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半七捕物帳(はんしちとりものちょう)62 歩兵の髪切り

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-28 19:06:44  点击:  切换到繁體中文


     五

 その翌日、半七は歩兵屯所へ出頭して、小隊長の根井善七郎に面会を求めた。
「あなたは二十四日の晩、浅草代地河岸のお園という女のうちへ押込みがはいったのを御存知でしょうか」
「知らない」と、根井は答えた。「そのお園という女は何者だ」
「実は……」と、半七は声を低めた。「大隊長の囲い者でございます」
 大隊長箕輪みのわ主計かずえ之助は六百石の旗本である。それが代地河岸に妾宅を持っていようとは、根井も今まで知らなかったのである。箕輪も勿論、秘密にしていたに相違ない。それを半七にあばかれて、根井は他人事ひとごとながらも少しく極まりが悪そうに顔をしかめた。
「して、それがどうかしたのか」
「子分の幸次郎に調べさせましたら、お園の旦那は箕輪の殿様だということがわかりました。お園は二人組の押込みに髪を切られたのでございます。」
「髪を切られた……」と、根井はいよいよ顔を曇らせた。「箕輪うじの囲い者と知ってのわざかな」
「そうだろうと思います」
「その髪切りは歩兵の一件と何か係り合いがあるのだろうか」
 それはこの場合、誰の胸にも浮かぶ疑問である。半七は更に声をひくめた。
「係り合いがあるように思われます。まさか大隊長の髪を切るわけにも行かないので、お妾さんの髪を切ったらしいのでございます。油断をしていると、この屯所の中でもまだまだ切られる者があるかも知れません」
 根井もおおかたさとったらしく、これも声を忍ばせた。
「では髪切りは……。屯所内の者の仕業だな」
「鮎川丈次郎、増田太平の二人だろうと思います」
「鮎川と増田……。確かな証拠があるかな」と、根井は形をあらためた。
「きのうのひる過ぎに、向島の水戸さま前の堤下で、怪しい者を召し捕りました」と半七は説明した。
「坊主あがりで、懐中には二十両ほどの金を所持して居りました。手向かいするのをおさえて、だんだん詮議いたしますと、深川海辺河岸の万華寺の納所なっしょあがりで、良住という者でございました。御承知の通り、万華寺の住職は鮎川丈次郎の親類でございます。良住は身持ちが悪いので寺をい出され、今では居どころも定めずごろ付いて居りますが、万華寺にいた縁故から鮎川とも知合いでございます。まだお話を致しませんでしたが、同じ二十四日の晩に、下谷金杉の高崎屋という質屋へも二人組の押込みがはいりました。その一人は髪を切っていたと云うことでしたが、この良住は還俗するつもりとみえて、いが栗頭を長く伸ばしていて、髷を切ったような形にも見えます。その上、懐中には身分不相当の大金を持っているので、こいつが下谷の押込みではないかと睨みまして、きびしく吟味すると案の通りでございました」
「もう一人の同類は誰だ。鮎川か」と、根井は待ち兼ねたように訊いた。
「いえ、これもあなたが御存知のない者で……。湯島天神の藤屋という小料理屋に女中奉公をしているお房という女がございます。その兄の米吉というならず者でございます」
「では、この二人は屯所に関係はないな」
「左様でございます」
 しかし、まったく関係がないとは云えない。鮎川丈次郎はお房の関係からの米吉と知合いになった。そうして、米吉の手から金銭をうけ取って髪切りの役目を引き受ける事になったらしい。増田太平も遊蕩の金に困って、鮎川と米吉に誘い込まれたのであろうと、半七は説明した。
 燈台もと暗しと云うか、足もとから鳥が立つと云うか、自分の部下からこの犯人を見いだして、小隊長も頗る意外に感じたらしい。それにつけても第一の問題は、かれらを買収して髪切りのいたずらを実行させた本家本元である。根井は暫く考えながら云った。
「こんにちの世の中だから、誰が何をするか判らないが、それについてはどうも心あたりが無い。お前にはもう探索が届いているのか」
「還俗坊主を取りおさえただけで、その相棒の米吉の居どころがまだ判りません」と、半七は答えた。「良住は髪切り一件には係り合いがないと云って居ります。そんなわけで、誰が金を出して、誰が頼んだのか、そこまでは探索が行き届いて居りませんのでございます」
「むむ。鮎川と増田を詮議すれば判る筈だ」
「それで今朝うかがいましたのでございます」
「よく知らせてくれた」と、根井はすぐに立ちかけた。「そこで、代地の一件だが……。お園という女の髪を切ったのは誰だ。やはり鮎川と増田かな」
「まあ、そうだろうと思いますが……」
 屯所は夕七ツが門限で、その以後の外出は許されない筈である。それにも拘らず、歩兵らは往々夜遊びに出る。今後はその取締りを厳重にしなければならないと、根井は云った。鮎川も増田も夜なかにけだしてお園の宅を襲ったのであろう。こういう無規律であるために、歩兵の評判が悪いのである。根井もそれを知っていながら、自分一個の力ではどうにもならないらしかった。
 それでも彼は半七の手前、今後はきっと取締まると繰り返して云った。
「これから鮎川らを即刻吟味する。おまえは暫く待ってくれ」
 云い残して根井は怱々に出て行ったが、やがて又引っ返して来た。
「増田は練兵所に出ていたので、すぐに吟味する事にしたが、鮎川は昨夜から帰隊しないそうだ。あるいは覚って逃亡したのかも知れない」
「子分の亀吉に云いつけて、鮎川のあとをけさせてありますから、その居どころは判る筈でございます」と、半七は云った。
「あいつ、又ほかにも悪い事をして、市中取締りの手に召し捕られたりすると、歩兵隊の不面目だ。おまえに頼む。見つけ次第に取りおさえてくれ」
 その当時の市中取締役は庄内藩の酒井左衛門のじょうである。その巡邏隊と歩兵隊とは、とかくに折り合いが悪く、途中で往々に衝突を演ずることがある。市中取締りの立場からいえば、乱暴をはたらく歩兵隊を取締まるのは当然であるが、それが歩兵隊の癪にさわるので、両者は常に睨み合いの姿になっている。鮎川の召し捕りを半七に依頼したのも、彼を巡邏隊の手に渡すまいという根井の用心であるらしい。それを察して半七も請け合って帰った。
 三河町の家へ帰ると、亀吉が待っていた。
「あれから鮎川のあとを追って行くと、竹屋の渡しを渡って今戸へ越して、それから花川戸の方角へぶらぶらやって来ると、むこうから米吉の野郎が来て、両方がばったりと出逢いました。こりゃあ面白くなったと思うと、往来のまん中で立ち話、これにゃあどうも困りました。真っ昼間の往来だから近寄ることが出来ねえ。ただ遠くから様子を窺っているだけのことでしたが、二人の様子が唯でねえ。なにか捫著もんちゃくでもしているらしい風に見えましたが、なにしろ人通りの多い所だから、二人もいつまで捫著してもいられねえので、まあいい加減に別れてしまったようです。鮎川はそれから天神下へ行って、例の藤屋へはいり込みました」
「その鮎川はゆうべから屯所へ帰らねえそうだ」
「野郎、泊まり込んでいやがるのか。それともお房を引っ張り出して、駈け落ちでもしやあがったかな」と、亀吉は半七の顔色をうかがった。「どうしましょう。すぐに藤屋へ行ってみますか」
「そうだ、駈け落ちなんぞをされると困る。構わねえから、見つけ次第に押さえてしまえ。小隊長から頼まれているのだ。早く行ってくれ」
 亀吉を追い出してやると、入れちがいに弥助が来た。
「親分。藤屋のお房はゆうべから帰らねえそうです」
「鮎川と一緒か」
「そうです。明るいうちから鮎川は飲みに来ていて、日が暮れて屯所へ帰る。お房はそれを送りながら一緒に出て行って、それっきり帰らねえそうですよ」
「困ったな」
 半七は歎息した。亀吉が根気よく藤屋に張り込んでいたならば、鮎川とお房の消息を探ることが出来たかも知れなかったのであるが、藤屋へはいるまでを見届けて、これから先は例の通りと、見切りをつけて引き揚げてしまったのが、今更おもえば不覚であった。その不覚のために、この事件の一半を不得要領に終らせることになった。

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