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源氏物語(げんじものがたり)06 末摘花

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-5 14:51:03  点击:  切换到繁體中文


「貴婦人らしい聡明そうめいさなどが見られないのだろう、いいのだよ、無邪気でおっとりとしていれば私は好きだ」
 命婦にえばいつもこんなふうに源氏は言っていた。その後源氏は瘧病わらわやみになったり、病気がなおると少年時代からの苦しい恋の悩みに世の中に忘れてしまうほどに物思いをしたりして、この年の春と夏とが過ぎてしまった。秋になって、夕顔の五条の家で聞いたきぬたの耳についてうるさかったことさえ恋しく源氏に思い出されるころ、源氏はしばしば常陸の宮の女王へ手紙を送った。返事のないことは秋の今も初めに変わらなかった。あまりに人並みはずれな態度をとる女だと思うと、負けたくないというような意地も出て、命婦へ積極的に取り持ちを迫ることが多くなった。
「どんなふうに思っているのだろう。私はまだこんな態度を取り続ける女に出逢ったことはないよ」
 不快そうに源氏の言うのを聞いて命婦も気の毒がった。
「私は格別この御縁はよろしくございませんとも言っておりませんよ。ただあまり内気過ぎる方で男の方との交渉に手が出ないのでしょうと、お返事の来ないことを私はそう解釈しております」
「それがまちがっているじゃないか。とても年が若いとか、また親がいて自分の意志では何もできないというような人たちこそ、それがもっともだとは言えるが、あんな一人ぼっちの心細い生活をしている人というものは、異性の友だちを作って、それから優しい慰めを言われたり、自分のことも人に聞かせたりするのがよいことだと思うがね。私はもう面倒めんどうな結婚なんかどうでもいい。あの古い家を訪問して、気の毒なような荒れた縁側へ上がって話すだけのことをさせてほしいよ。あの人がよいと言わなくても、ともかくも私をあの人に接近させるようにしてくれないか。気短になって取り返しのならないような行為に出るようなことは断じてないだろう」
 などと源氏は言うのであった。女のうわさを関心も持たないように聞いていながら、その中のある者に特別な興味を持つような癖が源氏にできたころ、源氏の宿直所とのいどころのつれづれな夜話に、命婦が何の気なしに語った常陸の宮の女王のことを始終こんなふうに責任のあるもののように言われるのを命婦は迷惑に思っていた。女王の様子を思ってみると、それが似つかわしいこととは仮にも思えないのであったから、よけいな媒介役を勤めて、結局女王を不幸にしてしまうのではないかとも思えたが、源氏がきわめてまじめに言い出していることであったから、同意のできない理由もまたない気がした。常陸の太守の宮が御在世中でも古い御代みよの残りの宮様として世間は扱って、御生活も豊かでなかった。おたずねする人などはその時代から皆無といってよい状態だったのだから、今になってはまして草深い女王の邸へ出入りしようとする者はなかった。その家へ光源氏の手紙が来たのであるから、女房らは一陽来復の夢を作って、女王に返事を書くことも勧めたが、世間のあらゆる内気の人の中の最も引っ込み思案の女王は、手紙に語られる源氏の心に触れてみる気も何もなかったのである。命婦はそんなに源氏の望むことなら、自分が手引きして物越しにお逢わせしよう、お気に入らなければそれきりにすればいいし、また縁があって情人関係になっても、それを干渉して止める人は宮家にないわけであるなどと、命婦自身が恋愛を軽いものとして考えつけている若い心に思って、女王の兄にあたる自身の父にも話しておこうとはしなかった。
 八月の二十日過ぎである。八、九時にもまだ月が出ずに星だけが白く見える夜、古いやしきの松風が心細くて、父宮のことなどを言い出して、女王は命婦といて泣いたりしていた。源氏にたずねて来させるのによいおりであると思った命婦のしらせが行ったか、この春のようにそっと源氏が出て来た。その時分になってのぼった月の光が、古い庭をいっそう荒涼たるものに見せるのを寂しい気持ちで女王がながめていると命婦が勧めて琴を弾かせた。まずくはない、もう少し近代的の光沢が添ったらいいだろうなどと、ひそかなことを企てて心の落ち着かぬ命婦は思っていた。人のあまりいない家であったから源氏は気楽に中へはいって命婦を呼ばせた。命婦ははじめて知って驚くというふうに見せて、
「いらっしったお客様って、それは源氏の君なんですよ。始終御交際をする紹介役をするようにってやかましく言っていらっしゃるのですが、そんなことは私にだめでございますってお断わりばかりしておりますの、そしたら自分で直接お話しに行くってよくおっしゃるのです。お帰しはできませんわね。ぶしつけをなさるような方なら何ですが、そんな方じゃございません。物越しでお話をしておあげになることだけを許してあげてくださいましね」
 と言うと女王は非常に恥ずかしがって、
「私はお話のしかたも知らないのだから」
 と言いながら部屋の奥のほうへ膝行いざって行くのがういういしく見えた。命婦は笑いながら、
「あまりに子供らしくいらっしゃいます。どんな貴婦人といいましても、親が十分に保護していてくださる間だけは子供らしくしていてよろしくても、こんな寂しいお暮らしをしていらっしゃりながら、あまりあなたのように羞恥しゅうちの観念の強いことはまちがっています」
 こんな忠告をした。人の言うことにそむかれない内気な性質の女王は、
「返辞をしないでただ聞いてだけいてもいいというのなら、格子でもおろしてここにいていい」
 と言った。
「縁側におすわらせすることなどは失礼でございます。無理なことは決してなさいませんでしょう」
 体裁よく言って、次の室との間の襖子からかみを命婦自身が確かにめて、隣室へ源氏の座の用意をしたのである。源氏は少し恥ずかしい気がした。人としてはじめてう女にはどんなことを言ってよいかを知らないが、命婦が世話をしてくれるであろうと決めて座についた。乳母のような役をする老女たちは部屋へはいって宵惑よいまどいの目を閉じているころである。若い二、三人の女房は有名な源氏の君の来訪に心をときめかせていた。よい服に着かえさせられながら女王自身は何の心の動揺もなさそうであった。男はもとよりの美貌びぼうを目だたぬように化粧して、今夜はことさらえんに見えた。美の価値のわかる人などのいない所だのにと命婦は気の毒に思った。命婦には女王がただおおようにしているに相違ない点だけが安心だと思われた。会話に出過ぎた失策をしそうには見えないからである。自分の責めのがれにしたことで、気の毒な女王をいっそう不幸にしないだろうかという不安はもっていた。源氏は相手の身柄を尊敬している心から利巧りこうぶりを見せる洒落気しゃれぎの多い女よりも、気の抜けたほどおおようなこんな人のほうが感じがよいと思っていたが、襖子の向こうで、女房たちに勧められて少し座を進めた時に、かすかな衣被香えびこうのにおいがしたので、自分の想像はまちがっていなかったと思い、長い間思い続けた恋であったことなどを上手じょうずに話しても、手紙の返事をしない人からはまた口ずからの返辞を受け取ることができなかった。
「どうすればいいのです」
 と源氏は歎息たんそくした。

「いくそたび君が沈黙しじまに負けぬらん物なひそと云はぬ頼みに

 言いきってくださいませんか。私の恋を受けてくださるのか、受けてくださらないかを」
 女王の乳母の娘で侍従という気さくな若い女房が、見かねて、女王のそばへ寄って女王らしくして言った。

鐘つきてとぢめんことはさすがにて答へまうきぞかつはあやなき

 若々しい声で、重々しくものの言えない人が代人でないようにして言ったので、貴女きじょとしては甘ったれた態度だと源氏は思ったが、はじめて相手にものを言わせたことがうれしくて、
「こちらが何とも言えなくなります、

はぬをも云ふにまさると知りながら押しこめたるは苦しかりけり」

 いろいろと、それは実質のあることではなくても、誘惑的にもまじめにも源氏は語り続けたが、あの歌きりほかの返辞はなかった、こんな態度を男にとるのは特別な考えをもっている人なんだろうかと思うと、源氏は自身が軽侮されているような口惜くちおしい気がした。その時に源氏は女王の室のほうへ襖子からかみをあけてはいったのである。命婦はうかうかと油断をさせられたことで女王を気の毒に思うと、そこにもおられなくて、そしらぬふうをして自身の部屋のほうへ帰った。侍従などという若い女房は光源氏ということに好意を持っていて、主人をかばうことにもたいして力が出なかったのである。こんなふうに何の心の用意もなくて結婚してしまう女王に同情しているばかりであった。女王はただ羞恥しゅうちの中にうずもれていた。源氏は結婚の初めのうちはこんなふうである女がよい、独身で長く大事がられてきた女はこんなものであろうと酌量しゃくりょうして思いながらも、手探りに知った女の様子にに落ちぬところもあるようだった。愛情が新しくいてくるようなことは少しもなかった。歎息たんそくしながらまだ暁方に帰ろうと源氏はした。命婦はどうなったかと一夜じゅう心配で眠れなくて、この時の物音も知っていたが、黙っているほうがよいと思って、「お送りいたしましょう」と挨拶あいさつの声も立てなかった。源氏は静かに門を出て行ったのである。
 二条の院へ帰って、源氏は又寝またねをしながら、何事も空想したようにはいかないものであると思って、ただ身分が並み並みの人でないために、一度きりの関係で退いてしまうような態度の取れない点を煩悶はんもんするのだった。そんな所へ頭中将とうのちゅうじょうが訪問してきた。
「たいへんな朝寝なんですね。なんだかわけがありそうだ」
 と言われて源氏は起き上がった。
「気楽なひとり寝なものですから、いい気になって寝坊をしてしまいましたよ。御所からですか」
「そうです。まだうちへ帰っていないのですよ。朱雀すざく院の行幸の日の楽の役とまいの役の人選が今日あるのだそうですから、大臣にも相談しようと思って退出したのです。そしてまたすぐに御所へ帰ります」
 頭中将は忙しそうである。
「じゃあいっしょに行きましょう」
 こう言って、源氏はかゆ強飯こわめしの朝食を客とともに済ませた。源氏の車も用意されてあったが二人は一つの車に乗ったのである。あなたは眠そうだなどと中将は言って、
「私に隠すような秘密をあなたはたくさん持っていそうだ」
 とも恨んでいた。
 その日御所ではいろんな決定事項が多くて源氏も終日宮中で暮らした。新郎はその翌朝に早く手紙を送り、第二夜からの訪問を忠実に続けることが一般の礼儀であるから、自身で出かけられないまでも、せめて手紙を送ってやりたいと源氏は思っていたが、閑暇ひまを得て夕方に使いを出すことができた。雨が降っていた。こんな夜にちょっとでも行ってみようというほどにも源氏の心をくものは昨夜の新婦に見いだせなかった。
 あちらでは時刻を計って待っていたが源氏は来ない。命婦みょうぶも女王をいたましく思っていた。女王自身はただ恥ずかしく思っているだけで、今朝来るべきはずの手紙が夜になってまで来ないことが何の苦労にもならなかった。

夕霧の晴るるけしきもまだ見ぬにいぶせさ添ふるよひの雨かな

この晴れ間をどんなに私は待ち遠しく思うことでしょう。
 と源氏の手紙にはあった。来そうもない様子に女房たちは悲観した。返事だけはぜひお書きになるようにと勧めても、まだ昨夜から頭を混乱させている女王は、形式的に言えばいいこんな時の返歌も作れない。夜がけてしまうからと侍従が気をもんで代作した。

晴れぬ夜の月待つ里を思ひやれ同じ心にながめせずとも

 書くことだけは自身でなければならないと皆から言われて、紫色の紙であるが、古いので灰色がかったのへ、字はさすがに力のある字で書いた。中古の書風である。一所も散らしては書かず上下そろえて書かれてあった。
 失望して源氏は手紙を手から捨てた。今夜自分の行かないことで女はさぞ煩悶はんもんをしているであろうとそんな情景を心に描いてみる源氏も煩悶はしているのだった。けれども今さらしかたのないことである、いつまでも捨てずに愛してやろうと、源氏は結論としてこう思ったのであるが、それを知らない常陸ひたちの宮家の人々はだれもだれも暗い気持ちから救われなかった。
 夜になってから退出する左大臣に伴われて源氏はその家へ行った。行幸の日を楽しみにして、若い公達きんだちが集まるとその話が出る。舞曲の勉強をするのが仕事のようになっていたころであったから、どこの家でも楽器の音をさせているのである。左大臣の子息たちも、平生の楽器のほかの大篳篥おおひちりき、尺八などの、大きいものから太い声をたてる物も混ぜて、大がかりの合奏の稽古けいこをしていた。太鼓までも高欄の所へころがしてきて、そうした役はせぬことになっている公達が自身でたたいたりもしていた。こんなことで源氏も毎日閑暇ひまがない。心から恋しい人の所へ行く時間を盗むことはできても、常陸の宮へ行ってよい時間はなくて九月が終わってしまった。それでいよいよ行幸の日が近づいて来たわけで、試楽とか何とか大騒ぎするころに命婦みょうぶは宮中へ出仕した。
「どうしているだろう」
 源氏は不幸な相手をあわれむ心を顔に見せていた。大輔たゆうの命婦はいろいろと近ごろの様子を話した。
「あまりに御冷淡です。その方でなくても見ているものがこれではたまりません」
 泣き出しそうにまでなっていた。悪い感じも源氏にとめさせないで、きれいに結末をつけようと願っていたこの女の意志も尊重しなかったことで、どんなに恨んでいるだろうとさえ源氏は思った。またあの人自身は例の無口なままで物思いを続けていることであろうと想像されてかわいそうであった。
「とても忙しいのだよ。恨むのは無理だ」
 歎息たんそくをして、それから、
「こちらがどう思っても感受性の乏しい人だからね。懲らそうとも思って」
 こう言って源氏は微笑を見せた。若い美しいこの源氏の顔を見ていると、命婦も自身までが笑顔えがおになっていく気がした。だれからも恋の恨みを負わされる青春を持っていらっしゃるのだ、女に同情が薄くて我儘わがままをするのも道理なのだと思った。この行幸準備の用が少なくなってから時々源氏は常陸の宮へ通った。そのうち若紫を二条の院へ迎えたのであったから、源氏は小女王を愛することに没頭していて、六条の貴女に逢うことも少なくなっていた。人の所へ通って行くことは始終心にかけながらもおっくうにばかり思えた。
 常陸の女王のまだ顔も見せない深い羞恥しゅうちを取りのけてみようとも格別しないで時がたった。あるいは源氏がこの人をあらわに見た刹那せつなから好きになる可能性があるとも言えるのである。手探りに不審な点があるのか、この人の顔を一度だけ見たいと思うこともあったが、引っ込みのつかぬ幻滅を味わわされることも思うと不安だった。だれも人の来ることを思わない、まだ深夜にならぬ時刻に源氏はそっと行って、格子の間からのぞいて見た。けれど姫君はそんな所から見えるものでもなかった。几帳きちょうなどは非常に古びた物であるが、昔作られたままに皆きちんとかかっていた。どこからか隙見すきみができるかと源氏は縁側をあちこちと歩いたが、すみの部屋にだけいる人が見えた。四、五人の女房である。食事台、食器、これらは支那しな製のものであるが、古くきたなくなって見る影もない。女王の部屋から下げたそんなものを置いて、晩の食事をこの人たちはしているのである。皆寒そうであった。白い服の何ともいえないほどすすけてきたなくなった物の上に、堅気かたぎらしくの形をした物を後ろにくくりつけている。しかも古風に髪をくしで後ろへ押えた額のかっこうなどを見ると、内教坊ないきょうぼう(宮中の神前奉仕の女房が音楽の練習をしている所)や内侍所ないしどころではこんなかっこうをした者がいると思えて源氏はおかしかった。こんなふうを人間に仕える女房もしているものとはこれまで源氏は知らなんだ。
「まあ寒い年。長生きをしているとこんな冬にもいますよ」
 そう言って泣く者もある。
「宮様がおいでになった時代に、なぜ私は心細いおうちだなどと思ったのだろう。その時よりもまたどれだけひどくなったかもしれないのに、やっぱり私らは我慢して御奉公している」
 その女は両そでをばたばたといわせて、今にも空中へ飛び上がってしまうようにふるえている。生活についてのき出しな、きまりの悪くなるような話ばかりするので、聞いていて恥ずかしくなった源氏は、そこから退いて、今来たように格子をたたいたのであった。
「さあ、さあ」
 などと言って、を明るくして、格子を上げて源氏を迎えた。侍従は一方で斎院さいいんの女房を勤めていたからこのごろは来ていないのである。それがいないのでいっそうすべての調子が野暮やぼらしかった。先刻老人たちのうれえていた雪がますます大降りになってきた。すごい空の下を暴風が吹いて、灯の消えた時にもけ直そうとする者はない。なにがしの院の物怪もののけの出た夜が源氏に思い出されるのである。荒廃のしかたはそれに劣らない家であっても、室の狭いのと、人間があの時よりは多い点だけを慰めに思えば思えるのであるが、ものすごい夜で、不安な思いに絶えず目がさめた。こんなことはかえって女への愛を深くさせるものなのであるが、心をきつける何物をも持たない相手に源氏は失望を覚えるばかりであった。やっと夜が明けて行きそうであったから、源氏は自身で格子を上げて、近い庭の雪の景色けしきを見た。人の踏み開いた跡もなく、遠い所まで白く寂しく雪が続いていた。今ここから出て行ってしまうのもかわいそうに思われて言った。
「夜明けのおもしろい空の色でもいっしょにおながめなさい。いつまでもよそよそしくしていらっしゃるのが苦しくてならない」
 まだ空はほの暗いのであるが、積もった雪の光で常よりも源氏の顔は若々しく美しく見えた。老いた女房たちは目の楽しみを与えられて幸福であった。
「さあ早くお出なさいまし、そんなにしていらっしゃるのはいけません。素直になさるのがいいのでございますよ」
 などと注意をすると、この極端に内気な人にも、人の言うことは何でもそむけないところがあって、姿を繕いながら膝行いざって出た。源氏はその方は見ないようにして雪をながめるふうはしながらも横目は使わないのでもない。どうだろう、この人から美しい所を発見することができたらうれしかろうと源氏の思うのは無理な望みである。すわった背中の線の長く伸びていることが第一に目へ映った。はっとした。その次に並みはずれなものは鼻だった。注意がそれに引かれる。普賢菩薩ふげんぼさつの乗った象という獣が思われるのである。高く長くて、先のほうが下にれた形のそこだけが赤かった。それがいちばんひどい容貌きりょうの欠陥だと見える。顔色は雪以上に白くて青みがあった。額がふくれたように高いのであるが、それでいて下方の長い顔に見えるというのは、全体がよくよく長い顔であることが思われる。せぎすなことはかわいそうなくらいで、肩のあたりなどは痛かろうと思われるほど骨が着物を持ち上げていた。なぜすっかり見てしまったのであろうと後悔をしながらも源氏は、あまりに普通でない顔に気を取られていた。頭の形と、髪のかかりぐあいだけは、平生美人だと思っている人にもあまり劣っていないようで、すそうちぎの裾をいっぱいにした余りがまだ一尺くらいも外へはずれていた。その女王の服装までも言うのはあまりにはしたないようではあるが、昔の小説にも女の着ている物のことは真先まっさきに語られるものであるから書いてもよいかと思う。桃色の変色してしまったのを重ねた上に、何色かの真黒まっくろに見えるうちぎ黒貂ふるきの毛の香のする皮衣を着ていた。毛皮は古風な貴族らしい着用品ではあるが、若い女に似合うはずのものでなく、ただ目だって異様だった。しかしながらこの服装でなければ寒気が堪えられぬと思える顔であるのを源氏は気の毒に思って見た。何ともものが言えない。相手と同じように無言の人に自身までがなった気がしたが、この人が初めからものを言わなかったわけも明らかにしようとして何かと尋ねかけた。そでで深く口をおおうているのもたまらなく野暮やぼな形である。自然ひじが張られて練って歩く儀式官の袖が思われた。さすがに笑顔えがおになった女の顔は品も何もない醜さを現わしていた。源氏は長く見ていることがかわいそうになって、思ったよりも早く帰って行こうとした。
「どなたもお世話をする人のないあなたと知って結婚した私には何も御遠慮なんかなさらないで、必要なものがあったら言ってくださると私は満足しますよ。私を信じてくださらないから恨めしいのですよ」
 などと、早く出て行く口実をさえ作って、

朝日さす軒のたるひは解けながらなどかつららの結ぼほるらん

 と言ってみても、「むむ」と口の中で笑っただけで、返歌の出そうにない様子が気の毒なので、源氏はそこを出て行ってしまった。


 

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