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鞄らしくない鞄(かばんらしくないかばん)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/8/24 11:16:45 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语


   怪賊(かいぞく)烏啼(うてい)


 そのあとで課長は溜息(ためいき)ばかりついていた。この二つの事件に、怪賊烏啼天駆(うていてんく)が関係しているとは、目賀野の話で始めて分った。そうなると、これはますます事が面倒(めんどう)になってくる。ありとあらゆる検察力を発揮(はっき)しないと、烏啼を引捕えることは出来ない。しかし、一体どこから手をつけていいか、分別(ふんべつ)がつかない。こういうときに帆村が居てくれれば、どんなに力になってくれるか分らない。が、彼にはこの事を知らせずに、この大島へ来てしまったことが後悔(こうかい)された。
 だが、その帆村が、ひょっくりと課長の前に現われたもんだから、田鍋はおどろき且(か)つよろこんだ。彼は早速(さっそく)、この事件に烏啼天駆が関係していることを帆村に語って、帆村の助力をもとめた。
「それはいいことが分ったもんです。いや実は、僕が今日飛行機でここへ飛んで来たのは、本庁からの依頼で、あなたに手紙を持って来たのです。さあ、これを読んで下さい」
 と、帆村は内ポケットから手紙を出して、課長に渡した。それは課長の次席にいる主任の芥川(あくたがわ)警部からのものだった。手紙の内容は、これまた愕(おどろ)きの一つだった。
「えっ、赤見沢博士が昏睡状態(こんすいじょうたい)から覚(さ)めたというか。そして君は博士に会って話をして来たって?」
「そうなんです。その結果、いろいろと分って来ましたよ。第一に、博士はあの晩、只(ただ)の鞄の中に、例のお化け鞄――つまり重力消去装置の仕掛けてある立派な把柄のついている鞄を入れて、電車に乗ったんだそうです。決して角材(かくざい)や古新聞紙は入れなかったといいます。つまり賊は、博士の鞄とそっくりの鞄を用意し、その中に角材を入れて、二重鞄と同じ位の重量とし、博士の鞄と掏(す)りかえるつもりだったらしい。博士は言明(げんめい)しています、自分が座席に座っていると、よく似た鞄を持った乗客が近寄って来て、博士の前に立ったそうです」
「そやつが怪しい!」
「そうです。誰が聞いても怪しい奴(やつ)ですが、そのとき博士は大いに要慎(ようじん)して、自分の持っている鞄を奪(うば)われまいとして、一生懸命抱(かか)えこんだそうです。すると怪しい乗客の連(つ)れである若い女が博士の方へ身体をおっかぶせるようにのしかかって来て、女の膝(ひざ)が博士の膝を強く押した、すると急に博士は気が遠くなってしまったんだそうです」
「どうしたのだろう」
「女の膝から博士の膝へ、或る麻薬(まやく)の注射が施(ほどこ)されたんでしょうね。博士は、そういえばちくりとしたようだといっています。――それから博士は、意識の朦朧(もうろう)たる裡(うち)にも、膝の間に挟(はさ)んでいた鞄が掏(す)りかえられるのに気がついたそうです。しかし声を出そうにも手をあげようにも、どうにもならなかったそうです。そしてそのうちに何もかも分らなくなった……」
「怪しい奴は、すると男と女と二人組なんだね」
「そうなんです。これが頗(すこぶ)る重大な事柄(ことがら)なんですが、田鍋さん、博士はその男女の顔をよく覚(おぼ)えているといって、人相を話してくれましたが、男も女もなかなか目鼻の整(ととの)った美しい人物だったといいますよ」
「えっ、何という。美男美女だって?」
「正に美男美女なんです。そしてそれがですよ、ほら博士邸が焼けた晩ね、あの晩に研究室にいて小山すみれを相手にしていた若い美貌の男――万沢とかいいましたね――あの男とそれから後にピストルを持って現われた美人がありましたね、あの女と、この両人(りょうにん)らしいのですよ」
「ふーん、そうか」
 田鍋課長は、満面を朱盆(しゅぼん)のように赭(あか)くして、膝を叩いて呻(うな)った。
「ね、課長さん。さっきあなたから伺(うかが)った話から誘導(ゆうどう)すると、その美貌の男こそ、烏啼天駆(うていてんく)でなければならないと思うんですが、課長さんの意見は如何ですか」
 帆村は、大胆なことをいった。
「そうかもしれない。いや、それに違いない。あれが烏啼なら、あのとき逃がすんじゃなかった。で、女は何者か」
「それが分らないのです。しかしですよ、この事件の主軸(しゅじく)には、二つの者が功を争っていることは、僕も察していました。例えばあの紛失鞄の新聞広告のことですね。
あの広告主の一人は烏啼天駆であり、もう一人はやっぱりあの女だったんですよ」
「ふうん、なるほど、そういえばそうかもしれない」
「あの二人は、時に一緒になって働きました。その例は、博士から鞄を奪(うば)ったときなんかがそれです。それでいて、二人は大いに睨(にら)み合(あ)っていたんですね。だから博士邸のピストルさわぎも起った。あれはお化け鞄が紛失したのに困った烏啼が、小山すみれを唆(そそ)のかして、猫又を利用した新規の起重装置をこしらえるように頼んだ。それが完成したので、持って帰ろうとしたところを、例の女が嗅(か)ぎつけて、暴(あば)れこんだという訳なんでしょう」
「そうだ、それに違いない。するとわが輩(はい)も大迂回(だいうかい)をやっていたわけだ。ちえッ、いまいましい」

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