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HUMAN LOST(ヒューマン ロスト)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-24 17:28:23  点击:  切换到繁體中文


二十四日。 なし。

二十五日。
「金魚も、ただ飼い放ち在るだけでは、月余の命、保たず。」(その一。)
 われより若きものへ自信つけさせたく、走り書。断片の語なれども、私は、狂っていません。

 社会制裁の目茶目茶は医師のはんらんと、小市民の医師の良心に対する盲目的信仰より起った。たしかに重大の一因である。ヴェルレエヌ氏の施療病院に於ける最後の詩句、「医者をののしる歌。」を読み、思わず哄笑こうしょうした五年まえのおのれを恥じる。厳粛の意味で、医師の瞳の奥をさぐれ!

 私営脳病院のトリック。
一、この病棟、患者十五名ほどの中、三分の二は、ふつうの人格者だ。他人の財をかすめる者、又、かすめむとする者、ひとりもなかった。人を信じすぎて、ぶちこまれた。
一、医師は、決して退院の日を教えぬ。確言せぬのだ。底知れず、言を左右にする。
一、新入院の者ある時には、必ず、二階の見はらしよき一室に寝かせ、電球もあかるきものとつけかえ、そうして、附き添って来た家族の者を、やや、安心させて、あくる日、院長、二階は未だ許可とってないから、と下の陰気な十五名ほどの患者と同じの病棟へ投じる。
一、ちくおんき慰安。私は、はじめの日、腹から感謝して泣いてしまった。新入の患者あるごとに、ちくおんき、高田浩吉、はじめる如し。
一、事務所のほうからは、決して保証人へ来いと電話せぬ。むこうのきびしく、さいそくせぬうちは、永遠に黙している。たいてい、二年、三年放し飼い。みんな、出ることばかり考えている。
一、外部との通信、全部没収。
一、見舞い絶対に謝絶、若しくは時間定めて看守立ち合い。
一、その他、たくさんある。思い出し次第、書きつづける。忘れねばこそ、思い出さずそろ、か。(この日、退院の約束、断腸だんちょうのことどもあり、自動車の音、三十も、四十も、はては、飛行機の爆音、牛車、自転車のきしりにさえ胸やぶれる思い。)

「出してくれ!」「やかまし!」どしんのもの音ありて、秋の日あえなく暮れむとす。

二十六日。
「金魚も、ただ飼い放ち在るだけでは、月余の命、保たず。」(その二。)
 昨日、約束の迎え来らず。ありがとう。けさ、おもむろに鉛筆執った。愛している、という。けれども、小市民四十歳の者は、われらを愛する術を知っていない。愛し得ぬのだ。金魚へ「ふ」だ。愛していないと、言い切り得る。

 夫を失いし或る妻のつぶやき、「夜のつらさは、ごまかせるけれども、夜あけが――。」あかつきばかり憂きものはなし、とは眠いうらみを述べているのではない。くらきうち眼さえて、かならず断腸のこと、正確に在り。大西郷は、眼さむるとともに、ふとん蹴ってはね起きてしまったという。菊池寛は、午前三時でも、四時でも、やはり、はね起き、しかして必ず早すぎる朝食を喫するという。すべて、みな、この憂さに沈むことの害毒を人一倍知れる心弱くやさしき者の自衛手段と解して大過なかるべし。われ、事に於いて後悔せず、との菊池氏の金看板のたての弱さにも、ふと気づいて、地上の王者へ、無言で一杯のミルクささげてやって呉れる決意ついたら、それが、また、君のからだの一歩前進なること疑うなかれ。

 営利目的の病院ゆえ、あらゆる手段にて患者の退院はばむが、これ、院主、院長、医師、看護婦、看守のはてまで、おのおの天職なりと、きびしく固く信じている様子である。悪の数々、目おおえども、耳ふさげども、壁のすきま、鉄格子の窓、四方八方よりひそひそ忍びいる様、春の風の如く、むしろ快し。院主(出資者)の訓辞、かの説教強盗のそれより、少し声やさしく、温顔なるのみ。内容、もとより、底知れぬトリックの沼。しかも直接に、人のいのちを奪うトリック。病院では、死骸など、飼い犬死にたるよりも、さわがず、思わず、噂せず。壁塗り左官のかけ梯子はしごより落ちしものの左腕の肉、煮て食いし話、一看守の語るところ、信ずべきふし在り。再び、かの、ひらひらの金魚を思う。

「人権」なる言葉を思い出す。ここの患者すべて、人の資格はがれ落されている。

 われら生き伸びてゆくには、二つのみちのみ。脱走、足袋たびはだしのまま、雨中、追われつつ、一汁一菜、半畳の居室与えられ、犬馬の労、誓言して、ちまたの塵の底に沈むか、若しくは、とても金魚として短きいのち終らむと、ごろり寝ころび、いとせめて、油多き「ふ」を食い、うろこの輝き増したるを紙より薄き人の口のにのぼせられて、ぺちゃぺちゃほめられ、数分後は、けろりと忘れられ、笑われ、冷き血のまま往生おうじょうとげむか。あとは、自らくびれて、甲斐かいなき命絶ち、四、五日、人の心の片端、ひやとさせるもよからむ。すべて皆、人のための手本。われの享楽のための一夜もなかった。

 私は、享楽のために売春婦かったこと一夜もなし。母を求めに行ったのだ。乳房を求めに行ったのだ。葡萄の一かご、書籍、絵画、その他のお土産みやげもっていっても、たいてい私は軽んぜられた。わが一夜の行為、うたがわしくば、君、みずから行きて問え。私は、住所も名前も、いつわりしことなし。恥ずべきこととも思わねば。

 私は享楽のために、一本の注射打ちたることなし。心身ともにへたばって、なお、家のむちの音を背後に聞き、ふるいたちて、強精ざい、すなわち用いて、愚妻よ、われ、どのような苦労の仕事し了せたか、おまえにはわからなかった。食わぬ、しし、食ったふりして、しし食ったむくいを受ける。

 その人と、面とむかって言えないことは、かげでも言うな。私は、この律法を守って、脳病院にぶちこまれた。求めもせぬに、私に、とめどなき告白したる十数人の男女、三つき経ちて、必ず私を悪しざまに、それも陰口、言いちらした。いままでお世辞たらたら、かわやに立ちし後姿見えずなるやいな、ちえっ! と悪魔の嘲笑。私は、この鬼を、殴り殺した。

 私の辞書に軽視の文字なかった。

 作品のかげの、私の固き戒律、知るや君。否、その激しさの、高さの、ほどを!

 私は、私の作品の中の人物に、なり切ったほうがむしろ、よかった。ぐうだらの漁色家。

 私は、「おめん!」のかけごえのみ盛大の、里見、島崎などの姓名によりて代表せられる老作家たちの剣術先生的硬直を避けた。キリストの卑屈を得たく修業した。

 聖書一巻によりて、日本の文学史は、かつてなき程の鮮明さをもて、はっきりと二分されている。マタイ伝二十八章、読み終えるのに、三年かかった。マルコ、ルカ、ヨハネ、ああ、ヨハネ伝の翼を得るは、いつの日か。

「苦しくとも、少し我慢なさい。悪いようには、しないから。」四十歳の人の言葉。母よ、兄よ。私たちこそ、私たちのあがきこそ、まこと、いつわらざる「我慢下さい。悪いようにはしないから。」の切々、無言の愛情より発していること、知らなければいけない。一時の恥を、しのんで下さい。十度の恥を、しのんで下さい。もう、三年のいのち、保っていて下さい。われらこそ、光の子に、なり得る、しかも、すべて、あなたへの愛のため。

 その時には、知るであろう。まことの愛の素晴らしさを、私たちの胸ひろくして、母を、兄を、抱き容れて、眠り溶けさせることができるのだという事実を。その時には、われらにそっとささやけ、「私たちは、愛さなかった。」

「まあいいよ。人の心配なぞせずと、ご自分の袖のほころびでも縫いなさい。」それでは、立ちあがって言おうじゃないか。「人たれか、われ先に行くと、たとい、一分いちぶなりとも、その自矜うちくだかれて、なんの、維持ぞや、なんの、設計ぞや、なんの建設ぞや。」さらに、笑ったならば、その馬づらを、殴れ!

 あなた知っている? 教授とは、どれほど勉強、研究しているものか。学者のガウンをはげ。大本教主の頭髪剃り落した姿よりも、さらに一層、みるみる矮小化わいしょうかせむこと必せり、

 学問の過尊をやめよ。試験を全廃せよ。あそべ。寝ころべ。われら巨万の富貴をのぞまず。立て札なき、たった十坪の青草原を!

 性愛を恥じるな! 公園の噴水の傍のベンチに於ける、人の眼恥じざる清潔の抱擁ほうようと、老教授R氏の閉め切りし閨の中と、その汚濁、果していずれぞや。

「男の人が欲しい!」「女の友が欲しい!」君、恥じるがいい、ただちに、かの聯想のみ思い浮べる油肥りの生活を! 眼を、むいて、よく見よ、性のつぎなる愛の一字を!

 求めよ、求めよ、切に求めよ、口に叫んで、求めよ。沈黙は金という言葉あり、桃李とうり言わざれども、の言葉もあった、けれども、これらはわれらの時代を一層、貧困に落した。(As you see.)告げざれば、うれい、全く無きに似たり、とか、きみ、こぶしを血にして、たたけ、五百度たたきて門の内こたえなければ、千度たたかむ、千度たたきて門、ひらかざれば、すなわち、門をよじのぼらむ、足すべらせて落ちて、死なば、われら、きみの名を千人の者に、まことに不変の敬愛もちて千語ずつ語らむ。きみの花顔、世界の巷ちまた、露路の奥々、あつき涙とともに、撒き散らさむ。死ね! われら、いま、微細といえども、君ひとり死なせたる世の悪への痛憤、子々孫々ひまあるごとに語り聞かせ、君の肖像、かならず、子らの机上に飾らせ、その子、その孫、約して語りつがせむ。ああ、この世くらくして、君に約するに、世界を覆う厳粛華麗の百年祭の固き自明の贈物のその他をもってする能わざることを、数十万の若き世代の花うばわれたる男女と共に、深く恥じいる。

二十七日。
「金魚も、ただ飼い放ち在るだけでは、月余の命、保たず。」(その三。)
 人、口々に言う。「リアル」と。問わむ、「何を以てか、リアルとなす。はすの開花に際し、ぽんと音するか、せぬか、大問題、これ、リアルなりや。」「否。」「ナポレオンもまた、風邪をひき、乃木のぎ将軍もまた、閨を好み、クレオパトラもまた、脱糞せりとの事実、これこそは君等のいうリアルならむ。」笑って答えず。「更に問わむ、太宰もまた泣いて原稿を買って下さい、とたのみ、チエホフも扉の敷居すりへって了うまで、売り込みの足をはこんだ、ゴリキイはレニンに全く牛耳ぎゅうじられて易々諾々いいだくだくのふうがあった、プルウストのかの出版屋への三拝九拝の手紙、これをこそ、きみ、リアルというか。」用心のニヤニヤ笑いつづけながらも、少し首肯うなずく。「愚なる者よ。きみ、人その全部の努力用いて、わが妻子わすれむと、あがき苦しみつつ、一度持たせられし旗の捨てがたくして、沐雨櫛風もくうしっぷう、ただ、ただ上へ、上へとすすまなければならぬ、肉体すでに半死の旗手の耳へ、妻を思い出せよ、きみ、私め、かわってもよろしゅうございますが、その馬の腹帯は破れていますよと、かの宇治川、佐々木のでんをねらっていることに、気づくがよい。名への恋着に非ず、さだめへの忠実、確定の義務だ。川の底から這いあがり、目さえおぼろ、必死に門へかじりつき、また、よじ登り、すこし花咲きかけたる人のいのちを、よせ、よせ、芝居は、と鼻で笑って、足ひっつかんで、むざん、どぶどろの底、ひきずり落すのが、これが、リアルか。」かれ少し坐り直して、「リアルとは、君の様に、針ほどのものを、棒、いや、門柱くらいに叫び騒がずして、針は、針、と正確に指さし示す事なり。」「愚かや、君は、かの認識の法を、研究したにちがいない。また、かの、弁証法をも、学びたるなるべし。われ、かのレクチュアをなす所存なけれど、いまの若き世代、いまだにリアル、リアル、と穴てんてんの青き表現の羅紗らしゃかぶせたる机にしがみつき、すがりつき、にかわづけされて在る状態の、『不正。』に気づくべきはずなのに、帰りて、まず、唯物論的弁証法入門、アンダラインのみを拾いながらでもよし、まず、十頁、読み直せ。お話は、それから、再びし直そう。」かく言いて、その日は、わかれた。

 リアルの最後のたのみの綱は、記録と、統計と、しかも、科学的なる臨床的、解剖学的、それ等である。けれども、いま、記録も統計も、すでに官僚的なる一技術に成りせ、科学、医学は、すでに婦人雑誌ふうの常識に堕し、小市民リアリストは、何々開業医のえらさを知っても、野口英世の苦労を知らぬ。いわんや、解剖学の不確実など、寝耳に水であろう。天然なる厳粛の現実リアリティの認識は、二・二六事件の前夜にて終局、いまは、認識のいわば再認識、表現の時期である。叫びの朝である。開花の、その一瞬まえである。

 真理と表現。この両頭食い合いの相互関係、君は、たしかに学んだ筈だ。相剋そうこくやめよ。いまこそ、アウフヘエベンの朝である。信ぜよ、花ひらく時には、たしかに明朗の音を発する。これを仮りに名づけて、われら、「ロマン派の勝利。」という。誇れよ! わがリアリスト、これこそは、君が忍苦三十年の生んだ子、玉の子、光の子である。

 この子の瞳の青さを笑うな。羞恥しゅうち深き、いまだ膚やわらかき赤子なれば。獅子ししを真似びて三日目の朝、崖の下に蹴落すもよし。崖の下の、蒲団ふとんわするな。勘当かんどうと言って投げ出す銀煙管ぎんぎせる。「は、は。この子は、なかなか、おしゃまだね。」

 知識人のプライドをいたわれ! 生き、死に、すべて、プライドの故、と断じ去りて、よし。職工を見よ、農家の夕食の様をのぞけ! 着々、陽気を取り戻した。ひとり、くらきは、一万円つかって大学を出た、きみら、せたる知識人のみ!

 くたびれたら寝ころべ!

 悲しかったら、うどんかけ一杯と試合はじめよ。

 私は君を一度あざむきしに、君は、私を千度あざむいていた。私は、「嘘吐き」と呼ばれ、君は、「苦労人。」と呼ばれた。「うんとひどい嘘、たくさん吐くほど、嘘つきでなくなるらしいのね?」

 十二、三歳の少女の話を、まじめに聞ける人、ひとりまえの男というべし。

 その余は、おのれの欲するがまにまに行え。

二十八日。
「現代の英雄について。」
   ヴェルレエヌ的なるものと、ランボオ的なるもの。
 スウィートピイは、蘇鉄そてつの真似をしたがる。鉄のサラリイマンを思う。片方は糸で修繕しゅうぜんした鉄ぶちの眼がねをかけ、スナップ三つあまくなった革のカバンをひざに乗せ、電車で、多少の猫背つかって、二日すらないあごの下のひげを手さぐり雨のちまたを、ぼんやり見ている。なぐられて、やかれて、いまはくろがねの冷酷を内にひそめて、(断)

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