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鍛冶の母(かじのはは)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-25 8:54:46  点击:  切换到繁體中文


       二

 朝になって陽が高くなったところで、六七人づれの旅人が野根の方から来たので、飛脚は女と嬰児を頼んでむこうの村にやり、じぶんは一人野根の方へおりて往った。飛脚の刀のために死んだ二十余疋の狼の死体が血に塗れてそのあたりに横たわっていた。
 そして、飛脚は午近くなって野根村へ往ったが、佐喜の浜の鍛冶の母のことが気になっているので、それの詮議をするつもりで、己の定宿にしている宿屋へ往って昼飯を喫い、宿の主翁ていしゅに前夜の話を聞かしたが、鍛冶の母のことは云わなかった。
 飯がすむと飛脚は、宿の主翁にこれから佐喜の浜へ廻る用事があるが、
「佐喜の浜には鍛冶屋があるだろうか」と、云って聞いてみた。
「あります、あります、庄という鍛冶屋があります」と、主翁が云った。
「其処に老人としよりがいると聞いておるが、達者だろうか」
老爺じんまはもう死んで五六年になるが、老婆ばんばはまだぴんぴんしておりますが、その老婆という奴がみょうな奴で、息子の嫁をまぜだしたりして、村でもとおり者でございます」
 飛脚は佐喜の浜の方へ往きながら、いくら根性まがりの老婆でも、人間が狼の仲間入りはしないだろう、……しかしそれにしても佐喜の浜の鍛冶の母を呼うで来いと云ったのは不思議である、もしや、鍛冶の母と云うのは狼の化けている者であるまいかと思った。もし化けているものなら、前夜確に額に斬りつけてあるから、どうかなっておらねばならぬのであった。
 その日海には大きな波のうねりが見えて沖が蒼黒くなっていた。飛脚は海岸を歩いて往った。小さな坂の上でわかい漁師に逢ったので聞いてみた。
「私は佐喜の浜の鍛冶屋へ、馬の靴を打ってもらいに往きよるが、あすこのお婆さんは達者かな」
「庄鍛冶の老婆ばんばか、彼奴は達者すぎて、庄が困っておる」
 と、漁師は笑いながら擦れ違った。
 とにかく額か何処かに怪我があるか無いかを見れば判ると思いながら歩いた。そして、佐喜の浜へ着いて鍛冶屋を聞いて尋ねて往った。
 鍛冶屋の庄吉は仕事場で仕事をしていた。庖丁らしいものを鉄床の上に置いてそれを鉄槌で鍛えていた。
 飛脚は其処へ入りながら家の内に注意した。狭い屋根の下には仕事場の土間と土壁で土間を仕切った二間ばかりの座敷があった。飛脚はちょっとそれに眼をやったが、入口に袖屏風を建ててあって内は見えなかった。鍛冶は顔をあげて見知らない客を見た。その手ではやはり鉄槌を揮っていた。
「鍛冶屋さん、一つ馬の靴を頼みたいが」と、飛脚は云った。
「打ちましょう、まあ、一喫やり」と、鍛冶は柔和な声で云った。
 飛脚は吹子のむこうへ往って其処の腰かけに腰かけ、煙草入を出して煙草をみはじめた。
「鍛冶屋さんは知るまいが、わしは昔この辺に来たことがあるから、お前さんの家も好く知っておる、おとっさんもおっかさんも、まだに達者かな」
「親爺は、六年前に死にましたが、母はまだ生きております」
「そうか、お父さんは年に不足もなかろうが、それは惜しいことをした、お母さんは達者かな」
「どうも達者すぎてこまります」
「それは目出たい、今日は留守のようだな」
「いや、昨夜、遅く便所せっちんへ往きよって、ひっくりかえって鍋で額を怪我して、裏の木炭すみ納屋で寝ております」
「なに、鍋で額を切った、よっぽど切ったかな」
「私は眠っておって知らざったが、母が起すから庭へおりてみると、額を切ったと云うて、きものを破いて巻いておりました、我慢の強い人じゃから、見せえと云うても見せませんが、今日は飯も少ししか喫わんところを見ると、よっぽど切ってたろうと思いますが、見せんからこまります」
 飛脚はいよいよ怪しいと思った。で、その老婆に逢って正体を見届けたいと思った。
「それはいかん、どうかして、傷を見てから、薬をつけんといかん、わたしの印籠の中には、好い金創の薬があるから、つけてあげよう」
「そうですか、それはありがとうございます、どうかつけてやってつかあされませ」
「好いとも、それじゃ、これから二人で往って、私がつけてあげよう」
「それはどうもありがとうございます」
 二人は伴れ立って家の右側から廻って裏口へ往った。其処に小さな木炭納屋があった。二人はその中へ入って往った。右側に莚を積み重ねた処があって、その上に背の高い老婆が此方へ足を投げだして寝ていた。
「おかあ」と、鍛冶が云った。
「なんだ」と、老婆はしゃがれ声で云った。
「お客様が、金創の薬をくれると云うきに、つけてもろうたらどう」
「なに、金創の薬」と、云って老婆は頭をあげた。頭は穢いきものの破れでぐるぐると巻いていた。
「お婆さん、怪我をしたそうなが、どんなことでございます」と、飛脚は鍛冶の横の方から云った。
 老婆は凄い顔をしてきっと飛脚の方を見たが、みるみる口が耳の方にひろがって往った。
昨夜ゆうべの侍じゃな」と、云って老婆は物凄い吠えるような声をだした。老婆の形は見る見る恐ろしい獣になった。
 鍛冶は驚いて気絶した。
 飛脚は刀を抜いて怪狼に飛びかかってその咽喉元を刺し通した。

 怪狼は一二年前、鍛冶の老母が山へ枯枝を拾いに来たのをい殺して、それに化けていたのであった。
 鍛冶は其処でほんとうの母親の骨らしい物を尋ねだして父親の墓の傍へ葬った。これは土佐で有名な伝説である。





底本:「日本の怪談(二)」河出文庫、河出書房新社
   1986(昭和61)年12月4日初版発行
底本の親本:「日本怪談全集」桃源社
   1970(昭和45)年初版発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※「一面に物騒がしくがさがさと鳴りだした」「土佐の方へ往く者」の箇所は、それぞれ底本では「一面に物騒がしくがさがさがと鳴りだした」「土佐の方へ住く者」でしたが、親本を参照して直しました。
入力:Hiroshi_O
校正:小林繁雄、門田裕志
2003年8月2日作成
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