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ルルとミミ(ルルとミミ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-10 10:31:16  点击:  切换到繁體中文

 

 むかし、ある国に、水晶のような水が一ぱいに光っている美しい湖がありまして、そのふちに一つの小さな村がありました。そこに住んでいる人たちは親切な人ばかりで、ほんとに楽しい村でした。
 けれどもその湖の水が黒くにごって来ると、この村に何かしら悲しいことがあると云い伝えられておりました。
 この村にルルとミミという可愛らしい兄妹きょうだい孤児みなしごが居りました。
 二人のお父さんはこの国でたった一人の上手な鐘造りで、お母さんが亡くなったあと、二人の子供を大切だいじに大切に育てておりました。
 ところが或る年のこと、この村のお寺の鐘にヒビが入りましたので、村の人達に頼まれて新しく造り上げますと、どうしたわけか音がちっとも出ません。お父さんはそれを恥かしがって、或る夜、二人の兄妹を残して湖へ身を投げてしまいました。
 その時、この湖の水は一面に真黒く濁っていたのでした。そうして、ルルとミミのお父さんが身を投げると間もなく、湖はまたもとの通りに奇麗に澄み渡ってしまったのでした。
 それからのち、この村のお寺の鐘を造る人はありませんでした。夜あけの鐘も夕暮れの鐘も、または休み日のお祈りの鐘もきこえないまま、何年か経ちました。
 村の人々は皆、ルルとミミを可愛がって育てました。そうして、いつもルルに云ってきかせました。
「早く大きくなって、いい鐘を作ってお寺へ上げるのだよ。死んだお父さんを喜ばせるのだよ」
 ルルはほんとにそうしたいと思いました。ミミも、早くお兄さんが鐘をお作りになればいい。それはどんなにいいがするだろうと、楽しみで楽しみでたまりませんでした。
 二人はほんとに仲よしでした。そうしてよく湖のふちに来て、はるかにお寺の方を見ながらいつまでもいつまでも立っておりました。
「おおかたお寺の鐘撞かねつき堂を見て、死んだお父さんのことを思い出しているのだろう。ほんとに可愛そうな兄妹きょうだいだ」
 と村の人々は云っておりました。
「水が濁るとよくないことがある」
 と云われていた湖の水晶のような水が、またもすこしずつ薄黒く濁りはじめました。村の人々は皆、どんな事が起るかと、おそろしさのあまり口を利くものもありませんでした。しまいにはみんな顔を見あわせて、ため息ばかりするようになりました。それでも湖の水は、夜があけるたんびに、いくらかずつ黒くなってゆくのでした。
 その時にルルは、お父さんが残した仕事場に這入って、一生懸命で鐘を作っていました。そうして、いよいよ一ツの美事な鐘をつくり上げましたので、喜び勇んで村の人にこの事を話しました。
「鐘が出来ました。どうぞお寺へ上げて下さい」
 村の人々はわれもわれもとルルが作った鐘を見物に来ました。その立派な恰好を撫でて見たり、又はソッとたたいて見て、その美しいにききとれたりしましたが、みんなそのよく出来ているのに感心をしてしまいました。そうして、日をきめてお寺に上げて、この鐘を撞き鳴らして、村中でお祝いをすることになりました。
「湖の水はいくら濁ったって構うものか。鐘つくりの名人の子のルルが、死んだお父様をよろこばせたいばっかりに、あんな小さな姿なりをして、こんな立派な鐘をつくったのだもの、こんな芽出たいことがあるものか。この鐘を鳴らしたら、どんなわるいことでも消えてしまうにちがいない。湖の水も澄んでしまうに違いない」
 と、村の人々は喜んで勇み立ちました。
 その日はちょうどお天気のいい日でした。地にはいろいろの花が咲き乱れ、梢や空には様々の鳥がいて、眩しいお太陽様てんとさまが白い雲の底からキラキラと輝いていました。村の人々は、お爺さんもお婆さんも、大人も子供も、みんな奇麗な着物を着て、ルルが作った鐘のお祝いを見にお寺をさして集まって来ました。
 お菓子屋や、オモチャ屋や、のぞき眼鏡や、風船売りや、あやつり人形なぞがお寺の門の前には一パイに並んで、それはそれは賑やかなことでした。
 ルルの偉いことや、ミミの美しいことを口々に話し合っていた村の人々は、その時ピッタリと静かになりました。
 ルルが作った鐘は坊さんの手で、高く高くお寺の鐘つき堂に釣り上げられました。銀色の鐘は春のお太陽様てんとさまの光りを受けて、まぶしく輝きながらユラリユラリと揺れました。
 村の人々は感心のあまり溜息をしました。嬉しさのあまり涙を流したものもありました。
 このとき、ルルは鐘つき堂の入り口に立って、あまりの嬉しさにブルブルと震えながら両手を顔にあてておりました。その手を妹のミミがソッと引き寄せて接吻せっぷんしました。
 兄妹きょうだいは抱き合って喜びました。
「お父様が湖の底から見ていらっしゃるでしょうね」
 けれどもまあ、何という悲しいことでしょう。そうして又、何という不思議なことでしょう。
 お寺のお坊さんの手でルルの作った鐘が鳴らされました時、鐘は初めに只一度かすかなうなり声を出しましただけで、それっ切り何ぼたたいても音を立てませんでした。
 ルルは地びたにひれ伏して泣き出しました。ミミもその背中にたおれかかって泣きました。
「これこれ。ルルや、そんなに泣くのじゃない。おまえはまだ小さいのだから、鐘が上手に出来なくてもちっとも恥かしいことはない。ミミももう泣くのをおやめなさい」
 と、いろいろに村の人は兄妹を慰めました。そうして、親切に二人をいたわって家まで送ってやりました。
 ルルは小供ながらも一生懸命で鐘を作ったのでした。
「この鐘こそはきっといい音が出るに違いない。そっとたたいても、たまらないいい音がするのだから。湖の底に沈んでいらっしゃるお父様の耳までもきっととどくに違いない」
 と思っていたのでした。その鐘が鳴らなかったのですから、ルルは不思議でなりませんでした。
「どうしたら本当に鳴る鐘が作れるのであろう」
 と考えましたが、それもルルにはわかりませんでした。
 ルルは泣いても泣いても尽きない程泣きました。ミミも一所に泣きました。こうして兄妹は泣きながらうちに帰って、泣きながら抱き合って寝床に這入りました。
 そののこと……。ルルはひとりおき上りまして、泣き疲れてスヤスヤねむっている妹の頬にソッと接吻をして、うちを出ました。だ一人で湖のふちへ来て、真黒く濁った水の底深く沈んでしまいました。
 村の人が心配していた悲しいことが、とうとう来たのです。ミミは一人ポッチになってしまったのです。
 けれども、ミミはどうしてあの優しい兄さんのルルに別れることが出来ましょう。
 村の人がどんなに親切に慰めても、ミミはだ泣いてばかりいました。そうして朝から晩まで湖のふちへ来て、死んだ兄さんがもしや浮き上りはしまいかと思って、ボンヤリ草の上に座っておりました。
 ――可哀そうなミミ。
 ルルが湖に沈んでから何日目かの晩に、湖の向うからまん丸いお月様がソロソロと昇って来ました。ミミはその光に照らされた湖の上をながめながら、うちへ帰るのも忘れて坐わっておりました。
 湖のまわりに数限りなく咲いている睡蓮すいれんの花も、そのはいつものように睡らずに、ミミの姿と一所に、開いた花の影を水の上に浮かしておりました。
 お月様はだんだん高くあがって来ました。それと一所に睡蓮の花には涙のような露が一パイにこぼれかかりました。
 ミミは睡蓮の花が自分のために泣いてくれるのだと思いまして、一所に涙を流しながらお礼を云いました。
「睡蓮さん。あなた達は、私がなぜ泣いているか、よく御存じですわね」
 その時、睡蓮の一つがユラユラと揺れたと思うと、小さな声でミミにささやきました。
「可哀そうなお嬢さま。あなたはもしお兄さまにお会いになりたいなら、花の鎖をお作りなさい。そうして明日あすの晩、お月様が湖の真上におでになる時までに、その花の鎖が湖の底までとどく長さにおつくりなさい。その鎖につかまって、湖の底の真珠の御殿へいらっしゃい。お兄さまのルルさまを湖の底へお呼びになったのは、その女王様です」
 睡蓮の花がここまで云った時、あたりが急に薄暗くなりました。お月様が黒い雲にかくれたのです。そうしてそれと一所に、睡蓮の花は一つ一つに花びらを閉じ初めました。
 ミミはあわててその花の一つに尋ねました。
「睡蓮さん。ちょっと花びらを閉じるのを待って下さい。どうして真珠の御殿の女王様は兄さんをお呼びになったのですか」
 けれども、暗い水の上の睡蓮はもう花を開きませんでした。
「湖の底の女王様は、どうして私だけをひとりぼっちになすったのですか」
 とミミは悲しい声で叫びました。けれども、湖のまわりの睡蓮はスッカリ花を閉じてしまって、一つも返事をしませんでした。お月様もそれから夜の明けるまで雲の中に隠れたまんまでした。
「アラ、ミミちゃん。こんな処で花の鎖を作っててよ。まあ、奇麗なこと。そんなに長くして何になさるの」
 と、大勢のお友達がミミのまわりに集まって尋ねました。
 ミミはの明けぬうちから花の鎖を作り初めていたのですが、こう尋ねられますと淋しく笑いました。
「あたし、この鎖をもっともっと長く作ると、それに掴まってお兄さんに会いにゆくのです」
「あら、そう。それじゃ、あたしたちもお加勢しましょうね」
 ミミのお友達の女の子たちは、みんなこう云って、方々から花を取ってきてミミに遣りました。ミミは草の葉をり合わせた糸に、その花を一つ一つつなぎまして、長い長い花の鎖にしてゆきました。
 夕方になると、お友達はみんなおうちへ帰りましたが、ミミはなおも一生懸命に花を摘んでは草の糸につなぎました。
 そのうちに日が暮れると、花の咲いているのが見えなくなりましたので、ミミは草の中に突伏つっぷしてウトウトとねむりながら、月の出るのを待ちました。
 やがて、何だか身体からだがヒヤヒヤするようなので、ミミは眼をさまして見ますと、どうでしょう、いつのまにのぼったか、お月様はもう空のまんなかに近付いております。
 ミミは月の光りをたよりに花の鎖をふり返って見ました。いろいろの花をつないだくさの糸は、湖のまわりを一まわりしてもまだ余るほどで、はては広い野原のくさにかくれて見えなくなっております。
 ミミはこの花の鎖が湖の底までとどくかどうかわかりませんでした。
 けれども、思い切ってその端をしっかりと握って、湖の中に沈んでゆきました。
 湖の水が濁っているのは、ほんの上の方のすこしばかりでした。下の方はやはり水晶のように明るく透きとおって、キラキラと輝いておりました。
 その中にゆらめく水艸みずくさの林の美しいこと……。ミミをふり返ってゆく魚の群の奇麗なこと……。
 けれどもミミは、ただ兄さんのルルのことばかり考えて、なおも底深く沈んでゆきました。
 そうすると、はるか底の方に湖の御殿が見え初めました。
 湖の御殿は、ありとあらゆるたっとい美しい石で出来ておりまして、真珠の屋根が林のようにいくらもいくらも並んでおりました。
 ミミは、その一番外側の、一番大きな御門の処まで来ますと、花の鎖を放して中へ這入って行きました。そうして、もしや兄さまがそこいらにいらっしゃりはしまいかと、ソッと呼んで見ました。
「ルル兄さま……」
 けれども、広い御殿のどこからも何の返事もありません。はるかにはるかに向うまで続いている銀の廊下が、ピカピカと光っているばかりです。
 ミミは悲しくなりました。
「兄さんはいらっしゃらないのか知らん」
 と思いました。
 その時でした。御殿の奥のどこからか、
「カアーンカアーン」
 という鉄鎚かなづちの音と一所に、懐しい懐しいルルの歌うこえが、水をふるわせてきこえて来ました。

「ミミよ ミミよ オオ いもうとよ……くらい みずうみ オオ ならぬかね……ひとり ながめて オオ なくミミよ
「ちちは ならない アア かねつくり……あにも ならない アア かねつくり……ミミを のこして アア みずのそこ
「ミミよ なけなけ エエ みずうみが……ミミの なみだで エエ すむならば……かねも なるやら エエ しれぬもの」

 湖の女王様は金剛石の寝椅子の上に横になって、ルルの歌をきいておられました。そうして、ルルがおかに残したミミのことを悲しんで歌っていることを知られますと、湖の女王様は思わず独り言を云われました。
「ああ……私は可哀そうなことをした。ルルを湖の底へ呼ぶために、私はルルが作った鐘を鳴らないようにした。そうして、ルルがそれを悲しがって湖へ身を投げるようにした。そのために可哀そうなミミはひとりポッチになってしまった。
 さぞ私を怨んでいるだろう……けれども私はそうするよりほかに仕方がなかった――。
 ――この湖の水晶のような水は、この御殿のお庭にある大きな噴水から湧き出している。その噴水がこわれると、湖の水がだんだん上の方から濁って来る。そうして、その濁りが次第次第に深くなって底までとどくと、この湖に住んでいるものはみな死んでしまわなければならない。――その大切な噴水が又こわれてしまった。これを直すものはルルしか居ない。だから私はルルを呼び寄せるほかにしかたがなかった――。
 ――私はこの前にもこうしてルルの父親を呼んだ。その前にも、その又前にも、噴水がこわれるたんびに、何人も鍛冶屋や鐘つくりを呼び寄せた。けれども、そんな人たちはみんな、自分一人で勝手におかへ帰ろうとしたために、途中で悪いさかなに食べられてしまった――。
 ――ルルは今、噴水を直しながら歌を歌っている。妹のことを悲しんで歌を歌っている。おかに残った妹もどんなにか悲しいであろう。今度こそは用が済んだら、途中であぶないことのないようにして妹の処へ送り返してやりましょう。鐘も鳴るようにしてやりましょう――。
 ――ああ、ほんとに可哀そうなことをしました」
 この時、ミミはルルの歌の声をたよりに、やっと女王様のおへやの前までたどりついておりました。そうして、女王様のひとり言をすっかりきいてしまったのでした。
 ミミは、女王様がルルとミミのことを可愛そうに思っておられる……そうしてルルをおかに帰してやろうと考えておられることを知りますと、胸が一パイになりました。
 その時、女王様は立ち上って、寝部屋ねべやへ行こうとされました。
 ミミは思わず駈け込んで、女王様の長い長い着物の裾に走り寄りました。
 女王様はビックリしてふり向かれました。……ここは当り前の人間がたやすく来るところではないのに……と思いながら
「お前はどこの娘かね……」
 とお尋ねになりました。
 ミミは品よくお辞儀をしました。そうして、涙を一パイ眼に溜めながらお願いしました。
「私はミミと申します。ルル兄様に会いにまいりました。どうぞ会わせて下さいませ」
「オオ。お前がルルの妹かや」
 と、女王様はミミを抱寄せられました。そうして、しっかりと抱きしめて、静かな声で云われました。
「お前がルルの妹かや。お前が……お前が……まあ、何という可愛らしい娘であろう。ルルがお前のことをなつかしがるのも無理はない。悲しむのも無理はない。
 お前もさぞ悲しかったであろう。淋しかったであろう。そうして私を怨んでいたであろう。
 許してたもれや。許してたもれや」
 女王様は水晶のような涙の玉をハラハラとミミの髪毛の上に落されました。

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