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地獄の使者(じごくのししゃ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 16:54:22  点击:  切换到繁體中文


   弾痕なし

 裁判医が退場すると、現場は急にしいんと静かになった。そして真中の安楽椅子に腰を下ろしている屍体が、今にも立上って大欠伸あくびをするんじゃないかと思われたほどだった。
「あの古堀老人と来たら、われわれの立場というものを全然考えないんだからなあ。全く困りますよ」
 大寺警部が、遂に口を切った。警部は誰にともなくそういったが、その後で、同意をもとめるように、長谷戸検事の顔を見た。検事は部屋の隅の小さい椅子に腰を下ろして、頭の大きなパイプから煙を吸っていた。検事は、黙ってパイプを噛んでいた。
「どうなさいます、検事さん。裁判医の屍体解剖が終る夕刻まで、この先生の死因は不明ということにして置きますか。それじゃわれわれは何にも手が出せないんですがね」
 警部は、こんどは検事を指名して、はっきり不平をいった。
 長谷戸検事は、それでもちらりと目を警部の方へ動かしただけで、喫煙の姿勢を崩そうともしなかった。
「これだけ明らかな銃創による殺人を、これからあと半日も疑問にしておくなんて、いけませんよ。そうでなくても、一般からは事件の捜査や裁判が遅すぎると非難ごうごうたるものですからなあ」
 大寺警部はいよいよ独特の奇声をふりしぼって不満をぶちまける。
 長谷戸検事はようやく立上った。ポケットから長方形の缶を出し、その中へパイプをしまった。
「大寺君」
「はあ」
 警部は、うれしそうに返事をして、検事の顔をみつめた。
「死因不明としておいて、その外にもっと調べることが残っているから、その方を先に片づけて行こうじゃないか」
「はあ」
 警部は当て外れがしたというような顔になって、
「私の方はもう殆んど全部、捜査を終ったんですが、検事さんの方でまだお検べになることがあればお手伝いいたします」
「それならば力を貸してもらいたいが……あの鼠の死骸だが、あれは君がこの邸へ来たときに既に死んでいたのかね」
 検事は大股で、部屋を横切って、洗面器のあるカーテンの方へ歩いていった。
「はあ。鼠でございますか……」
 大寺警部は狼狽の色を隠し切れなかった。そして検事の後を追いかけた。
 帆村は、検事と警部のために黙ってカーテンを明けてやった。
「ああ、鼠が死んでいる。検事さん。私はどぶ鼠など問題にしている暇がなかったんですが、やっぱり問題にすべきでしょうか」
 警部は弁明にどもりながら、ちらりと帆村へ険しい一瞥をなげつけた。
「そう。事件捜査に当る者は、一応現場附近に於けるあらゆる事物に深い目を向けてみるべきだと思うね。殊に、その事物が尋常でないときには、特に念入りに観察すべきだな」
「はあ。どぶ鼠が死んでいるということは、尋常ではありませんですかな。すると、犯人はそのどぶ鼠を狙い撃ったのですかな。そうなると、犯人は射撃の名手だということになりますね。……おやおや、このどぶ鼠は、どこにも弾丸をくらっていませんですよ」
 警部は、紐を鼠の首へかけて結び、穴から引張り出して一瞥したが、早速鼠の狙撃説をくつがえした。尤も鼠の狙撃説は、彼自らがいい出したことであったが――。
「まあ、そうだろうね」
 と検事は苦笑して、それから頤を帆村の方へ振った。
「そこに居る帆村君が、その鼠を欲しがっているようだから、氏に進呈したまえ」
「ははあ」
 警部は、わざとらしく愕いて帆村の面上へ目を据えた。それから死んだ鼠を、うやうやしく帆村の方へ差出した。
「ありがとう。じゃあお預りします」
 と、帆村はその真面目な顔で、警部の手から、鼠の身体を吊り下げている紐を受取った。
「帆村君。何か分ったら、一応それをわれわれに報告する義務はあるわけだよ」
 検事は、鼠の死骸について、さっき帆村と裁判医の間に取交わした会話を念頭に浮べたので、そういった。帆村は多分その鼠を、裁判医のところに持込むつもりだろうと察したからである。帆村は、承知した旨を応えた。
「鼠一匹――が、いやに泰山を鳴動させるじゃありませんか。検事さんも帆村君も、それについて一体何を感づいているんですか」
 警部は一世一代の洒落を放って、この場の気持のわるさの源をさぐった。
「とにかく大寺君。君が気がつかなかった鼠の死骸を、帆村探偵は後から来てちゃんと見つけているんだ。帆村君は、その外、まだ何か重大なものを見つけているのかも知れない。大寺君、構うことはないから、帆村君に訊いてみたまえ。なあに遠慮なくやるがいいさ、帆村君は、検察委員の一人なんだから、われわれに協力することを惜しみはしないよ」
 長谷戸が喋っている間に、警部の顔は真剣になって赭くなり、他方帆村の大きな唇は微苦笑を浮べてひん曲った。
「帆村さん。検事からのお指図です。わしの見落しているものを教えて頂きましょうか」
「はあ。それでは警部さん。どうぞこちらへ……」
 帆村は急にくそ真面目な顔に戻り、警部を彼方へ誘って、部屋の中をゆっくり歩きだした。

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