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大空魔艦(たいくうまかん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 6:23:12  点击:  切换到繁體中文



   落下傘らっかさん


 死の神のささやきが、丁坊の耳にきこえてきた。
「いよいよ最期さいごがきた。――」
と思った丁度ちょうどそのとたんの出来事だった。彼の身体は、急に上へひきあげられたように感じた。
「おや、――」
 びっくりして、彼は空を見上げた。
 空には、まっすぐに伸びた綱の上に、白い菊の花のような大きな傘がうつくしく開いていた。丁坊ははじめて万事ばんじをさとった。
「あれは落下傘らっかさんだ」
 助かった助かった。落下傘のおかげで、あやうい一命をたすかった。綱のさきには落下傘がついている。
「ああ、よかった。僕はすこしあわて者だったね」
 急に気がしっかりしてきた。
 空を見上げると、空魔艦はどこへ飛びさったか、あの大きな翼も見えないし、エンジンの音も聞えない。
 眼をひるがえして下を見ると、おお氷原はすぐそこに見える。難破船が急に大きくなって眼にうつった。
 ここにいたって丁坊は、機長「笑い熊」の考えがさっぱり分らなくなった。大悪人だいあくにんだと今の今まで思っていたが、落下傘をつけて放すようでは、善人ぜんにんである。
「いや、善人といえるかどうか。なにしろ下が東京の銀座とか日比谷公園でもあるのならともかく、氷点下何十度という無人境むじんきょうなんだ。そんなところへ落下傘でおろすようなやつは、やっぱり善人ではない」
 そうすると、やっぱり「笑い熊」を憎んだ方が正しいのであろうか。丁坊は、そのどっちであるかを一刻もはやくたしかめたいと思った。
 氷原はぐんぐん足の下にもりあがってくる。はじめは小蒸気こじょうきぐらいに思えた難破船が、だんだん形が大きく見えてきて、今はどうやら千五六百トンもある大きな船に見えてきた。
 すると船上に、今まで見えなかった人影が五つ六つ現われているのに気がついた。
「ああ、人だ。あの船に人がいる」
 丁坊は嬉しかった。
 たとえ善人であろうと悪人であろうと、そんなことはどうでもいい。生きた人間がいさえすればいいのだ。氷原に誰一人として生きた人間がいなければ、このまま落下傘で下りてみたところで、丁坊は餓死がしするか、さもなければこのへんの名物である白熊に頭からぱくりとやられて、向うのおなかをふとらせるか、どっちかであろう。
 しかしもう大丈夫だ。生きた人間が見ている以上は自分をかならず助けてくれるであろう。
 丁坊は、はじめていつものような快活な少年にもどっていった。
 はたして丁坊の思ったとおり、彼の一命はうまくすくわれるであろうか。


   銃声じゅうせい


 落下傘はついて、丁坊を氷原の上になげだした。
 風があるので、丁坊のまるい身体は、氷上をころころとまりのようにころがってゆく。はやく助けてくれなければ、いまに氷の山かなにかにぶつかって死んでしまう。はやく頼む。
 そのうちに、うしろの方で思いがけなく大きな銃声がした。
 だーん、だんだだーん。
「ああ、僕をった。やっぱり彼奴きゃつらも大悪人だ。なぜ罪もない僕をうつんだ」
 丁坊は、また大きな失望と恐怖とにおちいった。しかも間もなく、彼はそれが間違いであったことに気がついた。
 なぜなら彼の丸い身体が、急にどしんとやわらかい白いものに当ったからである。それに落下傘の綱がうまくひっかかったものだから、それ以上、氷原を転がらなくてもいいことになった。その白い軟いものをよくよく見れば、それは大きな白熊だった。
 こわい!
 いや、こわくはない。その白熊は顔面をまっ赤に染めて、氷上にぶったおれていたのだ。血だ、血だ。その赤い血は、傷口からふいて氷上に点々としたたっていた。
「ああ、あぶないところだった」
 毛皮を頭からかぶった真先まっさきにとんできた人間が、銃の台尻だいじりで熊の尻ぺたをひっぱたいて、嬉しそうに叫んだ。その声は、丁坊をたいそうおどろかせた。
 なぜって?
 なぜというに、それはまぎれもないなつかしい日本語だったからである。
 ぱたぱたと続いてかけつけた同じような服装ふくそうの人が五六人みな銃を手に握っている。この人たちのお蔭で、丁坊に喰いつこうと思って氷上に待っていた白熊が射殺いころされた。するとこの日本人たちは、あきらかに丁坊の危難をすくってくれたことになる。
「おじさん、白熊をうってくれてありがとう」
 と丁坊が大声で叫ぶと、かけつけた人たちはふりかえっておどろきの眼をみはった。
「な、なんだって、――お前は日本語をしっているのか」
「知らないでどうするものか。見よ東海のそらあけて――僕、日本人だもの」
 落下傘についていた少年が、愛国行進曲をあざやかに歌って、僕は日本人だあと叫んだのであるから、氷上の人たちはあまりの意外に眼をみはるばかりだった。
「――ああ、たしかに日本人らしい。どうしてまあ、こんな北極にちかいところへ君はやってきたんだ」
 と、最初にかけつけた男がいって、丁坊に近づこうとすると、残りの人たちがびっくりしたような顔をしてその身体をひきもどした。
「おい一木いちき。はやまったことをしてはならんぞ。近づいちゃいかんというのだ」
 丁坊は、はっとした。
「なんだ二村にむら、いいじゃないか。これは日本少年だ。声をかけてやるのが当り前だ」
「いや、いけない。お前はこの子供が、空魔艦の者だということを忘れているのだろう。かるはずみなことをして、大月大佐おおつきたいさに叱られたら、どうするつもりだ」
「そうだったね、二村」
 と、一木と呼ばれた親切な人も、手をひっこめそうになった。
 丁坊は思わずはらはらと涙をこぼした。せっかく日本人にあいながら自分が空魔艦から下りてきたということのために、たいへんいやがられ、そして恐れられているのだった。やっぱり自分はひとりぽっちなのか。

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