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国際殺人団の崩壊(こくさいさつじんだんのほうかい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 16:16:03  点击:  切换到繁體中文


  2

 ちょうど其の時間に、椋島技師は陸軍大臣の官邸で、剣山(つるぎやま)陸軍大臣と向い合って、低声(ていせい)で密談中であった。椋島技師は、緊張にこまかくふるえながら、普段から真白い顔色を、一層蒼白(あおじろ)くさせて、大臣の一言(ごん)一句(く)に聞き入っていた。
「事態は、想像以上に容易ならんのです」と大臣は、寝不足らしい血走った眼を大きく見開いて云った。「彼等国際殺人団の一味徒党というのは、どの位、我国の政治界、経済界、科学界に潜行しているのか、さっぱりわからないのですが、その組織たるや、実に巧妙な方法で、一人の団員は、自分に指令を持って来る一人の人間と、自分が指命を伝達すべき二人の人間と、この三人しか知らないというのです。兎(と)に角(かく)、最近四回に亘(わた)る科学者虐殺事件は、あきらかに、この国際殺人団が活躍をはじめたものと考えてすこしも疑う余地がありません。これから先に、この災害が、どの位拡(ひろま)ってゆくのか考えただけでも恐ろしいことです。彼等は、巧妙なる組織と、豊富なる情報と、莫大(ばくだい)なる資金と、しかもあくまで優秀なる頭脳と知識とを擁(よう)して立っているのですから、これは容易なことではうち破れません。宣戦布告のない戦争です。敵の戦線は、現に帝都の中に歴然と横たわっているのです。
 しかも敵影(てきえい)は巧(たく)みにカムフラージュされて、我々はその覘(ねら)いどころが見付からないのです。で先刻(せんこく)申しあげたように、あなたの御尽力(ごじんりょく)を乞いたいわけです。国家のために、敢(あ)えてあなたの御生命の提供を御願いしたい」
「だが、閣下のおっしゃることは、余りに空想すぎるのじゃありませんですか」と椋島技師は幾分苦笑を禁じ得ないという面持(おももち)で云った。「いくら日本人が堕落(だらく)をしていたって、要路(ようろ)の高官とか、其(そ)の道の権威とか言われる連中が、そうむざむざ敵国の云うことをきくわけはないじゃありませんか」
「そういうことを今あなたと議論しようとは思いません。それは、わが陸軍の探知し得た信用の出来る情報です。だが、考えても御覧なさい。×国は三十年も前から仮想敵国(かそうてきこく)として我国を睨(にら)んでいるのです。あらゆる術策(じゅつさく)が我国に施(ほどこ)されてある中に、最も陰険(いんけん)きわまるのはこの国際殺人団の本体であるところのJPC秘密結社です。×国は三十年前から各方面に亘って有望なる学才を有し、しかも貧乏だとか、孤児(こじ)だとか云う恵まれていない人物を探し出して、これに莫大な資金を送り、その人物が立身出世をするように極力宣伝し、遂に今日我国の要路要路の実権を彼等の手に握るようにまで後援したのです。×国の参謀本部の命令一下、彼等×探は、いやが応でもその命令を決行しなければならないのです。若(も)しそれに肯(がえ)んじなかったら、その男を国事犯で絞首台に送りでも、又、殺人隊をやって絶対秘密裡に暗殺してしまいでも、どうでも自由になるのです。彼等が始めて苦しいジレンマを意識したときには、その行く道は自殺があるばかりです。某博士の自殺、某公使の自殺、某中佐の自殺、それ等、原因のはっきりしない自殺は、皆ここに源があるのです。これだけ申せば、国際殺人団の活躍が如何に必然的なものであり、決死的なものであるか御判りになったでしょう」
「いや、よく判りました。それ以上は、おたずねいたしますまい。またこの御依頼にNO(ノー)と答えたくても、即座に私の命のなくなることを思えば、YES(イエス)と申して置くのがなによりであることも判っています。だが、私に大役(たいやく)をお委(まか)せになっても、若し私自身が、その結社の一員だったら、閣下は一体どうなさる御考えですか」
「どうも貴方は中々いたいところを御つきになりますね。しかし御安心下さい。その御念には及びません。いくらでも善処すべきみちが作ってありますから」
 この場面があって、椋島技師は、国際殺人団の探索(たんさく)に当るために、剣山陸軍大臣直属のスパイを任命された。彼はそのために、如何なる場合もこの目的のために一命を抛(なげ)うって努力すること、このスパイたることは、絶対に他人に洩(も)[#底本のルビは「もら」と誤記、175-上段-4]らしてはならぬのみか、同志であるものを発見したときと雖(いえど)も、その事情を明かし合ってはならぬこと、但(ただ)しスパイをつとめるについて、事情をあかすことがないのであれば、助手を使ってもさしつかえないことなどと、厳しい注意をこまごまとうけたのであった。
「誓って、祖国のために!」椋島技師は、燃えるような眼眸(がんぼう)を大臣の方に向けて立ちあがると、こう叫んで、右手をつとのばした。
天祐(てんゆう)を祈りますよ、椋島さん」大臣の幅の広いガッシリした掌(て)がギュッと、椋島技師の手を握りかえした。

  3

 椋島(むくじま)技師は大臣のさし廻してくれた幌(ほろ)深(ふか)い自動車の中に身を抛(な)げこむと、始めて晴々しい笑顔をつくった。右手でポケットの内側をソッとおさえたのは、いましがた大臣から手渡された莫大な紙幣束(さつたば)を気にしたためであろう。
 さてそれからはじまった椋島技師の行動こそは、奇怪(きかい)至極(しごく)のものであった。
 彼は、大臣からさしまわされた自動車を、銀座街(ぎんざがい)にむけさせた。尾張町(おわりちょう)の角を左に曲って、ややしばらく大道(だいどう)を走ると、とある横町を右に入って、それからまた狭い小路を左の方へ折れ、やがて一軒のカフェの前に車を止めさせた。そこは、悪性(あくせい)な銀座裏のカフェの中でも、とかく噂の高いエロ・サービスで知られたバア・ローレライであった。椋島技師は、午前十時のバアの扉(ドア)を無雑作に開くと、ツカツカと奥へ通り、そこに二階に向ってかけられた狭い急勾配(きゅうこうばい)の梯子段(はしごだん)の下に靴をぬぎとばすと、スルスルと昇って行った。二階は真暗であった。ムンと若い女の体臭が鼻をつく。
「キミちゃん居るかい」彼は暗中(あんちゅう)に声をかけた。
「ああ、ムーさんだわね、向うから二番目に、キミちゃん、まだ寝ているわ」と女給頭のお富が彼の膝頭(ひざがしら)の辺から頓狂(とんきょう)な声をあげた。
「そうか。僕は二時頃まで、ちょいと寝たいんだ、あとからウンと奢(おご)ってやるから大目(おおめ)に見るんだぜ。それからお富姐御(あねご)すまないけれど、その時間になったら、コックの留公に用が出来るんだから、どこにも行かずに待たせて置いとくれ。もう二時まで、なんにも口をきかないからな、話しかけても駄目だぜ」
 云いたいことを云ってしまうと、彼はオーバーを脱いだり、バンドをゆるめたりして、イキナリ、おキミの寝床にもぐり込(こ)んだ。ぼそぼそと、しばらくは小声(こごえ)で話し合っているらしかったが、やがておキミは寝床から出て行って、あとには椋島一人が、何か考え悩んでいるものか、転輾反側(てんてんはんそく)している様子だった。こうして時計は、いく度か同じ空間を廻ってやがて午後二時を報ずるボーン、ボーンという眠そうな音が階下(した)からきこえて来た。それがキッカケでもあるかのように、おキミがおこしに上って来た。
 椋島とおキミとコックの留吉との三人が外出の仕度をして店の方に出て来たのは、それから一時間ほど経ってのちのことである。
「まア、仮装(かそう)舞踊会(ぶようかい)へでもいらっしゃるの」
「ムーさん、勇敢な恰好ねえ」
 などと、ウェイトレス連が囃(はや)したてた。たしかにそれは不思議な組合わせであった。留吉はシャンとした背広に、黒い喋(ちょう)ネクタイをしめて紳士になりすましていたし、おキミはどこで借りて来たのか、三越の食堂ガールがつけているような裾(すそ)のみじかいセルの洋服をきて年齢が三つ四つも若くなっていたし、椋島は椋島で、留吉の衣裳を借りたらしく、コールテンのズボンに、スェーターを頭から被ったという失業者姿であった。
 三人は、まぶしいペイブメントのうえへ飛び出した。三人が列をそろえて一列横隊で歩き出したところへ、横丁(よこちょう)から不意にとび出して来た若い婦人がドンと留吉にぶつかりそうになった。
「ごめん、あそばせ」と婦人は豊かな白い頬をサッと桃色に染めながら言って、チラリと一行を見たが、
呀(あ)ッ」と小さい叫声をたてた。この婦人は鬼村博士の一人娘の真弓子(まゆみこ)にちがいなかった。無論彼女は、いち早く、椋島の姿をみとめたのである。だがその異様(いよう)ないでたちの彼を何と思って眺めたであろうか、スカートの短いところでカムフラージュされるとしても、生憎(あいにく)彼にしなだれかかっていたコケットのおキミを見落(みおと)す筈(はず)はなかった。これに対して、椋島は遂(つい)に一言も声を出さなかったし、むしろ顔をそむけたほどであった。しかし、何(ど)うやら気になるものと見えて、真弓子の行く後を振りかえった。彼は真弓子がこちらを振りむいたのを見て慌(あわ)てて頭を立てなおした。

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