくしを疑っているような、いやな事を言いました。
(奥田) それじゃあ、それは野中先生ひとりの空想です。野中先生は少しロマンチストですからね。いつか僕と議論した事がありました。野中先生のおっしゃるには、この世の中にいかにおびただしく裏切りが行われているか、おそらくは想像を絶するものだ、いかに近い肉親でも友人でも、かげでは必ず裏切って悪口や何かを言っているものだ、人間がもし自分の周囲に絶えず行われている自分に対する裏切りの実相を一つ残らず全部知ったならば、その人間は発狂するだろう、という事でした。しかし僕はそれに反対して、人間は現実よりも、その現実にからまる空想のために悩まされているものだ。空想は限りなくひろがるけれども、しかし、現実は案外たやすく処理できる小さい問題に過ぎないのだ。この世の中は、決して美しいところではないけれども、しかし、そんな無限に醜悪なところではない。おそろしいのは、空想の世界だ、とまあ言ったのですが、どうも、野中先生の空想には困ります。


 

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