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空襲警報(くうしゅうけいほう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 15:50:53  点击:  切换到繁體中文


   警報


 その日の午後四時、真夏の太陽はギラギラと輝いていたが、帝都には突如として警戒警報が発令された。
 品川区五反田に、ささやかな工場を持つ鍛冶屋かじやの大将こと金谷鉄造は、親類の不幸を見舞いにいった帰り、思いがけぬひどい目にあったが、そのつかれを休めるいとまもなく、もう仕事場に出て、荷車の鉄輪を真赤にやいて、金敷の上でカーンカーンと叩いていた。そこへ防護団本部から急ぎの使がやってきて、「至急集合!」を知らせてきたので、仕事はあともう一息だったけれど、そのままつちをなげだして、団服を着るのももどかしく、往来へ走りでた。
「やあ鉄造さん。よく帰ってきてくれたね」
 と、分団長の丸福酒店の主人、神崎かんざき後備中尉は、うれしそうに、鉄造の手をとった。
「おお、分団長。……昨夜は汽車のなかで、どんなに気をもんだか知れやしない。なにしろ、ふだんの防空演習と違って、いつも先に立って働いてくれた在郷軍人の連中の大部分が、戦地へ召集されて出ていっている。残るは、わし等のような老ぼれと、少年達とばかりだ、それじゃ、とても手が足りなくて困っているだろうと思ったよ」
「ウン、そのとおりだ。全く弱っている。いまラジオでも聞いただろうが、突然また警戒警報が出た。ところが、この小人数になった防護団では、とても手が廻りゃしないことがわかっている」
「一体、人員はどのくらいに減ったのかい」
「とても話にならぬ。半分ぐらいに減っちまったんだよ。その上、頼みになるような若者達がいないと来ている。……これだけで、警護に、警報に、防火に、交通整理に、防毒に……といったところが、とても、やりきれやしない。まさか、こんなに防護団が貧弱になろうとは思わなかったよ」
 神崎分団長は、心配の眉をひそめ、途方にくれたという顔附かおつきで鉄造の方を見た。
「仕方がないよ。防護団も、戦時にはこうなることが初からわかっていたのだ。愚痴ぐちをならべたって仕方がない。とにかく御国のために、ぜひ完全に防護してみせなきゃならない。困っているのは、この五反田防護団だけじゃない。日本全国で、みなこの通り手が足りなくて困っているのだ。……よし、おれたちは二倍の力を出すことにしよう。そうすれば、どうにかなるよ」
「他の防護団へ交渉してみようか」
「駄目駄目。それよりも、この際、少年達に大いに働いてもらう方がいい」
「少年達なんて、爆弾がドカーンと鳴るのを聞いたとたんに腰をぬかしたり、泣きだしたりするだろう」
「なんのなんの、そんなことはない。日本の少年の強いことは、むかしから、証明ずみだ。少年時代の頼朝よりともの胆力、阿新丸くまわかまるの冒険力、五郎十郎の忍耐力など日本少年は決して弱虫ではない。ところが、この頃では子供だ、かわいそうだと、ただ訳もなくかわいそうがるから、子供たちは昔の少年勇士のような、勇ましい働きを見せましょうと思っても、見せる時がないのだ。今も昔もかわりはない。日本少年の胆力は、今もタンクのように大きい!」
「タンクのように?」
 分団長は、鍛冶屋の大将の大袈裟おおげさないい方におどろいて顔を見た。
「そうだ。タンクだ。だからこの際、少年たちに重大な任務を与えるのがいいのだ。きっと彼等は、頼朝や阿新丸や五郎十郎などのように、困難を乗りきって手柄をたてるよ。心配はいらないぞ、分団長!」
 神崎分団長は、鉄造の言葉にすっかり感動してしまって、強い握手をもとめた。
「ああ、よく教えてくれた。やはり日露戦役に金鵄勲章きんしくんしょうをもらってきただけあって、鍛冶屋上等兵はえらいッ!」
「オイオイ、上等兵なんかじゃないぞ、軍曹だぜ!」
「ああ、そうかい。軍曹かい。これは失敬。もっとも、のらくろ二等兵なんかもこのごろ、少尉に任官したそうだからね。ましてや君なんか人間で……」
「こらッ!」
 大分ヨボついているが、この後備軍人たちも相当なものだった。これから世界一を誇るS国空軍の強襲をうけようという場合にもかかわらず、平然と、いつものような冗談をいいあうほど、くそおちつきに落着いていた。
 神崎分団長は、そこではらをきめて、命令を発した。少年達を召集して、警護、警報、交通整理、避難所管理の各班に分属させること、救護班、防火班、防毒班、工作班は大人がやること……、これでやっと分団長の気は楽になった。
「オウ、分団長はいますかァ……」
 と、自転車で駈けつけてきたのは、警報班長の髪床屋かみどこやせいさんだった。
「分団長は、ここだここだ。清さん清さん」
 声を聞きつけて、清さんは、青い顔を天幕テントのなかに入れた。
「あのゥ、これは大きな声でいえないことだけれど、実は、いま新宿駅のそばを通ってきたんですがね、駅のところは黒山の人なんで……」
「黒山の人? 喧嘩けんかか、流言か」
「まァ流言の部類でしょうね。その群衆はてんでに荷物をもって、甲州方面へ避難しようというのです。なんでもいよいよ今夜あたり、帝都は空襲をうけて、震災以上の大火災と人死ひとじにがあるというのです。だから、帝都附近は危険だから、甲州の山の中に逃げこもうという……」
「ナ、ナ、ナ、ナーンだ。帝都から逃げ出す卑怯者が、そんなに沢山いるのか。それは日本人か」
 と、鍛冶屋の大将は、真赤になって怒りだした。
「それがね。めいめい大きな荷物をしょいこんで、押合いへし合いなんです。女子供が泣き叫ぶ、わめく、怒鳴る、その物凄いことといったら……」
「憲兵や、警官はいないのか」
「いるんでしょうけれど、とてもあの群衆は抑えきれませんよ。……それで思うんですが、避難するなら早くやらないといけない。ぐずぐずしていると避難民はますますふえてきて、列車に乗れなくなりますよ。……全く帝都にいるのは危険だ」
「ほう……」
 と分団長は驚きの色をあらわし、
「そんなことが始まるかもしれないと思っていたが……」


   敵機いよいよ迫る


「貴様は……」
 鍛冶屋の大将は憤然として、清さんの胸ぐらをとった。
「キ、貴様は逃げる気か。逃げたいのか。空襲をうけようとする帝都を捨てて逃げるのか!」
「あッ、苦しいッ、ハハ放せッ。……俺は逃げないが、弱い家族は逃がしたい……」
「ば、ばかッ!」
 鍛冶屋の大将は、清さんを突きとばした。彼はヨロヨロとなり椅子いすにつきあたると、ドーンとひっくりかえった。
「こーれ、よく聞け」
 鉄造は一歩前に出て悲痛な声をはりあげ、
「貴様はそれでも、天皇陛下の赤子せきしかッ! 大和民族かッ、五反田防護団員なのかッ! 恥を知れッ」
 まァまァと分団長が中に入ったが、鉄造はそれをふり払いまた一歩前進した。
「忠勇なる帝都市民は、たとえ世界一の空軍の空襲をうけて、爆弾の雨をうけようが、焼夷弾の火の海に責められようが、帝都を捨てて逃げだそうなどとは思っていないぞ。こんどの国難においては、われわれ市民も立派な戦闘員なんだということがわからんか。考えてもみろ、貴様の家では、家族がみな逃げちまって空家あきやになっているとする。そこへ敵の投下した焼夷弾が、屋根をうちぬいて家の中に落ちてきた。さあ、この焼夷弾の始末は誰がするのだ。おい、返事をしろ」
「……」
 清さんは、赤くなって下を向いたきりだ。
「焼夷弾は、落ちて三十秒以内に始末しなかったら、火事になることはわかっている。空襲下で火事を出すのが、どんなにおそろしいことか思っても見ろ。貴様の家の火事がわれわれの努力を水の泡にして、この五反田の町を焼き、帝都を灰にしてしまう。それでも貴様は日本人か。貴、貴様というやつは……」
「ワ、わかった、鉄さん。お、おれが悪かった」
 清さんは、膝で歩きながら、鍛冶屋の大将にすがりついた。
「鉄さん、おれたちは日本人たることを忘れていた。……どんな爆弾が降って来ようと、自分の家を守る。この町を守る……どうか勘弁してくれ」
「そうれみろ。貴様だってわかるんじゃないか。わかれば何もいわない。……警報班長なんてまかせておけないと思ったが、もう大丈夫だろうな」
「ウン、大丈夫! ウンと活動するぞ、おれは外で働き、家の方は女房を防護主任にしてやらせる」
「鉄さんのおかげで、わが防護団は俄然がぜん強くなった。さあ、二人で握手しろ」
 分団長は、二人の手をとってにぎらせた。
「あッはッはッ」
「大いにやるッ。ハッハッハッハッ」
 日没とともに、警報班の灯火管制係の活動は、目に見えて活発になってきた。なかでも鍛冶屋の大将の息子で、いつも少年ながら父親の向鎚むこうづちをうっている兼吉かねきちは、親ゆずりの忠君愛国の精神にもえ、少年団の先頭にたって、西へ東へと、教えられた通り、定められた街灯を消してまわっていた。少年たちは五人一組となっていたが、持ちものは、長い梯子はしごが一つと、高いところに届く竿が二本――それは、先のところが三つまたに割れ、その先を繃帯ほうたいでグルグル巻いてあった。その三つまたを街灯の電球へおしつけ、竿を左まわりにねじると、電球がソケットからすこし抜けてもどるため、あかりが消える仕掛だった。
 少年たちが、この作業のときに一番気がついたことは、共同の力の大きいということだった。
 昔、毛利元就もうりもとなりは三本の矢を一度に折ることのむつかしいことから、協力の大事なことを説いたが、いま少年たちは、五人で力を合わしさえすれば、大人がやっとかつげるような重い梯子もらくらくと運べ、大人がやるよりも、はるかに多くの街灯をはるかにはやく消してあるくことのできるのを知ったのだ。
 帝都にはまったく夜のとばりが下りた。
 そば屋の掛看板にも灯が消えた。町のネオン・サインもついていない。自動車のヘッドライトには、紫と黒との二重の布がかぶせられた。飛行将校の話によると、夜間飛行でもかなり低空にくだってくると、地上で吸っているタバコの火がハッキリと見えることさえあるそうだ。懐中電灯にも、おおいがいる。上から直接見える火は、ことに用心しないといけない。
 午後八時十五分! 突如として、ラジオが鳴りだした。
「東部防衛司令部です。只今警報が発せられる模様であります……」
 昨日から、中内アナウンサーは、おおわらわの奮闘だった。五百万の市民は、このなじみ深いアナウンサーが、いま何を告げようとするのかと、胸おどらせながら、拡声器の前に集ってきた。
「これァ、いよいよS国の超重爆が攻めてきたんですよ」
「さあ、これは大変だ。うちじゃ防毒室の眼張ののりがまだかわいていないので」
「なぜ、もっと早くこしらえなかったんだい」
「それが、あわてているものだから、糊を作ろうと思って、なべを火にかけてはこがし、かけてはこがし、とうとう三べんやり直した」
「それで、今度は出来たかい」
「ところが、やっぱり駄目、仕方がないから冷飯を手でベタベタ塗ったんだが、つばきがついているせいか、なかなかかわかない。あッはッはッ」
「こらッ、警報が出るんじゃないか。シーッ」
 不気味な沈黙が、ヒシヒシと市民の胸をしめつけていった。
「……警報! 警報! 只今関東地方一帯に空襲警報が発せられました。直ちに非常管制に入って下さい。……復誦ふくしょういたします。只今……」
 そのとき、サイレンが、ブーッ、ブーッと間隔をおいて鳴りだした。これに習うように、工場の汽笛がけたたましく鳴りだした。
 五反田防護団では、警報班長の清さんが、天幕テントの中で、大声に叫んでいる。
「警報班のみんな。空襲警報だッ。直ちに受持区域に『空襲!』と知らせて廻れ、出動、始め!」
 と、妙な号令のかけかたをした。
 天幕の前にメガホンをもって並んでいる少年が二十人。半数は自転車で、他の半数は二本の足で、今にも飛出すばかりに身構えていたのだ。班員はサッと挙手の敬礼をすると、
「さあ、行こう!」
 と叫んで、それぞれの受持区域にむかって、砲弾のように駈けだした。

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