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鉄鎚(かなづち)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-9 8:47:26  点击:  切换到繁體中文


 私はこの意味がちょっと解らなかった。ただ、この頃、製糖会社の株をシコタマ背負い込んでいる叔父がどんな顔をするだろうと思いながら、そんな株の暴落した数字を心持ち大きく書いて示すと、叔父はいつもの通りに一渡り見まわしながら、何喰わぬ顔をしてゴクリと唾を飲み込んだ。この調子で行くと叔父は殆んど破産に近い打撃を受けるであろう事が、その石みたいに冷え切った表情で察しられた。
 けれどもその表情をジッと凝視しながら、机の端を平手で撫でていると、何故ともなく私の頭の中で或る暗示が電光のようにひらめいたので、私は思わず鉛筆を取り上げて叔父が眼を落している机の上の便箋にこう書いた。
今朝けさの各新聞に出ているキューバ糖の大豊作の予想は虚報だと思います。浪華朝報社では、キューバ糖が、何者かに依って大仕掛けに買い占められつつある事を探知しているようです。会社の相場主任猪股氏はきょうの後場で買いにまわっている事が、たった今電話の混線で……」
 ここまで書いた時叔父は、私の手をピッタリと押えた。茫然と血のを失ったまま、素焼の瀬戸物みたいな表情で私の顔を見た。そうしてブルブルとふるえる手で、その便箋の一枚を掴んで空間を睨みつつ、腰を浮しかけたが、又、ドッカと椅子に腰を下して瞑目一番したと思うと、今度は猛虎のように決然として立ち上って、掴みかかるように私を押しけると自分自身に電話口へ獅噛しがみついた。各地の銀行や仲買店を次から次に汗だくだくで呼び出しつつ、資力の続く限り製糖株を買いにまわった。そうして店の者があきれた眼をみはっている中をフラフラと取引所へ出て行って、その日の後場でメチャメチャに暴落した製糖株を買って買って買いまくった。人々は叔父を発狂したと云っていたそうである。
 けれども、それから中一日置いてあくる日の前場ぜんばの引け頃になると、取引所の中に一騒動が起った。叔父は寄ってたかって胴上げにされて、う這うのていで店の中に逃げ込んで来た。そのあとから「万歳万歳」という声が大波のように雪崩なだれ込んで、店の中から表の往来まで一パイの人になった。私は私でそのさなかに電話口に突立って、八方からかかって来る吉報に転手児舞てんてこまいをしなければならなかった。
「……米国某新聞系大手筋のキューバ糖大買占め……紐育ニューヨークの砂糖が一躍暴騰して、砂糖節約デーの実施運動起る……」
 という国際電報が掲載されたのは、その翌日の夕刊のことであった。

 叔父は一躍して相場師仲間の大立物になった。出入りするお客のすうは三倍位になった。田舎の出米でまいの相場を直接に聞くようになったために電話の忙がしさは数倍に達した。けれども叔父は電話機もやさなければ店も拡張しなかった。ただ私の手当てを一躍五十円に引き上げたほかに、私がトックの昔に忘れていた、親孝行に対する新聞社の同情金を叔父が保管していたものが、元利合計二百何円何十何銭かになっていたので、プラチナの腕時計を一個買って下げ渡してくれただけであった。
 しかし叔父はそれからのち、私に電話以外の用事を絶対に云いつけなくなった。新しい通勤の給仕を一人置いて今までの私の雑務を引き継がせると同時に、各地方の相場を聞く私の態度にすこしも眼を離さぬようになった。電話を伝わって来る相場に限って私が持っている……それこそ悪魔のような敏感さを、叔父がズンズン理解し始めている事が、私に又ズンズン感じられた。
「きょうはトテモ線がわるいんです。広島か岡山あたりで大雪が降って断線しそうになっているんです。きょうの後場ごばの大阪電話はこの調子だと来ないかも知れません」
 と云っても叔父は以前のように「千里眼だ」なぞ云って冷笑しなくなった。
「オーイ、大新が落ちているぞ――オ。大新はいくらだア」
 と私が大阪に怒鳴る時、叔父もその日の株界の興味の中心が、その株の上り下りに在る事を知って、熱心に注目している視線が、私の横頬に生あたたかく感じられる位にまで、二人の気持ちがピッタリとなって来た。
 私は相場の書き取りを叔父に見せる時に、叔父が指で押える株の上り下りを眼顔で知らせた。上り下りの見当が附かないのはチョット頭を振った。又、客から売り買いの相談をかけられた時に、チラリと私の方を見ると、私は左右の眼を閉じたり開いたりして合図をした。その合図を叔父が取り違えると頭を掻いて訂正した。
 こうした相場の上り下りに対する私の予感は夏冬の寒暖の変化や天候の工合なぞによって、余計に来る時と来ない時があった。電線の調子のしや、先方の読み方の上手下手に依っても違ったが、それでもこの予感のおかげで叔父の身代はメキメキと殖えて行った。何でも二三年の間に一千万円近くに達したとの事だが、叔父はそれを全部、大阪中の島の浜村銀行に預けているらしかった……というのは或る時、同銀行の支配人で井田という大阪弁丸出しの巨漢おおおとこがこの事務所を訪れて、事務員や私にまでピョコピョコ頭を下げまわったのに対して、赤ん坊位にしか見えない叔父がり身になりながら、こんな事を云ったので察しられる。
「僕は何でも相場式に行かなくちゃ気が済まない性分でね。儲けた金は方々の銀行にチョクチョク入れて、頭かくして尻かくさず式の安全第一をはかるようなケチな真似はしないよ。大阪一流の浜村銀行が潰れた時に、日本中で店を閉めたのはこの薄キタナイ※善かねぜん[#「ユ-一」、屋号を示す記号、、285-18]の事務所一軒だけという事がわかれば、相場師としてこれ以上の名誉はないじゃないか。ハッハッハッハッハッ」
 この財産と共に、叔父の肉体も亦、いよいよ丸々と脂切あぶらぎって、陽気な色彩を放って来た。その頭はますます禿げ上った。叔父はそれを撫で上げ撫で上げ人と話した。
 私はそれと正反対に益々青白く瘠せこけて行った。そうして黒い髪毛かみのけばかりが房々と波打って幽霊のように延びて行ったが、それを両手で掴んだり引っぱったりして、何ともいえない微妙な手ざわりを楽しみつつ、金口きんぐちの煙草を吸って、小説や雑誌を読むのが私の無上の楽しみであった。私にとっては恋なぞいうものは、空想の世界の出来事に過ぎなかった。又は、錯覚と誇張とで性慾を飾ろうとする一種の芝居としか考えられなかった。私の初恋とも云えば云えるであろうの、大東汽船の美人画に向って微笑し合っているうちに、時折り思い出したように感ずる胸のトキメキ以外には、本当の恋が存在しようなぞと夢にも思わなかった。私は純然たるなまけものになった。
 一方に私の俸給はグングンとセリ上って、とうとう二百五十円まで漕ぎ付けた。叔父はそれを私独得の「相場の予感に対する口止め料」であるかのように云い聞かせていたが、実は、私という福の神に投げ与える極めて安価な足止め料に相違なかった。もっともそのおかげで、私は汚ない二階に寝ころんだまま、煙草と、弁当と、書物の三道楽に浮き身をやつし得るありがたい身分になったわけであるが、同時にその道楽の結果として、自分の頭と、胃袋と、肉体とが日に日に頽廃して行く有様ありさまを自分でジッと凝視みつめていなければならなくなったのには少々悲観させられた。煙草はマドロスパイプを使う舶来の鑵入りでなければ吸えないようになった。弁当は香料のいた、あぶら濃い洋食か支那料理に限られて来た。小説もアクドイ翻訳ものか好色本のたぐいでなければ手にしなくなった。しまいにはそれさえも飽きて来て、神経の切れはじを並べたような新体詩や、近代画ばかり買うようになった。それでも余った札束や銀貨の棒は、片っ端から押入れの隅にある本筥ほんばこの抽出しに投げ込んだ。
 しかし遂にはそんな書物を買いに行く事すら面倒臭くなった。苦辛にがからい胃散の味を荒れた舌に沁み込ませながら、破れ畳の上に寝ころんで、そこいらの壁や襖の楽書きの文句や絵に含まれている異様に露骨な熱情や、拙劣な技巧によって痛切に表現されている心的の波動を、宇宙間無上の芸術ででもあるかのように飽かず飽かず眺めまわしつつ、あらん限りの空想や妄想を逞しくする時間が殖えて来た。私は自分の肉体と精神の弾力が、日に日にダラケて消え失せて行くのを感じた。しまいには壁の美人画の永久に若い、生き生きした微笑から、一種の圧迫を感ずるくらいにまで神経が弱って行った。……私は近いうちに死ぬかも知れない。病気にかかるか、それともキチガイになるか、自殺するかして……というような薄暗い予感に襲われ初めたのはこの頃からの事であった。叔父はこうして私を衰滅させるためにヤケに給料を殖やしているのではないか知らん。もしそうならば構う事はない。死にがけに叔父の頭を鉄鎚でなぐってお礼を云ってやろう……なぞと真面目に考えたりした。
 そのうちに叔父は満五十歳になった。私は二十歳になった。
 叔父が独身者である事を、私が初めて知ったのはこの頃の事であった。

 二十歳になるまで七八年間も一緒に居た叔父が、独身者かどうか気付かなかったといったら笑う人があるかも知れない。しかしこれは私の正真正銘のところであった。私はそれほど左様さように実世間とかけ離れた世界に生きている人間であった。私は私の神経が、実世間のいかなる問題に触れても、すぐに縮み込む程に鋭いものであることをよく知っていた。私は現実の世界に在る太陽や、草木や、土や風なぞいうものが、空想の世界にあらわれる太陽や草木風景なぞよりも遥かに単調子な、平凡な、荒々しいものであることを知り過ぎる位知っていた。同様に、かねとか、女とかいうものも実際に手に取ってみると存外下らない、飽き飽きしたものである上に、そんなものに対する慾望を持続して行くためには実に馬鹿馬鹿しい、たまらないほど夥しい苦労を続けなければならぬであろうことを考えるだけでもウンザリした。私は現実の一切に諦らめをつけて、空想の世界に寝ころんでいるのが、私に一番似合い相当した生活であると信じていた。
 だから私はこの数年の間に、叔父の自宅らしい処から一遍も電話がかからないのを多少不思議に思いつつも、それについて探偵してみようなぞいう勇気を起した事はなかった。一方に月給を取る器械みたような店員たちも、この事にいて私と雑談するような事は絶無であった。
 然るに…………
 忘れもしない去年(大正十三年)の八月の初めの珍らしくドンヨリと曇った午後の事であった。店を仕舞しまってから給仕に窓やを明け放させたまま、電話の前の自分の机にりかかって、ずっと以前に読みさしたまま忘れていた翻訳物の探偵小説を読んでいると、肩の処で突然に電話のベルが鳴った。
 私は読みさしの小説の中の事件を頭の中で渦巻かせながら立ち上って、受話機を耳に当てると、今までに一度も聞いた事のない、水々しい魅力を持った若い女の声が響いて来たので、私は思わず、顔に蔽いかかった髪毛かみのけを撫で上げた。本能的に全神経を耳に集中した。
「モシモシ……あなたは四千四百三番でいらっしゃいますか」
「そうです……あなたは……」
「……あの……児島はもう帰りましたでしょうか」
「……ハイ。主人は今しがた帰りました。失礼ですがあなたは……」
「あの……あなたは……失礼ですけど……愛太郎さんでいらっしゃいますか……」
「ハイ……児島愛太郎です……あなたは……」
「……オホホホホホホホホ……」
 ……受話機のかかる音がした。
 私も受話機をかけたが、そのまま電話口のニッケル・カヴァーを見つめてボンヤリと突立っていた。私の電話に対する敏感さをスッカリ面喰らわされてしまったまま……。
 ……千万長者の叔父を呼び棄てにする若い女が一人居る……その女は私の名前を知っている……否、もっともっと詳しく私について知っているらしい口ぶりである。……そうして何がなしに一寸ちょっと冷やかして見ようぐらいの考えで、私を電話口に呼び出してみたものらしい……。
 という感じだけが、私の脳髄の中心にキリキリと渦巻き残ったまま……。
 私は小説の続きも何も忘れて、表の窓やをヤケに手荒く締めると、暗い階子はしご段を二階に上って、蠅のふんで真白になった電球の下に仰向けに寝ころんだ。
「ホホホホホホホホ」
 という……冷笑とも、皮肉とも、びともつかぬ透きとおった笑い声を、いつまでもいつまでも耳の中で聞き味いつつ、へや中が真白になるまでネーヴィカットのけむを吹き出していた。

 その翌る朝、いつもより早く起きた私は、まだ開店まで一時間以上もあると思い思い、寝巻のまま叔父の椅子に腰をかけて、投げ込まれた新聞を読んでいると、思いがけなく店の前に大きな自動車が停まって、白いダブダブの詰襟を着たパナマ帽の叔父が、一人の令嬢の手を引いてニコニコしながら這入はいって来た。
 それは二階の美人画とは全然正反対の風付ふうつきをした少女であったが、それでいてF市界隈は愚か、東京あたりにでも滅多に居ないシャンであろうことが、世間狭い私にも容易にうなずかれた。小男の叔父よりもすこし背が低くて、二重ふたえまぶたの大きな眼が純然たる茶色で、眉が非常に細長くて、まん丸い顔の下に今一つ丸まっちいあごが重なっていた。縮らした前髪を眉の上でり揃えたあとを左右に真二まっぷたつに分けて、白い襟首の上にグルグル捲きを作って、大きな、色のいい翡翠ひすいのピンで止めたアンバイは支那婦人ソックリの感じであった。小ぢんまりした身体からだには贅沢なものらしい透かし入りの白い襦袢じゅばんと、ヴェールのように薄い、黒地の刺繍入りの着物を着込んで、その上から上品な銀色の帯と、血のように真赤な帯締めをキリキリと締めていたが、それが小さい白足袋しろたびに大きなスリッパを突っかけながら、叔父の蔭に寄り添ってオズオズと私の前に進んで来た時は、どう見ても大富豪の一人娘か何かで、十六か七ぐらいのろうたけた令嬢としか見えなかった。
 私は新聞を手に持って、椅子に腰をかけたまま、唖然としてその姿を見上げ見下した。敏感な私の神経はこの令嬢が昨日きのう、電話で私に笑いかけた声の主である事を、とっくの昔に直覚していたのであったが、しかも、そうした私の直覚と、眼の前にしおらしく伏し眼になって羞恥はにかんでいる美少女の姿とは、どう考えても一緒にならないのであった。もしかしたら私の直覚が、今度に限って間違っているのではなかろうか……なぞと一人で面喰っているうちに叔父は帽子を脱いで汗を拭き拭き、になって二人を紹介した。
「これは俺の拾い物だよ。お前の従妹いとこで俺のめいなんだ。俺たちには、もう一人トヨ子という腹違いの妹があったんだが、俺達の両親も、お前の死んだ親父おやじもそれを隠していたらしいんだ。そのトヨ子……つまりお前の叔母さんだね……それが生み残したのがこの友丸伊奈子ともまるいなこという娘で、早くから母に別れていろいろと苦労をしたあげく、長崎の毛唐けとうの病院の看護婦をしていたんだが、俺の名前が時々新聞に出るようになったもんだから、もしやと思って、昨日わざわざ長崎から尋ねて来たんだ……いいか……これが昨日話した愛太郎だ。お前たちは、ほかに肉親しんみの者が居ないからホントウの兄妹きょうだいみたようなもんだ。ハハハハハハ」
 二人は叔父の笑い声の前で椅子から立ち上って「どうぞよろしく」と挨拶を交した。私は内心気味わるわると……彼女は上品に、つつましく……。
 叔父はそれから如何にも得意そうに、脂肪でピカピカ光る顔を撫でまわしながら、伊奈子の母親に関するローマンスを話し始めた。それは……

 ……伊奈子が七歳の時であった。K市の富豪友丸家の第二夫人で、まだ若くて美しかった彼女の母親は、伊奈子も誰も知らない正体不明の情夫から夫を毒殺されたのちに、自分自身もその男から受けた梅毒に脳を犯されて発狂してしまった。そうして色々な事を口走り始めたので、その罪の発覚を恐れたらしい情夫は、或る真暗い晩に病室に忍び込んで、枕元の西洋手拭で絞殺すると同時に、一緒に寝ていた伊奈子を誘拐して行った事がその頃の新聞に出ていた。あとの財産はどうなったか解らないが、多分親類たちが勝手に処分したものらしく、正体不明の犯人も、いまだに正体不明のままになっている……。
 というようなかなりモノスゴイ筋であった。叔父も一生懸命に力瘤ちからこぶを入れて喋舌しゃべっているようであったが、しかし、私はちっとも傾聴していなかった。それはシナリオや小説を飽きる程読んでいる私の耳には、すこぶるまずい、取って付けたような話としか響かなかったので、強いて想像を逞しくすれば……その美しい第二夫人というのは、私の実の母親の事ではないか。そうして正体不明の情夫の正体は取りも直さず叔父自身ではないか。叔父はそうした旧悪に対する一種の自白心理を利用して私たちを誤魔化ごまかそうと試みているので、友丸伊奈子と私とはその実、タネ違いの兄妹きょうだいとも、従兄妹いとこ同志ともつかぬ異様な間柄になっているのではないか……と疑えば疑い得る筋がないでもない位の事であった。
 しかしそのうちにフト気が付いて、叔父の斜うしろに坐っている伊奈子の様子を見ると、こうした私のまわしい疑いも無用である事がわかった。彼女は如何にもつつましやかな態度で、さしむきながら聞いているにはいたが、しかし内心は飽き飽きしているらしく、叔父の話が自分達母子おやこと全く無関係である事を、特に私にだけコッソリと知らせたがっている気持ちが、その溜め息のし工合いや、白い絹ハンカチのもてあそびようだけでもアリアリと察しられたので、私は何故かしらホッと安心させられたように思った。そうしてあとには大袈裟おおげさな身ぶりを入れて喋舌っている叔父の、滑稽なくらい真剣な表情だけが印象に残ってしまった。
「……だから……おれは近いうちに、伊奈子と二人で家を借りて住むつもりだ。今までみたいに待合まちあいにばかり泊っていちゃ、伊奈子のためにならないからナ。ハハハハハ」
 叔父はおしまいに、こう云って笑いながら壁に掛けたパナマ帽子の方へ手を伸ばした。
 すると……その瞬間に、流石さすがの私もハッとさせられた事が起った。それは今の今までつつましやかにうつむいていた伊奈子が大きな眼で上眼うわめづかいに私を見て、頬をポッと染めながらニッコリと笑って見せたからであった。しかも、その眼つきや口元の表情が、ほんのチョットのではあったが、二階の美人画の表情以上に熱烈深刻な意味で、
「あたしは、あなたが大好きよ……」
 と云ったように思えたので、私は思わず釣り込まれながらニッコリと微笑を返してしまったのであった。……が……しかし……そのあとで眼を閉じて、ゴックリと冷たい唾液つばを呑み込むと、その刹那せつなに彼女のすべてが電光のように私の頭の中へ閃めき込んだので、私は今一度ギョッとさせられない訳に行かなかった。
 ……驚いた……驚いた……この女はウッカリすると俺よりも年上だ。のみならず処女でもなければ令嬢でもない……叔父のめかけになりに来た女なのだ。……しかも、今まで読んだ小説の中にも滅多に出て来た事のないタイプの妖婦で、叔父から俺の事を聞くとすぐに、電話をかけて笑ってみたものらしい……チョット俺を面喰らわして、丸め込むキッカケを作っておこうぐらいの考えで……大変な阿魔あまッチョだぞ。こいつは……。
 私はこう思いながら頭を上げた。昨日から持ち続けていた興味が見る見る醒めて行くのを感じつつ、改めて伊奈子を見たが、その時はもう彼女はの毛で突いた程もスキのない無垢の処女らしい態度にかわって、つつましやかに眼を伏せているのであった。
 しかし何も知らない叔父は、如何にも二人の叔父らしい気取った身ぶりで、買い立てらしいパナマ帽を大切そうに頭に載せながら伊奈子を連れて出て行った。その自動車が店の前をすべり出すのを見送りながら、私は思わず薄笑いをした。
 ……阿婆摺あばずれめ……来るならこい……。
 と思って……。けれども伊奈子はそれっきり、私にチョッカイを出さなかった。
 私は又、平和に二階で寝ころんだ。

 それからのち、伊奈子が叔父を操った手腕は実に眼ざましいものがあった。
 伊奈子はまず叔父に家を買わせた。それも普通の家ではないので、F市外の公園の入口に在る檜御殿ひのきごてんと呼ばれた××教の教会堂が、先年の不敬事件に関する信者の大検挙以来、空屋あきや同然になっていたのを自分の名前で買い取らせて、見事な住宅の形に手を入れさせたもので、そこに素敵な自動車や、大勢の女中を雇い込んで女王のように奉仕させた。同時に叔父の待合入りをピッタリと差し止めたので、私はその当時、八方の待合からかかって来る電話を聞かされてウンザリさせられたものであった。あんまり五月蠅うるさいので或るとき、
「……叔父さん。いくら僕が電話好きでもこれじゃトテモ遣り切れませんよ。済みませんが彼家あすこにも電話を引いて下さいナ」
 と哀願してみたら叔父は怫然ふつぜんとして、
「馬鹿野郎……あのうちに電話を取ってたまるか……折角ノンビリと気保養している時間を、外から勝手に掻き廻わされるじゃないか」
 とか何とか一ペンに跳ね付けられてしまったので、いよいよガッカリ、グンニャリした事もあった。
 ところが不思議なことに、それから二た月ばかりも経つと、叔父は前よりも一層盛んに待合入りを始めるようになった。店の仕事も私に代理させる事が多くなった。おまけに今まで一滴も口にしなかった酒を飲むようになって、時々は伊奈子が作ったというカクテールの瓶を店まで持ち込んで来る事すらあるようになった。無論、それ等のすべては皆、彼女の手管てくだに違いなかったので、彼女はこうして叔父を翻弄しつつ、その魂と肉体を一分刻みに……見る見るうちに亡ぼして行こうと試みている事がわかり切っていた。叔父も亦、それを充分に承知していながら、彼女のために甘んじて骨抜きにされて行くのが何ともいえず嬉しくて、気持ちがよくて仕様がないという風で、つまり叔父は彼女に接してからのち、一種の変態性慾である、マゾヒストの甘美な境界へズンズン陥って行きつつある……彼女の小さな赤い舌に全身の体液を吸い取られて、骨の髄までシャブリ上げられたら、どんなにかいい心持ちであろう……というような、たまらない慾望に憧憬あこがれつつある……そうして伊奈子のスゴ腕にかかって、自分の生命も財産も根こそぎ奪い去られるであろうドタン場を眼の前に夢想しつつ、スバラシイ加速度で生活状態を頽廃させて行きつつある……という叔父の心理状態がカクテールを入れた魔法瓶の栓を抜く刹那せつなの憂鬱を極めた表情を見ただけでも明らかに察しられるのであった。
 しかし、同時に、そうした叔父の態度や表情を、毎日見せつけられて行くうちに、私はフト妙な事を考え初めたのであった。……彼女のそうした計画を、そのギリギリ決着のところで引っくり返してやったら、どんなにか面白いだろう……と……。そうするとその考えが、見る見るうちに云い知れぬ魅力をもって私の頭の中に渦巻き拡がって行くのを、私はどうする事も出来なくなったのであった。
 私は、いつの間にか新聞も小説も読まなくなって、二階の万年床に引っくり返りながら、葉巻ばかり吹かせるようになっている事に気が付いた。今までは架空の小説ばかり読んでいたのが、今度は、自分自身に怪奇小説の中に飛び込んで、名探偵式の活躍を演出しなければならぬ役廻りになって来た事を、ある必然的な運命の摂理ででもあるかのように繰り返し繰り返し考えた。そうするとその都度たびに胸が微かにドキドキして、顔がポーッと火熱ほてるような気がしたのは今から考えても不思議な現象であった。
 私は叔父の財産を惜しいとも思わなければ、伊奈子の辣腕らつわんを憎む気にもなれなかった。あの真赤に肥った、脂肪あぶら光りに光っている叔父の財産が、小さな女の白い手で音もなくスッと奪い去られる。……あとで叔父がポカンとなって尻餅を突いている……という図はむしろ私にとって、小説や活動以上に痛快な観物みものに違いなかった。私が空想の世界でしか実現し得ない事を、彼女が現実世界でテキパキと実現して行く腕前の凄さに敬服する気持ちさえも、私の心の底に湧いて来るのであった。
 けれども今一歩進んでその伊奈子が腕によりをかけた計画を、その終極点のギリギリのところで引っくり返したら伊奈子はどんな顔をするだろう。そうして開いた口がふさがらずにいる彼女に「天罰思い知れ」とか何とかいう、いい加減な文句をタタキ付けて、泥の中に蹴たおして、手も足もズタズタに切れ千切ちぎれるような眼に会わしたら、どんなにかいい心持ちだろう。こう思うと、私の身うちの方々が、不可思議な快感でズキズキして来るように感じた。
 私はそれから毎日毎日その計画ばかり考えていた。けれども残念な事に、そうした色んな計画が、天井に吹き上げる煙草のけむりと共に、数限りなく浮かんでは消え、消えては浮かみして行くうちに、私はいつも失望しないわけに行かなかった。私があらん限りの智慧を絞って作り上げた伊奈子タタキ潰しの計画は、表面上どんなに完全に見えていても、どこかに空想らしい弱点や欠点が潜んでいることを、後で考え直して行くうちにキット発見するのであった。言葉を換えて云えば伊奈子が叔父を陥れて行きつつある変態性慾の甘美世界から、コッソリと叔父を救い出す方法が発見されない限り……又は、伊奈子がこの妖婦的な性格をスッカリなくして、初恋と同様の純真さをもって私に打ち込んで来ない限り、私の計画は絶対に、実行不可能と云ってよかった。
 こうして伊奈子を血塗ちまみれにして、七転八倒させつつ冷笑していようという私の計画は、私の頭の中でいくつもいくつもシャボン玉のように完成しては、片っ端から、何の他愛もなく瓦解幻滅して行った。そうしてそのたんびに、
「ホホホホホホホホホホホホ」
 と笑う伊奈子の声を幻覚するのであった。

 十一月に入ると間もなく、私は今までにない寒さを感じ始めたので、高価たかい工賃を払って昼間線ちゅうかんせんを取って、上等の電気炬燵ごたつを一個、敷き放しの寝床の中に入れた。そうしてその日は仕事の始末をソコソコにして潜り込んでみるとその暖かくて気持ちのいい事、身体からだ中の血のめぐりがズンズンとよくなるのがわかる位で、私はツイ何もかも忘れてウトウト眠り初めたのであったが、間もなく階下でけたたましく電話のベルが鳴り出したようなので、私は又渋々起き上った。眠い眼をこすりこすり狭い階段をよろめき降りて電話にかかった、
「オーイオーイオーイ……モシモシイ……モシモシイ……わかったよわかったよ。オーイオーイオーイオーイ……」
 といくら呼んでも頑強にベルを鳴らしていたが、やがてピタリと震動が止むと、
「オホホホホホホホホ」
 という笑い声が、真っ先きに聞えた。
「……あなた愛太郎さん。御無沙汰しました。……叔父さんもう帰って?……」
「エエ……一時間ばかり前に……」
「あなた声が違うようね。お風邪でも召したの……」
「……寝ていたんです……」
「まあ……お昼寝……この寒いのに……」
「……エエ……まあそうです……」
「あたしあなたにお話したい事があるのよ……今から伺ってもいい?……」
「エエ……よござんす……キタナイ処ですよ」
「ええ。知ってますわ。誰も居ないでしょう?」
「ええ……僕一人です。しかし……何の用ですか……」
「オホホホホホホホホホ」
 私は表のかんぬきを外すと又二階に上って、あたたかい夜具にもぐり込んだ。しかし、不思議とこの時に限って、彼女に対する何等の期待も計画も浮ばなかった。ただ、頭の底にコビリ付いている残りの睡たさを貪りながら、いつの間にかグッスリと眠っているらしかったが、そのうちに小さな咳払いを耳にしてフッと眼を醒ますと間もなく、何ともいえない上品な香水の匂いが、悩ましい女の体臭と一緒にムーッと迫って来たので、一寸ちょっと狐につままれたような気持ちになった。そうしてよく眼をこすって見ると、私の枕元の暗い電燈の下に、青い天鵞絨ビロードのコートと、黒狐の襟巻に包まれた彼女が、化粧をらした顔と、雪白のマンショーを浮き出さして、チンマリと坐っているのであった。
「オホホホホホホホ」
「……………」

       ×          ×          ×

 彼女は私を一気に、空想の世界から現実の世界へ引っぱり出してしまった。私は、それからのち、殆んど毎日のように電話をかけて来る彼女の命令のまにまに、店を仕舞しまうとすぐに身じまいをして、隣家となりの裏口から抜け出して、そこいらで待ち合わせている彼女と肩を並べながら夜の街々を散歩するようになった。生れて初めての背広服を派手な格子縞で作らせられたのはその時であった。カンガルーとエナメルの高価たかい靴を買わされたのも同時であった。帽子もゴルフ用の鳥打ちや、ビバや、お釜帽かまぼうを次から次に冠らせられた。それにつれて本箱の抽斗ひきだしに突込んだままになっていた皺苦茶の紙幣や銀貨の棒がズンズンと減って行った。
 私と彼女とが同じ家に這入る事は殆んど稀であった。彼女は、F市内の到る処に在る密会の場所を知っているかのように、いつも意外千万な処へ私を引っぱり込むことが次第に私を驚かし初めた。牡蠣かき船だの、支那料理屋の二階だの、海岸のあき別荘だの、煙草屋の裏座敷だの……そのうちでも特に舌を捲いたのは、まだ明るいうちに或る大きな私立病院の玄関から、見舞人のような態度で上り込んで、奥の方にいていた特等病室の藁蒲団の上に落ち付いた時であった。その時に彼女は今までにない高い情熱に駆られたらしく、ろうのように青褪めた中から潤んだ眼を一パイに見開きつつ、白い歯を誇らし気に光らして見せたのであったが、そうした彼女の嬌態きょうたいを、ポケットに両手を突込んだまま見下しているうちに、私はフト、形容の出来ないヒイヤリとした気持ちになった。
 ……この女は、こうした思い切った遊戯の刺戟によって、自分自身の美をあらゆる深刻な色彩に燃え立たせ得る術を心得ている。そうして異性の弱点をあらゆる方向から蠱惑こわくしつつ、その生血いきちを最後の一滴まで吸いつくすのを唯一の使命とし、無上の誇りとし、最高の愉楽と心得ている女である。
 ……叔父が彼女から逃げまわるようになったのも、こうした彼女のプライドに敵しかねたからである……。
 ……彼女は暗黒の現実世界に存在する、底無しの陥穽おとしあなである……最も暗黒な……最も戦慄すべき……。
 ……陥穽おとしあなと知りつつ陥らずにはいられない……。
 というような感じが、みるみるハッキリして来たので……。
 ……けれども亦、一方に伊奈子には案外神経質な、用心深いところも、あるにはあった。彼女が私を引っぱり出してこんな事をして遊びまわるのは、叔父の待合に入浸いりびたっているか、又は旅行している間に限っていたので、公園前の自宅に私を引っぱり込むような事は絶対にしなかった。伊奈子のそうした態度の中には、男の嫉妬というものが如何に恐ろしいかを知っている気持ちがハッキリと現われていた。多分彼女は叔父に関係する以前に、そんな問題でヒドクりさせられた経験があるらしいので、しかもその相手が西洋人ではなかったろうかという事までも同時に察せられた位であった。
 ところが、彼女のこうした用心深さが物の見事に裏切られたのは、それから一箇月と経たない時分の事であった。
 それは十二月の初めの割合いにあたたかい日であった。その前後の一週間ばかりというもの市場しじょうすこぶる閑散であったために、これぞという仕事もなく、午後四時過になると店には叔父と私と二人切りしか居ないようになったが、その時に店のストーブの前で、カクテールを飲み飲みしていた叔父が突然に、こんな事を云い出して私をヒヤリとさせた。
「お前はこの頃伊奈子と散歩を始めたそうだな……ウン……それあいい事だ。俺もセッカクお前にすすめようと思っていたところだ。引けあとの電話は、大抵、明日あすの朝きいても間に合う事ばかりだからナ……しかし、あんまり夜更よふかしをすると身体からださわるぞ」
 これを聞いた時には流石さすがの私も、どう返事をしていいか解らないまま固くなって叔父の顔を見た。けれども、その次の瞬間にはホッと安心をすると同時に、又、それとは全く違った意味で驚きの眼をみはらせられたのであった。……そう云い云い又も一杯傾けて、舌なめずりをしている叔父の横顔には、
 ……お前が何もかも知っている事を俺もよく知っているのだ。しかし俺はもう何とも云わない。伊奈子はお前の好き自由にしていい……。
 という意味の表情が、力なくほのめいていたからであった。……のみならず、その叔父独得の陽気な響きを喪った声の中には、今までにない淋しい……如何にも親身しんみの叔父らしい響さえこもっていた。そうして、そう思って見れば見るほど、叔父の横顔には、今までの悪魔らしい感じがなくなっているのに気が付いて来た。この夏時分に比べると、驚くほど青白くなっている頬や瞼には、ヨボヨボの老人に見るようなタルミさえ出来ているのであった。
 しかし、それかといって今更のように叔父を憐れむ気には毛頭なれない私であった。すぐに、もとの私に帰ると同時に、一種の冷たい微笑が湧いて来るのを押え付けながら、トボトボと店を出て行く叔父を見送って、平生いつもよりイクラカ叮嚀ていねいに頭を下げただけであった。
 ……面白いな……まるでお伽噺とぎばなしか何ぞのように、小さな美しい悪魔が、大きな醜い悪魔をやっつけて、只の人間になるまで去勢してしまっている。しかも、あんまりやっつけ過ぎたために、相手は平々凡々のお人好しを通り越して、何もかも覚りつくした、諦め切った人間になってしまっている。叔父は彼女に対する愛着心を消耗しつくすと同時に、彼女の計画のすべてを覚ってしまいながら、それをどうする事も出来ない立場にいる事をまで自覚してしまっている。
 ……しかし……こうなったらかえって彼女のために危険な事になりはしまいか。少くとも彼女が叔父に対して警戒している方向は、飛んでもない見当違いになってしまっているではないか……。
 ……面白いな……この結末がどうなるか……。

 と心のうちで楽しみながら……。

 その月の中頃の、或る天気のいい日曜の朝早くであった。伊奈子は大急ぎの口調で私に電話をかけたが、それは叔父が三日ばかりの予定で、その朝早く大阪に発ったので、これからすぐにF市から二十里ばかりの処にあるU岳の温泉に行こうというのであった。その温泉は何にくのか知らないが、いろんな贅沢な設備をしたホテルや、待合兼業みたようなステキな宿屋がいくつもあると伊奈子は云ったが、そこで第一等という何とかホテルの大玄関に自動車で乗りつけて、特等室附属の浴場に案内された時には、私も生れて初めてなので一寸ちょっと眼を丸くした。
 高い天井のステインドグラスから落ちて来る光線が、青ずんだ湯の底の底まで透きとおして、見事に彫刻した白大理石の浴槽から音も立てずに溢れ出していた。その中に私が先に走り込んで掻きまわすと、その光りが五色の鳥だの金銀のうおだのが入り乱れたように散らばって、その上から一面にモウモウと湧き立つ湯気のために、四方を鏡で張り詰めたへやの中が薄暗くなってしまった。
 私は、その湯の中にフンワリと身体からだを浮かして、いい心持ちにあたたまり初めた。その間に、のぼせ性の彼女は何度も何度も湯から出たり這入ったりしていたが、間もなく浴槽の外で男のように突立って、肉付きのいい身体をキュッキュッと洗いながら、突然にこんな事を云い出した。
「叔父さんは自分が死ぬまで、あなたに相場をやらせない……財産も譲らないって云っててよ……」
「当り前だ……」
 と私は面倒臭そうに答えた。少々睡くなりかけたところを邪魔されたので……。
「……死んだってくれやしないよ……」
「そうじゃないわよ。あなたは正直で、頭がよくて……」
「馬鹿にするな……」
「いいえ。まったくよ……俺よりも仕事がえている上に、今の財産は愛太郎のお蔭で出来たようなもんだから、跡を継がせるのは当り前だって……」
「……ウーン……そんなら早くくれりゃあいいのに……」
「……だけどね……まだ頭の固まらないうちに株だの、お金だのを持たせると慾がさして、株だのお米だのの上り下りがわからなくなるから、まだなかなか譲れない。俺も昔はかなり頭がよかったんだけど、あまり早くから慾にかかったせいかして、肝玉きもたまが小さくなって相場が当らなくなったんだ。それを助けてくれたのが貴方なんですって……」
「それあ本当だ。叔父の正直なところだろうよ」
「……でしょう。だから叔父さんは、あなたに感謝しててよ。あなたを電話の神様だって云っててよ」
「おだてちゃいけない……」

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