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帰つてから(かえってから)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-22 10:07:42  点击:  切换到繁體中文


かあさん、話してよう。』
 滿が云ふのに続いて皆がかあさん、かあさんと云ふ。
かあさんは昨夜ゆふべよくないのでね、頭が痛いのよ。』
『さう。ぢやあいいや。』
 と滿は云つた。
『つまらないなあ。』
 と健は云ふ。好きでない気質の交つた子だと、鏡子は昔からの感情のあらたまがたい事も健に思つたのであつた。隣の間で榮子の泣声なきごゑがする。
『お湯が沸きましたよ。滿。』
 お照が甥をおこしに来た。
『あら、叔母さんがもう起きていらしやる。』
 鏡子が枕からつむりを上げようとするのを、お照はおさへるやうな手附をして、
『まあ、お休みなさいよ。』
 と云つた。滿と健はばたばたととこを抜けて行つた。
『どうせ寝られないのだから。』
 都鳥みやこどりの居る紺青こんじやうの浪が大きく動いて鏡子はとこの上に起き上つた。
『昨晩はよくお休みなさいましたか。』
『ちつとも。』
 寝くたれ髪が長く垂れて少女をとめのやうな後姿うしろすがたであつた。
にいさんが余計お湯を使つちやつた。』
 健の泣き出したのを聞いてお照は洗面の方へ行つた。榮子はまた声を張り上げて泣いた。
 鏡子は鏡のから出て来て、
『お照さん、こんな結ひやうもあるのよ。』
 と云つて、あたまその方へ傾けて見せた。髪の根を下の方でたばねて、そしてその根も末の方も皆裏へ折り返して畳んでしまつてあるのである。
『さつぱりとして軽さうですね。』
『けれど尼様あまさまのやうに見える寂しい頭だつて良人うちは嫌ひなのよ。』
『さう云へばさうですね。昨日きのふのになさいまし。』
『でもいいわ。今は尼様だわ。』
 を少し赤めて彼方あちらへ行つた姉をお照は面白くなく思つて見送つた。
 男の子二人が、
『行つて参ります。』
 と云つて庭口にはぐちから出たあとで外の家族は朝飯あさげの膳に着いた。
『英さんのおみおつけが別にしてあつた。』
『さうですね。』
 お照が立つと、わあつと榮子が泣き出した。ぐ叔母は戻つて来て榮子を膝の上に上げて、
『どうしました。どうしました。おちゝを上げようね。』
 と云つて襟をくつろげた。榮子はちいさい手を腹立たしげに入れて叔母のちゝを引き出して口に入れた。
『まあちゝを飲むのですか。』
 と鏡子は云つたが、心は老いたる処女の心持の方が不可思議でならないのであつた。
『ええ。』
 お照はまたその子に、
かあさんのおちゝ真実ほんとうのおちゝよ、お貰ひなさいよ。』
 と云つた。
『いやだわ。』
 と鏡子は反撥的に云つた。そして、
何故なぜさうなのでせう。玉川の方でもちゝは一年りでして居たのだつたのにね。』
 かう云ひながら末の出す赤い盆にてつせんの花のいた茶碗を載せた。
『さあ御飯を食べませう。』
 お照は乳房ちぶさをもぎ放して榮子を下に置いた。また泣いて居たのを、
『ばつたりおだまり。』
 と叔母に云はれるのと一緒に声を飲んだ子がをかしくて鏡子は笑ひ出したく思つた。おくれて来た花木が、
『あら、叔母さん嘘、お芋のおみおつけだと云つたのに。』
 と云つて汁椀の中を箸で掻き廻して居る。
『八つ頭と云つてこれもお芋ですよ。』
 と母親が云つた。
『叔母さんは嘘つきですとも。』
 と云つたお照は目に涙を溜めて居た。鏡子は京都者の軽い意味で云ふ横着と云ふ言葉が、東京者に悪い感じを与へるのと、東京の人が軽い意でちよくちよく嘘と云ふ言葉を遣ふのが京の人に不快を覚えさすのとは、一寸ちよつと説明したぐらゐで分らない事だから、こんな時には黙つて居るより仕方がないと思つて居る。そしてこれからの困りやうが思ひ遣られるのであつたが、留守のうち、過去と云ふ事は思つて見たくなかつた。それでなくとも自分は彼方あちらに居た六ケ月の間、心の中で毎日子にひざまづいて罪を詫びない日はなかつたのであるからと思つて居た。榮子は御飯が熱いからいやつめたいからいけないと三度程も替へさせてやつと食べにかゝつて居るのである。それは母を見ぬやうに目をふたいで口をうごかして居るのである。
『私を見るのがいやで目をふたいで居るのね。』
『ふ、ふ。』
 とお照は笑つて、
『榮ちやん、い顔をなさいよ。あなたは真実ほんとうに可愛い表情をする人ぢやありませんか。』
 と云つて居た。
 書斎へ来て新聞を見ようとして、自身の事の出て居るのに気が附いた鏡子は、三四種の新聞をうしろしづかの机の上へそのまゝ載せた。[#底本には「』」があるが除いた]
『お早う。』
 瑞木が挨拶に来た。花木も晨も来た。
何故なぜ御挨拶にけないのです。よくおしやべりをする口で。』
 お照の声が不意に書斎の隣で起つて、続いてぴしやり、ぴしやりと子のかしらを打つ音が鏡子にきこ[#ルビの「きこ」は底本では「こ」]えた。
『いやだあ、しない、しない。』
『これでもか、これでもですか。』
『しないのだ。いやだあ。』
 八頭やつがしらの芋を洗ふやうにお照は榮子の頭を畳にりつけりつけして、そして茶の間へ出て襖子ふすまを閉めてしまつた。
『をばあさん。をばあさん。』
 榮子は有らん限りの泣声を立てゝ居る。鏡子は涙をこぼして居た。
『瑞木さんと花木さんの幼稚園へ行くのを、母さんはとほりまで送つて上げよう。』
 鏡子は身を起してかう云つた。
『二人でけるのよ。』
 端木が云つた。
『ぢやあ裏門まで。』
 末が赤いめりんすで包んだ双子ふたごの弁当を持つて来た。
『瑞木さん、花木さん、おはんけちのいのを上げませう。』[#底本では「』」は脱落]
 お照は二人のクリイム色の帯に白いはんけちを下げて遣つた。
『ありがたう。叔母さん。』
 瑞木が云ふと叔母は満足らしいえみを見せて、
『いつていらつしやい。』
 と云つた。
『叔母さん、行つてまゐります。』
 二人は一緒にかう云つて庭口にはぐちから出て行つた。鏡子は二けんあとから歩いてくのであつた。車屋の角迄くと、忘れて居るのであらうと思つて居た母親を見返つて、
『さよなら。』
 と二人は一緒に云つた。
『もう少しかあさんはきませう。』
 二人はまた手を取つて歩き出したが、二三げん先の曲角まがりかどでまた、
『さよなら。』
 と云つた。

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