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あいびき(あいびき)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-25 15:08:24  点击:  切换到繁體中文

あいびき

イワン・ツルゲーネフ Ivan Turgenev

二葉亭四迷訳




 このあいびきは先年仏蘭西フランスで死去した、露国では有名な小説家、ツルゲーネフという人の端物はものの作です。今度徳富先生の御依頼で訳してみました。私の訳文は我ながら不思議とソノ何んだが、これでも原文はきわめておもしろいです。

 秋九月中旬というころ、一日自分がさるかばの林の中に座していたことがあッた。今朝から小雨が降りそそぎ、その晴れ間にはおりおり生まあたたかな日かげも射して、まことに気まぐれな空ら合い。あわあわしい白ら雲が空ら一面に棚引くかと思うと、フトまたあちこち瞬く間雲切れがして、むりに押し分けたような雲間から澄みて怜悧さかに見える人の眼のごとくにほがらかに晴れた蒼空がのぞかれた。自分は座して、四顧して、そして耳を傾けていた。木の葉が頭上でかすかにそよいだが、その音を聞たばかりでも季節は知られた。それは春先する、おもしろそうな、笑うようなさざめきでもなく、夏のゆるやかなそよぎでもなく、永たらしい話し声でもなく、また末の秋のおどおどした、うそさぶそうなお饒舌しゃべりでもなかッたが、ただようやく聞取れるか聞取れぬほどのしめやかな私語の声であった。そよ吹く風は忍ぶように木末を伝ッた。照ると曇るとで、雨にじめつく林の中のようすが間断なく移り変ッた。あるいはそこにありとある物すべて一時に微笑したように、くまなくあかみわたッて、さのみ繁くもない樺のほそぼそとした幹は思いがけずも白絹めく、やさしい光沢つやを帯び、地上に散りいた、細かな、落ち葉はにわかに日に映じてまばゆきまでに金色こんじきを放ち、かしらをかきむしッたような「パアポロトニク」(蕨の類い)のみごとな茎、しかもえすぎた葡萄めく色を帯びたのが、際限もなくもつれつからみつして、目前に透かして見られた。
 あるいはまたあたり一面にわかに薄暗くなりだして、瞬く間に物のあいろも見えなくなり、樺の木立ちも、降り積ッたままでまだ日の眼に逢わぬ雪のように、白くおぼろにかすむ――と小雨が忍びやかに、怪し気に、私語するようにパラパラと降ッて通ッた。樺の木の葉はいちじるしく光沢はめていてもさすがになお青かッた、がただそちこちに立つ稚木わかぎのみはすべて赤くも黄ろくも色づいて、おりおり日の光りが今ま雨に濡れたばかりの細枝の繁味しげみれて滑りながらに脱けてくるのをあびては、キラキラときらめいていた。鳥は一ト声も音を聞かせず、皆どこにか隠れてひそまりかえッていたが、ただおりふしに人をさみした白頭翁しじゅうがらの声のみが、故鈴ふるすずでも鳴らすごとくに、響きわたッた。この樺の林へ来るまえに、自分は猟犬を曳いて、さる高く茂ッた白楊はこやなぎの林を過ぎたが、この樹は――白揚は――ぜんたい虫がすかぬ。幹といえば、蒼味がかッた連翹色れんぎょういろで、葉といえば、鼠みともつかず緑りともつかず、下手な鉄物かなもの細工を見るようで、しかもたけいっぱいに頸を引き伸して、大団扇おおうちわのように空中に立ちはだかッて――どうも虫が好かぬ。長たらしい茎へ無器用にヒッつけたような薄きたない円葉をうるさく振りたてて――どうも虫が好かぬ。この樹の見て快よい時といっては、ただ背びくな灌木の中央に一段高くそびえて、入り日をまともに受け、根本より木末に至るまでむらなく樺色に染まりながら、風にそよいでいる夏の夕暮か、――さなくば空名残なごりなく晴れわたッて風のすさまじく吹く日、あおそらを影にして立ちながら、ザワザワざわつき、風に吹きなやまされる木の葉の今にも梢をもぎ離れて遠く吹き飛ばされそうに見える時かで。とにかく自分はこの樹を好まぬので、ソコデその白楊の林には憩わず、わざわざこの樺の林にまで辿たどりついて、地上わずか離れて下枝の生えた、雨しのぎになりそうな木立を見たてて、さてその下にすみかを構え、あたりの風景を跳めながら、ただ遊猟者のみが覚えのあるという、例の穏かな、罪のない夢を結んだ。
 何ン時ばかり眠ッていたか、ハッキリしないが、とにかくしばらくして眼を覚ましてみると、林の中は日の光りが到らぬくまもなく、うれしそうに騒ぐ木の葉を漏れて、はなやかに晴れた蒼空がまるで火花でも散らしたように、鮮かに見わたされた。雲は狂い廻わる風に吹き払われて形をひそめ、空には繊雲ちりくも一ツだも留めず、大気中に含まれた一種清涼の気は人の気をさわやかにして、穏かな晴夜の来る前触れをするかと思われた。自分はまさに起ち上りてまたさらに運だめし(ただし銃猟の事で)をしようとして、フト端然と坐している人の姿を認めた。眸子ひとみを定めてよく見れば、それは農夫の娘らしい少女であッた。二十歩ばかりあなたに、物思わし気に頭を垂れ、力なさそうに両の手を膝に落して、端然と坐していた。旁々かたがたの手を見れば、なかばはむきだしで、その上に載せた草花の束ねが呼吸をするたびにしまのペチコートの上をしずかにころがッていた。清らかな白の表衣をしとやかに着なして、咽喉のど元と手頸のあたりでボタンをかけ、大粒な黄ろい飾り玉を二列に分ッてえりから胸へ垂らしていた。この少女なかなかの美人で、象牙をもあざむく色白の額ぎわで巾の狭い緋の抹額もこうを締めていたが、その下から美しい鶉色うずらいろで、しかも白く光る濃い頭髪を叮嚀にとかしたのがこぼれでて、二ツの半円を描いて、左右に別れていた。顔の他の部分は日に焼けてはいたが、薄皮だけにかえって見所があった。まなざしは分らなかッた、――始終下目のみ使っていたからで、シカシその代り秀でた細眉と長い睫毛まつげとは明かに見られた。睫毛はうるんでいて、旁々かたがたの頬にもまたあおさめた唇へかけて、涙の伝ったあとが夕日にはえて、アリアリと見えた。総じて首つきが愛らしく、鼻がすこし大く円すぎたが、それすらさのみ眼障りにはならなかッたほどで。とり分け自分の気に入ッたはそのおもざし、まことに柔和でしとやかで、とり繕ろッた気色は微塵みじんもなく、さも憂わしそうで、そしてまたあどけなく途方に暮れた趣きもあッた。たれをか待合わせているのとみえて、何か幽かに物音がしたかと思うと、少女はあわてて頭をもたげて、振り反ってみて、その大方の涼しい眼、牝鹿のもののようにおどおどしたのをば、薄暗い木蔭でひからせた。クワッと見ひらいた眼を物音のした方へ向けて、シゲシゲ視詰めたまま、しばらく聞きすましていたが、やがて溜息を吐いて、静にこなたを振り向いて、前よりはひときわ低く屈みながら、またおもむろに花をり分け初めた。りあかめたまぶちに、厳しく拘攣こうれんする唇、またしても濃い睫毛の下よりこぼれでる涙のしずくは流れよどみて日にきらめいた。こうしてしばらく時刻を移していたが、その間少女は、かわいそうに、みじろぎをもせず、ただおりおり手で涙を拭いながら、聞きすましてのみいた、ひたすら聞きすましてのみいた……フとまたガサガサと物音がした、――少女はブルブルと震えた。物音はまぬのみか、しだいに高まッて、近づいて、ついに思いきッた濶歩かっぽの音になると――少女は起きなおッた。何となく心おくれのした気色。ヒタと視詰めた眼ざしにおどおどしたところもあッた、心の焦られて堪えかねた気味も見えた。しげみを漏れて男の姿がチラリ。少女はそなたを注視して、にわかにハッと顔をあからめて、我も仕合しあわせとおもい顔にニッコリ笑ッて、起ち上ろうとして、フトまた萎れて、蒼ざめて、どきまぎして、――先の男が傍に来て立ち留ってから、ようやくおずおず頭をもたげて、念ずるようにその顔を視詰めた。
 自分はなお物蔭にひそみながら、怪しと思う心にほだされて、その男の顔をツクヅク眺めたが、あからさまにいえば、あまり気には入らなかった。
 これはどう見ても弱冠の素封家の、あまやかされすぎた、給事らしい男であった。衣服を見ればことさらに風流をめかしているうちにも、またどことなくしどけないのを飾る気味もあッて、主人の着故きふるしめく、茶の短い外套がいとうをはおり、はしばしを連翹色れんぎょういろに染めた、薔薇色ばらいろの頸巻をまいて、金モールの抹額もこうをつけた黒帽を眉深まぶかにかぶッていた。白襯衣シャツの角のない襟は用捨もなく押しつけるように耳朶を※(「てへん+掌」、第4水準2-13-47)ささえて、また両頬を擦り、のりで固めた腕飾りはまったく手頸をかくして、赤い先の曲ッた指、Turquoise(宝石の一種)製の Myosotis(草の名)を飾りにつけた金銀の指環を幾個ともなくはめていた指にまで至ッた。世には一種の面貌がある、自分の観察したところでは、つねに男子の気にもとる代り、不幸にも女子の気にかなう面貌があるが、この男のかおつきはまったくその一ツで、桃色で、清らかで、そしてきわめて傲慢ごうまんそうで。己があらけないかおだちに故意わざと人を軽ろしめ世にみはてた色を装おうとしていたものとみえて、絶えずたださえいさな、薄白く、鼠ばみた眼を細めたり、眉をしわめたり、口角を引き下げたり、しいて欠伸あくびをしたり、さも気のなさそうな、やりばなしな風を装うて、あるいは勇ましく捲き上ッたもみあげを撫でてみたり、または厚い上唇の上の黄ばみた髭を引張てみたりして――ヤどうも見ていられぬほどに様子を売る男であッた。待合せていた例の少女の姿を見た時から、モウ様子を売りだして、ノソリノソリと大股にあるいて傍へ寄りて、立ち止ッて、肩をゆすッて、両手を外套のかくしへ押し入れて、気のなさそうな眼を走らしてジロリと少女の顔を見流して、そして下にいた。
「待ッたか?」ト初めて口をきいた、なおどこをか眺めたままで、欠伸をしながら、足をうごかしなから「ウー?」
 少女はきゅうに返答をしえなかッた。
「どんなに待ッたでしょう」トついにかすかにいッた。
「フム」ト言ッて、先の男は帽子を脱した。さももったいらしくほとんど眉ぎわよりはえだした濃い縮れ髪を撫でて、鷹揚おうようにあたりを四顧みまわして、さてまたソッと帽子をかぶッて、大切な頭をかくしてしまった。「あぶなく忘れるところよ。それにこの雨だもの!」トまた欠伸。「用は多し、そうそうは仕切れるもんじゃない、そのくせややともすれば小言だ。トキニ出立は明日になッた……」
「あした!」ト少女はビックリして男の顔を視詰た。
「あした……オイオイ頼むぜ」ト男は忌々いまいましそうに口早に言ッた。少女のブルブルと震えて差うつむいたのを見て。「頼むぜ『アクーリナ』泣かれちゃアあやまる。おれはそれが大嫌いだ」。ト低い鼻に皺を寄せて、「泣くならおれはすぐ帰ろう……何だばか気た――泣く!」「アラ泣はしませんよ」、トあわてて「アクーリナ」は言ッた、せぐりくる涙をようやくのことで呑みこみながら。しばらくして、「それじゃ明日お立ちなさるの。いつまた逢われるだろうネー」
「逢われるよ、心配せんでも。さよう、来年――でなければさらいねんだ。旦那は彼得堡ペテルブルグで役にでも就きたいようすだ」、トすこし鼻声で気のなさそうに言ッて「ガ事に寄ると外国へ往くかもしれん」。
「もしそうでもなッたらモウわたしの事なんざア忘れておしまいなさるだろうネー」ト言ッたが、いかにも心細そうであッた。
「なぜ? だいじょうぶ! 忘れはしない、ガ『アクーリナ』ちッとこれからは気をつけるがいいぜ、わるあがきもいい加減にして、おやじの言うこともちッとは聴くがいい。おれはだいじょうぶだ、忘れる気遣いはない、――それはなア……イ」、ト平気でのびをしながら、また欠伸をした。
「ほんとに、『ヴィクトル、アレクサンドルイチ』、忘れちゃアいやですよ」。ト少女は祈るがごとくに言ッた、
「こんなにお前さんの事を思うのも、慾徳ずくじゃないから……おとっさんのいうこと聴けとおいいなさるけれど……わたしにはそんなこたアできないワ……」
「なぜ?」トお向けざまにねころぶ拍子に、両手を頭に敷きながら、あたかも胸から押しだしたような声で尋ねた。
「なぜといッてお前さん――アノ始末だものオ……」
 少女は口をつぐんだ。「ヴィクトル」は袂時計たもとどけいの鎖をいらいだした。
「オイ、『アクーリナ』、おまえだッてばかじゃあるまい」トまた話しだした、「そんなくだらんことをいうのは置いてもらおうぜ。おれはお前のためを思ッていうのだ、わかッたか? もちろんお前はばかじゃない、やッぱりお袋のしょうを受けてるとみえて、それこそ徹頭徹尾てっとうてつびいまのソノ農婦というでもないが、シカシともかくも教育はないの――そんなら人のいうことならハイと言ッて聞てるがいいじゃないか?」
「だッてこわいようだもの」。
「ツ、こわい。何もこわいことはちッともないじゃないか? 何だそれは」、と「アクーリナ」の傍へすりよッて「花か?」
「花ですよ」ト言ったが、いかにも哀れそうであッた。
「この清涼茶は今あたしがんできたの」トすこし気の乗ッたようす「これを牛の子にたべさせると薬になるッて。ホラ Bur-marigole ――そばッかすの薬。チョイとごらんなさいよ、うつくしいじゃありませんか、あたし産れてからまだこんなうつくしい花ア見たことないのよ。ホラ Myosotis、ホラすみれ……ア、これはネ、お前さんにあげようと思ッて摘んできたのですよ」ト言いながら、黄ろな野草の花の下にあッた、青々とした Bluebottle の、細い草で束ねたのを取りだして「りませんか?」
「ヴィクトル」はしぶしぶ手を出して、花束を取ッて、気のなさそうに匂いを嗅いで、そしてもったいをつけて物思わしそうに空を視あげながら、その花束を指頭でまわしはじめた。「アクーリナ」は「ヴィクトル」の顔をジッと視詰めた……その愁然しゅうぜんとした眼つきのうちになさけを含め、やさしい誠心まごころを込め、吾仏とあおぎ敬う気ざしを現わしていた。男の気をかねていれば、あえて泣顔は見せなかったが、その代り名残り惜しそうにひたすらその顔をのみ眺めていた。それに「ヴィクトル」といえば史丹のごとくにそべッて、グッと大負けに負けて、人柄を崩して、いやながらしばらく「アクーリナ」の本尊になって、その礼拝祈念を受けつかわしておった。その顔を、あから顔を見れば、ことさらに作ッた偃蹇恣雎えんけんしき、無頓着な色を帯びていたうちにも、どこともなく得々としたところが見透かされて、憎かった。そして顧みて「アクーリナ」を視れば、魂が止め度なく身をうかれでて、男の方へのみ引かされて、甘えきっているようで――アアよかッた! しばらくして「ヴィクトル」は、……「ヴィクトル」は花束を草の上に取り落してしまい、青銅のわくめた眼鏡を外套の隠袋かくしから取りだして、眼へあてがおうとしてみた、がいくら眉をしかめ、頬を捻じ上げ、鼻までお向かせて眼鏡を支えようとしてみても、――どうしても外れて手の中へのみ落ちた。
「なにそれは?」と「アクーリナ」がケゲンな顔をして尋ねた。


 

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