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猫の草紙(ねこのそうし)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006/9/2 5:52:23 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语



     四

 いよいよしたくができて、勢揃(せいぞろ)いがすむと、ねずみ仲間(なかま)は、親(おや)ねずみ、子ねずみ、じじいねずみにばばあねずみ、おじさんねずみにおばさんねずみ、お婿(むこ)さんねずみにお嫁(よめ)さんねずみ、孫(まご)、ひこ、やしゃ子ねずみまで何万(なんまん)何(なん)千という仲間(なかま)が残(のこ)らずぞろぞろ、ぞろぞろ、まっ黒(くろ)になって、猫(ねこ)の陣取(じんど)っている横町(よこちょう)の原(はら)に向(む)かって攻(せ)めていきました。
 猫(ねこ)の方(ほう)も、「そら来(き)た。」というなり、三毛猫(みけねこ)、虎猫(とらねこ)、黒猫(くろねこ)、白猫(しろねこ)、ぶち猫(ねこ)、きじ猫(ねこ)、どろぼう猫(ねこ)やのら猫(ねこ)まで、これも一門(いちもん)残(のこ)らず牙(きば)をとぎそろえて向(む)かっていきました。
 両方(りょうほう)西(にし)と東(ひがし)に分(わ)かれてにらみ合(あ)って、今(いま)にも飛(と)びかかろう、食(く)いかかろうと、すきをねらっているところへ、ひょっこりお寺(てら)の和尚(おしょう)さんが、話(はなし)を聞(き)いて仲裁(ちゅうさい)にやって来(き)ました。和尚(おしょう)さんは猫(ねこ)の陣(じん)とねずみの陣(じん)のまん中(なか)につっ立(た)って、両手(りょうて)をひろげて、
「まあ、まあ、待(ま)て。」
 と言(い)いますと、猛(たけ)りきっていた猫(ねこ)の軍(ぐん)もねずみの軍(ぐん)も、おとなしくなって、和尚(おしょう)さんの顔(かお)を見(み)ました。
 和尚(おしょう)さんはまずねずみの軍(ぐん)に向(む)かって、
「これ、これ、お前(まえ)たちがいくら死(し)にもの狂(ぐる)いになったところで、猫(ねこ)にかなうものではない。一ぴき残(のこ)らず食(く)い殺(ころ)されて、この野原(のはら)の土(つち)になってしまう。わたしはそれを見(み)るのがかわいそうだ。だからお前(まえ)たちもこれから心(こころ)を入(い)れかえて分相応(ぶんそうおう)に、人(ひと)の捨(す)てた食(た)べ物(もの)の残(のこ)りや、俵(たわら)からこぼれたお米(こめ)や豆(まめ)を拾(ひろ)って、命(いのち)をつなぐことにしてはどうだ。そして人のめいわくになるような悪(わる)いいたずらをきれいにやめれば、わたしは猫(ねこ)にそういって、もうこれからお前(まえ)たちをとらないようにしてやろう。」
 こういうとねずみたちは喜(よろこ)んで、
「もう決(けっ)して悪(わる)いことはいたしませんから、猫(ねこ)にわたくしどもをとらないようにおっしゃって下(くだ)さいまし。」
 と言(い)いました。
「よしよし、その代(か)わりお前(まえ)たちがまた悪(わる)さをはじめたら、すぐに猫(ねこ)に言(い)ってとらせるが、いいか。」
 と和尚(おしょう)さんが念(ねん)を押(お)しますと、
「ええ、ええ。よろしゅうございますとも。」
 と、ねずみたちはきっぱりと答(こた)えました。
 そこで和尚(おしょう)さんはふり返(かえ)って、こんどは猫(ねこ)に向(む)かって言(い)いました。
「これ、これ、お前(まえ)たちもせっかくねずみたちがああ言(い)うものだから、こんどはこれでがまんして、この先(さき)もうねずみをいじめないようにしておくれ。その代(か)わりまた、ねずみが悪(わる)さをはじめたら、いつでも見(み)つけ次第(しだい)食(く)い殺(ころ)してもかまわない。どうだね、それで承知(しょうち)してくれるか。」
「よろしゅうございます。ねずみが悪(わる)ささえしなければ、わたくしどももがまんして、あわび貝(かい)でかつ節(ぶし)のごはんや汁(しる)かけ飯(めし)を食(た)べて満足(まんぞく)しています。」
 こう猫(ねこ)たちが声(こえ)をそろえて言(い)いますと、和尚(おしょう)さんも満足(まんぞく)らしく、にこにこ笑(わら)って、
「さあ、それでやっと安心(あんしん)した。ねずみは猫(ねこ)にはかなわないし、猫(ねこ)はやはり犬(いぬ)にはかなわない。上には上の強(つよ)いものがあって、ここでどちらが勝(か)ったところで、それだけでもう世(よ)の中に何(なに)もこわいものがなくなるわけではないし、世(よ)の中が自由(じゆう)になるものでもない。まあ、お互(たが)いに自分(じぶん)の生(う)まれついた身分(みぶん)に満足(まんぞく)して、獣(けもの)は獣同士(けものどうし)、鳥(とり)は鳥同士(とりどうし)、人間(にんげん)は人間同士(にんげんどうし)、仲(なか)よく暮(く)らすほどいいことはないのだ。そのどうりが分(わ)かったら、さあ、みんなおとなしくお帰(かえ)り、お帰(かえ)り。」
「どうもありがとうございました。これからはもう咎(とが)のないねずみを取(と)ることは、やめましょう。」
「そうです。わたくしどもも、けっしてよけいな人の物(もの)を取(と)ったりなんかいたしません。」
 猫(ねこ)とねずみは口々(くちぐち)にこう言(い)って、和尚(おしょう)さんにおじぎをして、ぞろぞろ帰(かえ)っていきました。





底本:「日本の神話と十大昔話」講談社学術文庫、講談社
   1983(昭和58)年5月10日第1刷発行
   1992(平成4)年4月20日第14刷発行
入力:鈴木厚司
校正:大久保ゆう
2003年8月27日作成
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