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空襲警報(くうしゅうけいほう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 15:50:53  点击:  切换到繁體中文



   帝都は間近し


「助けて、た、たすけてえ」
 と、ひどくしゃがれた声が……。
 室内の人たちは、いっせいに入口の方に眼を注いだ。毛布の幕の聞から、ゴロリと転げこんできたのは、スポーツマンらしい大きな男だったが、顔色は紙のように白く大きな口をあけてあえぎながら、両手でしきりに咽喉のどのところをかきむしっていた。まさしく、毒瓦斯に中毒していることが一眼でわかった。鍛冶屋の大将はまっさきに立ちあがって、その男のそばにかけつけた。
「た、助けてやって、くれたまえ。こ……後車は毒瓦斯がたいへん、だッ……」
 とまでいうと、彼ははげしくせきいった。
 鍛冶屋の大将は、
「よォシ、助けてやるぞ」
 と叫ぶなり、一座を見わたして、学生を五人ほど指名した。
「さあ、あの防毒壜をくわえて、助けにゆくんだ」
 旗男も、防毒面をかぶりなおした。
 学生たちは、鼻の穴に思い思いのせんをした。或者あるものは、消しゴムを切ったものをつめたり、また或者は万年筆のキャップをつっこんだり、それから、また或者は一時の間にあわせに、綿栓をこしらえつばでしめして鼻孔に挿した。
 そうしておいて、鍛冶屋の大将を手本にして、防毒壜を口にくわえた。それは奇妙な格好だった。だが誰も笑う者はなかった。尊い勇士たちの出陣だから……。
 後車へ飛びこんでみると、そのむごたらしさは筆紙につくされないほど、ひどかった。とても、ここに書きしるす勇気がない。どうしてそんなにひどいことになったかというと、結局、その車室の目張が、言訳いいわけ的におそまつにしてあり、それも力を合わせず、めいめい勝手にやったための失敗だった。彼等は、毒瓦斯をあまりにも馬鹿にしていたのだった。
 七勇士は、できるだけ彼等を助けたけれど、結局、すぐ元気にかえったものはごくわずかだった。多くは、もう胸にひどい炎症が起り、苦悶はひどくなってゆく一方だった。
 壜をくわえた勇士たちが、やがて部屋へ帰ってきて、口から壜を放したときには、皆いいあわせたように顔をしかめ、歯をおさえて、口をきく者もなかった。
「どうもつらい防毒面だ……」
 やっと一人が口をきいた。他の勇士は、いたみとおかしさとの板ばさみになって、苦しそうに笑った。
「何しろ、我輩が発明したばかりの防毒面だからこたえたんだよ」
 と鉄造は口の上から歯をもみながらいった。
「皆さん、お互に今後は、せめて直結式の市民用防毒面ぐらいはもっていることにしましょう。あれなら、この五倍ももつ。今くらいの薄いホスゲンなら五十時間の上、大丈夫だ」
「そいつは、どの位出せば買えるかね」
「安いものですよ。たしか、六、七円だと思ったがね」
「六、七円? そりゃ安い。山登を一回やめれば買えるんだ」
「僕は、さっきこのおじさんに教わったように炭と綿とを使って、もっと楽に口につけられるような防毒面を自分で作るよ。断然、その方が安いからな」
「でも、保つ時間が短いよ」
「なァに、換えられるような式にして、三つか四つ炭と綿の入ったかんを用意しておけばいいじゃないか」
「僕はその上、水中眼鏡をかけて、催涙瓦斯を防げるようにしようかな」
 若い人たちの間には、防毒面の座談会が始まった。同室の人たちは、横から熱心にそれを聞いていた。そしてめいめいの心の中に思った。――
(今度東京へ帰ったら、まっ先に防毒面を手に入れよう……)と。
 それから間もなく、毒瓦斯地帯を無事に通過することができた。
しの、篠ノ井……」
 と駅夫のよぶ声が聞えてきた。もう毒瓦斯がない証拠だ。窓は明けはなたれた。そとから涼しい、そして林檎りんごのようにおいしい(と感じた)空気がソヨソヨと入ってきて、乗客たちに生き返ったおもいをさせた。
 車内の死者と中毒者とは、この篠ノ井でおろした。駅夫の話によると、おびただしい毒瓦斯弾のお見舞をうけた長野市附近は、相当ひどいことになったらしかった。そこでも、平生へいぜいの用意が足りなかったわけだ。
 列車は、また警戒管制の夜の闇のなかにゴトゴト動きだしていった。――安心したのか、それとも活動に疲れたのか、例の勇士をはじめ、車中の人たちは、枕をならべて深いねむりにおちていった。高崎駅を過ぎるころ、夜が明けた。
 しかし車中の人たちは、上野駅ちかくになって、やっと眼を覚ました。
 車窓から眺める大東京!
 帝都の風景は、見たところ、どこも変っていなかった。焼夷弾や破甲弾、さては毒瓦斯弾などにやられて、相当ひどい有様になっていることだろうという気がしていたが、意外にも帝都は針でついたほどの傷も負っていなかった。昨夜、悪戦苦闘した乗客たちは、何だか、まだ夢を見ているのではないかという気がしてならなかった。
 だが本当のところ、帝都は昨夜、遂に敵機の空襲を迎えずにすんだのであった。帝都の四周を守る防空飛行隊と、高射砲の偉力とは、ついに敵機の侵入を完全に食いとめることができたのだった。
 しかし、世界第一を誇るS国の大空軍を果していつまでも、完全に食いとめられるものであろうか、どうか。
 ? ?


   東部防衛司令部


 東部防衛司令部は、防空令がくだされると、直ちに麹町こうじまち区某町にある地下街にうつった。
 それは空中からどんな爆撃を受けても、完全に職務をなしとげられるような十分安心のできる場所であった。そこには近代科学のあらゆるすいをあつめて作った通信設備や発電機や弾薬や食糧や戦闘用兵器などがそろっていた。
 その日の午前中に、各地からの知らせが集ってきた。東部防衛司令官香取中将は作戦室の正面に厳然と席をしめ、鹿島かしま参謀長以下、幕僚を大卓子テーブルのまわりにグルリと集め、秘策をねっていた。
「……さような次第でありますから……」
 と参謀長は報告書を見ながらいった。
「昨夜、S国の空軍が行いました第一回の夜間空襲は、主として○○海沿岸の都市に相当の恐怖と被害とを与えましたようでありますが、遠征してまいった敵の超重爆撃機は、一機をのぞきましてことごとくわが高射砲のために射落されました。その損害は、そうとう大なるものであります」
 香取将軍は大きくうなずいた。
「しかるに、S国はその痛手には一向参る様子もなく、チ市にあらかじめ待機させてあった超重爆撃機七十機を、○○○○の北方ス市に移しました。この目的はもちろん、わが国土内に深く入りこんで空襲をやるためでありますが、その飛行場出発はいつになりますやら不明と報道されています。とにかく、これが最も恐るべき相手であります」
 香取将軍は、また大きくうなずいた。そして口を開いた。
「又、U国の有名な空軍も、いま○○○○半島に集っているそうじゃな。S国とU国との世界の二大空軍が握手しそうな様子に、大分心配しているむきもあるが本官は、それほど憂慮はしていない。たとえ、全世界の空軍が一つになっても、戦争となると、おのずから順序がある」
 と、将軍の太い眉がピクリと動いた。
「さっき、C国の局外中立宣言(どちらにもつかぬということ)が一両日のびるという情報が入りました。やはり昨夜の空襲が原因しているものと見えます」
 と、高級副官がいった。
「C国の態度はなかなか決まらんだろう。決まらんところがあの国の国がらなのだ。日本が強ければ、日本につこうとするし、日本が弱りかけたとみると、日本を離れようとする。東洋の平和のためには、わが帝国がどうしても強くなければいけないのじゃ」
「閣下のお言葉の通りです、C国はずいぶん優秀な軍用機をもっているのに、はっきりした行動をとれない。S国やU国が飛行根拠地を貸せといって迫っても、断るだけの力がないのです。あわれな厄介な国ですね」
「わが陸軍の主力がほとんど○○とC国とにでかけているのも、一つはこの弱い国を正しく導いてやって、東洋の平和に手落なからしめるためだ。平和を乱す国などに、むやみに飛行根拠地などを借りられるようなときには、わが国は、代って物もいってやらねばならぬ。東洋にける帝国の使命は実に重いのだ」
 そのとき、若い大将参謀が、書類をもって入ってきた。
「司令官閣下、昨夜の空襲によってわが国土のうけましたる被害について御報告いたします」
「ほう、御苦労」
「○○海を越えてきました敵の超重爆四機が、攻撃いたしましたのは、大体に於て、本州中部地方の北半分の主要都市でございました。焼夷弾が十トン毒瓦斯弾が四トン、破甲地雷弾が三トンぐらい、他に照明弾、細菌弾などが若干ございますものと推測いたします」
「十七トンの爆弾投下か。――敵ながらよくも撒いたものじゃ」
「軍隊の損害は、戦死は将校一名、下士官兵六名、負傷は将校二名、下士官兵二十二名、飛行機の損害は、戦闘機一機墜落大破、なお偵察機一機は行方不明であります。破壊されたものは高射砲一門、聴音機一台であります。他に照空灯、聴音機等若干の損害を受けましたが、爾後じごの戦闘には、支障なき程度でございます」
「軍隊以外の死傷は」
「死者約七十名、重傷者約二百名、生死不明者約千名であります。この原因はおもに混乱によるもので、大部分は避難中、度を失った群衆のようであります」
「ウン、恐るべきは爆弾でもなく毒瓦斯でもない。最も恐ろしいのは、かるがるしく流言蜚語りゅうげんひご(根のないうわさ)を信じ、あわてふためいて騒ぎまわることだ。国民はもっと冷静にして落ちつくべきである」
「はッ、閣下の仰せの通りであります。……しつぶされて死んだ者についで、死者の多かったのは毒瓦斯にやられた者で、約二十名。これはふだんから、毒瓦斯とはどんなものか、どうすれば防ぐことができるかをよく心得ておかなかったためだと存じます……」
 そのとき、通信係の曹長が、いそぎ足で部屋に入ってきた。
「お話中でございますが、司令官閣下、只今ただいま、T三号の受信機に至急呼出信号を感じました。秘密第十区からの司令官あての秘密電話であります」

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